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百十八話
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望みを打ち砕こうとする障害に荒ぶる心。
思考よりも先に手足を動かしていた。
上半身を前に突き出し、全力で地を駆けるリッシュと対峙するのは、治癒師。
剣の刃先に殺意を走らせ頭上にかかげる。
「貴女に恨みはないが、この戦いに部外者は不要だ!」
「やめろ!! リッシュ!!」
ギデオンの叫びは彼に届いていなかった。
意識は邪悪な想いに刈り取られていた。
紛れもなく、この人はギデオンと関わりの深い人間だ。
もし、ここで彼女を殺めれば、一矢報いることができるのではないかと……。
もちろん、そんな事をしてもキンバリーが喜ばないのは百も承知だ。
エゴだった……心底、自身と同じ気持ちをギデオンに味わせたいという欲求が、リッシュを狂わせている。
「とくと味わうが良いぃ! ギデオン・グラッセ。これが、奪われる者の苦しみだぁ――!!!」
「お前は愚か奴だ……リッシュ!」
「ハァ? 命乞いなんて聞き入れやしないぞ!! 終わりだあぁぁ―――」
刀身がシルクエッタに向けて振り下ろされる。
もう、止められない! この刃は彼女を切り裂く。
脳内にアドレナリンが広がり、上気の香りが鼻こうを満たす。
心臓の鼓動は激しく脈打ち、酷く興奮しているのがわかる。
剣の先端が地を叩いた。
何かを考えるすきもなく、開いた口が塞がらない。
あるはずの姿が、そこから消えていた。
チィィィ―ン!! と透き通るような音が剣から伝わってくる。
ほんの一、二秒が長く感じた。
「僕の……狙いが外れた、だと?」
「罪浄の杖よ、悪しき波動を絶つ抱擁を持って、かの者の心に癒しと安らぎを与え給え! ディスティンクションライト!!」
「なっ、なんだ!? 身体が勝手に押し流されているだと――――!!」
精神魔法、ディスティンクションライト――それは人間の悪意に反応する仕切りの光と言われている。
悪意を浄化し、善意を呼び覚ます。
その力により身体は、対象の意思と異なった行動を取る。
「だから、愚かなんだ。相手の実力も、ろくに見極めようともせず仕掛けるとはな!」
ギデオンの一言に、彼はハッとした。
シルクエッタ・クーリンのどこに弱者と決めつける要素があるのか?
見た目だけだった……外見だけで、自分よりも劣っていると思い込んでしまった。
スキルの性能、その観点だけでいえば、リッシュの方が優勢なのは間違いない。
だが、実戦経験や身体能力となれば話は別だ。
勝てるかどうかなど、試してみないことには、測れるわけもない。
「ギデオン! その魔物、列車の時と同様にホーリーソングで弱らせられるかもしれない!!」
「ああっ――早めに頼む……このままでは、僕の魔力が尽きてしまう」
「ま、不味いぞ!! ソレは、……心的ダメージが大きすぎて持たない!?」
治癒師の提案にリッシュは動揺をあらわにしていた。
キンバリーとの戦いで、使用されたホーリーソングの一件は、既に彼の耳へと入っていた。
仮に、ランドタートルが魔法により消されようものならば、彼の意識は完全に吹っ飛ぶ。
それだけは、絶対に裂けないと行けない。
「行くよ、ホーリ―――――」
ダダダダダッ、ギュィ――ン!
どこからともなく、突風が吹き抜けてきた。
屋上で戦っている彼らにではなく、建屋の側面を沿うようにして通過してゆく。
ほどなくして、建屋そのものが水平に切断された。
背の高い、建造物はダルマ落としのようにバランスを崩し倒壊し始めている。
「くっ……この揺れは、リペアヒールでもカバーできない! 早く、避難を!!」
「一体、何が起きた!? 亀の奴、急に消滅したぞ!!」
「しまった! このどさくさに紛れて、バリュエーションは逃げるつもりみたいだ!?」
シルクエッタが焦燥の声をあげる中、土魔法を使用し、リッシュは隣の建物の外壁に足場作っていた。
非常に手際よく、去ってゆく背中を追走するのはむずかしい。
彼女はそう速断した。
「シルクエッタ、行くぞ!!」
「えっ? ちょ……ちょっと!! えええっ――――!!」
わきにシルクエッタを抱えて、ギデオンが猛ダッシュする。
彼の頭に、撤退という選択肢は無い。
追走する気、満々だ。
グリンガムズィーべンを近くのバルコニーに巻きつけると、そのまま地上へとターザンジャンプを決めた。
「逃すか!」飛び降りるのと、同時にマスケット銃を構え狙いを定める。
「キャアアアアッ――――!!」絶叫するシルクエッタ。
それすら耳に入らないほど、少年は驚異的な集中力を発揮し、敵の居場所を捕捉した。
朝の倉庫街に一発の銃声が鳴り響く。
しかし、その音に気づく者は誰もいない。
公衆浴場の崩壊……周囲の注意は、完全にそちらへと向けられていた。
悲鳴を上げながら安全な場所へと避難する人々。異常を察しガヤガヤと集まるヤジウマ。
事の大きさに救急隊や軍警察も次々にやってくる。
その最中、右足を引きずるようにリッシュは歩いていた。
なんとか逃走自体は成功した。
だが、慌てて逃げたせいで途中転落してしまった。
それだけなら、まだしも……直後、狙撃され右足に一発くらってしまった。
ハッキリ言って身体はボロボロだった。
今すぐにでも助けを呼びたいが、軍警察に自分のことが知られると色々と厄介だ。
「リッシュ? リッシュじゃないか! お前、こんな所で何しているんだ!?」
面倒事は避けたい。
