勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
320 / 625
砂漠の国

第七章第33話 交渉

しおりを挟む
「おお、聖女様! ご無事で何よりです。穢れの民のところへ向かわれたと聞いて肝を冷やしましたぞ」

私たちがヒラールさんと面会すると開口一番、こんなことを言われた。

「いえ。彼らも普通の人間ですから特に危険なこともありませんでしたよ」
「……いくら穢れの民といえども聖女様に手出しをすることなどできなかったという事でしょうな。もし一般市民が立ち入れば身ぐるみはがれてしまう危険な場所です。本当にご無事で何よりでした」

これは……もしかして私の事を本気で心配していたんだろうか?

それにもしそんな危険地帯だったとしても、そうさせているのがこの町の人達なのではないだろうか?

そんな思いをぐっと飲み込むと私はヒラールさんに話を切り出す。

「そんな事よりも、お願いがあります。あの地域はあまりにも衛生環境が悪すぎました。私もできる範囲では洗浄魔法で綺麗にしてきましたが、他に同じような区画があるならきちんと予算をかけて掃除をしてあげてください。放っておくと、あのような場所から疫病が発生するかもしれません」
「おお、左様ですか。それでは、早速焼き払うように手配いたしましょう」
「え?」
「え?」

ダメだ。本当に話が通じない。

「違います。そんなことをしたら死者や怪我人がでてしまうじゃないですか。それに、ただでさえ苦しい生活をしている彼らを殺す気ですか?」
「え? ですが掃除をしろとおっしゃたではありませんか」
「そういう意味ではありません! どうして同じ人間に対してそんな酷いことができるんですか……」

どうしよう。何だか話をしていて悲しくなってきてしまった。

「聖女様。わたしがお話してもよろしいでしょうか?」

俯く私を見かねたのか、サラさんが助けに入ってきてくれた。

「はい。お願いします」

私は何とかその言葉を絞り出した。

「はい。それでは、ヒラール首長。これからは聖女フィーネ・アルジェンタータ様に代わり、ブラックレインボー帝国第一皇女サラ・ブラックレインボーがお話させて頂きます」
「え?」

そう言ってヒラールさんが私を見たので私は頷いて肯定の意を示す。

「かしこまりました。皇女殿下、お話を伺いましょう」
「はい。わたしは現在、故あって聖女様の旅に同行させていただいておりますが、そう遠くないうちに故国に戻ります。その際、貴国で厄介者となっているルマ人、いえ、穢れの民の皆さんを我が国で引き取りたく思っております」
「なっ? そのようなことをしては貴国に穢れが持ち込まれてしまいますぞ? 折角我々で穢れを管理しているというのに」
「構いません。これも聖女様の慈愛に導かれてのこと。きっとこれも神のおぼし召しなのでしょう」
「……では、移送費用もそちらで持ってくれると?」
「お約束いたします」
「なるほど……しかし貴国に移民する者を養うには我が国の資源は十分ではありませんからなぁ」
「……聖女様、よろしいでしょうか?」
「はい?」
「彼らを養うための費用を出せ、と言われているでござるよ」

思わず聞き返した私にシズクさんが助け船を出してくれた。

「私に出せる範囲でしたら」

それを聞いたヒラールさんは満面の笑みを浮かべる。

「ははは。さすがは聖女様でらっしゃいますな。あのような穢れた者どもを助けるために私財をなげうつとは。このヒラール、感銘を受けましたぞ」

いやはや。ホント清々しいまでのクズだ。

「それでは殿下。いつ頃引き取って頂けるので?」
「そう、ですね。国に戻り準備を整える必要があるのでまだはっきりとは申し上げられませんが、来年中には必ずや」
「左様でございますか。それでは聖女様。あの者どもを養う費用として、金貨 3,000 枚ほど頂けますか?」
「その前に、一体何人いるでござるか? そのお金は何に使われるでござるか」

そう言うとヒラールさんは小さく舌打ちをした。

「そうですな。食料の提供に使いましょう。人数ははっきりとは分かっておりません。なにしろあの者どもは勝手に繁殖しますからな」

繁殖って! 言い方というものがあるだろうに。

「わかりました。では、まず昨日のルマ人たちのところに行って希望する人数を聞いてきます。話はそれからで良いですか?」
「もちろんでございます」

こうして何とかルマ人の移住について合意を取り付けた私たちは、再び彼らの居住区画へと足を運んだのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...