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二百八十五話
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エイルたちと合流したギデオンは、そのまま西軍の包囲網を突破し都の中心へと向かっていた。
とはいえ、全面から進めば大群と鉢合わせしてしまう。
「時間はかかるが、迂回した方がいい」
ギデオンの決断力の高さと行動速度に、後続の兵士たちもついてゆくのがやっとだった。
しかし、今の彼らの心を支えているのは間違いなく、この少年の言葉だった。
生きて帰りたいのなら、僕について来い!!
この戦場で常人なら、口が裂けても言えないことを躊躇することなく彼は言ってのけた。
だからこそ、誰一人として不満をもらさない。
継承者候補である雄と共に歩めることを誇りに思うと謳いながら、必ず生還してやろうと兵士たちは皆、意気込んでいた。
己の内に潜む、心の弱さを跳ねのけて一歩ずつ前進していゆく。
目の前には、おびただしい数のマナシ軍の戦旗が待ち受けていた。
ギデオンたちが通過したのは都中に布陣する部隊の一陣にすぎない。
当然ながら、敵である彼らがすんなりと先に通してくれるわけもない。
「敵襲―――――!! であえ! であえ!!! ネズミ一匹この先へと通すなぁ」
視界に入るなり、西軍の兵士たちが鬼気迫る形相で長槍をぶん回してくる。
そこに技能も武もない、ただただ殺意を武器と一緒にかざして暴れ狂う。
蓬莱渠の人間にとっては、故郷を荒らす侵入者たちは害獣と同一だ。
殺傷するべき存在としか見なしていない。
狂気に憑かれた者たちに言葉は通じなかった。
最初から会話ができていれば、矛を納められたかもしれない。
そんな夢物語を語ったところで、燃え広がる憤怒の大火は静まらない。
「悪いが、こちらも兵数が少ないんだ。こんな所で彼らを失うわけにはいかないんだよ。エイル、僕に合わせろ!」
『了解しました。クロオリ、ボルトロック解除……長距離砲ヴァナルガンド解放、これより02エイルの管理権限によりマニュアルモードに切り替えます』
クロオリの側面からガシャン! と音をかき鳴らし大型ライフルが外された。
エイルは、自身の身長ほどはある銃を片手でつかみ取とると、そのまま身体に密着させた。
『ギデ、準備完了しました。警告! これよりセブナリス、エイルはブリッツシークエンスに移行します。後方、三メートル以内は危険ですので、退避して下さい』
オートマタの彼女から発せられる警告は、言語でありながらも、西の兵士たちの耳にしっかりと届いた。
カノン砲、サイズの銃口を平然と西軍へと向けてくる少女は、あまりに異質である。
それを見た西の兵士たちは、自軍の脆弱さに知り、ショックを隠し切れずにいた。
目立ちすぎるエイルによって早くも一部隊の戦意がそがれていた。
「進軍の動きが鈍くなった。ここだ! 蒼炎ドレッドノート」
『ヴァナルガンド、スタンザ・オブ・スノッブ』
狙いを定めた銃身から超高速の精密連射が放たれ、蒼白い炎が空を切る。
直後、完璧なタイミングで、ライフルの銃口から放たれた光の直線が無音で伸び、先行くドレッドノートを飲み込むと敵陣を通り越し大爆発を起こした。
背後で響く爆音に、西軍の兵士たちは地面に膝をついたまま、その場から動けなくなっていた。
彼らの多くは、恐怖で足がすくみ真っ当に立ていられなかった。
「あの場で銃弾が当たらなかったのは不幸中の幸いだ」と弓兵の一人が力なく呟いた。
「あれが銃撃だと!? アイツらのあれは、殺戮兵器でしかない。見ろよ、少しでも爆撃がずれていたら今頃、大惨事になっていたぞ」
「ヒイキ様……ですが、誰も被弾しておりませぬ」
西の陣の中で弓兵を統べる若武者がいた。
ヒイキと呼ばれる青年は、その背に強弓を背負っていた。
ギデオンよりもランドルフと歳が近い彼は、しっかりとした眉の下に大人しそうな瞳を持つ、どこにでもいそうな若者だ。
実際、内向的な性格の持ち主だが将として素質は充分にあり、未だ成長途中である。
将来を有望視された弓兵の将は、ゆっくりとギデオンの軍へと単身、近寄ってくる。
ギデオンが銃を向けると、彼は両手を小さく上げながら苦笑してみせた。
「今の一撃、わざとか……君たちなら狙おうと思えば、簡単に一部隊を壊滅できるはずだ。なのに、それをしなかった? どうしてだ?」
「僕はこの都を奪い取りきたわけじゃない……ただ、友人を取り返しにきただけだ。その為にはマナシの首が必要だ。それ以外のものは求めていない」
「ずいぶんと、ぶっきらぼうに答えるね。そうか……殿の命を奪おうというわけか! もしかしたらと思い、声をかけてみたが残念だ……」
「何が言いたい?」
言葉とは裏腹に、少しも心残りではなさそうな表情をするヒイキをギデオンは睨みつけた。
この男は人心を掌握するのに長けているのだろう。時折、思わせぶりな言い方をしてくる。
この手の輩には、注意した方がいい。
そういう大人たちをたくさん見てきたギデオンに、耳障りが良いだけの言葉は響かない。
とはいえ、全面から進めば大群と鉢合わせしてしまう。
「時間はかかるが、迂回した方がいい」
ギデオンの決断力の高さと行動速度に、後続の兵士たちもついてゆくのがやっとだった。
しかし、今の彼らの心を支えているのは間違いなく、この少年の言葉だった。
生きて帰りたいのなら、僕について来い!!
