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二百八十四話

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 侵入者であるギデオンたちを四方八方と矢じりが取り囲む。
 こちらは二人、相手はざっと見ただけで千はくだらない。

「どうやら、大通りまで誘導させられたようだな。この罠を張る為に東門をマナシ自身が防衛していた……? にしては手が込み過ぎているな」

 あまりにも大規模な布陣をまえに、ギデオンの額から汗が滴り落ちた。
 状況だけみれば、こちらの勝機など万に一つありえない。
 それでも、少年の瞳はその奥に見える御美束おみつかいただきをとらえていた。
 トクシャカ様がおわす扶桑院ふそういん、そこに彼女がいる。
 必ず、連れて帰ると誓った。
 カナッペが見せたおもいに応える為にも、こんな所で手こずってなどはいらない。

「予行演習だな……クソたれめ。西のやつらは東軍との防衛戦をシュミレートをしてんだ! さしずめ、俺たちはそのデータ集め協力させられているわけだ」

 下唇を噛みしめながら銃皇が不満気に答えた。
 彼の予想通りなのかもしれないし、別の思惑があって、マナシは防衛戦にこだわっているとも考えられる。
 いずれせよ、西は兵力も多く防御を崩すには十倍近くの兵力が必要だった。
 南軍の突破力を過大評価しすぎたガリュウの落ち度だとも言える。
 ただし、南が全軍投入しようとも西の兵力を越えることはない。

 だからこそなのだろう。その分、有能な将を集めて少数精鋭で攻め込んでいこうとガリュウが画策したのは。
 考え方自体は、決して悪いものではない。
 今回の正面突破策も一見するとムダに兵力を消耗したように思えるが、攻めることにだけ集中したからこそが開いた。
 この風穴があるのと、ないのでは戦局が大きく変わる。

「おい、グラッセ……何をニヤケてやがる? このままだと奴らの的にされちまうぞ!!」

「大丈夫だろう。一騎当千とは、まさにこのこと……一人あたり千人ぐらい撃退すればイケるはずだ」

「そりゃ、ボケかぁ!? 当たり前のように狂ったノルマを出すんじゃねぇよ。そんな芸当できるのは、さっきの戦闘鬼ぐらいだ。第一、見ろよ! この包囲網のどこに逃げ場があると思うんだ?」

 鼻息を荒げて、敵軍を指さす銃皇は終始、落ち着かない素振りを見せていた。
 目の焦点は完全に定まっておらず、その場から一歩たりとも移動しようとしない。
 妙な動きを見せたのなら、即、ハチの巣されてしまうという心理が無意識下で働いている証だ。

「王子、ビビッてんのか?」

「ああん!! 馬鹿じゃねぇの!? そんな、わけねぇだろうが―――!!」

「……声が裏返っているぞ。まぁ、心配するなよ。包囲網なんて崩せばいいだけの話だ。そうだろう? エイル!」

 主の呼びかけとともに門の左を飛び越えたクロオリが西軍の頭上に降ってきた。
 突然の奇襲に一部の弓兵たちは避難を余儀なくされた。
 エイルの後に続き、東門の内側へとロープが次々と投げ込まれてゆく。
 北と南で混成された彼女の兵士たちが蓬莱渠の中へと雪崩込んできた。

「全体、目標を撃てえぇぇ――――!!」

 焦燥感にかられた、弓兵隊の将が号令を出した。
 だが、それよりも一瞬早く門の右側方面にいた兵士たちが吹き飛んでゆき、水流によって地面に叩きつけられていた。

「スコールリフレイン!」
 身にまとう水の闘気で足場を作りながら、ランドルフが加勢にやってきた。
 時同じく、黒仮面、パスバインもスキンヘッドの敵将を担ぎながら乱入してきた。

 当然ながら、その後にも南と北の混成軍が門の内へと入り込んでくる。
 兵士たちは門の裏側から、かんぬきを抜き東門を開門した。
 蓬莱渠の正面口は完全に南軍の手に墜ちた。

 息つく暇もないほど、忙しなく変化してゆく戦況。
 いつ敵の大軍が入り込んでもおかしくはない状態。
 弓を引くのも忘れた西の兵たちは、対人戦という恐怖に支配され持ち場から逃げようとした。

 その隙を見逃すほどギデオンたちもお人よしではない。
 ギデオンは左側、銃皇は右側へと二手に別れ部隊に合流した。

 一方で西軍は軍を後退させることもままならず戦場から逃走をはかる者と、それを阻止しようとする者たちとで混乱が生じてしまっていた。
 いくら数を揃えても、上手く扱いきれないのなら無いのと一緒だ。
 都の中で軍の兵士たちが密集すれば、どうなるのか?
 当然ながら、充分なスペースは確保できず兵士たちは身動きが取れない。
 それに加え、攻め馴れていない兵士は白兵戦においても経験が浅い。
 西軍の兵士は練兵されていても、実戦において敵陣へと踏み込んでゆく機会が少なかった。
 圧倒的に武では、南に勝てない。
 ここに来て、マナシたち西軍の弱点が露見した。
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