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百二十七話
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万年筆を手にしたギデオン。その様子に暴君の額から血管が浮き上がる。
「ペンは拳よりも強しってか……冗談にしては笑えねぇーぞ、そんな小物で何がしてぇんだ!?」
「試してみればいいだろう。自慢の拳が僕に届くことはもうない!」
「言ったな! だったら証明してみろや!!」
ファルゴの気迫が再度、空気を震わせる。
今度は魔力の流れではない。
ギデオンですら感じたことのない異質な気配が辺りを侵食してゆく。
触れれば、たちまち弾かれてしまう見えざる壁は、すぐそこまで迫って来ていた。
「ボサッとしてんなぁ――――!!」
怒号とともに、オベリスク状の水晶が宙を舞った。
信じられないことにファルゴは、怪力だけで石英の塊を持ち上げギデオンの頭上へ投げ飛ばしてきた。
「クォーツバイオレーション!」落下してくる方尖塔に、加速の一押しが浴びせられた。
蹴りにより、ただの柱でさえも恐怖と破壊をもたらす凶悪な武器にかわってゆく。
宙で水晶が砕け散った!
突然のアクシデントに、冷静になる余裕すらない。
頭上から真っ先に降り注いでくる石英の矢に撃たれまいとその場を離れようとする。
辺り一面、ビッシリと突き刺さる水晶の刃は、まるで魚のウロコだった。
天然のクラスター弾は広範囲に渡り、地上へと降り注いできた。
逃げ場など、ほぼなかった。
あるとすれば、ジェイクが滑りこんだトーチカという防御陣地ぐらい―――もしくは、ファルゴの頭上のみ。
水晶とともに下降してゆくファルゴ、その最中、不意に背後から声がした。
慌てて振り返ると、真っ赤に輝くユナテリオンを背に、少女を抱きかかえた少年の姿があった。
「小僧、どうやって俺の背後にまわっあ――――!! 何だ、この匂い酒か!?」
「パーミッショントランスだったな? ダメ元でも試してみるもんだな」
「テメェ―、数回見ただけで、真似たと言うのかよ……ざけやがって!!」
握りしめた万年筆を振りかざしたギデオン。
すぐさま、全体重をのせた飛び膝蹴りが、ファルゴの顔面にクリーンヒットした。
「ガフッ! どうしたことだ? 身体の自由が利かない」
「無駄だ、お前は万年筆に仕込んでおいたミードをすべて吸い込んだ。しかも、三口分だ。いかに強靭な肉体を持ってしても猛毒には耐えられまい。じきに神経毒が全身を蝕み、お前は絶命する」
「はっ! 謀った…………とでも、言うのか」
大地に、暴君の巨体がドスンと音を立てて落ちた。
横たわる様は、ただ寝転んでいるようにも見えるが、その瞳は着実に光を失いかけていた。
「―――そが。コイツはマズィ―ぞ…………発動しろ! ウィナーズカァァァース!!!」
「ウッ! ウウックッ……苦しい、息が……あっあ―――――!!」
「カナッペ? どうしたんだ!? この症状は、まさか! ファルゴォォォォ!! 貴様、彼女に何をしたんだぁあぁぁ―――!!」
ウィナーズカース、その号令とともにカナッペの肉体が、反り返るように動いた。
次の瞬間、身体は発熱し彼女は苦しみ始めた。
ギデオンには分かっていた。
彼女を襲った、苦痛の原因は蜜酒によるものだと……。
感情を昂らせ、怒りの頂点に達するギデオンの前に、起き上がったファルゴが不敵に嗤う。
「女を連れてくる際に言ったはずだ。保険だと! 自身が受けた、負傷、不調を他者に肩代わりさせるのが、ウィナーズカースの力の一端だ。今、その女は俺が受ける負担を半分、背負っている状態だ」
「保険だと! 彼女は無関係だ。普通の勇士学校の生徒なんだぞ! よくも、平然としていられるな」
「知ったことかよ。それにソイツはテメェの知り合いなんだろう? おかげで助かったぜ! 酒が半分抜けたら、すこぶる気分が良い! これが絶好調ってもんだ!!!」
ギデオンにとっては最悪の事態になった。
ミードの効果が半減したせいで、ファルゴの潜在能力は覚醒状態になっていた。
魔法による炎傷効果も、カナッペに分担させたのだろう。
この暴力の徒は今、実力以上のパフォーマンスを発揮できる状態だ。
「この俺に、ウィナーズカースまで使わせるとはな。いいぜ! 小僧、お前には特別に見舞ってやろう……俺が誇る史上最強の一撃を!! その女を守りたければ、死ぬ気で防いでみせろや。コォォオオ、オオハアアアア――――!!」
ファルゴの両腕が、ハッキリとした光を帯びた。
それまで不明瞭だった違和感、壁の正体があらわになる。
練功――――そう呼ばれている生命エネルギー操作術。
その技能を体得しているファルゴは、強化効果により屈強な肉体と超人的な身体能力を得ていた。
「さあ、乗り越えてみせろ、ヴァリトラァ!!」
「ペンは拳よりも強しってか……冗談にしては笑えねぇーぞ、そんな小物で何がしてぇんだ!?」
「試してみればいいだろう。自慢の拳が僕に届くことはもうない!」
「言ったな! だったら証明してみろや!!」
ファルゴの気迫が再度、空気を震わせる。
今度は魔力の流れではない。
ギデオンですら感じたことのない異質な気配が辺りを侵食してゆく。
触れれば、たちまち弾かれてしまう見えざる壁は、すぐそこまで迫って来ていた。
「ボサッとしてんなぁ――――!!」
怒号とともに、オベリスク状の水晶が宙を舞った。
信じられないことにファルゴは、怪力だけで石英の塊を持ち上げギデオンの頭上へ投げ飛ばしてきた。
「クォーツバイオレーション!」落下してくる方尖塔に、加速の一押しが浴びせられた。
蹴りにより、ただの柱でさえも恐怖と破壊をもたらす凶悪な武器にかわってゆく。
宙で水晶が砕け散った!
