145 / 625
巫女の治める国
第四章第12話 月夜の温泉と闖入者
しおりを挟む
「あれ? クリスさん何だか調子悪そうですね。大丈夫ですか?」
「……フィーネ様、大丈夫です。問題ありません」
食後に部屋でくつろいでいたのだが、なんとなくクリスさんの顔が赤いような、そして少し息苦しそうにしているような気がしたので声をかけてみた。クリスさんは大丈夫と言っているがあまり大丈夫そうには見えない。
「クリスさん、今日はずっとラッセルしていて大変でしたから疲れてるんじゃないですか?」
「いえ、あの程度ではそんな……」
クリスさんはなおもそう言い募る。
「うーん、ちょっとおでこ触りますね」
私はクリスさんのおでこに手のひらを当てる。
「ちょっと、クリスさん完全に熱があるじゃないですか。あ、そういえばあんなに汗かいていたのにすぐに着替えなかったですね。それで体が冷えたんじゃないですか?」
「う、それは……」
私は両手を腰に当てて肘を張ったポーズでクリスさんに宣言した。
「クリスさん、暖かくして早く寝てください。いいですね? 風邪が治るまで外出禁止です!」
「そ、そんな! 私はこのくらい……」
「ダメです。ちょっとした風邪でもこじらせて肺炎にでもなったりしたら大変です。美味しいものは食べたので後は暖かくしてよく眠ることです!」
クリスさんが何か言いたげにしているが認めない。
「返事は、はい以外は認めませんよ?」
「は、はい」
「よろしい! じゃあ早くお布団に入ってください」
「わ、わかりました」
クリスさんは渋々といった感じでお布団へと潜り込んだ。
「姉さま、心配ですね……」
「そうですね。でも雪道であれだけ頑張ってもらいましたからね。私たちもせめて体が冷えないように気を使ってあげるべきでした」
****
クリスさんが寝息を立て始めたのを確認した私たちは専用露天風呂へとやってきた。
月明かりと行灯に照らし出された薄暗いお風呂が私たちを迎えてくれる。
「姉さま、ちょっと暗くないですか?」
「そういえばルーちゃんは夜目がきかないんでしたね」
「あっ、そっか。姉さまは暗くても見えるんでしたね。ずるいです」
いや、ずるいと言われても困るわけだが。一応、私は吸血鬼なわけなだし。なぜか(笑)ってついているけどね。
私たちは服を脱いで体をさっと流すと早速湯船に浸かる。
「ああああぁぁぁ、きもちいいぃぃぃ」
ルーちゃんが極北の地の時のように変な声をあげている。
まあ、温泉は最強だからね。みんなで温泉に入れば世界は平和になるに違いないのだ。
これぞまさに風呂&ピースだ。
え? 意味が分からない? もうちょっと気の利いたことを言え?
ふふふ。私にそんなセンスを求めるほうが間違っているんじゃないかな?
そもそも私だって何を言っているのかよく分からないんだから。
「姉さまっ! ここも温泉なんですよね? どんな効能があるんですか?」
「ええと、ここは酸性泉なので慢性の皮膚病に効くはずです。でも、私たちには今のところ関係ないですね。あとは健康増進とか冷え性とかの一般的な温泉の効能があります」
「ちぇー、美肌じゃないんですね」
「温泉と言っても色々ありますからね。でもここのお湯は白く濁っていて素敵ですよ?」
「それがちゃんと見えるのは姉さまだけですよぉ」
「そういえばそうでしたね。でもまた明日、明るい時間に入ればいいじゃないですか。クリスさんも風邪でダウンしちゃいましたし、しばらくはここに留まることになりそうですからね」
するとルーちゃんが心配そうな表情で答えた。
「……そうですね。姉さまでも治せない病気ってことは、きっとクリスさんはすごい病気にかかっちゃったんですよね?」
「うん?」
「え? 違うんですか? 姉さま、病気も治せるんじゃなかったでしたっけ?」
「……あ」
うん、そうだった。風邪、病気治療魔法で治せるんだった。
病気の治療なんてここ最近は全くやっていなかったのと、風邪といえば暖かくして寝るという常識に囚われてすっかり忘れてた。
「あははは、後で治療しておきますね」
「ええっ! 姉さま自分で治せるの忘れてたんですかっ?」
「その、最近病気の治療なんて全くやっていなかったものでつい」
「もー、姉さまったら……」
うん、クリスさんには悪いことをしてしまった。後で起きたら謝っておこう。
その後しばらく他愛のない話をしていたが、ルーちゃんがのぼせてきたようなので先に部屋に戻ってもらった。
私はそのまま夜の湖を見ながらのんびりと温泉を堪能する。体が温まっているのは感じるが、のぼせるような感じはないのでまだまだ浸かっていられそうだ。
ちょっと熱めのお湯で火照った顔を湖を渡って冷やされた風が優しく冷やしていく。
私は湯船の湖側に移動して景色を眺める。
湯船の先はちょっとした崖になっている。眼下には雪を被った林が広がり、月明かりで青白く照らされている。そしてその先には漆黒の湖が広がり、その表面に白く輝く月の光が作り出す白い帯がこちらへと伸びている。
視線を上げるとトウゲン湖を、そしてこのクサネのカルデラを囲む外輪山の漆黒が湖と空を隔てている。その夜空には美しい半月が浮かび、満天の星々の瞬きがそこに彩を添えている。
「これが満月だったらもっとキレイだったんでしょうけどね」
私は誰にともなく独り呟く。
「そうね。でも、今夜の月もキレイよ?」
「!?」
私は自分の背後にから聞こえてきた声に驚いて慌てて振り向く。
「久しぶりね。フィーネ。元気だったかしら?」
そこには何食わぬ顔で温泉に浸かるアーデの姿があった。
