勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
533 / 625
正義と武と吸血鬼

第十二章第1話 三日月泉の異変

しおりを挟む
 精霊の島を目指すため、私たちはレッドスカイ帝国を目指して旅を続けており、今は前回もお世話になったマルコさんの商隊に同行させてもらって砂漠を横断しているところだ。

 マルコさんと会えたのはユルギュで偶然同じ宿に泊まっていたからなのだが、なんとマルコさんはここ一週間ほどユルギュで足止めをくらっていたのだ。

 なんでも突然砂漠に魔物が出るようになったのだそうで、今では護衛なしに砂漠を渡ることは困難な状況になっているとのことだ。

 マルコさんの商隊はノヴァールブールとイェンアン往復することで生計を立てている商隊なわけで、砂漠を渡れないと立ち行かなくなってしまう。

 そこで護衛を雇うためにノヴァールブールへと戻ろうとしていたところ、たまたま私たちがやってきた。

 私たちとしても砂漠の道案内役がいるのは助かるし、マルコさんとしても優秀な護衛が雇えるのは助かる。

 こうして私たち相互の利益が合致したため、再び商隊のお世話になることになったというわけだ。

 ちなみに馬車ではこの砂漠を通れないため、エドにはユルギュでお留守番をしてもらっている。

 そんなわけで二度目の砂漠越えを再び同じマルコさんの商隊と一緒に行っているのだが……。

「出た! デザートマウスの大群だ!」

 先頭のほうからそんな叫び声が聞こえてきた。

 その声を聞いてシズクさんが目にも止まらぬ速さで飛び出していった。そしてしばらくすると何事もなかったかのように戻ってくる。

「シズクさん、どうでした?」
「五十くらいだったでござるな」

 なるほど。大した数ではない気もするが、ラクダの損害などを考えるとそう単純な話ではないのだろう。

「浄化しておきますね」
「そうでござるな」

 私はいつもどおりに種を植え、魔物の遺体を浄化した。

「でも、前回はこんなに魔物は出ませんでしたよね」
「そうでござるな」
「マルコ殿は何かご存じだろうか?」

 クリスさんがマルコさんに話を振ると、マルコさんは難しい表情になった。

「うーん、そうですね。前は魔物なんてほとんど出なかったんですよね。大きな魔物の被害なんて三日月泉にデッドリースコルピが住み着いた件くらいだったかなぁ。ほら、三年前の」

 そういえばそんなこともあったね。懐かしい。

 三日月泉の子供たちは元気にしているだろうか?
 
 そんなことを考えつつも私はラクダに乗り、東を目指すのだった。

◆◇◆

 砂漠の旅も六日目となった。そろそろ三日月泉が見えてくるはずなのだが……。

「お! 見えてきましたよ、フィーネさん。三日月泉です」
「え? ああ、本当ですね。なんだか前に来たときよりも荒れているような……?」
「本当ですか? フィーネさんは目がいいですね」

 そんな会話をしつつも、私たちは集落の入口に到着した。すると村の入口にどこかで見覚えのある男性が立っている。

 ええと、なになに? 鑑定によるとどうやらこの人はラシードさんというらしい。どうやら三年前、私たちがこの集落へ来たときに食中毒の原因を探して村を案内してくれた人のようだ。

「こんにちは、ラシードさん」
「っ!? まさか……聖女様!?」

 ラシードさんは目を見開き、驚いている。

「お久しぶりですね」
「おお! 聖女様が! まさか一度ならず二度までも!」

 ラシードさんはそう言って土下座を始めた。

「あ、あの? ラシードさん? どうしたんですか? 二度ってなんのことですか?」

 しかしラシードさんは土下座をしたまま小さく震えており、鼻をすする音まで聞こえてくる。

「ええと……」
「おーい、ラシード? どうしたんだ?」
「ううっ。マルコ……」

 それからしばらくマルコさんがなだめ続け、ようやくラシードさんは起き上がったのだった。

◆◇◆

「聖女様、申し訳ございません!」

 集落の中に入ると、今度は集落の代表者的ポジションのハーディーさんが土下座して謝ってきた。

「どうしたんですか?」
「そ、それが……」

 なにやら言いにくそうにしている。

「じ、実は、その……」
「ええと?」
「聖女様より賜った花を枯らしてしまったのです! 我々の管理が行き届かないばかりに! 申し訳ございません!」
「えっ!?」

 たしかここには蓮に似た植物が可憐な花を咲かせていたはずだ。それが枯れてしまうなんて!

 ……あれ? ちょっと待てよ? そもそも蓮って何年も花を咲かせ続けるのか?

「リーチェ」

 私はすぐさまリーチェを呼び出した。

「この泉に植えた花が枯れてしまったそうなんですが、原因はわかりますか?」

 リーチェはすぐさま泉のほうへと飛んでいったので、私はすぐにその後を追いかける。

 なるほど。たしかに泉にはあのときの植物は影も形もない。

 するとリーチェはすぐに種を渡してくれた。

「ええと、このまま植えればいいんですか?」

 するとリーチェはコクリとうなずいた。

「もしかして枯れたのって、寿命だったりしますか?」

 するとリーチェはまたしてもコクリと頷いた。

 なるほど。どうやら瘴気を浄化する種を一度植えたらそれで終わりというわけではないらしい。

 納得した私は種を泉にそっと投げ入れるのだった。

================
 第十二章も引き続き毎週火曜日、木曜日、日曜日の 19:00 更新となります。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...