勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
81 / 625
白銀のハイエルフ

第二章第33話 封印されしモノ

しおりを挟む
2020/09/09 誤字を修正しました
================

「まずは、この里の成り立ちについて話すとするかのう」

そう言うとインゴールヴィーナさんは不思議な香りのするお茶を口に含む。この里で採れるハーブを使ったお茶で、リラックスできる作用があるらしい。

「この里はのう、元々はエンシェントドラゴンが一柱、冥龍王ヴァルガルムを封印するために作られたのじゃ」
「なっ! 冥龍王ヴァルガルム!?」

クリスさんが驚いている。

「クリスさん、知っているんですか?」
「もちろんです。今から三千年程前に暴れまわったと言われている伝説の存在です。なんでも闇属性を司る龍の長で、世界中に闇とアンデッドを撒き散らして災厄をもたらした恐ろしい存在です。伝説によると、当時の勇者達によって討伐されたとされていましたが」
「ふむ。おおむね正解じゃ。じゃが、討伐はできなかったのじゃ。儂も当時の聖女も奴を消すだけの力がなくての。それでこの極北の地に封印し、儂がその封印守として残ったというわけじゃ」

おっと、さらっと三千歳を超えてます発言を頂きました。エルフの寿命まじヤバい。

「ええと、その仕事というのは?」
「うむ。最近結界がゆるんできておってのう。あまり放っておくと分体くらいは出てきてしまうかもしれんのでそろそろメンテナンスをしようと思っておったのじゃ」
「つまり、結界のメンテナンスを手伝え、と?」
「その通りじゃ。とりあえず、ビョルゴルフルと一緒に様子を見てきてほしいのじゃ」
「わかりました」

私はそう言うとインゴールヴィーナさんは満足そうに頷いた。

****

「この階段を降りれば封印の祠だ」

私たちはビョルゴルフルさんに案内されて封印の祠があるという洞窟へと潜った。クリスさんとルーちゃんは一緒に着いてきたが、リエラさんは家を整えると言って里に残った。

里からは歩いて 30 分ほど、洞窟も一本道なので迷うことはなさそうだ。私たちは足元に注意しながら長い階段を降りる。

階段を降りた先には半径 30 メートルはゆうにあろうかという巨大なドーム状の空洞となっており、その中心に小さな祠が立てられている。さらにその祠を囲う様に一辺が 30 メートルほどの正方形の石畳が整備され、その四隅には石柱が立てられている。

そして、その石柱の一つに体長 4 メートルくらいはあろうかという黒いドラゴンがかじりついて壊そうとしていた。

あれ? ヤバいんじゃない? 封印解けてるっぽいんですけど?

「なっ、もう冥龍王が出てこられるほどに封印がゆるんでいたとは!」

わー、馬鹿! 大声出したら気付かれる!

私は慌てて大声を上げたビョルゴルフルさんの口を抑えたが時すでに遅かった。冥龍王はこちらを見ると大きく息を吸い込み、そして咆哮を上げる。

「うっ」「ひぃっ」「くっ」

三者三様の声を上げる。ビョルゴルフルさんとルーちゃんは完全に怯えて尻もちをついてしまっている。クリスさんは少し震えているようだが、聖剣を抜き構えを取っている。

「今のは一体?」
「フィーネ様、平気なのですか? 今のは龍の咆哮ドラゴン・ロアと呼ばれているものです。魔力の籠った咆哮は弱き者を怯えさせ、戦意を喪失させる効果があるのです」
「あー、うるさかったですもんね」
「うるさいで済ませるフィーネ様は流石です」

まあ、【状態異常耐性】のスキルレベル MAX ですからね。

「それよりもビョルさんとルーちゃんを何とかしないと」
「一旦撤退しましょう」

そうクリスさんが言った瞬間、冥龍王が口を開く。

「まずい、ブレスが!」

クリスさんが叫んだ瞬間、黒いブレスが私たちに向けて放たれる。

「防壁!」

私は急いで【聖属性魔法】の防壁を展開する。黒いブレスが私の作った防壁とぶつかり突風が巻き起こる。30秒ほどブレスを防ぎ続けると、ブレスが止んだ。

そしてもう一度咆哮を上げる。


「ひ、ひいぃぃ」

ビョルゴルフルさんが役に立たない。冥龍王を封印した人の息子だというのに。震えてないでなんかしてくれ。

「姉さま、ごめんなさい。もう大丈夫です。あたしも戦います!」

ルーちゃんも震えてはいるが、立ち上がって弓を手に持っている。

すると、私たちの様子をジッと見ていた冥龍王の体から黒い霧のようなものが吹き出してきた。そしてそれは徐々に形を作り、黒いスケルトンとなっていく。凄まじい数だ。ざっと 50 匹はいるのではないだろうか。人、獣、トカゲ、様々なスケルトンが私たちを見ている。

「浄化!」

私はこの空間いっぱいに浄化魔法を展開する。私の放った光はスケルトン達をまとめて浄化して消し去った。

「う、MP が……」

さすがにこの数をまとめて浄化すると MP の消費が激しい。私は久しぶりに MP 回復薬を呷る。最近は出番がなかったが、王都での修羅場を思い出す懐かしい味だ。

私のその様子を見ていた冥龍王はもう一度大量のスケルトンを作り出した。これで完全に振り出しに戻ってしまった。

「厳しい、ですね……」

そう、このまま消耗戦をしていては負けが見えている。どうにかして本体を叩かなければ!

焦る心を押し殺し、恐怖を振り払うように私は冥龍王を睨みつけた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...