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正義と武と吸血鬼
第十二章第2話 聖女観光都市
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三日月泉で集落の人たちの無事を確認した私たちはイァンシュイにやってきた。
やってきたのだが……。
なんというか、予想外だった。
町の入口には巨大な私の肖像画が飾られており、「ようこそ、聖女が奇跡を起こした町イァンシュイへ」と書かれている。
恥ずかしいので私たちはフードを目深に被り、バレないように商隊の一員のふりをしている。
メインストリートには大小様々な私たちの絵が飾られており、絵の隅のほうには小さく石窟寺院と書かれている。
……あの生臭坊主め!
どうやらあの絵の才能を活かし、町中に私たちの絵を勝手に配布しているらしい。
肖像権を主張したいところではあるが、残念ながらこの国にはそういったものは存在しないのだからどうしようもない。
そうしてなんとか人目を避けつつ、私たちはマルコさんがいつも使っているという宿に到着した。宿に入るなりすぐに女将さんらしきおばさんがマルコさんに声をかけてくる。
「あれ? マルコさんじゃないか! いらっしゃい! 砂漠は越えられたのかい?」
「ああ、なんとかね。それより、今日はVIPがいるよ」
「ん? VIP? ……あっ! まさか! 聖女様!?」
私たちを見た女将さんは目を丸くして驚いている。
「あ、はい。そう、ですね……」
「ああ! こりゃあラッキーだねぇ。聖女様、アタシはここの女将をしているファ・シュエメイです。ようこそ!」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「ええ。ちょっと待っててくれるかい?」
「はぁ」
そう言うとシュエメイさんは一度奥に引っ込み、すぐに私の絵を持って戻ってきた。
「ちょっとここにサインをしてくれないかい? そうしたら今後はずっと宿泊代をタダにしてあげるよ!」
「はぁ」
よく分からないが、私は自分の名前を絵の右下隅に記入した。
「ありがとう! 助かったわぁ! さ、部屋に案内するよ! ついといで」
「はぁ」
何が起きているのかはよく分からないが、私たちはそのまま部屋へと通されたのだった。
◆◇◆
私たちが部屋でくつろいでいると、マルコさんがやってきた。
「どうです? 町の様子を見に行きません?」
「え?」
「絶対面白いと思いますよ?」
どうなんだろう? 今の町の状況を見るに私たちが観光資源になっている気がするのだが、そんな場所に本人が登場したら収集がつかなくなるのではないだろうか?
「大丈夫ですって。上からフードを被ればバレませんって」
「はぁ」
「ここまで来るのだってバレなかったでしょう?」
「石窟寺院には行きませんよ?」
「あはは。あそこはもう絵で儲けまくってますからね」
「……」
「そんな顔しないでくださいよ。もうあの寺の絵が町の特産品みたいになってるんですから」
勝手に描かれた側のことも少しは考えてほしいものだ。
「とにかく、いろいろとフィーネさんにあやかった商品も売ってますから。ちょっと歩きましょう」
「……わかりました」
こうして私たちはマルコさんに連れられてイァンシュイの町の散歩に出掛けることとなったのだった。
◆◇◆
フードを目深に被った私たちはなんとか絵のモデルであるとバレずに散歩できている。
できているのだが……なんというか、もうここは三年前のイァンシュイではないということがよく分かった。
メインストリートだけではなく、商店街の至るところに私たちの絵が貼られているのだ。
私たちの誰かの生まれ故郷というわけでもないのに、どうしてこんなことになっているのだろうか?
こういうのって、精々その奇跡とやらがあった場所の周辺だけでやるものだと思うのだが……。
「姉さま、はい。これ」
突然ルーちゃんがそう言ってマントゥを差し出してきた。ほかほかと湯気が立ちのぼっており、とても美味しそうだ。
「これは?」
「聖女マントゥだそうですよ」
「は?」
「それからこっちは聖騎士マントゥで、これがエルフマントゥ。あとこれがサムライマントゥです」
「……」
どれもこれも普通のマントゥにしか見えない。
とりあえずマントゥを半分に割ってみると、中には見るからに辛そうな赤い具が詰まっている。
「あれっ? 辛そうですね。おっかしいなぁ」
ルーちゃんは断面を見て首をひねっている。
恐る恐る赤い具を少し舐めてみたが、やはりものすごく辛い。
これを食べるのは無理そうだ。
私をモデルにしているのになぜこんな辛い具が入っているのだろうか?
