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人と魔物と魔王と聖女
第九章第21話 入浴
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私は温泉の基本的な入浴方法をしっかり説明した。
「分かったゴブ。それじゃあ、ゴブとカリンとミミーはフィーネと一緒ゴブ」
「くーんくーん」
「ボクもフィーネと一緒に入りたいワン」
まあ、あの子たちは別に気にしなくても良い気はするけれど……。
でも勢いで男湯と女湯をつい作っちゃったし、それにもしお客さんがきたときにこういったルールがきちんとしていないと困るだろうからね。
「男の子は女の子と一緒に入るのはダメですよ」
「くーん」
「でもルールなら仕方ないワン」
こうして私たちはヴェラたちを連れて女湯に向かう。
毎日洗浄魔法で綺麗にしているので汚れてはいないのだが、まずは体を綺麗に洗う。
やはり、こういう場所ではきちんマナーを守るのが大事だと思うのだ。ヴェラたちにもちゃんと覚えてもらって、いつお客さんがきても困らないようにしないとね。
たっぷり美人の湯で満たされた浴槽にそーっと入る。
バッシャーン。
と思ったそばから隣で水しぶきが上がった。
「これ、なんニャ? あったかいニャ。気持ちいいニャ」
カリンが豪快に浴槽へダイブしたようだ。
「カリン。飛び込んだり泳いだりするのはマナー違反ですよ。温泉は、ゆっくりとお湯に浸かってリラックスするためのものですからね」
「んー、わかったニャ」
渋々といった様子ではあるが、少し浅く作っておいた部分で大人しくなった。
「これは……気持ちいゴブぅ」
ヴェラは随分と気に入ってくれたようだ。
一方のミミーはというと……。
「あ~~~、気持ちいいズ~~~~」
てろんと頭だけだし、その頭部と崖に突き出た部分の縁に乗せて気持ちよさそうにしている。
うん。随分と気に入ってもらえたようだ。
それじゃあ、わたしも早速。
みんなに続いてそっとお湯に浸かる。
うん。やっぱりここのお湯は泉質が本当に素晴らしい。このヌルヌル感のある美人の湯を源泉かけ流しで、しかもこれほど抜群のロケーションで楽しめる温泉はここ以外に私は知らない。
世界でここだけではないだろうか?
うん。そうに違いない。
もしかすると高所恐怖症の人は怖いかもしれないけれど、下を見なければ何の問題もない。
「フィーネはすごいゴブ。何でも知ってて何でもできるゴブ。畑も、温泉も。フィーネには副町長になってずっとこの町にいて欲しいゴブよ」
「ヴェラ……」
ここでの暮らしは悪くない。だが、私はクリスさんやルーちゃん、それにシズクさんのところへと帰らなければならないのだ。
だが一方でもうヴェラたちにも情はある。だからちゃんとした生活を送ってほしいという思いもあるのだ。
「私はいつかここを出ていかなければなりませんが、でも私がいなくてもみんながきちんと暮らせるようにはするつもりです」
「……」
ヴェラは寂しそうに俯いてしまった。
「そう言えばヴェラ。町長のアイリスさんはどういう人なんですか?」
「アイリス様? アイリス様はエルフの女性ゴブ」
「エルフ? 魔族じゃないんですか?」
「魔族じゃないゴブ。人間にひどい目に遭わされていたのをベルード様が助けたらしいゴブ」
「ベルードが……? もしかしてベルードって良い魔族なんでしょうか……」
「ベルード様は素晴らしいお方ゴブ。ゴブたち魔物が人間と争わず、心穏やかに暮らせるように、進化の秘術っていう素晴らしい術を研究してくれているゴブ」
「進化の秘術!?」
まさかこんなところでその名前を聞くなんて!
「そうゴブ。進化の秘術を使えばゴブたちは人間を襲いたいという衝動が無くなって、こうして穏やかに暮らせるんだゴブ」
「……」
「だから、ベルード様は素晴らしいお方なんだゴブ。ゴブたちはみんな感謝しているゴブ」
「……そう、ですね」
私はどう返事をしたらよいのか分からなかった。
今、私の目の前にある光景は理想の世界のように見える。
魔物から人間を襲うという衝動が無くなるなら、わざわざ魔物を倒す必要なんてどこにもない。そうなれば、人と魔物が手を取り合って穏やかに暮らすという未来だってあり得るのではないだろうか?