突然のアクシデントに、冷静になる余裕すらない。
頭上から真っ先に降り注いでくる石英の矢に撃たれまいとその場を離れようとする。
辺り一面、ビッシリと突き刺さる水晶の刃は、まるで魚のウロコだった。
天然のクラスター弾は広範囲に渡り、地上へと降り注いできた。
逃げ場など、ほぼなかった。
あるとすれば、ジェイクが滑りこんだトーチカという防御陣地ぐらい―――もしくは、ファルゴの頭上のみ。
水晶とともに下降してゆくファルゴ、その最中、不意に背後から声がした。
慌てて振り返ると、真っ赤に輝くユナテリオンを背に、少女を抱きかかえた少年の姿があった。
「小僧、どうやって俺の背後にまわっあ――――!! 何だ、この匂い酒か!?」
「パーミッショントランスだったな? ダメ元でも試してみるもんだな」
「テメェ―、数回見ただけで、真似たと言うのかよ……ざけやがって!!」
握りしめた万年筆を振りかざしたギデオン。
すぐさま、全体重をのせた飛び膝蹴りが、ファルゴの顔面にクリーンヒットした。
「ガフッ! どうしたことだ? 身体の自由が利かない」
「無駄だ、お前は万年筆に仕込んでおいたミードをすべて吸い込んだ。しかも、三口分だ。いかに強靭な肉体を持ってしても猛毒には耐えられまい。じきに神経毒が全身を蝕み、お前は絶命する」
「はっ! 謀った…………とでも、言うのか」
大地に、暴君の巨体がドスンと音を立てて落ちた。
横たわる様は、ただ寝転んでいるようにも見えるが、その瞳は着実に光を失いかけていた。
「―――そが。コイツはマズィ―ぞ…………発動しろ! ウィナーズカァァァース!!!」
「ウッ! ウウックッ……苦しい、息が……あっあ―――――!!」
「カナッペ? どうしたんだ!? この症状は、まさか! ファルゴォォォォ!! 貴様、彼女に何をしたんだぁあぁぁ―――!!」
ウィナーズカース、その号令とともにカナッペの肉体が、反り返るように動いた。
次の瞬間、身体は発熱し彼女は苦しみ始めた。
ギデオンには分かっていた。
彼女を襲った、苦痛の原因は蜜酒によるものだと……。
感情を昂らせ、怒りの頂点に達するギデオンの前に、起き上がったファルゴが不敵に嗤う。
「女を連れてくる際に言ったはずだ。保険だと! 自身が受けた、負傷、不調を他者に肩代わりさせるのが、ウィナーズカースの力の一端だ。今、その女は俺が受ける負担を半分、背負っている状態だ」
「保険だと! 彼女は無関係だ。普通の勇士学校の生徒なんだぞ! よくも、平然としていられるな」
「知ったことかよ。それにソイツはテメェの知り合いなんだろう? おかげで助かったぜ! 酒が半分抜けたら、すこぶる気分が良い! これが絶好調ってもんだ!!!」
ギデオンにとっては最悪の事態になった。
ミードの効果が半減したせいで、ファルゴの潜在能力は覚醒状態になっていた。
魔法による炎傷効果も、カナッペに分担させたのだろう。
この暴力の徒は今、実力以上のパフォーマンスを発揮できる状態だ。
「この俺に、ウィナーズカースまで使わせるとはな。いいぜ! 小僧、お前には特別に見舞ってやろう……俺が誇る史上最強の一撃を!! その女を守りたければ、死ぬ気で防いでみせろや。コォォオオ、オオハアアアア――――!!」
ファルゴの両腕が、ハッキリとした光を帯びた。
それまで不明瞭だった違和感、壁の正体があらわになる。
練功――――そう呼ばれている生命エネルギー操作術。
その技能を体得しているファルゴは、強化効果により屈強な肉体と超人的な身体能力を得ていた。
「さあ、乗り越えてみせろ、ヴァリトラァ!!」
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