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百五十五話
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「笛? そうだ……ギデ君、これ」
ガルベナールの映像を見て、手にした楽器ケースをクォリスは持ち上げた。
その場でケースを開くと中には、二匹の龍が絡み合うフルートがおさめてあった。
「クォリス、これを何処で入手したんだ?」
「街中をうろついていた、悪魔が持っていたの……悪魔は私とシルクエッタ教官で退治したけど」
さも当然のごとく、クォリスは発言する。
悪魔という響きに、周囲が無反応でいるわけもなく動揺が走った。
「悪魔だって? 見間違えじゃないのか?」
冗談としか受け取らない、オッド。
「おとぎ話の世界じゃないんだから、悪魔のフリをした人かもしれないわよ!」
まったく受け入れられていない、バージェニル。
「我は信じますぞ。クォリス殿には、鋭い洞察力ありますゆえ」
彼女の力の片鱗に気づき始めている、ブロッサム。
三者三様、互いに食い違った意見が飛び交う中、ギデオンは笛を手に取り思い返していた。
龍番の笛。その特徴はキンバリー・カイネンが探し求めていたモノと一致する。
また、シルクエッタが以前、戦地で聴いたと言っていた笛の音はコレかもしれない。
加えて、それらを結びつけるようなガルベナールの証言。
笛の音を用いて、悪の種を植え付けた人間を意のまま操る。
それ自体が危険きわまりない思想であるも、ここにて急浮上してきた悪魔の存在。
どうして宰相が所持していた魔道具をキンバリーが探していたのか?
なぜ、悪魔と呼ばれる存在の手に笛が渡っていたのか?
いまだに、不透明な部分が多い。
それでも、この笛が自分たちの手元に入ってきたのは、不幸中の幸いだ。
何処かに隠しておけば、少なくとも誰かに悪用されることなく済む。
「ジェイク、悪いがこの笛をどこか人目につかないところに隠しておいてくれないか?」
「特段、構わないが……破壊した方が早いんじゃないか?」
「それは駄目だ。この笛自体に凄まじい呪いが込められている。破壊した途端、人々に害をもたらすぞ。場合によって、共和国全土に拡がるかもしれない……確実なのは、封印……封じることが正解だ」
呪いの恐ろしさは、他の誰でもなくギデオン自身が一番よく知っている。
天啓の儀により、偶然に得た神級のスキル瞬間密造。
神々の祝福でありながらも、超絶的な力を秘めていたため、人類にとって破滅の刃になってしまった。
強大な力は代価がともなう。扱う際には細心の注意が必要だ。
笛が、いつ、誰の手によって製作されたのかは謎のままではあるが、触れただけで脈動を感じた。
怨念というよりは、もっと複雑怪奇な情念の集合体……演奏者の想いが蓄積した生き物のようでもあった。
「……ギデ君、どうやら生徒会の連中が戻ってきたぞ」
ケサランパサランの目を通じて、ジェイクが敵の動向を察知した。
狙い通り、彼らは役員一同揃って、このタイミングで留置所から戻ってきた。
「どこに向かっているのか、分かるか?」
「学園にも、歓楽街にも向かっている感じではない。おそらく、君が仕掛けておいた網に、まんまとかかったようだ。北西方向に進んでいる」
「北西? この街の北西には何があるんだ?」
その問いに、シゼルが会議室の壁際に貼り付けてあった地図を指さす。
プロミネンス・ワンと表記されている場所。
生徒会役員たちが目指している場所はそこではないかと、シゼルは予見した。
「プロミネンス・ワンは、もうすぐ完成する大型魔導炉だよ~。この施設は、鉱石から抽出した魔力を電力に変換するために建造された発電所だね」
シゼルの丁寧な説明に一同は押し固まっていた。
プロミネンス・ワンが産業の歴史を塗り替えるほどの飛躍的な施設なのは、何となくニュアンスで伝わってくる。
ただ、あまりにも革新的すぎて常人では想像が追いつかない……。
とにかく、この大掛かりな施設に、一介の学生であるバミューダたちが入り浸っている。
そのことだけでも、信じられないことだった。
彼らの背後にスポンサーでもいなければ、それこそ成り立たない話だ。
「一体誰が? くっ、プロミネンス・ワンの出資者名簿とかないのか! 遺体を奪ったのはおそらく、その中の人物だ」
「気持ちばかり早っても仕方ないわよ、ギデ。敵が、わざわざ自身の痕跡を残すとは考えにくいし、名簿を見ただけで正体まで突き止めるのは難しいわ」
「分かっているさ、バージェニル。今は一歩ずつ、着実に進んでいかないと……ブロッサム、僕たちもプロミネンス・ワンにむかうぞ! そこで、生徒会を追い詰める」
歯がゆい感情に蓋をし決戦に赴くギデオン。
最初は独りで何もかも抱えて戦っていた彼だが、様々な出会いや紆余曲折を経て一回り大きく成長していた。
誰かと関わりを持つことを避けていたのに、いつしか周りには仲間と呼べる者たちが集まっていた。
彼らの影響を受けてか、ギデオンも自然と仲間たちを頼るようになってきた。
「まさか、俺たちに留守番してろとか言うんじゃないだろうな?」
「一緒に来てくれるのか?」
自身の前に並んだ三人に、ギデオンは手を伸ばした。
ガルベナールの映像を見て、手にした楽器ケースをクォリスは持ち上げた。
その場でケースを開くと中には、二匹の龍が絡み合うフルートがおさめてあった。
「クォリス、これを何処で入手したんだ?」
「街中をうろついていた、悪魔が持っていたの……悪魔は私とシルクエッタ教官で退治したけど」
さも当然のごとく、クォリスは発言する。
悪魔という響きに、周囲が無反応でいるわけもなく動揺が走った。
「悪魔だって? 見間違えじゃないのか?」
冗談としか受け取らない、オッド。
「おとぎ話の世界じゃないんだから、悪魔のフリをした人かもしれないわよ!」
まったく受け入れられていない、バージェニル。
「我は信じますぞ。クォリス殿には、鋭い洞察力ありますゆえ」
彼女の力の片鱗に気づき始めている、ブロッサム。
三者三様、互いに食い違った意見が飛び交う中、ギデオンは笛を手に取り思い返していた。
龍番の笛。その特徴はキンバリー・カイネンが探し求めていたモノと一致する。
また、シルクエッタが以前、戦地で聴いたと言っていた笛の音はコレかもしれない。
加えて、それらを結びつけるようなガルベナールの証言。
笛の音を用いて、悪の種を植え付けた人間を意のまま操る。
それ自体が危険きわまりない思想であるも、ここにて急浮上してきた悪魔の存在。
どうして宰相が所持していた魔道具をキンバリーが探していたのか?