だが一方で、ブラックレインボーで見たあの惨劇も同じ進化の秘術がもたらしたのだとしら……。
だとしたらどうしてあんなことに……って、あれ?
ということはもしかして、アルフォンソに進化の秘術を教えたのはベルード!?
シャルの大切な人を奪ったのはアルフォンソだけど、進化の秘術さえなければあんな悲劇は起こらなかったはずで……。
いや、でも今目の前にあるこの光景は……。
「フィーネ? 怖い顔しているゴブよ? お腹痛いゴブか?」
「え? あ、いえ。大丈夫ですよ」
ダメだ。ベルードと進化の秘術のことを考え始めるとどうにもうまく考えがまとまらない。
少し別の話題にして頭を切り替えよう。
「ええと、そういえばアイリス様はどういう方なんですか?」
「アイリス様は、ベルード様の恋人ゴブ」
うん。そういえばそんな話を聞いた気がする。
「よくベルード様は、アイリス様とデートしているらしいゴブ」
「はあ。アイリスさんも自分を助け出してくれた男性が相手であれば、幸せなのかも知れませんね」
「そうに決まっているゴブ。ベルード様とアイリス様はベストカップルゴブ」
なるほど。魔族の世界にもベストカップルなんて概念があるのか。
魔族のことは良く知らないけれど、そのあたりは人間と変わらなかったりするんだろうか?
「ニャニャ。何だかクラクラしてきたニャ」
「ズ~」
「え?」
振り返ってみるとカリンとミミーがデロンとなっている。
まずい! のぼせてる!
「それはのぼせちゃったんですね。長湯をしすぎるとそうなるんです。ゆっくりお湯から上がって体を休めましょう。あ、ちょっと! ちゃんと体を拭かないと風邪ひきますよ!」
こうして私はヴェラとの話を止め、カリンたちの介助をするのだった。
=========
次回更新は通常どおり、2021/06/30 (水) 19:00 を予定しております。
「分かったゴブ。それじゃあ、ゴブとカリンとミミーはフィーネと一緒ゴブ」
「くーんくーん」
「ボクもフィーネと一緒に入りたいワン」
まあ、あの子たちは別に気にしなくても良い気はするけれど……。
でも勢いで男湯と女湯をつい作っちゃったし、それにもしお客さんがきたときにこういったルールがきちんとしていないと困るだろうからね。
「男の子は女の子と一緒に入るのはダメですよ」
「くーん」
「でもルールなら仕方ないワン」
こうして私たちはヴェラたちを連れて女湯に向かう。
毎日洗浄魔法で綺麗にしているので汚れてはいないのだが、まずは体を綺麗に洗う。
やはり、こういう場所ではきちんマナーを守るのが大事だと思うのだ。ヴェラたちにもちゃんと覚えてもらって、いつお客さんがきても困らないようにしないとね。
たっぷり美人の湯で満たされた浴槽にそーっと入る。
バッシャーン。
と思ったそばから隣で水しぶきが上がった。
「これ、なんニャ? あったかいニャ。気持ちいいニャ」
カリンが豪快に浴槽へダイブしたようだ。
「カリン。飛び込んだり泳いだりするのはマナー違反ですよ。温泉は、ゆっくりとお湯に浸かってリラックスするためのものですからね」
「んー、わかったニャ」
渋々といった様子ではあるが、少し浅く作っておいた部分で大人しくなった。
「これは……気持ちいゴブぅ」
ヴェラは随分と気に入ってくれたようだ。
一方のミミーはというと……。
「あ~~~、気持ちいいズ~~~~」
てろんと頭だけだし、その頭部と崖に突き出た部分の縁に乗せて気持ちよさそうにしている。
うん。随分と気に入ってもらえたようだ。
それじゃあ、わたしも早速。
みんなに続いてそっとお湯に浸かる。
うん。やっぱりここのお湯は泉質が本当に素晴らしい。このヌルヌル感のある美人の湯を源泉かけ流しで、しかもこれほど抜群のロケーションで楽しめる温泉はここ以外に私は知らない。
世界でここだけではないだろうか?
