異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百五十六話

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 魔導力発電所、プロミネンス・ワン。
 まだ、本格的に稼動していない次世代エネルギー施設の前に、複数の人影があった。

「プロタリコル君、本当かね? 本当の本当に、キンバリーしぇんしぇーの遺体が回収されたと?」

「大変、遺憾いかんながら、先ほどゴーダ学長から通達がありました。なにぶん、事件自体が世間に公表されていないので、状況を確認しようにも情報収集が困難です」

「まったく君という奴は……肝心なところで要領が悪い。日頃、お母さんへの感謝が足りていないから、こういうことになるんだ!」

 魔導炉、直通の正面ゲートの手前で生徒会の一同が大騒ぎしていた。
 その原因は会長であるバミューダにある。
 彼は、ここぞとばかりに愚痴をついて、他の役員に当たり散らしていた。
 すでに、書記のプロタリコルとセクティーの顔がウンザリしたモノに変わっている。

 この会長は一度スイッチが入ったら、話しが恐ろしく長い。
 ミサイルが飛んでこようが、肥溜に落ちようがバミューダは話をやめない。

 プロタリコルが、生徒会の活動そっちのけで、通信機を使い株価の変動をチェックしているのは知っている。
 自分大好きセクティーが、最初から話を聞かずに魔導具チェキで、自前のフォトを撮っていても気にしない。
 彼らは自分ではない。どうなっても関係はない。
 それぞれ求める欲求が、異なる以上、相手の想いなど二の次だ。
 自身の心を満たせるのは、本人しかない。
 己が言葉に陶酔するべく、バミューダは、いつまでも喋り続ける。

「会長、他者の迷惑も考えず、迷惑をかける人は迷惑者なんですよ~」

「でた! セクティー君の無限地獄ネバーエンディングストーリー。私で、なければ耐えられないね」

 セクティーの相手をしながら、だらしない顔を浮かべる生徒会長。
 プロタリコルは、眼鏡の奥の瞳を怒りでにじませていた。
「この非常時に、会長がこんな様では……」そう言いかけたがグッと堪える。

「そんなことよりも、会長。遺体を確認しないと……学校側の人間が、ここを探り当てるなんて、自分には信じられません」
 自分の気持ちを押し殺し再度、生徒会書記として進言する。

「そんなことをぉ!! 生徒会副会長になるかもしれない逸材だぞ、彼女は!」

「キャハッ! 会長、鼻の下伸びてますぅ。副会長なんてやったら、会長の卑猥な顔を見なくちゃいけない時間が増えるじゃないですか!? つまり、嫌です」

 ちっとも話にならない。
 堅物の彼は、拳を握りしめながら独り飛び出していた。
 会長が現実逃避し、現状を把握しようともしない。
 なら、せめて自分が確認するまで。
 そう決意したプロタリコルはゲート通過し敷地内へ入ってゆく。

「おほっ、ほほん! 待ちなさい、プロタリコル君」

 部下の暴走にやむを得ず、バミューダもドスドスと身体を揺らしながら追走する。

 結果…………セクティーだけが、その場に取り残されるカタチとなった。

 *
 
「…………わざわざ、自分たちからバラけてくれるとは助かったぞ」

「誰? 私のファンなの? やっだぁ~! サインは遠慮、願えます」

「もう、僕たちの顔を忘れたのか!? 生徒会」

 夕闇に紛れ、男女五人の生徒が、彼女の方へと向かってきた。
 その中心にいる彼の顔を見て、セクティーは半笑いした。

「留置所で大暴れしていた人ねぇ……先刻はどうも。こんな所で会うのは奇遇よね、自首でもしにきたの?」

「まだ、気づかないのか……? お前たちこそ、自首したらどうだ。すでに、こちらの罠にかかり遺体を隠した場所まで明かしてしまったんだ。もう、言い逃れはできないぞ!」

「何を言っているのか、ワカラナァ――ィ。私たち生徒会を騙してまで、犯人に仕立てようなんてスマートじゃないわ」

「犯人でなければ、騙されたもクソもないだろう」

「あっ……」
 ギデオンたちの方を見ながら、セクティーは両手で頭を抱えていた。
 今の失言は、自白とも受け取れることに気づいたからだ。

「もし、犯行に関わっていないのであれば、という言葉は不適切ですな。せいぜいぐらいの言い方になるだろうに」

「うるさい! アンタだって脱走犯、罪人でしょ!?」

「否! 留置所に入ったていどで罪人にはならんぞ。あの段階で我は容疑者扱いだったのでな。生徒会よ、他者に濡れ衣を着せた覚悟はできておるのか? 相応の罰は受けてもらおう」

 鬼気迫るブロッサムの面持ちに、もう一人の生徒会書記は自然と後退していた。
 五対一の完全に不利な流れ。普通なら誰しも、降参か逃走を選択する。

 だが、彼女は元から正常な判断をくだせる人間ではなかった。
 セクティーは、腰のポーチに手を伸ばしハンドマイクを取り出した。
 同時に、首元に下げていたヘッドホンを耳に装着する。

「エブリイバディ! イェ~イ!! だいぶ、ホットになってきねぇ~。この、ヒリついた空気良いねぇー!! 最高だよ!!!」

 プロミネンス・ワンの前で、マイクパフォーマンスが始まった。
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