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三百十四話
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バチバチと火花を散らす闘気がガリュウの全身に帯電していた。
属性無しにしろ、高出力のプラーナが放たれている。
それまで、木材で組み込まれていた部屋の内装も、タオウ―の練功により瞬時に燃え尽き、ブロック石の下地が丸だしとなっていた。
着衣もほぼ、ズタズタに引き裂かれ、残った背の部分の布地がマントに成り代わっていた。
その風貌はまさに黒騎士そのものであった。
ガリュウは、壁に飾ってあった四尺(120センチ)ほどの刃長の薙刀を手に取ると、感触を確かめながら軽やかに柄を振り回す。
ある程度、手に馴染んでくるとクドの方に刃を向けて身構えた。
「へぇー、なるほどね。長刀術で近接戦を避けるスタイルか……だとしたら、コイツでは不利になってしまうか」
手にしたショーテルをヒラヒラと動かしながら、クドは嬉々として語る。
どこにそんな余裕があるのか? 四凶と間近で対峙しても怯む様子は一切、見受けられない。
困ったような台詞もパフォーマンスにすぎない。
そう思わせるほどの言動の不一致に、強烈な違和感を覚えてしまう。
薄気味悪さに、背筋に寒気を感じたガリュウがブルっと全身を震わせていた。
「武者震いか? そう意気込まれると、プレッシャーを感じてしまうな」
「ふん! 小僧めが。口先では何とでも言えよう。顔色一つ変えずに、この俺に接してくること自体が貴様の危険性を物語っておるわ!」
「心外だな。それでは俺が異形の怪物みたいじゃないか!?」
「それで、どれだけ奪った?」
ガリュウの一言により、クドの顔から笑みが消えた。
「奪った」というのは、無論……戦にて他者から奪い取ったものの大きさを示している。
核心をつかれて、ようやくクドの素の部分が出てきたようだ。
もっとも、それはガリュウにとっては想定を超えるカタチになった。
「お前という奴は……普通ならば、今の問いには多少なりとも罪悪感や不快感といった心の迷いが生じるはずだというのに……狂っているな」
クドが笑うのを止めたのは喜びが悦びに変わっただけのことだった。
自身が奪ってきたモノを思い返す度、快感に浸る。
目線が完全に飛んだまま、頬を紅潮させるクド。
後悔することも罪の意識さえも感じず【奪う】ことに対して純粋に愉悦するのみである。
自信の行いに酔いしれた若者の価値観。
常軌を逸した、その有り様にガリュウは嘆くようにして額に手を当てていた。
もはや、人の姿を借りた羅刹でしかない。そう思うガリュウだが……そこから更に追い打ちをかける話が飛び込んできた。
「ここに来るまで、村を三つほど焼き払ってやったよ。綺麗だったなぁ……穢れたものを浄化するほど気持ちの良い事はない。掃除と一緒だね、不要なモノを捨てて汚れを落とす。あとは綺麗サッパリ、清々しい気分でいられる」
「人はどうした!? まさか、村人まで処分したというのではあるまいなぁ!?」
「すべてだ。南区域こそ、このドルゲニアを脅かす悪意そのものだ! アンタたちは何も考えず、日々を過ごしているから自分たちが犯している罪に気づくことができないんだよ」
「黙れ! 貴様の主張なんぞ、どうでもいいわぁあああ!!!」
閃光が部屋全体を眩く照らした。
残忍な東軍の所業に、怒りが臨界点へと達したガリュウの長刀術が敵を捕捉した。
「有為転変・怒涛牙! その腐りきった頭をかち割ってくれるわ!!」
超高速移動からの薙刀での袈裟切り。動作自体は単調ではあるが単純に威力は凄まじい。
闘気を放つ刃が、視認できない速度でクドに迫ってくる。
防御体勢に入ろうとしても、怒涛牙の方が先行く速さで直撃する。
薙刀の刃先が床にめり込んだ。今の一撃が完全に届いていたと思っていたガリュウにとって、大きな誤算だった。
突如として、相手の姿が視界から消えた。
狼狽えながら、周囲を見回すがクドは影もカタチもなく消えていた。
ふと、ガリュウの脳裏に過ったのは警備の眼を無視して東軍の将軍が自室までやってきたことだ。
これほどの騒ぎになっても、家臣は誰一人として駆けつけてくる気配がない。
そのことからクドが何かしたのは間違いない。
誰にも気づかれなく城に潜入したのでなく、誰もいない状態で、普通にやって来た……そう考えたほうが自然と納得がゆく。
「だとしたら……背後か!?」
蠍の尾が独り手に反応し跳ね上がるようにして後方へと伸びた。
キィーンと甲高い金属の音色が辺りに反響した。
「ひゅー、当てずっぽうで当てるとは、とんでもないオッサンだな!」
それまで何も無かったトコロから、突然クドが姿を現した。
不可視化しているのかと疑うガリュウだが、それだけでは説明がつかない点が残る。
消えているだけなら闘気を探れば、すぐに居場所が分かる。
巧妙に闘気まで隠したとしてもだ。残り香のようにどうしても微かに漏れてしまう。
クドが姿を消した場合、闘気の感知がまったく効かない。
