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巫女の治める国
第四章第3話 はじめての豚骨ラーメン
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「あっ、姉さま! あの屋台の食べ物が美味しそうです!」
ご飯が足りないと言うルーちゃんを連れて私たちは夜のサキモリの町の屋台街へと繰り出してきた。驚いたことに、ゴールデンサン巫国では女性だけでこの時間に出歩いても町中であればそれほど危ないことはないのだそうだ。
美味しそうな豚骨スープの匂い、肉が焼けるような匂い、醤油の匂い、味噌の匂い、様々な匂いが混ざって何とも言えない匂いが辺り一帯に漂っている。
「いらっしゃい、異国のお嬢ちゃんたち。サキモリは初めてかい?」
ルーちゃんに導かれて屋台を覗いていると、そのうちの一つの屋台のオヤジさんが声をかけてきた。
お、どうやらここは豚骨ラーメンの屋台のようだ。
ルーちゃんがそのまま屋台の椅子に座ったので、私たちもそれにつられて腰かける。
「はい。今日着きました」
「そうか。楽しんでいってくれよ。うちはメニューは一種類だけだがトッピングは色々できるから好きなものを選んでくれ。おススメは全部盛りだ」
「ええと、私は煮卵入りで、麺は硬めでお願いします」
「あいよ! 金のお嬢ちゃんと緑のお嬢ちゃんは?」
「あたしは全部盛りで!」
「麺は普通でいいか?」
「んー、じゃああたしも硬めでっ!」
「私も同じで」
「あいよっ!」
オヤジさんが麺を茹ではじめる。
「お嬢ちゃんたちは観光かい?」
「いえ、大切な友人と行き違いになってしまって。私たちは彼女に大切なものを返さなくてはいけないんです」
「はー、人探しか。大変だねぇ。どんな人なんだい?」
「この国の出身で背の高い侍の女性です。多分十日前くらいにこの町に来ていると思うんですけど」
「ああ、あの! 目立ってたからね。どこに行ったのかは知らないけど、なんだかどことなく寂しげな様子だったのは覚えているなぁ。その娘もお嬢ちゃんたちを気にしていたのかもな」
オヤジさんが少し遠い目をしている。
「ミエシロ家という家の人なんですけど、心当たりはありませんか?」
「うーん、悪いけど知らないなぁ。会えるかどうかは分からないけど、女王様なら何か分かるかもしれないよ?」
「女王様、ですか?」
「ああ、そうだとも。この国を守ってくださっている偉大なお方だよ。ものすごく強い巫女の力をもっていてな。30 年以上前だっと思うが、あのお方が即位してからは疫病も飢饉もピタリと治まったんだ。そんな女王様ならきっと探し人も占いで一発だよ」
オヤジさんはどこか自分の事のように女王様のことを自慢している。
「そんなにすごい方なんですね」
「もちろんさ。そもそも女王様がいなけりゃ俺も今頃はお天道様の下を歩けなかったかもしれないし、お嬢ちゃんたちだって危なくてこんな風に夜の町なんて歩けなかっただろうよ」
「そうですか」
鼻高々で女王様のことを語るオヤジさんを横目に周りを見渡す。
うん、確かにこの辺りは平和そのものだ。
かがり火が煌々と焚かれ、夜の屋台街を照らしている。
「おっ、茹で上がったな。はいよ、お待ち!」
前の世界でよく見た豚骨ラーメンの丼が私たちの前に差し出される。うっすらと透明な油が浮いた乳白色の濁ったスープに細麺という鉄板の組み合わせだ。
私のものにはキクラゲ、ネギ、チャーシュー一枚と味付き煮卵が、ルーちゃんとクリスさんのものにはさらに追加で海苔、チャーシュー二枚、辛子高菜、紅ショウガ、辛子明太子が乗っている。
もぐもぐもぐ
うん、美味しい。スープもしょっぱすぎず脂っこすぎず、麺の硬さも丁度いい。
「おじさん、とても美味しいです」
