異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
157 / 362

百五十七話

しおりを挟む
 マイク越しのセクティーの声が高らかに天をく。
 響き渡る彼女の美声に、ブロサッムの顔に緊張が走る。

「ギデ殿! 不味いですぞ。今の声で、バミューダたちに気づかれたやもしれませんぞ」

「遺体を隠されては厄介だ。あのマイク女には、早々に退場してもらうぞ」

「誰が、マイク女ですってぇ~!! 私は才色兼備な生徒会書記、セクティーよん!」

「……自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

「わぉ~っ、ひっどぉ~い。セクティービィィィ―――ム!」

 ギデオンの一言がよほど、かんにさわったようだ。
 不意打ち上等の怪光線が、セクティーのマイクから照射された。
 飛び交う光線も苦とせずギデオンたちはビームを無難に避ける。
 不運にも、その後ろにいたオッドに向かって、セクティービームが迫ってくる。

「うおっ、あぶねぇっ! 何、いきなり撃ってんだ!?」

 足下の近くにビームが着弾し、オッドは慌てふためいた。
 見ると焦げついた地面から、煙がたち込めている。
 得体の知れないセクティーの能力は、呼び名に反し信じられないほどの狂暴さがある。
 背負っていたハルバードをつかんで、オッドは警戒態勢をとった。

「ここは、俺に任せてギデ、お前たちは先に進め!」
 勇んでセクティーの方へと進むオッド。
 途端、籠手こてがずしりと重くなった。
 振り向くと、その手をバージェニルが引いている。

「勝算はあるの? 彼女、かなりの使い手よ。甘く見たら火傷程度では済まないわよ」
 不安気に問う彼女に、オッドは笑い飛ばしながら答えた。

「自慢じゃないが、俺はそれなりに弱い! 大したスキルもねぇ。だから、序盤で活躍しなければ出番が回ってこねぇんだよ」

「本当……自慢にならないわね」

 はっちゃけるオッドに、微笑する令嬢。
 分かっていないようで、実は、それなりにしっかりと戦局を分析できている。
 彼になら、ここを任せても良いと判断したようだ。
 バージェニルも、それ以上は何も言わなかった。

「オッド。ここは僕たちにとって唯一の退路だ。ここで、負けることはできないぞ」

「分かっているって……これは?」

 ギデオンから受け取ったカバンからウネが顔を出していた。
 どうやら、すっかりなつかれてしまったようだ。
 オッドを見るなりウネは、彼の背におぶさった。
 自身が落ちないよう、緑の髪を植物のように伸ばしてオッドの身体に巻き付ける。

 アルラウネの分身体は蜜酒を与え続けてきた影響か、先代より人に近しい姿をとっていた。
 その身体は植物と肉体、双方の特性を併せ持つ。
 ウネは、魔物というよりも魔人に進化した存在だともいえる。

 オッドが彼女と協力して、挑めば充分な戦力となる。
 ギデオンは、彼の才を信用し、ゲートの先へと走り抜けた。

「ストォォォッ――――プ!!」
 行く手を阻むかのようにセクティーが叫んだ。

 次の瞬間、走り出そうする身体が制止したように動かくなっていた。
 ギデオンだけではない。
 同伴しているクォリス、バージェニル、オッドまでもが身動きが取れなくなってしまった。
 その中で、唯一ブロッサムだけは声の影響を逃れ、ゲートをくぐった。

「これは皆、どうしたことか?」

「僕たちにはかまわず、先に行けブロッサム! 何としてもバミューダを取り押さえるんだ」

「……承知しましたぞ!」

「何で? 何で? 何で? 私のボイスが届かないなんて、冗談じゃないわよ」
 走り去ってゆくブロッサムを目の当たりにし、セクティーが狼狽えていた。
 意地になって追いかけようとするも、今度は彼女のほうが上手く足を動かせず転倒していた。

「もぉぉおう! 何なのよ!? せっかくのマイクパフォーマンスが台無しじゃないのよ。私のセクティーボイスが効かないなんてありえないし!」

 セクティーは足首に絡みついた雑草を取り払う。
 地面に生えていたものが、急劇な成長を遂げ、妨害してきた。
 あり得ないの連続に、彼女の表情筋が痙攣をおこしていた。

「取り敢えず、アンタたち全員、今から私の奴――――」

 言葉を封じるように銃口が吼えた。
 魔力弾が自慢のロングヘア―をかすめ、髪の一部が宙に舞う。
 被弾したら痛いでは済まされない攻撃だ。
 生徒会書記はそう察知し顔面を青ざめさせていた。

「ふん、さっさと行きなさいな。私は、海のように心が広い女だから、一人や二人、見逃して差し上げますぅ~」

 こともあろうか、自分可愛さにセクティーは日和見ひよりみしだした。
 そもそも、自分は門番でも何でもなく、たまたま敵対する彼らと遭遇しただけ……。
 そう主張しながら、ギデオンたちを素通りさせてしまった。

「あら、どうして一人だけ残っているのかしら?」

「アンタ……えげつないな。気持ちは分からなくもねぇけど、自身が助かるためだけに、仲間を見捨てるのはどうかと思うぜ」

「仲間? 私たちは生徒会役員よ。優秀な人材同志で、手を取り合い行動をともにしているだけの協力関係。そこに仲間意識なんてないわよ」

 軽薄な告白に、オッドは深い溜息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...