なぜ、悪魔と呼ばれる存在の手に笛が渡っていたのか?
いまだに、不透明な部分が多い。
それでも、この笛が自分たちの手元に入ってきたのは、不幸中の幸いだ。
何処かに隠しておけば、少なくとも誰かに悪用されることなく済む。
「ジェイク、悪いがこの笛をどこか人目につかないところに隠しておいてくれないか?」
「特段、構わないが……破壊した方が早いんじゃないか?」
「それは駄目だ。この笛自体に凄まじい呪いが込められている。破壊した途端、人々に害をもたらすぞ。場合によって、共和国全土に拡がるかもしれない……確実なのは、封印……封じることが正解だ」
呪いの恐ろしさは、他の誰でもなくギデオン自身が一番よく知っている。
天啓の儀により、偶然に得た神級のスキル瞬間密造。
神々の祝福でありながらも、超絶的な力を秘めていたため、人類にとって破滅の刃になってしまった。
強大な力は代価がともなう。扱う際には細心の注意が必要だ。
笛が、いつ、誰の手によって製作されたのかは謎のままではあるが、触れただけで脈動を感じた。
怨念というよりは、もっと複雑怪奇な情念の集合体……演奏者の想いが蓄積した生き物のようでもあった。
「……ギデ君、どうやら生徒会の連中が戻ってきたぞ」
ケサランパサランの目を通じて、ジェイクが敵の動向を察知した。
狙い通り、彼らは役員一同揃って、このタイミングで留置所から戻ってきた。
「どこに向かっているのか、分かるか?」
「学園にも、歓楽街にも向かっている感じではない。おそらく、君が仕掛けておいた網に、まんまとかかったようだ。北西方向に進んでいる」
「北西? この街の北西には何があるんだ?」
その問いに、シゼルが会議室の壁際に貼り付けてあった地図を指さす。
プロミネンス・ワンと表記されている場所。
生徒会役員たちが目指している場所はそこではないかと、シゼルは予見した。
「プロミネンス・ワンは、もうすぐ完成する大型魔導炉だよ~。この施設は、鉱石から抽出した魔力を電力に変換するために建造された発電所だね」
シゼルの丁寧な説明に一同は押し固まっていた。
プロミネンス・ワンが産業の歴史を塗り替えるほどの飛躍的な施設なのは、何となくニュアンスで伝わってくる。
ただ、あまりにも革新的すぎて常人では想像が追いつかない……。
とにかく、この大掛かりな施設に、一介の学生であるバミューダたちが入り浸っている。
そのことだけでも、信じられないことだった。
彼らの背後にスポンサーでもいなければ、それこそ成り立たない話だ。
「一体誰が? くっ、プロミネンス・ワンの出資者名簿とかないのか! 遺体を奪ったのはおそらく、その中の人物だ」
「気持ちばかり早っても仕方ないわよ、ギデ。敵が、わざわざ自身の痕跡を残すとは考えにくいし、名簿を見ただけで正体まで突き止めるのは難しいわ」
「分かっているさ、バージェニル。今は一歩ずつ、着実に進んでいかないと……ブロッサム、僕たちもプロミネンス・ワンにむかうぞ! そこで、生徒会を追い詰める」
歯がゆい感情に蓋をし決戦に赴くギデオン。
最初は独りで何もかも抱えて戦っていた彼だが、様々な出会いや紆余曲折を経て一回り大きく成長していた。
誰かと関わりを持つことを避けていたのに、いつしか周りには仲間と呼べる者たちが集まっていた。
彼らの影響を受けてか、ギデオンも自然と仲間たちを頼るようになってきた。
「まさか、俺たちに留守番してろとか言うんじゃないだろうな?」
「一緒に来てくれるのか?」
自身の前に並んだ三人に、ギデオンは手を伸ばした。
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