「……フィーネ様、大丈夫です。問題ありません」
食後に部屋でくつろいでいたのだが、なんとなくクリスさんの顔が赤いような、そして少し息苦しそうにしているような気がしたので声をかけてみた。クリスさんは大丈夫と言っているがあまり大丈夫そうには見えない。
「クリスさん、今日はずっとラッセルしていて大変でしたから疲れてるんじゃないですか?」
「いえ、あの程度ではそんな……」
クリスさんはなおもそう言い募る。
「うーん、ちょっとおでこ触りますね」
私はクリスさんのおでこに手のひらを当てる。
「ちょっと、クリスさん完全に熱があるじゃないですか。あ、そういえばあんなに汗かいていたのにすぐに着替えなかったですね。それで体が冷えたんじゃないですか?」
「う、それは……」
私は両手を腰に当てて肘を張ったポーズでクリスさんに宣言した。
「クリスさん、暖かくして早く寝てください。いいですね? 風邪が治るまで外出禁止です!」
「そ、そんな! 私はこのくらい……」
「ダメです。ちょっとした風邪でもこじらせて肺炎にでもなったりしたら大変です。美味しいものは食べたので後は暖かくしてよく眠ることです!」
クリスさんが何か言いたげにしているが認めない。
「返事は、はい以外は認めませんよ?」
「は、はい」
「よろしい! じゃあ早くお布団に入ってください」
「わ、わかりました」
クリスさんは渋々といった感じでお布団へと潜り込んだ。
「姉さま、心配ですね……」
「そうですね。でも雪道であれだけ頑張ってもらいましたからね。私たちもせめて体が冷えないように気を使ってあげるべきでした」
****
クリスさんが寝息を立て始めたのを確認した私たちは専用露天風呂へとやってきた。
月明かりと行灯に照らし出された薄暗いお風呂が私たちを迎えてくれる。
「姉さま、ちょっと暗くないですか?」
「そういえばルーちゃんは夜目がきかないんでしたね」
「あっ、そっか。姉さまは暗くても見えるんでしたね。ずるいです」
いや、ずるいと言われても困るわけだが。一応、私は吸血鬼なわけなだし。なぜか(笑)ってついているけどね。
私たちは服を脱いで体をさっと流すと早速湯船に浸かる。
「ああああぁぁぁ、きもちいいぃぃぃ」
ルーちゃんが極北の地の時のように変な声をあげている。
まあ、温泉は最強だからね。みんなで温泉に入れば世界は平和になるに違いないのだ。
これぞまさに風呂&ピースだ。
え? 意味が分からない? もうちょっと気の利いたことを言え?
ふふふ。私にそんなセンスを求めるほうが間違っているんじゃないかな?
そもそも私だって何を言っているのかよく分からないんだから。
「姉さまっ! ここも温泉なんですよね? どんな効能があるんですか?」
「ええと、ここは酸性泉なので慢性の皮膚病に効くはずです。でも、私たちには今のところ関係ないですね。あとは健康増進とか冷え性とかの一般的な温泉の効能があります」
「ちぇー、美肌じゃないんですね」
「温泉と言っても色々ありますからね。でもここのお湯は白く濁っていて素敵ですよ?」
「それがちゃんと見えるのは姉さまだけですよぉ」
「そういえばそうでしたね。でもまた明日、明るい時間に入ればいいじゃないですか。クリスさんも風邪でダウンしちゃいましたし、しばらくはここに留まることになりそうですからね」
するとルーちゃんが心配そうな表情で答えた。
「……そうですね。姉さまでも治せない病気ってことは、きっとクリスさんはすごい病気にかかっちゃったんですよね?」
「うん?」
「え? 違うんですか? 姉さま、病気も治せるんじゃなかったでしたっけ?」
「……あ」
うん、そうだった。風邪、病気治療魔法で治せるんだった。
病気の治療なんてここ最近は全くやっていなかったのと、風邪といえば暖かくして寝るという常識に囚われてすっかり忘れてた。
「あははは、後で治療しておきますね」
「ええっ! 姉さま自分で治せるの忘れてたんですかっ?」
「その、最近病気の治療なんて全くやっていなかったものでつい」
「もー、姉さまったら……」
うん、クリスさんには悪いことをしてしまった。後で起きたら謝っておこう。
その後しばらく他愛のない話をしていたが、ルーちゃんがのぼせてきたようなので先に部屋に戻ってもらった。
私はそのまま夜の湖を見ながらのんびりと温泉を堪能する。体が温まっているのは感じるが、のぼせるような感じはないのでまだまだ浸かっていられそうだ。
ちょっと熱めのお湯で火照った顔を湖を渡って冷やされた風が優しく冷やしていく。
私は湯船の湖側に移動して景色を眺める。
湯船の先はちょっとした崖になっている。眼下には雪を被った林が広がり、月明かりで青白く照らされている。そしてその先には漆黒の湖が広がり、その表面に白く輝く月の光が作り出す白い帯がこちらへと伸びている。
視線を上げるとトウゲン湖を、そしてこのクサネのカルデラを囲む外輪山の漆黒が湖と空を隔てている。その夜空には美しい半月が浮かび、満天の星々の瞬きがそこに彩を添えている。
「これが満月だったらもっとキレイだったんでしょうけどね」
私は誰にともなく独り呟く。
「そうね。でも、今夜の月もキレイよ?」
「!?」
私は自分の背後にから聞こえてきた声に驚いて慌てて振り向く。
「久しぶりね。フィーネ。元気だったかしら?」
そこには何食わぬ顔で温泉に浸かるアーデの姿があった。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる