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百七十四話
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英誕祭のメインイベント。
それは、総勢二百五十人もの演者による大パレードだ。
この祭りの肝とも呼べる、このイベントは毎年、必ず行われる。
年々では、豪華絢爛な山車と大迫力の演出が話題となり、国内外を問わずパレード目的でやってくる旅客が増加してきた。
リピーターが多く、パレードを見ずして英誕祭は語れないと言われているほど、熱き支持を得ている。
ナズィール地区の市民たちも、当然この時を一番楽しみにしている。
普段は外出することのない者でも一度、パレードが開始されれば素足で外へと飛び出してゆく。
それほどまでに、この地の人々は祭りという物を愛して止まない。
パレードが始まるとともに、人々の熱気はより一層、激しく苛烈になってきた。
英誕際のメインを飾る山車。
街の北側に位置する倉庫街から出てくると半時計周りに街中を行進してゆく。
流麗な旋律を奏でる楽隊を先頭に、楚々たる踊り子たちが魅惑のステップで大衆の眼を奪う。
その後ろからは道化師や妖精、魔女に扮した演者が大手を振って続く。
やがて、五頭の馬に牽引され山車がやってくる。
魔法石の入ったガラス玉が緑、紫、オレンジ、青、赤と次々に虹の七色を放ち、辺り一帯が奇跡の光でライトアップされてゆく。
宝石箱のような美しさに、観衆からどよめきが起こる。
この世に、これほどまでの尊き美があるのか。
これこそ、英雄の再来を告げる儀式だ。
この地から巣立った魂たちも、祭りの日ばかりは戻ってくる。
人々は想い思いに語る。
そして、このパレードが無事、開催されたことを天に感謝し、われんばかりの笑顔になる。
散り散りとなった奇跡の光が一点を射す。
その中心には、剣をかかげ挙げて雄々しき存在感を放つ英雄の像があった。
英雄、ルヴィウス。最初の十人の一人で、この地に蒸気機関をもたらした技師。
彼の事ついて、文献ではほとんど見かけない。
謎多き人物だが、顔立ちの整った長身の青年だったと謂れている。
誰よりもこの地を愛し、第二の故郷と呼んでいた。
そんな彼の暖かな想いが、今の人々の暮らしを支える基盤となっている。
本物の英雄は時代を経ても英雄である。その言葉を実現したのは紛れもなく、十人の中ではルヴィウス一人だけだ。
「始まったか……今年も大盛況のようだ」
遠方から吹きつける、風に乗って祭囃子が耳を掠める。
道わきに駐車した愛車に背をあずけ、ジェイクは酒瓶片手に空を見上げていた。
雲一つない夜空に、天上の星ユナテリオンがハッキリと映る。
手を伸ばせば掴めそうなほど、力強く輝いている。
ジェイクの計画は着々と進行していた。
キンバリー・カイネンの死は予想外ではあったが、念願のガルベナール捕獲には成功した。
家族を奪った悪魔。国中に争いを生み出し、人の死を喰いモノにしてきた諸悪の根源。
その罪は今夜、この街から公に晒されることになる。
準備に必要な人員、資材、資金などは、すべてゴールデンパラシュートの能力を活用しかき集めた。
いずれ訪れるであろう、この日のために長い長い、準備期間を経て揃えてきた。
進行役は若い彼らに託してきた。
彼は自身の役割を分かっていた、ガルベナールを裁くのは自分ではないと。
破滅のきっかけを与えるのが仕事……ガルベナールがしてきたことをやり返すだけだ。
なるべく長く、奴が苦しむように舞台装置を用意するのが己が使命なのだ。
心の中で、彼は静かに念じていた。
今日こそ悪を滅ぼす英雄が生まれる。
「ようやく、お出ましか……遅かったな」
視線を向ける、その先に少女を背負った着流しの男がいた。
ジェイクの言葉など気にもせず、歩幅を乱すことなく飄々と下駄を鳴らしながら歩いてくる。
「無視とはつれないな。私は、その娘の知り合いなんだが……」
男が小さく編み笠を揺らした。
「去れ、でなければ斬る」吐息のように掠れた声がジェイクの間近で響く。
そのまま、過ぎ去ろうとする男を止めるようにその身で進路を塞いだ。
「返してくれと言っている。貴様は公国の間者だな? ガルベナールを援護しにきた奴が、何故、任務を破棄し公国へ戻ろうとしている?」
「ほう……貴殿も同業か。簡単なことだ。ガルベナールを放置してでも、緊急性の高い問題が発生したまでのこと」
「それが、その娘か。一体、彼女は何者なんだ? 貴様がそこまで固執する理由はなんだ!?」
「笑止! それを暴くのが貴殿の仕事だろう。ワシの仕事は人斬りよ、道を開けねばその命、散らすことになるぞ」
男は帯刀したままの柄頭へと手を伸ばす。
最初で最後の警告だった……。
