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巫女の治める国
第四章第4話 女王の統治
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一夜明けて私たちは、情報収集のために町へ繰り出した。安全だ、とは言われたもののまだ状況がよく分かっていないので私たちは念のため三人で行動している。
そんな私たちは今、サキモリ天満宮へとやってきた。広い敷地に大きな鳥居、そして手入れの行き届いた立派な建物――拝殿、で合っているかな?――を備えた神社的な場所だ。
「こんにちは」
私は境内の掃除をしている白と赤の巫女装束を身に纏った巫女さんに声をかける。
「こんにちは。どうされましたか?」
「はい。私は聖女候補のフィーネ・アルジェンタータと申します。昨日この国に到着しました。神主の方とお話をさせていただきたくやってまりました」
「??? せい、じょ、でございますか? ええと、西方のお方ですよね?」
おや? 聖女候補の肩書が通用しない? シズクさんが知らなかったからメジャーではないのだと思ってはいたけれど、神様関連施設のはずの神社的な場所でも通用しないとは予想外だった。
「はい。ホワイトムーン王国よりやってまいりました」
「なるほど。あちらの教会の関係のお方、ですかね? 畏まりました。それではこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
よかった。とりあえず追い返されることはなさそうだ。
私たちは社務所に通されると、出されたお茶を啜りながら畳に座り待つ。アポなしで訪問したのでこれは仕方がないだろう。
しばらく待っていると人の足音が聞こえ、そして扉がノックされる。そして扉が開かれると神主風の格好をした白髪交じりのおじいさんと巫女装束を着た中年の女性が入ってきた。
「お待たせして申し訳ございません。私がサキモリ天満宮の宮司、ええと、総責任者をしておりますコレザネ・ミツジと申します。こちらは巫女のアザミ・スエヒロでございます」
「ご丁寧にありがとうございます。私はフィーネ・アルジェンタータと申します。僭越ながら聖女候補として旅をしております。こちらは聖騎士のクリスティーナ、そして旅の仲間のルミアです」
「遠いところをようこそおいでいただきました。失礼ながら我々は西方の教会についてはあまり交流が無く、その聖女と言うものをよく存じ上げませんがどういったお役目なのでしょうか?」
どうやら本当に聖女という存在はこの国ではマイナーなようだ。
「はい。簡単に申し上げますと、怪我や病気の治療をする、死者を弔う、悪霊を払うなどして世界の人々を救うための活動する女性です」
「なるほど、つまり、そのための修業の旅をなさっているということですね?」
「そんなところです」
神主のコレザネさんがなにやら納得したような表情を浮かべている。私も長いこと聖女候補なんてものをやっているけれど、私にも未だに聖女が何なのかよく分かっていないのでこのくらいの説明しかできないのだが、納得してもらえたようで何よりだ。
ちなみに勇者やら魔王やらの話は正直物語の中の話としか思えないのでイマイチ実感がない。
「それで、その聖女候補のあなたがどのようなご用でしょうか?」
「はい。実は大切な友人を探しているのです。彼女とは行き違いになってしまって。私たちは大切なものを彼女に返さなくてはいけないんです。果たせていない約束もありますし……」
コレザネさんは私の目をじっと見つめ、そして表情を崩した。
「なるほど。事情は分かりました。そう言うことでしたらお力添えしましょう。どのようなお方でしょうか?」
「はい。名前はシズク・ミエシロというこの国出身の女性で、背が高くて黒目黒髪の侍の女性です。多分十日前くらいにこの町に来ていると思うんですけれども……」
「ああ、あの噂の女性ですか。申し訳ありませんが、どこに行ったのかまでは」
「そうですか……」
私たちが少し落ち込んでいると、巫女のアザミさんが口を開いた。
「確か、ミエシロ家といえばミヤコにそのような巫女の家系があるとは聞いたことがありますが、侍なのですよね?」
「はい。家宝の刀を佩いていました」
「なるほど。だとすると違うかもしれません。やはり、一度女王様にお会いしてはいかがでしょうか? 女王様の占いでしたらすぐに探し人は見つかるはずです」
「そうですか。昨晩も屋台の方に女王様のお話を伺いました。女王様というのはどのようなお方なんですか?」
すると二人の口から堰を切ったかのように女王様礼賛の言葉が連ねられた。
要約すると、その女王様はスイキョウ様という名前の方で、今から 35 年前に即位したという。このスイキョウ様はものすごい力をもった巫女でもあり、スイキョウ様が即位して以来、この国を襲っていた流行り病も飢饉も自然災害も全て鎮まり、政治は安定して国民の暮らしぶりは驚くほど向上したのだそうだ。
そのおかげで、今では鍵を掛けずに出かけても泥棒に入られることはほとんどなく、若い女性が夜に歩いても襲われることは稀なほどに治安が改善しているのだという。
そしてスイキョウ様は噂によると年をとらない絶世の美女だそうで、さらに多忙な時期でなければ庶民とも会って悩みを解決してくれる気さくな面もあるお方なのだそうだ。
うーん、ここまで全方位の評判がいい女王様というのも珍しいのではないだろうか?