「そうかい。外人さんに美味しいって言ってもらえるのは嬉しいねぇ」
オヤジさんは心底嬉しそうに話す。
「そちらの二人にも気に入ってもらえたみたいだね」
「ああ、この食べ物はすごいな。レッドスカイ帝国で食べた物と似ているが、これは全く別の料理だ」
「ああ、何でも元々は向こうの食べ物だったらしいけどな。うちの国で魔改造されてこうなったみたいだからね。全国津々浦々、いろんなラーメンがあるからね。尋ね人の件が片付いたら食べ歩きしてみたらどうだい?」
「それいい! すごくいいですっ! 姉さま、やりましょう!」
「ははは、お嬢ちゃんたちは姉妹だったのかい?」
「うーん、まあ、妹分というか、そんな感じです」
「そうかそうか」
私は楽しくお話をしながら味の染みた煮卵とチャーシューを平らげ、キクラゲとネギ、それに麺を半分くらい食べ終えたところで丼をルーちゃんへとパスした。
「いただきまーす♪」
ご機嫌にルーちゃんが私の残したラーメンを胃袋に収めていく。
「はは、緑のお嬢ちゃんは良い食べっぷりだね。ずいぶん長い耳をしているけど、耳の長い人はみんなお嬢ちゃんみたいにたくさん食べるのかい?」
「はいっ! うちのお母さんはあたしの十倍は食べますよ!」
いや、それはルーちゃん家族だけであって一般的なエルフはそんなに食べないのでは?
「それなら是非サキモリに来てほしいやな。屋台のみんなは大儲けだ」
そんな会話を交わし、あははとルーちゃんとオヤジさんが笑いあう。
だが、そのお金の出所が私な気がするのは気のせいだろうか?
そして万が一リエラさんがこの屋台街にやってきた時、このオヤジさんは果たして無事でいられるのだろうか?
そんな思いが頭をよぎる。
「おじさん、おいしかったですっ!」
「毎度! またきてくれよっ!」
「はーい」
私たちは支払いを済ませて屋台を後にする。お値段はなんとたったの小銀貨 1 枚と銅貨 2 枚、だいたい 1,200 円くらいだ。
お腹も満たされた私たちは旅館へと戻ったのだった。
ご飯が足りないと言うルーちゃんを連れて私たちは夜のサキモリの町の屋台街へと繰り出してきた。驚いたことに、ゴールデンサン巫国では女性だけでこの時間に出歩いても町中であればそれほど危ないことはないのだそうだ。
美味しそうな豚骨スープの匂い、肉が焼けるような匂い、醤油の匂い、味噌の匂い、様々な匂いが混ざって何とも言えない匂いが辺り一帯に漂っている。
「いらっしゃい、異国のお嬢ちゃんたち。サキモリは初めてかい?」
ルーちゃんに導かれて屋台を覗いていると、そのうちの一つの屋台のオヤジさんが声をかけてきた。
お、どうやらここは豚骨ラーメンの屋台のようだ。
ルーちゃんがそのまま屋台の椅子に座ったので、私たちもそれにつられて腰かける。
「はい。今日着きました」
「そうか。楽しんでいってくれよ。うちはメニューは一種類だけだがトッピングは色々できるから好きなものを選んでくれ。おススメは全部盛りだ」
「ええと、私は煮卵入りで、麺は硬めでお願いします」
「あいよ! 金のお嬢ちゃんと緑のお嬢ちゃんは?」
「あたしは全部盛りで!」
「麺は普通でいいか?」
「んー、じゃああたしも硬めでっ!」
「私も同じで」
「あいよっ!」
オヤジさんが麺を茹ではじめる。
「お嬢ちゃんたちは観光かい?」
「いえ、大切な友人と行き違いになってしまって。私たちは彼女に大切なものを返さなくてはいけないんです」
「はー、人探しか。大変だねぇ。どんな人なんだい?」
「この国の出身で背の高い侍の女性です。多分十日前くらいにこの町に来ていると思うんですけど」
「ああ、あの! 目立ってたからね。どこに行ったのかは知らないけど、なんだかどことなく寂しげな様子だったのは覚えているなぁ。その娘もお嬢ちゃんたちを気にしていたのかもな」
