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第3章 勇者の足跡とそれぞれの門出

第39話 3章プロローグ 消えたお姫様

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 大陸の北の果て、魔族の国にて。

「貴様らは一体何をしておる!! まだあの娘は見つからんのか!?」

 至近距離の雷鳴を思わせる、ビリビリと痺れる怒声が広大な屋敷を震わせる。

 叫んだのは異形の大男。
 老いた獅子のような顔に、額には巨大な一角。三メートル近くある筋骨隆々とした巨体は人の形をしているものの、やたらと毛深い。

「も、申し訳ありません旦那様。何分エルフというのは亀か何かの子孫かと疑うほどに返事の遅い種族でして……」

 揉み手をして獅子男にへりくだっているのは、二本角の山羊の顔をした男。二足歩行ではあるが、執事のような燕尾服を着ているのでこちらは肉体が人に近いのかも分からない。

「ジェイムズ!!! 御託はいい!!! さっさとあの娘を……メアを、俺様の下へと連れて来い!!! さもなくば――」
 
 獅子男は一音一音を耳鳴りがしそうな程の大声で怒鳴り、そのままむんずと足元に両の手を伸ばす。

「「が……ぐ……」」

 苦しそうな呻き声を漏らしているのは人間の少女だ。
 十代そこそこの明らかに幼い少女たちは裸に剥かれ、分厚い鉄の首輪をつけられ、そして今、獅子男の巨大な手のひらで頭を鷲掴みにされ宙吊りにされていた。

「落ち着いてください、ゼノン様。せっかく買った奴隷がまたダメになってしまいます。ゼノン様の好む年若いの娘を見つけてくるのは大変なんですから……」

「だったらさっさとメアを連れて来い!!! あれは俺様のものだ!!! 最悪森猿の国など焼き滅ぼしても構わん!!!」

「かしこまりました、出来る限り急がせます」

 獅子男ことゼノンは更に激昂し暴れ出す。
 こうなればもう手は付けられない。
 少女たちは気の毒だが、この家に買われたのが運の尽きだ、と執事のジェイムズは内心ため息を吐き、生臭さの立ち込める部屋を後にする。

 ジェイムズが部屋を出て目がチカチカする悪趣味な装飾だらけの廊下を歩いていると、誰もいなかったはずの廊下に突然黒衣の女たちが現れる。
 そして何事もなかったかのように、自然と彼の隣を歩き出した。

「——ジェイムズ卿、お知らせしたいことが」
「あのエルフの姫さんのことか?」

 ジェイムズは急に口調を変えて、男たちと話し出す。

「はい、つい今しがた報告が入りました。どうやらもう、彼女はエルフの国にはいないようです」
「……はぁ、そいつはゼノン様が聞いたらブチ切れそうだなぁ。他の婚約者全部潰したのに婚約拒否られた時なんか街一個滅ぼしたんだぜあの人」
「お戯れを。【魔帝】ジェイムズ卿ともあろうお方が、あのようなロリコンの下衆男に敬称など――」
「いいんだよ。俺はあの爺さん尊敬してんだ。なんせもう1000歳近いってのに、未だに一晩で10発は出来るらしいぞ? 俺なんて媚薬使っても5発いかねえのに」
「次にその手の話題を口にしたら組織にセクハラで訴えますからね」

 女にピシャリと言われ、ジェイムズは山羊の見た目通りにコロコロと喉奥を鳴らす。

「ま、あの爺さんの趣味はともかく、エルフの姫さんは各国の拠点に俺の名前使って頭下げてもいいからなるはやで探してくれ。9割9分無理だろうが、百万が一にもラストダンジョン攻略の可能性は残しちゃなんねえ。……それが、俺たち《忘却の使徒》の存在意義だ」
「かしこまりました」

 指示を受けると、女たちは一瞬にしてその場から消える。
 ジェイムズは直後曲がり角ですれ違ったメイドと、いつも通り優し気な笑みを浮かべて挨拶を交わす。

 その後しばらくして、屋敷は獣のような咆哮と少女の悲鳴に包まれた。
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