異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百二十八話

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 かつて、とある退魔師エクソシストがこう言った。
 神々にとって、人間とは瓶の中で飼育しているあり同然だと……。

 人の力には限界がある。
 どんなに己を鍛え上げようと、神の領域に達する力を得る人間などいない。
 そう思っていたことが間違いだった。
 神々はおごった結果、自分たちが地上へと放った人類の可能性を見落としていた。

 今……ナズィールの地に、神域に到達できるほど、力を昇華した男がいた。

 男の右腕から放出される大量のプラーナがプレッシャーを高める。
 もう一方の左腕からは自身から抽出した魔力が湧き上がっていた。
 両手を組み合わせることで、気と魔法が一つに融合し、極点凄絶なエネルギーへと変換される。

 これにまだ名はない。
 歴史上、この高みにのぼりきった者はいない――練功の進化形態。
 ファルゴでさえ、全体の10パーセントほどの出力内でしかコントロールできない。
 だとしても、立ち塞がる障害を消し去るには充分な威力だ。

 両腕のエネルギー波が龍のアギトに変わってゆくのを見ながら、ギデオンは全身を震わせていた。
 武者震いが止まらない……マタギとしての勘が逃げろと叫んでいる。
 同時に、次の一撃から逃れられる手立てがないことも痛感していた。

「くらいやがれえぇえええ――――!!」龍の頭部を再現した燃え盛るエネルギーが野に解き放たれた。

「発動! ワイルドカートリッジ。装填、アルラウネ」

 ギデオンが魔銃のボトルハンドルを引いた。
 リッシュはマスケット銃と思い違いをしていたが、ギデオンの銃はボトルアクション式だ。
 マガジンフォロアーに素早く緑色の弾薬をこめる。

 迫り来る禍根かこんを絶つには、この方法しかない。
 防ぎきれるか、どうかではなく、カナッペを守る為には絶対に押し負けるわけにはいかない。

「グリンガムズィーベン! 最大火力だぁぁぁあああ――――!!」

 トリガを引くと銃口から緑色の煙が立ち込めた。
 アルラウネの能力、その特性を引き継いだ煙が七本の鞭に変化し、ギデオンの上半身に巻き付いた。

「ガイアァァウォォォ――ル!!!」

 左右の腕を伝い計六本の鞭打が、大地を叩きつける。
 地を揺らすほどの、強烈な衝撃ともに砂塵が周囲に巻き上がる。

「まだだ! まだ、弱すぎる」

 長く伸び切った、鞭の応酬が嵐のように地面をイジメてゆく。
 殴って状況を打破しなくてはいけない。
 もはや、時間は残されていない。
 龍の顔面が、間近まで飛んできていた。

「ここか!! サンドブリッカー」

 鞭の束が前方一直線に伸び、地を強打した。
 そこを起点して両端に衝撃を飛ばす。
 軸となる位置に亀裂が生じ、両端からロール巻きに隆起した岩壁が出現した。
 高波のごとく、エネルギー波を飲み込もうとする。

 どちらが、いち早く相手に届くか接戦だった。
 地の壁はヴァリトラを押えこもうと動くも、龍は自我でもあるかのように、巧みに回避してくる。

「無駄だ、そのまま突っ込めヴァリトラァア!!」

「もう一撃、間に合え―――」

「させるかよ! ん? ……なんだ!?」

 突如、地響きが辺り一帯に轟いた。
 揺れ出す、地下。初めは気のせいだと思われた微弱な振動も、無視できないレベルに成長してきた。
 グリンガムズィーベンで打ちつけていた地面には亀裂が生じていた。
 そこから更に地盤沈下し、足場が真っ二つに割れ始めた。

「うっ、嘘だろ。ヤメテおけ!! これ以上、地表に衝撃を与えるな。ダンジョンが崩壊する!!」

「うおおおらぁああ!!!」

 ギデオンがダンジョンにトドメの一撃を食らわせた。
 ヴァリトラを止めることばかりに気が回っていた。

 龍の頭部が遥か上を通過してゆく。
 気づいた時には既に遅く、大口を開いた真っ暗な地の底が三人を丸飲みしようとしていた。
 ダンジョン自体が戦闘の負荷に耐えきれず壊れだしている。

 七本目の鞭が伸びた、尻尾のような、それは地上に生還する希望の蔦だった。
 落下してゆくカナッペの身体を鞭で絡め取ると覚えたてのパーミッショントランスで、急上昇してみせた。

「ハッ? アアアアアッア?」

 ファルゴがすぐそばを落下してきた。
 左足首には、ギデオンが巻き付けた、七本目の鞭が絡んでいた。
 暴君が地底に向かう、反動を利用して二人の男女は命からがら、地上へと戻ることに成功した。

「クハッ…………ハァ……ハァ、ジェイク! ゴールデンパラシュートを使用したな!!」

 カナッペを担ぎながら、疲労困憊ひろうこんぱいの四肢を引きずるように動かす。
 後方では早速、破損した部分を修復しようとダンジョンが大穴を閉じようとしていた。
 彼女の周囲に金色の綿毛が飛んでいた。

「こうするしか無かった。でなければ、その娘の命は危うかったぞ」

 物陰から出てきたジェイクが、淡々と喋る。
 仕方なかった、その言葉だけで済まそうとする彼の短絡的な考えは、ギデオンにとって面白くないものだった。
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