オヤジさんが少し遠い目をしている。
「ミエシロ家という家の人なんですけど、心当たりはありませんか?」
「うーん、悪いけど知らないなぁ。会えるかどうかは分からないけど、女王様なら何か分かるかもしれないよ?」
「女王様、ですか?」
「ああ、そうだとも。この国を守ってくださっている偉大なお方だよ。ものすごく強い巫女の力をもっていてな。30 年以上前だっと思うが、あのお方が即位してからは疫病も飢饉もピタリと治まったんだ。そんな女王様ならきっと探し人も占いで一発だよ」
オヤジさんはどこか自分の事のように女王様のことを自慢している。
「そんなにすごい方なんですね」
「もちろんさ。そもそも女王様がいなけりゃ俺も今頃はお天道様の下を歩けなかったかもしれないし、お嬢ちゃんたちだって危なくてこんな風に夜の町なんて歩けなかっただろうよ」
「そうですか」
鼻高々で女王様のことを語るオヤジさんを横目に周りを見渡す。
うん、確かにこの辺りは平和そのものだ。
かがり火が煌々と焚かれ、夜の屋台街を照らしている。
「おっ、茹で上がったな。はいよ、お待ち!」
前の世界でよく見た豚骨ラーメンの丼が私たちの前に差し出される。うっすらと透明な油が浮いた乳白色の濁ったスープに細麺という鉄板の組み合わせだ。
私のものにはキクラゲ、ネギ、チャーシュー一枚と味付き煮卵が、ルーちゃんとクリスさんのものにはさらに追加で海苔、チャーシュー二枚、辛子高菜、紅ショウガ、辛子明太子が乗っている。
もぐもぐもぐ
うん、美味しい。スープもしょっぱすぎず脂っこすぎず、麺の硬さも丁度いい。
「おじさん、とても美味しいです」
「そうかい。外人さんに美味しいって言ってもらえるのは嬉しいねぇ」
オヤジさんは心底嬉しそうに話す。
「そちらの二人にも気に入ってもらえたみたいだね」
「ああ、この食べ物はすごいな。レッドスカイ帝国で食べた物と似ているが、これは全く別の料理だ」
「ああ、何でも元々は向こうの食べ物だったらしいけどな。うちの国で魔改造されてこうなったみたいだからね。全国津々浦々、いろんなラーメンがあるからね。尋ね人の件が片付いたら食べ歩きしてみたらどうだい?」
「それいい! すごくいいですっ! 姉さま、やりましょう!」
「ははは、お嬢ちゃんたちは姉妹だったのかい?」
「うーん、まあ、妹分というか、そんな感じです」
「そうかそうか」
私は楽しくお話をしながら味の染みた煮卵とチャーシューを平らげ、キクラゲとネギ、それに麺を半分くらい食べ終えたところで丼をルーちゃんへとパスした。
「いただきまーす♪」
ご機嫌にルーちゃんが私の残したラーメンを胃袋に収めていく。
「はは、緑のお嬢ちゃんは良い食べっぷりだね。ずいぶん長い耳をしているけど、耳の長い人はみんなお嬢ちゃんみたいにたくさん食べるのかい?」
「はいっ! うちのお母さんはあたしの十倍は食べますよ!」
いや、それはルーちゃん家族だけであって一般的なエルフはそんなに食べないのでは?
「それなら是非サキモリに来てほしいやな。屋台のみんなは大儲けだ」
そんな会話を交わし、あははとルーちゃんとオヤジさんが笑いあう。
だが、そのお金の出所が私な気がするのは気のせいだろうか?
そして万が一リエラさんがこの屋台街にやってきた時、このオヤジさんは果たして無事でいられるのだろうか?
そんな思いが頭をよぎる。
「おじさん、おいしかったですっ!」
「毎度! またきてくれよっ!」
「はーい」
私たちは支払いを済ませて屋台を後にする。お値段はなんとたったの小銀貨 1 枚と銅貨 2 枚、だいたい 1,200 円くらいだ。
お腹も満たされた私たちは旅館へと戻ったのだった。
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