それでも一歩も引かずにジェイクは対峙する姿勢を崩さなかった。
そのままゴールデンパラシュートを発動させた。
それは、総勢二百五十人もの演者による大パレードだ。
この祭りの肝とも呼べる、このイベントは毎年、必ず行われる。
年々では、豪華絢爛な山車と大迫力の演出が話題となり、国内外を問わずパレード目的でやってくる旅客が増加してきた。
リピーターが多く、パレードを見ずして英誕祭は語れないと言われているほど、熱き支持を得ている。
ナズィール地区の市民たちも、当然この時を一番楽しみにしている。
普段は外出することのない者でも一度、パレードが開始されれば素足で外へと飛び出してゆく。
それほどまでに、この地の人々は祭りという物を愛して止まない。
パレードが始まるとともに、人々の熱気はより一層、激しく苛烈になってきた。
英誕際のメインを飾る山車。
街の北側に位置する倉庫街から出てくると半時計周りに街中を行進してゆく。
流麗な旋律を奏でる楽隊を先頭に、楚々たる踊り子たちが魅惑のステップで大衆の眼を奪う。
その後ろからは道化師や妖精、魔女に扮した演者が大手を振って続く。
やがて、五頭の馬に牽引され山車がやってくる。
魔法石の入ったガラス玉が緑、紫、オレンジ、青、赤と次々に虹の七色を放ち、辺り一帯が奇跡の光でライトアップされてゆく。
宝石箱のような美しさに、観衆からどよめきが起こる。
この世に、これほどまでの尊き美があるのか。
これこそ、英雄の再来を告げる儀式だ。
この地から巣立った魂たちも、祭りの日ばかりは戻ってくる。
人々は想い思いに語る。
そして、このパレードが無事、開催されたことを天に感謝し、われんばかりの笑顔になる。
散り散りとなった奇跡の光が一点を射す。
その中心には、剣をかかげ挙げて雄々しき存在感を放つ英雄の像があった。
英雄、ルヴィウス。最初の十人の一人で、この地に蒸気機関をもたらした技師。
彼の事ついて、文献ではほとんど見かけない。
謎多き人物だが、顔立ちの整った長身の青年だったと謂れている。
誰よりもこの地を愛し、第二の故郷と呼んでいた。
そんな彼の暖かな想いが、今の人々の暮らしを支える基盤となっている。
本物の英雄は時代を経ても英雄である。その言葉を実現したのは紛れもなく、十人の中ではルヴィウス一人だけだ。
「始まったか……今年も大盛況のようだ」
遠方から吹きつける、風に乗って祭囃子が耳を掠める。
道わきに駐車した愛車に背をあずけ、ジェイクは酒瓶片手に空を見上げていた。
雲一つない夜空に、天上の星ユナテリオンがハッキリと映る。
手を伸ばせば掴めそうなほど、力強く輝いている。
ジェイクの計画は着々と進行していた。
キンバリー・カイネンの死は予想外ではあったが、念願のガルベナール捕獲には成功した。
家族を奪った悪魔。国中に争いを生み出し、人の死を喰いモノにしてきた諸悪の根源。
その罪は今夜、この街から公に晒されることになる。
準備に必要な人員、資材、資金などは、すべてゴールデンパラシュートの能力を活用しかき集めた。
いずれ訪れるであろう、この日のために長い長い、準備期間を経て揃えてきた。
進行役は若い彼らに託してきた。
彼は自身の役割を分かっていた、ガルベナールを裁くのは自分ではないと。
破滅のきっかけを与えるのが仕事……ガルベナールがしてきたことをやり返すだけだ。
なるべく長く、奴が苦しむように舞台装置を用意するのが己が使命なのだ。
心の中で、彼は静かに念じていた。
今日こそ悪を滅ぼす英雄が生まれる。
「ようやく、お出ましか……遅かったな」
視線を向ける、その先に少女を背負った着流しの男がいた。
ジェイクの言葉など気にもせず、歩幅を乱すことなく飄々と下駄を鳴らしながら歩いてくる。
「無視とはつれないな。私は、その娘の知り合いなんだが……」
男が小さく編み笠を揺らした。
「去れ、でなければ斬る」吐息のように掠れた声がジェイクの間近で響く。
そのまま、過ぎ去ろうとする男を止めるようにその身で進路を塞いだ。
「返してくれと言っている。貴様は公国の間者だな? ガルベナールを援護しにきた奴が、何故、任務を破棄し公国へ戻ろうとしている?」
「ほう……貴殿も同業か。簡単なことだ。ガルベナールを放置してでも、緊急性の高い問題が発生したまでのこと」
「それが、その娘か。一体、彼女は何者なんだ? 貴様がそこまで固執する理由はなんだ!?」
「笑止! それを暴くのが貴殿の仕事だろう。ワシの仕事は人斬りよ、道を開けねばその命、散らすことになるぞ」
男は帯刀したままの柄頭へと手を伸ばす。
最初で最後の警告だった……。
それでも一歩も引かずにジェイクは対峙する姿勢を崩さなかった。
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