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白銀のハイエルフ

第二章第34話 冥龍王ヴァルガルム(前編)

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「撤退しましょう。このままではこちらの薬が尽きた時点でやられてしまいます。世界は今フィーネ様を失うわけにはいきません」

クリスさんが撤退を提案してくる。

「それにはまず、腰を抜かしているビョルゴルフルさんをどうにかしないといけませんね」

と、自分で言ってから気付いた。状態異常なんだから回復させればいいんじゃないか。

──── 【聖属性魔法】で精神状態異常回復、怯えて腰抜かしている状態よ治れ!

私の魔法の光がおさまると、ビョルゴルフルさんはすぐに立ち直った。

「す、すまない」
「お前、早く走って里に戻って長老殿を呼んで来い!」

クリスさんがいきなり怒鳴りつけた。役立たず認定をされたのか、すでにお前呼ばわりだ。

まあ、私も役立たず認定しているけどね。でもさ、ハイエルフさん、それでいいのか?

「ひっ、ひぃ。わかりました~」

ビョルゴルフルさんが脱兎のごとく駆け出していくが、それを見た冥龍王が逃がすまいとブレスを放つ。

「防壁!」

私は射線上に防壁を置いてそれを防ぐと、MP 回復薬をもう一本あおる。そうしている間にビョルゴルフルさんは階段を登っていった。どうやら無事に逃げられたようだ。

「さあ、私たちも逃げましょう」

そう言った矢先、冥龍王は階段の方に黒いスケルトン軍団を出現させた。

「くっ、逃げ道が」

クリスさんがそう呟いた次の瞬間、再び冥龍王のブレスが飛んでくる。

「防壁!」

私は身を守るように防壁を展開する。だが、ブレスは私たちの上をかすめて背後の壁に直撃した。

「しまった! 出口が!」

破壊された壁がガラガラと崩れ落ち、出口となる階段が塞がれてしまった。

「退路を、断たれたということですね。クリスさん、あのトカゲ、倒せますか?」
「やってみましょう。スケルトンを浄化していただけますか?」
「はい」

私は再び浄化魔法を使ってスケルトンを浄化する。クリスさんは浄化の光の中に突っ込んでいく。

「ルミア! 弓で援護を!」
「任せてください!」

ルーちゃんは少し離れた場所に移動し、そこから矢を番えて冥龍王に向かって放つ。放たれた矢はまっすぐに冥龍王の体に命中するが、その鱗に跳ね返されてしまう。

「まだまだっ!」

ルーちゃんがもう一度矢を放つ。今度は冥龍王の眉間に見事に命中した。やはり鱗に跳ね返されたが冥龍王の視線はルーちゃんに向いた。

冥龍王は口を開き、ブレスをルーちゃんに向けて放つ。真っ黒なブレスがルーちゃんを襲う。

「防壁!」

ルーちゃんが矢を放っている間に MP 回復薬を飲み終えた私はルーちゃんをブレスから守る。そして、その間にクリスさんが静かに冥龍王に接近すると、首を切断するべく剣を振り下ろす。完璧なタイミングで綺麗な一撃が入った!

ガギイイイィィン

しかし、クリスさんの剣は乾いた金属音を響かせて鱗に受け止められる。

「くっ、固い」

クリスさんは剣を引くとその首を蹴り素早く後ろに飛び退る。その直後、クリスさんのいた場所に冥龍王の尻尾が激しく叩きつけられた。

危ない、間一髪だ。

冥龍王が今度はクリスさんに狙いを定めてブレスを放つがそうはさせない。私はそれを防壁で防ぐ。そうしている間にクリスさんが私の側まで戻ってきた。

「フィーネ様、やつの鱗に傷を与えることはできましたが、切り裂くことは難しそうです。急所を狙ってみますので、もう一度お願いします」

なるほど。同じ作戦で今度は急所を狙うのか。

「急所はどこなんですか?」
「目や口の中などの柔らかい部分、もしくはどこかにある逆鱗と呼ばれる鱗です。大抵は腹部にあるのですが」

そう言っている間に冥龍王がスケルトン軍団を復活させている。

「やるしかないですね。浄化!」

私は浄化魔法でスケルトン軍団を浄化する。そして先ほど同様に光の中にクリスさんが飛び込む。その間に私は MP 回復薬を呷りルーちゃんが冥龍王に矢を打ち込む。

「ひっ」

私は思わず結界を張ると同時に屈む。私を目掛けてルーちゃんの誤射フレンドリーファイアが飛んできていたのだ。矢は結界が防いでくれたが、ルーちゃんの方を気にしていなければ危なかった。

「ちょっと、ルーちゃん!」

そう抗議の声を上げながら顔を上げる。すると、私の目の前には口を大きく開いた冥龍王の姿があった。

「あ」

全てがスローモーションに見える。冥龍王の大きく開いた口、びっしりと並んだ鋭い牙、赤黒い舌とひだのついた気持ち悪い上あご、そして喉陳子とその奥に広がる真っ黒い空間。

確実な死がゆっくりと私を飲み込もうと迫ってくる。避けようと思ったが私の体もゆっくりとしか動かない。

だめだ、避けられない。

私の視界は赤黒い色に染め上げられる。冥龍王の口の中の色だ。

──── あ、終わった

そして、私の視界は真っ暗になる。私は観念して目を閉じた。

「フィーネ様!」「姉さま!」

最後にクリスさんとルーちゃんの悲鳴が聞こえたような気がした。
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