「それでは、私から紹介状をしたためましょう。少しお待ちいただけますか?」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
そうしてしばらくして紹介状を入れたという封筒をコレザネさんが手渡してくれた。
「ミヤコへ行き、御所でこの紹介状を出せば、いつになるかは分かりませんが女王様にお会いできるはずですよ」
「ありがとうございます」
私は素直にコレザネさんの厚意に感謝する。
「それと、この国では女王様のおかげで安寧が保たれておりますので、あなたの救いが必要となることは殆どないかもしれません。ですが、女王様のお力も全ての民、全ての土地に完全に行き届いているわけではありません。ですので、もし旅の途中で何か見かけたら是非手を差し伸べてあげてくださいね」
コレザネさんが笑顔でそのようなことを私に言ってきた。私はこの発言を素直にすごいと思った。
自分達の頂く女王様の力を認めつつも行き届かない部分がある事を認め、その人たちの救済を他国の、しかも他の宗教であるはずの私に依頼する。そんなことは中々できるものではないのではないだろうか?
「もちろんです」
私が敬意を胸にそう答えて頷くと、コレザネさんは小さくうなずき返してくれた。
そんな私たちは今、サキモリ天満宮へとやってきた。広い敷地に大きな鳥居、そして手入れの行き届いた立派な建物――拝殿、で合っているかな?――を備えた神社的な場所だ。
「こんにちは」
私は境内の掃除をしている白と赤の巫女装束を身に纏った巫女さんに声をかける。
「こんにちは。どうされましたか?」
「はい。私は聖女候補のフィーネ・アルジェンタータと申します。昨日この国に到着しました。神主の方とお話をさせていただきたくやってまりました」
「??? せい、じょ、でございますか? ええと、西方のお方ですよね?」
おや? 聖女候補の肩書が通用しない? シズクさんが知らなかったからメジャーではないのだと思ってはいたけれど、神様関連施設のはずの神社的な場所でも通用しないとは予想外だった。
「はい。ホワイトムーン王国よりやってまいりました」
「なるほど。あちらの教会の関係のお方、ですかね? 畏まりました。それではこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
よかった。とりあえず追い返されることはなさそうだ。
私たちは社務所に通されると、出されたお茶を啜りながら畳に座り待つ。アポなしで訪問したのでこれは仕方がないだろう。
しばらく待っていると人の足音が聞こえ、そして扉がノックされる。そして扉が開かれると神主風の格好をした白髪交じりのおじいさんと巫女装束を着た中年の女性が入ってきた。
「お待たせして申し訳ございません。私がサキモリ天満宮の宮司、ええと、総責任者をしておりますコレザネ・ミツジと申します。こちらは巫女のアザミ・スエヒロでございます」
「ご丁寧にありがとうございます。私はフィーネ・アルジェンタータと申します。僭越ながら聖女候補として旅をしております。こちらは聖騎士のクリスティーナ、そして旅の仲間のルミアです」
「遠いところをようこそおいでいただきました。失礼ながら我々は西方の教会についてはあまり交流が無く、その聖女と言うものをよく存じ上げませんがどういったお役目なのでしょうか?」
どうやら本当に聖女という存在はこの国ではマイナーなようだ。
「はい。簡単に申し上げますと、怪我や病気の治療をする、死者を弔う、悪霊を払うなどして世界の人々を救うための活動する女性です」
「なるほど、つまり、そのための修業の旅をなさっているということですね?」
「そんなところです」