この戦場で常人なら、口が裂けても言えないことを躊躇することなく彼は言ってのけた。
だからこそ、誰一人として不満をもらさない。
継承者候補である雄と共に歩めることを誇りに思うと謳いながら、必ず生還してやろうと兵士たちは皆、意気込んでいた。
己の内に潜む、心の弱さを跳ねのけて一歩ずつ前進していゆく。
目の前には、おびただしい数のマナシ軍の戦旗が待ち受けていた。
ギデオンたちが通過したのは都中に布陣する部隊の一陣にすぎない。
当然ながら、敵である彼らがすんなりと先に通してくれるわけもない。
「敵襲―――――!! であえ! であえ!!! ネズミ一匹この先へと通すなぁ」
視界に入るなり、西軍の兵士たちが鬼気迫る形相で長槍をぶん回してくる。
そこに技能も武もない、ただただ殺意を武器と一緒にかざして暴れ狂う。
蓬莱渠の人間にとっては、故郷を荒らす侵入者たちは害獣と同一だ。
殺傷するべき存在としか見なしていない。
狂気に憑かれた者たちに言葉は通じなかった。
最初から会話ができていれば、矛を納められたかもしれない。
そんな夢物語を語ったところで、燃え広がる憤怒の大火は静まらない。
「悪いが、こちらも兵数が少ないんだ。こんな所で彼らを失うわけにはいかないんだよ。エイル、僕に合わせろ!」
『了解しました。クロオリ、ボルトロック解除……長距離砲ヴァナルガンド解放、これより02エイルの管理権限によりマニュアルモードに切り替えます』
クロオリの側面からガシャン! と音をかき鳴らし大型ライフルが外された。
エイルは、自身の身長ほどはある銃を片手でつかみ取とると、そのまま身体に密着させた。
『ギデ、準備完了しました。警告! これよりセブナリス、エイルはブリッツシークエンスに移行します。後方、三メートル以内は危険ですので、退避して下さい』
オートマタの彼女から発せられる警告は、言語でありながらも、西の兵士たちの耳にしっかりと届いた。
カノン砲、サイズの銃口を平然と西軍へと向けてくる少女は、あまりに異質である。
それを見た西の兵士たちは、自軍の脆弱さに知り、ショックを隠し切れずにいた。
目立ちすぎるエイルによって早くも一部隊の戦意がそがれていた。
「進軍の動きが鈍くなった。ここだ! 蒼炎ドレッドノート」
『ヴァナルガンド、スタンザ・オブ・スノッブ』
狙いを定めた銃身から超高速の精密連射が放たれ、蒼白い炎が空を切る。
直後、完璧なタイミングで、ライフルの銃口から放たれた光の直線が無音で伸び、先行くドレッドノートを飲み込むと敵陣を通り越し大爆発を起こした。
背後で響く爆音に、西軍の兵士たちは地面に膝をついたまま、その場から動けなくなっていた。
彼らの多くは、恐怖で足がすくみ真っ当に立ていられなかった。
「あの場で銃弾が当たらなかったのは不幸中の幸いだ」と弓兵の一人が力なく呟いた。
「あれが銃撃だと!? アイツらのあれは、殺戮兵器でしかない。見ろよ、少しでも爆撃がずれていたら今頃、大惨事になっていたぞ」
「ヒイキ様……ですが、誰も被弾しておりませぬ」
西の陣の中で弓兵を統べる若武者がいた。
ヒイキと呼ばれる青年は、その背に強弓を背負っていた。
ギデオンよりもランドルフと歳が近い彼は、しっかりとした眉の下に大人しそうな瞳を持つ、どこにでもいそうな若者だ。
実際、内向的な性格の持ち主だが将として素質は充分にあり、未だ成長途中である。
将来を有望視された弓兵の将は、ゆっくりとギデオンの軍へと単身、近寄ってくる。
ギデオンが銃を向けると、彼は両手を小さく上げながら苦笑してみせた。
「今の一撃、わざとか……君たちなら狙おうと思えば、簡単に一部隊を壊滅できるはずだ。なのに、それをしなかった? どうしてだ?」
「僕はこの都を奪い取りきたわけじゃない……ただ、友人を取り返しにきただけだ。その為にはマナシの首が必要だ。それ以外のものは求めていない」
「ずいぶんと、ぶっきらぼうに答えるね。そうか……殿の命を奪おうというわけか! もしかしたらと思い、声をかけてみたが残念だ……」
「何が言いたい?」
言葉とは裏腹に、少しも心残りではなさそうな表情をするヒイキをギデオンは睨みつけた。
この男は人心を掌握するのに長けているのだろう。時折、思わせぶりな言い方をしてくる。
この手の輩には、注意した方がいい。
そういう大人たちをたくさん見てきたギデオンに、耳障りが良いだけの言葉は響かない。
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