異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百十三話

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 南の守護代、ガリュウ。四凶の一角、檮杬タオウ―の力を賜る、この男を一言であらわすのなら、人間臭さの塊であるという。
 南軍の兵士たちの気性の荒さから、主であるガリュウはよく激情家として見られがちだが、実際のところは至って普通、平静さを保つことのできる紳士である。

 ただ、感情の起伏は極端に激しい。笑っていたかと思えば落ち込んでいたり、怒りながら泣いていたりもする。
 とにかく彼は生まれ持って感受性が豊かであった。
 その影響からか、芸術面の造詣ぞうけいが深い。
 絵や彫刻も嗜むが、ガリュウが特に得意とするものは書道であった。
 詳しい年代は明らかされていないが、とある異世界人が持ち込んだいう異界の芸術。
 長い年月を経て、このアルテシオンにも馴染みある文化として定着したのが書道だ。

 墨で字を描くことはガリュウにとって程よいの精神統一となっていた。
 マインドフルネスほどではないにしろ、半紙を墨汁で染め上げている間だけは、雑念を捨て去ることできる。
 いわば、簡易的な断捨離だんしゃりのようなものだ。

 ガリュウのに日課は忙しい時は除けば、大抵決まっている。
 早朝、お椀一杯の粥と香の物で軽く朝食を済ませ、午前は毛筆を走らせる。
 気に入った作品ができれば、その時点で書道は終了となる。

「ふむ、今日は筆の乗りが言い様だ。待たせたな」

 四十六回、清書した後ガリュウは筆を小皿の上に置いた。
 どうやら納得のゆく出来栄えだったようだ。しきりに呻っている。

 その背を向ける障子扉がゆっくりと開かれてゆくと、赤髪の少年が部屋の中に入ってきた。
 招かねざる客の訪問にその場の空気が重くなる。
 まさか、敵対する相手方の将軍自らが、押しかけてくるなどとは前代未聞もいいところだった。
 護衛もいない、無防備な状況……。
 ここで襲われでもしたら一巻の終わりだが、ガリュウ当人は気にする素振りも見せない。
 あくまでもマイペースなまま、不法侵入してきたクドの相手をする。

「まったくだ。アンタには随分と待たされた。俺はクド、東の将軍としてココにやって来た!」

「狙いは俺の首か……。どうやって誰にも気づかれず、この部屋までにやって来たのかは知らんが、早々にお帰り願おう」

「つれないな。南の大将は戦闘狂だとばかり思っていたが、こんなにも腰抜けだったとは……よく周りもついて来れるものだ」

「くだらない挑発なんぞ、止めておけぃ! 俺には効かぬ。それよりもだ、どういう了見で我々との約束を反故にした?」

「約束? ああ、西に軍を送り出している間は、東はそちらに手出ししないという話か。残念だが、先に約束を破ったのはお前たちの方だ。軍を率いるのは大将のアンタであることが前提条件だからな」

 東の思いがけない一言に、ガリュウは耳を疑ってしまった。
 信じられないことに、連中は適当な理由付けをして約束自体を無効にしてきた。

「はっ! ふざけておるな。端から、守る気など無かったのだろう? 大方、俺が不在となっている間に満願を落とす算段だったのだろう。そうなることを踏まえて都に残ったのは正解だったわ!!」

 だだっ広い、室内にガリュウの乾いた笑いが響いた。
 南軍が何をどうやったとしても、ガイサイ率いる東軍は因縁をつけて攻め込んできた。
 薄っぺら考えが透けてみえる。
 あまりにも幼稚なやり取りに、ガリュウも穏便にはいかない。
 沸々と煮えたぎる怒りは、もはや抑えることが出来なさそうだ。

「さっさとかかって来い、小僧! お望みどおり、このタオウ―のガリュウが相手してやろう!!」

「光栄だね、それは……テイク・ア・ストレージ!」

 足袋たびをはくクドの右足が床板を踏み込むと瞬時にガリュウの懐まで飛び込んできた。
 一度の動作で、一連の動きを担う変則の体捌きに反応できる者はほとんどいない。
 いわゆる初見殺しの技だ。回避することは不可能に近い。

 クドの両手にはいつの間にか、ショーテルが握られていた。
 有無も言わさず、ガリュウの身体を鋭い曲刀が斬り裂いてゆく…………はずだった。

「ちっ、刃が通らない!? この硬さ……硬壁とは違うな」

「惜しいな、普通の人間相手なら今の一撃で再起不能になっていただろうに。とくと見よ、コレが檮杬の肉体だっぁああ!!!」

 それは、ガリュウの全身をおおう黒鉄の鎧のように見えた。全身が金属と化し、サソリのような尻尾がダランと垂れ下がっていた。
 タオウ―の外殻はガリュウの細身にフィットしシャープなカタチとなった。
 首元からエリマキ状に生えた体毛は、まるで毛皮はそのものだ。
 その上から狒々ひひ(猿の妖怪)を象った兜が被さる。
 四凶の中でも最強の防御力とスピードを誇るタオウ―がここに顕現した。
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