もしかして私はそんなに過激な人物に見えているのだろうか?
「ルーちゃん、これはちょっと無理そうです」
「はい。ごめんなさい。じゃあ、こっちの聖騎士マントゥはどうですか?」
私は辛いマントゥをルーちゃんに返すと聖騎士マントゥを受け取り、半分に割ってみる。
すると今度は中から青い具が出てきた。
……これは、食べ物なのだろうか?
匂いを嗅いでみるが、どうやらこれは羊肉のマントゥのようだ。
さらに半分に千切って食べてみる。
やはり普通だ。
要するに青く着色された羊の肉まんということなのだろう。
個人的には、こんな着色をわざわざしないほうが美味しく食べられると思うのだが……。
続いて私はルーちゃんからエルフマントゥを受け取った。その中身は緑色で、野菜がぎっしり詰まっている。
ああ、これは知っているぞ。たしかフゥーイエ村で出された野菜まんだ。
食べてみると、あのときと同じでちょっぴり甘くて何となく雑味もある。
エルフだから森ということで緑なのだろうか?
個人的にはエルフと言われたら大食いというイメージなのだが……。
最後に渡されたサムライマントゥの中は真っ黒だった。
おや? これはゴマかな? 黒ゴマのあんまんなら大丈夫だろう。
そう考えた私はサムライマントゥを千切って食べてみた。するとゴマの香りと甘みと共に、猛烈な辛さが襲ってくる。
「!?!?!?」
私は慌てて飲み込むとすぐさま収納から果実水を取り出し、一気に飲み干した。
「姉さま?」
「こ、これ。ものすごく辛くて……」
「え? あ! ホントだ! これ、黒ゴマ坦々肉まんですねっ!」
なんということだ! まさか一番安全そうに見えたサムライマントゥが一番辛いだなんて!
================
次回更新は通常どおり、2022/11/29 (火) 19:00 を予定しております。
やってきたのだが……。
なんというか、予想外だった。
町の入口には巨大な私の肖像画が飾られており、「ようこそ、聖女が奇跡を起こした町イァンシュイへ」と書かれている。
恥ずかしいので私たちはフードを目深に被り、バレないように商隊の一員のふりをしている。
メインストリートには大小様々な私たちの絵が飾られており、絵の隅のほうには小さく石窟寺院と書かれている。
……あの生臭坊主め!
どうやらあの絵の才能を活かし、町中に私たちの絵を勝手に配布しているらしい。
肖像権を主張したいところではあるが、残念ながらこの国にはそういったものは存在しないのだからどうしようもない。
そうしてなんとか人目を避けつつ、私たちはマルコさんがいつも使っているという宿に到着した。宿に入るなりすぐに女将さんらしきおばさんがマルコさんに声をかけてくる。
「あれ? マルコさんじゃないか! いらっしゃい! 砂漠は越えられたのかい?」
「ああ、なんとかね。それより、今日はVIPがいるよ」
「ん? VIP? ……あっ! まさか! 聖女様!?」
私たちを見た女将さんは目を丸くして驚いている。
「あ、はい。そう、ですね……」
「ああ! こりゃあラッキーだねぇ。聖女様、アタシはここの女将をしているファ・シュエメイです。ようこそ!」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「ええ。ちょっと待っててくれるかい?」
「はぁ」
そう言うとシュエメイさんは一度奥に引っ込み、すぐに私の絵を持って戻ってきた。
「ちょっとここにサインをしてくれないかい? そうしたら今後はずっと宿泊代をタダにしてあげるよ!」
「はぁ」
よく分からないが、私は自分の名前を絵の右下隅に記入した。
「ありがとう! 助かったわぁ! さ、部屋に案内するよ! ついといで」
「はぁ」
何が起きているのかはよく分からないが、私たちはそのまま部屋へと通されたのだった。
◆◇◆
私たちが部屋でくつろいでいると、マルコさんがやってきた。
「どうです? 町の様子を見に行きません?」
「え?」
「絶対面白いと思いますよ?」
どうなんだろう? 今の町の状況を見るに私たちが観光資源になっている気がするのだが、そんな場所に本人が登場したら収集がつかなくなるのではないだろうか?