そう思う時に限って向こうからやってくる。
彼にとっての最悪は……友人、知人と出くわすことだった。
思考よりも先に手足を動かしていた。
上半身を前に突き出し、全力で地を駆けるリッシュと対峙するのは、治癒師。
剣の刃先に殺意を走らせ頭上にかかげる。
「貴女に恨みはないが、この戦いに部外者は不要だ!」
「やめろ!! リッシュ!!」
ギデオンの叫びは彼に届いていなかった。
意識は邪悪な想いに刈り取られていた。
紛れもなく、この人はギデオンと関わりの深い人間だ。
もし、ここで彼女を殺めれば、一矢報いることができるのではないかと……。
もちろん、そんな事をしてもキンバリーが喜ばないのは百も承知だ。
エゴだった……心底、自身と同じ気持ちをギデオンに味わせたいという欲求が、リッシュを狂わせている。
「とくと味わうが良いぃ! ギデオン・グラッセ。これが、奪われる者の苦しみだぁ――!!!」
「お前は愚か奴だ……リッシュ!」
「ハァ? 命乞いなんて聞き入れやしないぞ!! 終わりだあぁぁ―――」
刀身がシルクエッタに向けて振り下ろされる。
もう、止められない! この刃は彼女を切り裂く。
脳内にアドレナリンが広がり、上気の香りが鼻こうを満たす。
心臓の鼓動は激しく脈打ち、酷く興奮しているのがわかる。
剣の先端が地を叩いた。
何かを考えるすきもなく、開いた口が塞がらない。
あるはずの姿が、そこから消えていた。
チィィィ―ン!! と透き通るような音が剣から伝わってくる。
ほんの一、二秒が長く感じた。
「僕の……狙いが外れた、だと?」
「罪浄の杖よ、悪しき波動を絶つ抱擁を持って、かの者の心に癒しと安らぎを与え給え! ディスティンクションライト!!」
「なっ、なんだ!? 身体が勝手に押し流されているだと――――!!」
精神魔法、ディスティンクションライト――それは人間の悪意に反応する仕切りの光と言われている。
悪意を浄化し、善意を呼び覚ます。
その力により身体は、対象の意思と異なった行動を取る。
「だから、愚かなんだ。相手の実力も、ろくに見極めようともせず仕掛けるとはな!」
ギデオンの一言に、彼はハッとした。
シルクエッタ・クーリンのどこに弱者と決めつける要素があるのか?
見た目だけだった……外見だけで、自分よりも劣っていると思い込んでしまった。
スキルの性能、その観点だけでいえば、リッシュの方が優勢なのは間違いない。
だが、実戦経験や身体能力となれば話は別だ。
勝てるかどうかなど、試してみないことには、測れるわけもない。
「ギデオン! その魔物、列車の時と同様にホーリーソングで弱らせられるかもしれない!!」
「ああっ――早めに頼む……このままでは、僕の魔力が尽きてしまう」
「ま、不味いぞ!! ソレは、……心的ダメージが大きすぎて持たない!?」
治癒師の提案にリッシュは動揺をあらわにしていた。
キンバリーとの戦いで、使用されたホーリーソングの一件は、既に彼の耳へと入っていた。
仮に、ランドタートルが魔法により消されようものならば、彼の意識は完全に吹っ飛ぶ。
それだけは、絶対に裂けないと行けない。
「行くよ、ホーリ―――――」
ダダダダダッ、ギュィ――ン!
どこからともなく、突風が吹き抜けてきた。
屋上で戦っている彼らにではなく、建屋の側面を沿うようにして通過してゆく。
ほどなくして、建屋そのものが水平に切断された。
背の高い、建造物はダルマ落としのようにバランスを崩し倒壊し始めている。
「くっ……この揺れは、リペアヒールでもカバーできない! 早く、避難を!!」
「一体、何が起きた!? 亀の奴、急に消滅したぞ!!」
「しまった! このどさくさに紛れて、バリュエーションは逃げるつもりみたいだ!?」
シルクエッタが焦燥の声をあげる中、土魔法を使用し、リッシュは隣の建物の外壁に足場作っていた。
非常に手際よく、去ってゆく背中を追走するのはむずかしい。
彼女はそう速断した。
「シルクエッタ、行くぞ!!」
「えっ? ちょ……ちょっと!! えええっ――――!!」
わきにシルクエッタを抱えて、ギデオンが猛ダッシュする。
彼の頭に、撤退という選択肢は無い。
追走する気、満々だ。
グリンガムズィーべンを近くのバルコニーに巻きつけると、そのまま地上へとターザンジャンプを決めた。
「逃すか!」飛び降りるのと、同時にマスケット銃を構え狙いを定める。
「キャアアアアッ――――!!」絶叫するシルクエッタ。
それすら耳に入らないほど、少年は驚異的な集中力を発揮し、敵の居場所を捕捉した。
朝の倉庫街に一発の銃声が鳴り響く。
しかし、その音に気づく者は誰もいない。
公衆浴場の崩壊……周囲の注意は、完全にそちらへと向けられていた。
悲鳴を上げながら安全な場所へと避難する人々。異常を察しガヤガヤと集まるヤジウマ。
事の大きさに救急隊や軍警察も次々にやってくる。
その最中、右足を引きずるようにリッシュは歩いていた。
なんとか逃走自体は成功した。
だが、慌てて逃げたせいで途中転落してしまった。
それだけなら、まだしも……直後、狙撃され右足に一発くらってしまった。
ハッキリ言って身体はボロボロだった。
今すぐにでも助けを呼びたいが、軍警察に自分のことが知られると色々と厄介だ。
「リッシュ? リッシュじゃないか! お前、こんな所で何しているんだ!?」
面倒事は避けたい。
そう思う時に限って向こうからやってくる。
彼にとっての最悪は……友人、知人と出くわすことだった。
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