異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
314 / 362

三百十四話

しおりを挟む
 バチバチと火花を散らす闘気がガリュウの全身に帯電していた。
 属性無しにしろ、高出力のプラーナが放たれている。
 それまで、木材で組み込まれていた部屋の内装も、タオウ―の練功により瞬時に燃え尽き、ブロック石の下地が丸だしとなっていた。
 着衣もほぼ、ズタズタに引き裂かれ、残った背の部分の布地がマントに成り代わっていた。
 その風貌はまさに黒騎士そのものであった。

 ガリュウは、壁に飾ってあった四尺(120センチ)ほどの刃長の薙刀を手に取ると、感触を確かめながら軽やかに柄を振り回す。
 ある程度、手に馴染んでくるとクドの方に刃を向けて身構えた。

「へぇー、なるほどね。長刀術で近接戦を避けるスタイルか……だとしたら、コイツでは不利になってしまうか」

 手にしたショーテルをヒラヒラと動かしながら、クドは嬉々として語る。
 どこにそんな余裕があるのか? 四凶と間近で対峙しても怯む様子は一切、見受けられない。
 困ったような台詞もパフォーマンスにすぎない。
 そう思わせるほどの言動の不一致に、強烈な違和感を覚えてしまう。

 薄気味悪さに、背筋に寒気を感じたガリュウがブルっと全身を震わせていた。

「武者震いか? そう意気込まれると、プレッシャーを感じてしまうな」

「ふん! 小僧めが。口先では何とでも言えよう。顔色一つ変えずに、この俺に接してくること自体が貴様の危険性を物語っておるわ!」

「心外だな。それでは俺が異形の怪物みたいじゃないか!?」

「それで、どれだけ奪った?」

 ガリュウの一言により、クドの顔から笑みが消えた。
「奪った」というのは、無論……戦にて他者から奪い取ったものの大きさを示している。
 核心をつかれて、ようやくクドの素の部分が出てきたようだ。
 もっとも、それはガリュウにとっては想定を超えるカタチになった。

「お前という奴は……普通ならば、今の問いには多少なりとも罪悪感や不快感といった心の迷いが生じるはずだというのに……狂っているな」

 クドが笑うのを止めたのは喜びがよろこびに変わっただけのことだった。
 自身が奪ってきたモノを思い返す度、快感に浸る。
 目線が完全に飛んだまま、頬を紅潮させるクド。
 後悔することも罪の意識さえも感じず【奪う】ことに対して純粋に愉悦するのみである。

 自信の行いに酔いしれた若者の価値観。
 常軌を逸した、その有り様にガリュウは嘆くようにして額に手を当てていた。
 もはや、人の姿を借りた羅刹でしかない。そう思うガリュウだが……そこから更に追い打ちをかける話が飛び込んできた。

「ここに来るまで、村を三つほど焼き払ってやったよ。綺麗だったなぁ……穢れたものを浄化するほど気持ちの良い事はない。掃除と一緒だね、不要なモノを捨てて汚れを落とす。あとは綺麗サッパリ、清々しい気分でいられる」

「人はどうした!? まさか、村人まで処分したというのではあるまいなぁ!?」

「すべてだ。南区域こそ、このドルゲニアを脅かす悪意そのものだ! アンタたちは何も考えず、日々を過ごしているから自分たちが犯している罪に気づくことができないんだよ」

「黙れ! 貴様の主張なんぞ、どうでもいいわぁあああ!!!」

 閃光が部屋全体を眩く照らした。
 残忍な東軍の所業に、怒りが臨界点へと達したガリュウの長刀術が敵を捕捉した。

有為転変ゆういてんぺん怒涛牙どとうが! その腐りきった頭をかち割ってくれるわ!!」

 超高速移動からの薙刀での袈裟切り。動作自体は単調ではあるが単純に威力は凄まじい。
 闘気を放つ刃が、視認できない速度でクドに迫ってくる。
 防御体勢に入ろうとしても、怒涛牙の方が先行く速さで直撃する。

 薙刀の刃先が床にめり込んだ。今の一撃が完全に届いていたと思っていたガリュウにとって、大きな誤算だった。
 突如として、相手の姿が視界から消えた。
 狼狽えながら、周囲を見回すがクドは影もカタチもなく消えていた。
 ふと、ガリュウの脳裏に過ったのは警備の眼を無視して東軍の将軍が自室までやってきたことだ。
 これほどの騒ぎになっても、家臣は誰一人として駆けつけてくる気配がない。
 そのことからクドが何かしたのは間違いない。
 誰にも気づかれなく城に潜入したのでなく、誰もいない状態で、普通にやって来た……そう考えたほうが自然と納得がゆく。

「だとしたら……背後か!?」

 蠍の尾が独り手に反応し跳ね上がるようにして後方へと伸びた。
 キィーンと甲高い金属の音色が辺りに反響した。

「ひゅー、当てずっぽうで当てるとは、とんでもないオッサンだな!」

 それまで何も無かったトコロから、突然クドが姿を現した。
 不可視化しているのかと疑うガリュウだが、それだけでは説明がつかない点が残る。
 消えているだけなら闘気を探れば、すぐに居場所が分かる。
 巧妙に闘気まで隠したとしてもだ。残り香のようにどうしても微かに漏れてしまう。
 クドが姿を消した場合、闘気の感知がまったく効かない。
 極端な仮説を立てたとすると……そのことが意味するのは存在の無効化である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...