「大丈夫ですって。上からフードを被ればバレませんって」
「はぁ」
「ここまで来るのだってバレなかったでしょう?」
「石窟寺院には行きませんよ?」
「あはは。あそこはもう絵で儲けまくってますからね」
「……」
「そんな顔しないでくださいよ。もうあの寺の絵が町の特産品みたいになってるんですから」
勝手に描かれた側のことも少しは考えてほしいものだ。
「とにかく、いろいろとフィーネさんにあやかった商品も売ってますから。ちょっと歩きましょう」
「……わかりました」
こうして私たちはマルコさんに連れられてイァンシュイの町の散歩に出掛けることとなったのだった。
◆◇◆
フードを目深に被った私たちはなんとか絵のモデルであるとバレずに散歩できている。
できているのだが……なんというか、もうここは三年前のイァンシュイではないということがよく分かった。
メインストリートだけではなく、商店街の至るところに私たちの絵が貼られているのだ。
私たちの誰かの生まれ故郷というわけでもないのに、どうしてこんなことになっているのだろうか?
こういうのって、精々その奇跡とやらがあった場所の周辺だけでやるものだと思うのだが……。
「姉さま、はい。これ」
突然ルーちゃんがそう言ってマントゥを差し出してきた。ほかほかと湯気が立ちのぼっており、とても美味しそうだ。
「これは?」
「聖女マントゥだそうですよ」
「は?」
「それからこっちは聖騎士マントゥで、これがエルフマントゥ。あとこれがサムライマントゥです」
「……」
どれもこれも普通のマントゥにしか見えない。
とりあえずマントゥを半分に割ってみると、中には見るからに辛そうな赤い具が詰まっている。
「あれっ? 辛そうですね。おっかしいなぁ」
ルーちゃんは断面を見て首をひねっている。
恐る恐る赤い具を少し舐めてみたが、やはりものすごく辛い。
これを食べるのは無理そうだ。
私をモデルにしているのになぜこんな辛い具が入っているのだろうか?
もしかして私はそんなに過激な人物に見えているのだろうか?
「ルーちゃん、これはちょっと無理そうです」
「はい。ごめんなさい。じゃあ、こっちの聖騎士マントゥはどうですか?」
私は辛いマントゥをルーちゃんに返すと聖騎士マントゥを受け取り、半分に割ってみる。
すると今度は中から青い具が出てきた。
……これは、食べ物なのだろうか?
匂いを嗅いでみるが、どうやらこれは羊肉のマントゥのようだ。
さらに半分に千切って食べてみる。
やはり普通だ。
要するに青く着色された羊の肉まんということなのだろう。
個人的には、こんな着色をわざわざしないほうが美味しく食べられると思うのだが……。
続いて私はルーちゃんからエルフマントゥを受け取った。その中身は緑色で、野菜がぎっしり詰まっている。
ああ、これは知っているぞ。たしかフゥーイエ村で出された野菜まんだ。
食べてみると、あのときと同じでちょっぴり甘くて何となく雑味もある。
エルフだから森ということで緑なのだろうか?
個人的にはエルフと言われたら大食いというイメージなのだが……。
最後に渡されたサムライマントゥの中は真っ黒だった。
おや? これはゴマかな? 黒ゴマのあんまんなら大丈夫だろう。
そう考えた私はサムライマントゥを千切って食べてみた。するとゴマの香りと甘みと共に、猛烈な辛さが襲ってくる。
「!?!?!?」
私は慌てて飲み込むとすぐさま収納から果実水を取り出し、一気に飲み干した。
「姉さま?」
「こ、これ。ものすごく辛くて……」
「え? あ! ホントだ! これ、黒ゴマ坦々肉まんですねっ!」
なんということだ! まさか一番安全そうに見えたサムライマントゥが一番辛いだなんて!
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次回更新は通常どおり、2022/11/29 (火) 19:00 を予定しております。
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