異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
286 / 362

二百八十六話

しおりを挟む
 青年は瞳を閉じ静かに答える。

「そう、おっかない顔をしないでくれ。我々だって好き好んで、この大戦に参加したわけではない。僕も含め、ここにいる大半の者は、つい最近まで農民として生活していたんだ。いくら数が多くとも、場数をこなした熟練者ばかりの南の兵と、まともにやり合っては勝ち目がない」

「理由はいい……要点だけを話せ。それとも、何か時間を稼いでいるのか? 戦闘中、敵軍を前にして話し合いを持ち掛けてくるアンタはどうかしているぞ。そうするべき理由があるのだろう?」

 ギデオンの受け答えに、青年は顔をほころばせていた。
 敵軍から、思いっきり警戒されているのに、彼自身は喜んでいるようにも見える。
 思っていた以上に、厄介な相手だ。
 そこに勘づいた南の兵士たちは、武器を構えヒイキを追い払おうとした。

「ガリュウ軍の皆さん、ヤメテ置いた方がいいと思うよ。僕はね、弱い者イジメは好きじゃないんだ。ギデ殿だっけ? 君のことはトクシャカ様から聞いているよ。確かにこれは戦争だ……けれど、犠牲を最小に抑えたいという気持ちはお互い同じだ。そこで僕からの提案だ。この戦、君と僕との一騎打ちで勝敗を決めないか?」

 ヒイキの申し出に、南北の兵士たちが迷いの声を上げた。
 周囲にどうするべきか、答えを求めて解を導く。
 大将同士の一騎打ちなど、絶対に止めるべきだが……一刻も早く、この戦いに幕を引きたい。
 そう願う者たちが、賛同の声を上げるのに時間は、さほどかからなかった。

「あの……大将、言いにくいんだが……敵将の言うとお――――」
「ざけんな―――!! 敵を目前にして尻尾を振るつもりか!?」

 その一方で、戦わなければ、遠征にきた意味はないと主張する者たちもいる。
 穏便に済ませたいのは北軍の兵。武力衝突で問題を解消しようと望むのは南の猛者たち。
 双方の言い分が、対立し重苦しい雰囲気に包まれてゆく。

「分かった、その話に乗ろう」

 味方同士の溝を埋めるべく、真っ先に応じたのはギデオンだった。
 そうせざるを得ない空気を生みだしたのは、やはりヒイキである。
 言葉巧みに言い寄り、人の心をかき乱す。
 マナシ以上に、この男には混沌の化身という号が相応しい。

「案外、素直に応じてくれるんだね。もう少し、こじらせてくると思って他の方法も用意していたんだけど……話を聞き入れてくれて何よりだ。この十束とつかの坂では一騎打ちに適していないな。向こうに水路が見えるだろう、あそこ傍に剣璽橋けんじきょうと呼ばれる水門橋がある。決着はそこでつけよう」

『進言します、ギデ。罠の確率が80パーセントを越えました』

 不敵な笑みを浮かべるヒイキにエイルが警戒レベルを上げた。
 オートマタである彼女が、どういう基準で判断しているのか? ギデオンには分からないが、彼女がそう示すのだから疑う余地はないだろう。

「心配ない。奴が何を目論んでいようが、それを阻止するだけだ」

『いいえ、私たちも同行します。宜しいでしょうか? 敵将ヒイキ』

「オーディエンスが多ければ盛り上がるのだろうけど……僕らの方が不利では?」

『ならば、双方で護衛を数名つけるのはどうでしょう?』

 エイルの発案に、右の人差し指でコメカミをトントンと叩きながらヒイキは考え込んでいた。
 彼としては、邪魔が入らないようにしたいようだが、エイルがそれを許さない。
 西軍から短期決戦を持ち掛けた手前、苦肉の策であることには変わりない。
 彼女の言い分を却下するのは無理があった。

「君がその物騒な鋼鉄の塊を持ってこなければね。もちろん、その銃もだ」

 快諾とはいかないものの、条件をつけることでヒイキは納得した。
 クロオリ有無など、エイルとっては最初から関係ない。
 主であるギデオンの身を守れれば、それでいいと頷き話しはまとまった。

 この先には、必ず罠が仕掛けてある。
 ヒイキの後に続き、水門へと近づくにつれて、ギデオン自身の胸騒ぎも強くなってくる。
 現状は相手が不穏な動きをしないよう、目を配ることしかできない。

「この橋の中央が丁度、幅広くなっている。勝負はそこで執り行う、それでいいかい?」

 剣璽橋―――そこは御美束の山から流れる河川にある貯水池のすぐ傍にあった。
 河川下流の水路を結ぶ橋であり、水の流れを調整する水門の真上にあたる。
 この都が蓬莱の渠と呼ばれる由縁は、この都に流れる水の路を示していた。

「それでいいか? と訊くのなら、それはコチラの台詞だ。ヒイキ! 小細工などせずに、真剣勝負でのぞまないと後悔するぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処理中です...