うん。そうに違いない。
もしかすると高所恐怖症の人は怖いかもしれないけれど、下を見なければ何の問題もない。
「フィーネはすごいゴブ。何でも知ってて何でもできるゴブ。畑も、温泉も。フィーネには副町長になってずっとこの町にいて欲しいゴブよ」
「ヴェラ……」
ここでの暮らしは悪くない。だが、私はクリスさんやルーちゃん、それにシズクさんのところへと帰らなければならないのだ。
だが一方でもうヴェラたちにも情はある。だからちゃんとした生活を送ってほしいという思いもあるのだ。
「私はいつかここを出ていかなければなりませんが、でも私がいなくてもみんながきちんと暮らせるようにはするつもりです」
「……」
ヴェラは寂しそうに俯いてしまった。
「そう言えばヴェラ。町長のアイリスさんはどういう人なんですか?」
「アイリス様? アイリス様はエルフの女性ゴブ」
「エルフ? 魔族じゃないんですか?」
「魔族じゃないゴブ。人間にひどい目に遭わされていたのをベルード様が助けたらしいゴブ」
「ベルードが……? もしかしてベルードって良い魔族なんでしょうか……」
「ベルード様は素晴らしいお方ゴブ。ゴブたち魔物が人間と争わず、心穏やかに暮らせるように、進化の秘術っていう素晴らしい術を研究してくれているゴブ」
「進化の秘術!?」
まさかこんなところでその名前を聞くなんて!
「そうゴブ。進化の秘術を使えばゴブたちは人間を襲いたいという衝動が無くなって、こうして穏やかに暮らせるんだゴブ」
「……」
「だから、ベルード様は素晴らしいお方なんだゴブ。ゴブたちはみんな感謝しているゴブ」
「……そう、ですね」
私はどう返事をしたらよいのか分からなかった。
今、私の目の前にある光景は理想の世界のように見える。
魔物から人間を襲うという衝動が無くなるなら、わざわざ魔物を倒す必要なんてどこにもない。そうなれば、人と魔物が手を取り合って穏やかに暮らすという未来だってあり得るのではないだろうか?
だが一方で、ブラックレインボーで見たあの惨劇も同じ進化の秘術がもたらしたのだとしら……。
だとしたらどうしてあんなことに……って、あれ?
ということはもしかして、アルフォンソに進化の秘術を教えたのはベルード!?
シャルの大切な人を奪ったのはアルフォンソだけど、進化の秘術さえなければあんな悲劇は起こらなかったはずで……。
いや、でも今目の前にあるこの光景は……。
「フィーネ? 怖い顔しているゴブよ? お腹痛いゴブか?」
「え? あ、いえ。大丈夫ですよ」
ダメだ。ベルードと進化の秘術のことを考え始めるとどうにもうまく考えがまとまらない。
少し別の話題にして頭を切り替えよう。
「ええと、そういえばアイリス様はどういう方なんですか?」
「アイリス様は、ベルード様の恋人ゴブ」
うん。そういえばそんな話を聞いた気がする。
「よくベルード様は、アイリス様とデートしているらしいゴブ」
「はあ。アイリスさんも自分を助け出してくれた男性が相手であれば、幸せなのかも知れませんね」
「そうに決まっているゴブ。ベルード様とアイリス様はベストカップルゴブ」
なるほど。魔族の世界にもベストカップルなんて概念があるのか。
魔族のことは良く知らないけれど、そのあたりは人間と変わらなかったりするんだろうか?
「ニャニャ。何だかクラクラしてきたニャ」
「ズ~」
「え?」
振り返ってみるとカリンとミミーがデロンとなっている。
まずい! のぼせてる!
「それはのぼせちゃったんですね。長湯をしすぎるとそうなるんです。ゆっくりお湯から上がって体を休めましょう。あ、ちょっと! ちゃんと体を拭かないと風邪ひきますよ!」
こうして私はヴェラとの話を止め、カリンたちの介助をするのだった。
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