異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百七十三話

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 ――どうして……自分だけ助かった。

 どうして、妻が撃たれた……どうして、娘が犠牲にならないといけないんだ……。

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうしてどうしてどうしてどうしてぇえ――――家族の死見が見えなかったんだ!

 酒瓶を壁に投げつけジェイクは発狂した。
 故郷を救うために個人で動いていただけなのに。
 賞賛されることも、報酬を受け取ることも、地位を得ることも、何一つ見返りなんて求めていなかったのに……。
 代償だけを支払わされた。すべて奪われてしまった……。
 これが上流世界のやり口か。

 汚い、腐っている、イカレている、醜悪、下劣、陰湿、非道、邪悪――赦さない、赦せない、赦してなるものか!?
 地獄の最果てまで追ってやる。自身が受けたこと以上の苦痛を与えてやる。
 ありとあらゆる不浄と不義をぶち壊し、世界の裏側に巣くう悪魔どもを引きずり出して、切り刻んでやる。
 その血、その肉、その魂……全部、この世界から抹消してやる。
 唯一、残るモノはそのモノたちの罪。
 未来永劫、歴史に残る犯罪者、罪の象徴として存在だけが生き続けるのだ。
 ジェイクの中で呪いが完成した。

 彼は行方を経った。
 浮浪者を装い、素性を隠しながら、わずかな伝手つてを頼った。
 絶対に悪を赦さない同じ志をもった者を探して帝国全土を渡り歩いて、一年後ようやく彼に辿り着く。
 帝国諜報機関リード、そのトップエージェントたる彼とコンタクトを取るのに成功したのだ。
 自身が持つ死見の能力をジェイクは包み隠さず打ち明けた。

 正直、これは賭けだった。
 帝国が自分の特殊な力に、どれほど興味を示すのか? 想像もつかない彼にとっては恐怖でしかない。
 かなりの決断力と勇気が求められた。
 最悪、実験動物のように扱われるかもしれないし、場合によっては虚言と見做され見殺しされる可能性だってあった。
「だから、何だ!?」そう言いながら、彼はヘラヘラと笑っていたという。
 恐怖以上に憎しみが勝っていたのだ。

 しばらくして、ジェイクは帝国保護下に入る。
 彼の能力は、上層部に認められスパイとしての活動を許可された。
 帝国としても共和国側の動向を探るための人材は必要だった。
 リード発足から、かなり経ったものの優秀な人材を揃えるのに悪戦苦闘していた。
 その上、国内でも不信な動きが見られていた。
 ブラックブロック研究機関という、いかがわしい組織がある日を境に帝国内で活動を始めた。
 巷のウワサでは、肉体強化薬の研究をしていると言う施設。
 その場所にジェイクを始めとするエージェント数名が送り込まれた。

 職員に成りすまし、彼らは内部調査に取り掛かった。
 ジェイクの能力もあり、潜入捜査は順調に行われた。
 研究所長はキンバリー・カイネンという女だ。彼女は稀代の天才として、学会では名の知れた生物学者である。
 同時に、人体実験をしているという黒い噂もたっていた。が……なかなか尻尾を出さない。

 決定的な証拠も出ず、すべてが杞憂だったのか?
 諦めかけていた頃、事態は進展を迎える。
 ブラックブロックの研究所にお忍びで来ていた男を発見したのだ。
 元、新聞記者であるジェイクには、その男が誰であるか? 一目で判断できた。
 公務でもないのに、プライベートで帝国に居る、男こそ聖王国宰相、ガルベナール・エンブリオンだ。
 どうして? 他国、宰相が……答えが出る前に彼は気づいてしまった。

 この男は外遊と称し共和国にも頻繁ひんぱんに訪れていた。
 帝国と共和国に深いつながりはない。せいぜいあるのは、聖王国と共和国の同盟ぐらいだ。
 国家間でつながらない線引きも宰相には通じている。
 これは異常事態だ。闇に隠されたモノ、すべてが一つに戻ろうとしていた。
 ジェイクは防犯用として研究所内に設置されていた、すべてのメモリージェムにあらかじめ細工をしていた。
 いつでも、自由に遠隔操作できるように改造したのだ。

 こうして、ギデオンたちが見た、あの映像は撮影された。これを機に帝国側も本腰を上げ、ガルベナールの過去を秘密裏に調べ上げるようにリードへ要請した。
 当然、ブラックブロックの研究施設は、不法な人体実験をしていたと咎められ凍結された。
 経営元である研究機関の責任者たちも次々に逮捕されたが、その中に天才、生物学者はいなかった。
 キンバリー・カイネンの国外逃亡に伴い、ジェイクは、共和国へと戻ることになる。
 さらなる調査、ガルベナールが共和国にしかけた陰謀を暴くため、実に十五年ぶりに故郷の土を踏んだ。 
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