神主のコレザネさんがなにやら納得したような表情を浮かべている。私も長いこと聖女候補なんてものをやっているけれど、私にも未だに聖女が何なのかよく分かっていないのでこのくらいの説明しかできないのだが、納得してもらえたようで何よりだ。
ちなみに勇者やら魔王やらの話は正直物語の中の話としか思えないのでイマイチ実感がない。
「それで、その聖女候補のあなたがどのようなご用でしょうか?」
「はい。実は大切な友人を探しているのです。彼女とは行き違いになってしまって。私たちは大切なものを彼女に返さなくてはいけないんです。果たせていない約束もありますし……」
コレザネさんは私の目をじっと見つめ、そして表情を崩した。
「なるほど。事情は分かりました。そう言うことでしたらお力添えしましょう。どのようなお方でしょうか?」
「はい。名前はシズク・ミエシロというこの国出身の女性で、背が高くて黒目黒髪の侍の女性です。多分十日前くらいにこの町に来ていると思うんですけれども……」
「ああ、あの噂の女性ですか。申し訳ありませんが、どこに行ったのかまでは」
「そうですか……」
私たちが少し落ち込んでいると、巫女のアザミさんが口を開いた。
「確か、ミエシロ家といえばミヤコにそのような巫女の家系があるとは聞いたことがありますが、侍なのですよね?」
「はい。家宝の刀を佩いていました」
「なるほど。だとすると違うかもしれません。やはり、一度女王様にお会いしてはいかがでしょうか? 女王様の占いでしたらすぐに探し人は見つかるはずです」
「そうですか。昨晩も屋台の方に女王様のお話を伺いました。女王様というのはどのようなお方なんですか?」
すると二人の口から堰を切ったかのように女王様礼賛の言葉が連ねられた。
要約すると、その女王様はスイキョウ様という名前の方で、今から 35 年前に即位したという。このスイキョウ様はものすごい力をもった巫女でもあり、スイキョウ様が即位して以来、この国を襲っていた流行り病も飢饉も自然災害も全て鎮まり、政治は安定して国民の暮らしぶりは驚くほど向上したのだそうだ。
そのおかげで、今では鍵を掛けずに出かけても泥棒に入られることはほとんどなく、若い女性が夜に歩いても襲われることは稀なほどに治安が改善しているのだという。
そしてスイキョウ様は噂によると年をとらない絶世の美女だそうで、さらに多忙な時期でなければ庶民とも会って悩みを解決してくれる気さくな面もあるお方なのだそうだ。
うーん、ここまで全方位の評判がいい女王様というのも珍しいのではないだろうか?
「それでは、私から紹介状をしたためましょう。少しお待ちいただけますか?」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
そうしてしばらくして紹介状を入れたという封筒をコレザネさんが手渡してくれた。
「ミヤコへ行き、御所でこの紹介状を出せば、いつになるかは分かりませんが女王様にお会いできるはずですよ」
「ありがとうございます」
私は素直にコレザネさんの厚意に感謝する。
「それと、この国では女王様のおかげで安寧が保たれておりますので、あなたの救いが必要となることは殆どないかもしれません。ですが、女王様のお力も全ての民、全ての土地に完全に行き届いているわけではありません。ですので、もし旅の途中で何か見かけたら是非手を差し伸べてあげてくださいね」
コレザネさんが笑顔でそのようなことを私に言ってきた。私はこの発言を素直にすごいと思った。
自分達の頂く女王様の力を認めつつも行き届かない部分がある事を認め、その人たちの救済を他国の、しかも他の宗教であるはずの私に依頼する。そんなことは中々できるものではないのではないだろうか?
「もちろんです」
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