極端な仮説を立てたとすると……そのことが意味するのは存在の無効化である。
属性無しにしろ、高出力のプラーナが放たれている。
それまで、木材で組み込まれていた部屋の内装も、タオウ―の練功により瞬時に燃え尽き、ブロック石の下地が丸だしとなっていた。
着衣もほぼ、ズタズタに引き裂かれ、残った背の部分の布地がマントに成り代わっていた。
その風貌はまさに黒騎士そのものであった。
ガリュウは、壁に飾ってあった四尺(120センチ)ほどの刃長の薙刀を手に取ると、感触を確かめながら軽やかに柄を振り回す。
ある程度、手に馴染んでくるとクドの方に刃を向けて身構えた。
「へぇー、なるほどね。長刀術で近接戦を避けるスタイルか……だとしたら、コイツでは不利になってしまうか」
手にしたショーテルをヒラヒラと動かしながら、クドは嬉々として語る。
どこにそんな余裕があるのか? 四凶と間近で対峙しても怯む様子は一切、見受けられない。
困ったような台詞もパフォーマンスにすぎない。
そう思わせるほどの言動の不一致に、強烈な違和感を覚えてしまう。
薄気味悪さに、背筋に寒気を感じたガリュウがブルっと全身を震わせていた。
「武者震いか? そう意気込まれると、プレッシャーを感じてしまうな」
「ふん! 小僧めが。口先では何とでも言えよう。顔色一つ変えずに、この俺に接してくること自体が貴様の危険性を物語っておるわ!」
「心外だな。それでは俺が異形の怪物みたいじゃないか!?」
「それで、どれだけ奪った?」
ガリュウの一言により、クドの顔から笑みが消えた。
「奪った」というのは、無論……戦にて他者から奪い取ったものの大きさを示している。
核心をつかれて、ようやくクドの素の部分が出てきたようだ。
もっとも、それはガリュウにとっては想定を超えるカタチになった。
「お前という奴は……普通ならば、今の問いには多少なりとも罪悪感や不快感といった心の迷いが生じるはずだというのに……狂っているな」
クドが笑うのを止めたのは喜びが悦びに変わっただけのことだった。
自身が奪ってきたモノを思い返す度、快感に浸る。
目線が完全に飛んだまま、頬を紅潮させるクド。
後悔することも罪の意識さえも感じず【奪う】ことに対して純粋に愉悦するのみである。
自信の行いに酔いしれた若者の価値観。
常軌を逸した、その有り様にガリュウは嘆くようにして額に手を当てていた。
もはや、人の姿を借りた羅刹でしかない。そう思うガリュウだが……そこから更に追い打ちをかける話が飛び込んできた。
「ここに来るまで、村を三つほど焼き払ってやったよ。綺麗だったなぁ……穢れたものを浄化するほど気持ちの良い事はない。掃除と一緒だね、不要なモノを捨てて汚れを落とす。あとは綺麗サッパリ、清々しい気分でいられる」
「人はどうした!? まさか、村人まで処分したというのではあるまいなぁ!?」
「すべてだ。南区域こそ、このドルゲニアを脅かす悪意そのものだ! アンタたちは何も考えず、日々を過ごしているから自分たちが犯している罪に気づくことができないんだよ」
「黙れ! 貴様の主張なんぞ、どうでもいいわぁあああ!!!」
閃光が部屋全体を眩く照らした。
残忍な東軍の所業に、怒りが臨界点へと達したガリュウの長刀術が敵を捕捉した。
「有為転変・怒涛牙! その腐りきった頭をかち割ってくれるわ!!」
超高速移動からの薙刀での袈裟切り。動作自体は単調ではあるが単純に威力は凄まじい。
闘気を放つ刃が、視認できない速度でクドに迫ってくる。
防御体勢に入ろうとしても、怒涛牙の方が先行く速さで直撃する。
薙刀の刃先が床にめり込んだ。今の一撃が完全に届いていたと思っていたガリュウにとって、大きな誤算だった。
突如として、相手の姿が視界から消えた。
狼狽えながら、周囲を見回すがクドは影もカタチもなく消えていた。
ふと、ガリュウの脳裏に過ったのは警備の眼を無視して東軍の将軍が自室までやってきたことだ。
これほどの騒ぎになっても、家臣は誰一人として駆けつけてくる気配がない。
そのことからクドが何かしたのは間違いない。
誰にも気づかれなく城に潜入したのでなく、誰もいない状態で、普通にやって来た……そう考えたほうが自然と納得がゆく。
「だとしたら……背後か!?」
蠍の尾が独り手に反応し跳ね上がるようにして後方へと伸びた。
キィーンと甲高い金属の音色が辺りに反響した。
「ひゅー、当てずっぽうで当てるとは、とんでもないオッサンだな!」
それまで何も無かったトコロから、突然クドが姿を現した。
不可視化しているのかと疑うガリュウだが、それだけでは説明がつかない点が残る。
消えているだけなら闘気を探れば、すぐに居場所が分かる。
巧妙に闘気まで隠したとしてもだ。残り香のようにどうしても微かに漏れてしまう。
クドが姿を消した場合、闘気の感知がまったく効かない。
極端な仮説を立てたとすると……そのことが意味するのは存在の無効化である。
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