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百十九話
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「お前……さっきの事故に巻き込まれたのか!? ボロボロじゃないか!!」
全身、泥と血にまみれた彼に、友人は慌てて駆けつけてきた。
優しいのはいつも事だが……人が良いのもほどがある。
表情を曇らせるオッドは本気で心配してくれている。
その様子に、こういうヤツだったとリッシュは再認識した。
リッシュにとって彼という存在は仇となっていた。
すぐにでもこの場から、移動しなければギデオンたちに捕まってしまう。
気ばかりが急くも、この負傷でオッドを避けることはできない。
汗だくになった手のひらのザラついた感触が不快で仕方ない。
「どうしたんだよ? さっきから、ずっと黙って? らしくないぜ」
「あっ、ああ! すまないボーッとしていた」
「当たり前だろ! そんな血だらけで、ウロウロしているからそうなるんだ! 待っていろ、すぐに救急隊の人を連れてくっから――」
「待て! オッド、僕は……僕は大丈夫だ。こんな怪我、放っておけば治る」
なるべく、気丈にふるまいオッドに軽傷だと訴える。
本当は叫びたいほど身体が痛むが、満面の笑みを浮かべてみせる。
唇に指先をあてがうオッドが訝しげな視線を送っていた。
どれだけ取りつくろうとも、逆効果にしかならない……こういう時のオッドは妙に鋭い。
出会って一年も満たないが、彼のクセは当然、理解しきっていた。
だからこそ……窮地を脱することができないことに歯ぎしりしてしまう。
このまま問答を続けていても、長丁場になるだけだ。
連れてくるとオッドが言ったのだ――救援を呼んでくるのは必至だ。
「馬鹿野郎!! いいか! リッシュ。 俺は、傷ついていたダチを放っておけるほど肝っ玉が座ってねぇーんだよ! お前に、どんな事情があろうとも必ず治療をうけさせるからな!! だから、大人しくいうことを聞けよ!」
「分かったよ……すまない、オッド。―――――本当に」
助けを呼びにいく、友人の背に謝罪する。
リッシュは、腹をくくる覚悟を気めた
復讐者として、この劣悪な状態を打破する。そこには、いかなる犠牲もいとわない。
あまりに危険な能力のため、ずっと封じてきた。
ここで終わるわけにはいかないという強固な意思が、この悪夢を呼び起こした。
「出でよ! アンティキティラのダイヤル――――」
オーソライズ・キャリバー、アンティキティラのダイヤル……。
スパイクタートルの武器形態は、時計のように長針とメモリがついている、手のひらサイズのダイヤルだった。
これが何なのか? 主であるリッシュにもよく分かっていない。
ただ、ダイヤルを回すと別世界にある巨大な歯車が回り出す。
それは人々から、個としての価値を奪い取る悪魔の装置。
すべて強奪されたモノは知らず知らずに、世界から抹消されてゆく。
時も場所も人数も関係ない。
それこそ発動してしまえば、効果範囲にあるモノ全てが存在を確立できない。
メモリの針が一周するころには、跡形もなく消え去る。
究極のリセットボタン。
「こはっ!?」
地面が血で湿っていた。
辺りには煌めく、綿毛が舞っている――――
いつか見た夕暮れ……一人、廊下をトボトボと歩く。
色濃いオレンジの斜陽が、教室を満たしている。
室内では仲間、三人が歓談している。
オッド、カナッペ、クォリスの笑い声が時折、廊下まで響いてくる。
「なあ、覚えているか? 俺たちが、パーティー結成した時のこと」
「ええっ! アンタの勧誘がしつこくて困ったわよ。大体、ロークラスが上位クラスの生徒を引き抜こうとするなんて、呆れて物が言えなかったわ」
「わ、私は……クラスの人たちと馴染めなかったから……カナッペが心配してくれて一緒に行動するように。オッド君はどうです?」
「俺? もちろん、忘れねぇーよ! ハルバード振り回す以外は何のとりえもなく、素人同然の田舎者を相手にしてくれる奴なんてここには居なかったな。アイツを除いて……。ぶっちゃけ、アイツと出会わなければ、さっさと田舎に戻っていたと思うぜ」
「そうね。彼がパーティーを組もうと言ってくれたおかげで、私たちはお互いを知ることができた。はみ出し者の集まりだったけど、そこそこ上手くできていたと思う」
「カナッペの言う通り……こ、こんな優柔不断な私でも、彼は受け入れてくれた。おかげで、たくさん救われたよ」
仲間たちが笑顔を見せている。
今、すぐにでも彼らの輪の中に入りたい……。
しかし、歩いても歩いても教室のドアが見当たらない。
さっきから、見える光景が一向に変わらない。
「君は、彼らのもとには行けないよ」
廊下にたたずむ恩師のシルエット。
それを見た瞬間、頬に大粒の涙が伝ってゆく。
「会いたかったです、先生ぃ―――!!」
決して声にならない想いが届いたのか? 彼女は申し訳なさそうな顔で手を振っていた。
「一つ、後悔があったんだ。ちゃんと、君を叱っておくべきだったよ。もっと、自身を大切にしなさいって……そう言っておけば、こうはならずに済んだんだ――――」
夢か、幻か……キンバリーとの奇跡的な再会は、ほんのわずかな出来事だった。
