異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百十二話

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「はぁ? 降伏だぁ? 寝ぼけているじゃねぇー!! つーか、その化け犬はオメーの使い魔か!? まったくぅ~しつけがなってねぇなぁ~」

 スコルの真後ろを駆ける男の第一印象は、ズバリ不気味だ。
 決して、やせ細っているわけでもないのに動きが覚束ない。
 動く度に左右にカクカクと揺らぐ様は、まるで積み上げたブロックパズルのように不安定だ。
 大まかなで、無駄な動きしかしていないのに、走っている当人は呼吸一つ乱していない。
 なのに……全身、汗だくで顔には疲労感がにじみ出ている。

「言うより実演した方がいいみたいだな。つまり、こういう悲惨な目に会うということだ!」

 迎撃される寸前の状況でも男は悪態をつき愚痴ばかりを吐きだしている。
 それを余裕とみるか? 単なるアホとみるか?
 考えどころだがギデオンは後者とみなし、アサルトライフルの引き金を四回ほど引いた。
 ハーティから撃ち出された弾丸が、途中で分散し男の方へと緩い弧を描いて向かってゆく。
 弾丸が一発から六発に変化するのはハーティが持つ増殖の特性によるものである。

 4×6、計24発の同時攻撃が小刻みに震える男を狙い撃ちにした。
 直線状ではなく、分散後のまばらな軌道が多角攻撃へと発展する。
 並の身体能力では回避するのは困難極まりないそれを、男は際どいラインで避けてゆく。
 計算でも、直感力でもない。
 ただ、普通に当たらなかった……回避する素振りもなく、偶然いた位置が安置だった。

「どういう理屈だ? 本当に俺に向けて狙撃してきやがって!! 怪我でもしたら、どう責任とってくれんだよ!」

「知るか。僕は南軍の援護にきたんだ! 東の兵であるアンタがどうなろうとも興味はない!!」

「ああっ! くっしょーめ。敵なのは分かっていたさ。俺たちの目論見を阻止しにきたというわけだな…クソ、かったるいがオメーはここでストップだ。足止めさせてもらう!」

 スコルが誇らしげにくわえてきた軍旗をギデオンに差し出した。
 猟犬の習性で主に褒めてもらおうと拾得物を献上してきたのだ。
 ギデオンが頭を撫でてやるとスコルは気持ち良さそうに目を細めている。
 旗を掴むと彼は男に告げた。

「コイツを返して欲しいか? 僕の邪魔をしないというのなら返してやってもいい」

「んぁ? 取引のつもりか? いらねぇーよ、んなもん。俺がソイツを追っていたのは満願の方へと向かっていたからだ。って……言ってもわからねぇか。自己紹介がまだったな! 俺はヒューズ、ドルゲニアの第一王子に雇われた傭兵団の一員だ」

「お前がヒューズか、ガイサイが狂ったようにお前の名を叫んでいたぞ。けど一足遅かったな、奴は重傷だ。当面は軍の指揮を取ることすらできないだろう」

「くっ、んふふふふふ!! そうか……ボンの野郎が喚いていたか。まぁ、そうだよな……普通はそう思うわな」

 ヒューズの含みを持たせた一言に、ギデオンは表情を曇らせた。
 王子が戦線離脱したというのに、何の動揺も見られない。
 傭兵である彼からすれば、軍の勝ち負けなどお構いなし、無頓着だ。
 働いた分の給金が貰えれば申し分ないということだ。
 よほど王子がキライなのだろう、ヒューズはさきほどから清々と爆笑している。
 
「何が言いたいんだ?」

「それはだな。まだ、この戦いが終わらないことを示しているんだよ!!」

「あの、王子は……まさか! 影武者か!?」

「違う。アレはクズだ。ガイサイ王子でありながらも、そうではないモノ」

 王子であって、王子でないはない。
 そんな、謎かけのような説明を受けても余計に困惑するだけだ。
 現状、戦が終わる気配は微塵もない。
 ヒューズの言っていることが正しければ、ギデオンが倒した王子は別人となる。
 けれど、偽物ではく本人、その人であるという……。
 矛盾した存在にギデオンは頭を抱えるばかりだった。少しも正解が見えてこない。
 とにかく今は、クドを止めなければならない。そう思うも、ことは彼の都合には合わせてくれないらしい。

「ソイツがクドが言ってた、ギデオンとかいう奴だな!!」

 街道の東側から更に、増援部隊が現れた。
 その数、三万。
 十八万の軍勢のうちの六分の一が満願に進軍してきた。
 先頭に立ち、軍を率いるのは三大導師の一人、幽玄のカイを倒したホロダンサーのチルルであった。

「クドを追うのは無理そうだな。さすがに……この大人数を相手に立ち回るのは分が悪いか。だが、ここで止めないとコイツらは満願の都に雪崩れ込んでしまう。せめて、南軍が戦闘準備を終えるまでは時間を稼がないと……」

 状況は一変し、思いがけないカタチで孤軍奮闘することになったギデオン。
 一刻もはやくパスバインたちがガリュウに接触することを期待しならがら極天蒼炎鸞を解放した。
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