破壊されたアンティキティラのダイヤルと、自身の胴に食い込んだ大刀。
それを握っていたのはオッドの姿を借りていた白騎士だった。
「ホワイトナイトか……」
してやられた――そう言わんばかりにリッシュはニッと笑った。
最期の笑顔を浮かべながら、自身の能力を暴発させ彼は消滅した。
全身、泥と血にまみれた彼に、友人は慌てて駆けつけてきた。
優しいのはいつも事だが……人が良いのもほどがある。
表情を曇らせるオッドは本気で心配してくれている。
その様子に、こういうヤツだったとリッシュは再認識した。
リッシュにとって彼という存在は仇となっていた。
すぐにでもこの場から、移動しなければギデオンたちに捕まってしまう。
気ばかりが急くも、この負傷でオッドを避けることはできない。
汗だくになった手のひらのザラついた感触が不快で仕方ない。
「どうしたんだよ? さっきから、ずっと黙って? らしくないぜ」
「あっ、ああ! すまないボーッとしていた」
「当たり前だろ! そんな血だらけで、ウロウロしているからそうなるんだ! 待っていろ、すぐに救急隊の人を連れてくっから――」
「待て! オッド、僕は……僕は大丈夫だ。こんな怪我、放っておけば治る」
なるべく、気丈にふるまいオッドに軽傷だと訴える。
本当は叫びたいほど身体が痛むが、満面の笑みを浮かべてみせる。
唇に指先をあてがうオッドが訝しげな視線を送っていた。
どれだけ取りつくろうとも、逆効果にしかならない……こういう時のオッドは妙に鋭い。
出会って一年も満たないが、彼のクセは当然、理解しきっていた。
だからこそ……窮地を脱することができないことに歯ぎしりしてしまう。
このまま問答を続けていても、長丁場になるだけだ。
連れてくるとオッドが言ったのだ――救援を呼んでくるのは必至だ。
「馬鹿野郎!! いいか! リッシュ。 俺は、傷ついていたダチを放っておけるほど肝っ玉が座ってねぇーんだよ! お前に、どんな事情があろうとも必ず治療をうけさせるからな!! だから、大人しくいうことを聞けよ!」
「分かったよ……すまない、オッド。―――――本当に」
助けを呼びにいく、友人の背に謝罪する。
リッシュは、腹をくくる覚悟を気めた
復讐者として、この劣悪な状態を打破する。そこには、いかなる犠牲もいとわない。
あまりに危険な能力のため、ずっと封じてきた。
ここで終わるわけにはいかないという強固な意思が、この悪夢を呼び起こした。
「出でよ! アンティキティラのダイヤル――――」
オーソライズ・キャリバー、アンティキティラのダイヤル……。
スパイクタートルの武器形態は、時計のように長針とメモリがついている、手のひらサイズのダイヤルだった。
これが何なのか? 主であるリッシュにもよく分かっていない。
ただ、ダイヤルを回すと別世界にある巨大な歯車が回り出す。
それは人々から、個としての価値を奪い取る悪魔の装置。
すべて強奪されたモノは知らず知らずに、世界から抹消されてゆく。
時も場所も人数も関係ない。
それこそ発動してしまえば、効果範囲にあるモノ全てが存在を確立できない。
メモリの針が一周するころには、跡形もなく消え去る。
究極のリセットボタン。
「こはっ!?」
地面が血で湿っていた。
辺りには煌めく、綿毛が舞っている――――
いつか見た夕暮れ……一人、廊下をトボトボと歩く。
色濃いオレンジの斜陽が、教室を満たしている。
室内では仲間、三人が歓談している。
オッド、カナッペ、クォリスの笑い声が時折、廊下まで響いてくる。
「なあ、覚えているか? 俺たちが、パーティー結成した時のこと」
「ええっ! アンタの勧誘がしつこくて困ったわよ。大体、ロークラスが上位クラスの生徒を引き抜こうとするなんて、呆れて物が言えなかったわ」
「わ、私は……クラスの人たちと馴染めなかったから……カナッペが心配してくれて一緒に行動するように。オッド君はどうです?」
「俺? もちろん、忘れねぇーよ! ハルバード振り回す以外は何のとりえもなく、素人同然の田舎者を相手にしてくれる奴なんてここには居なかったな。アイツを除いて……。ぶっちゃけ、アイツと出会わなければ、さっさと田舎に戻っていたと思うぜ」
「そうね。彼がパーティーを組もうと言ってくれたおかげで、私たちはお互いを知ることができた。はみ出し者の集まりだったけど、そこそこ上手くできていたと思う」
「カナッペの言う通り……こ、こんな優柔不断な私でも、彼は受け入れてくれた。おかげで、たくさん救われたよ」
仲間たちが笑顔を見せている。
今、すぐにでも彼らの輪の中に入りたい……。
しかし、歩いても歩いても教室のドアが見当たらない。
さっきから、見える光景が一向に変わらない。
「君は、彼らのもとには行けないよ」
廊下にたたずむ恩師のシルエット。
それを見た瞬間、頬に大粒の涙が伝ってゆく。
「会いたかったです、先生ぃ―――!!」
決して声にならない想いが届いたのか? 彼女は申し訳なさそうな顔で手を振っていた。
「一つ、後悔があったんだ。ちゃんと、君を叱っておくべきだったよ。もっと、自身を大切にしなさいって……そう言っておけば、こうはならずに済んだんだ――――」
夢か、幻か……キンバリーとの奇跡的な再会は、ほんのわずかな出来事だった。
破壊されたアンティキティラのダイヤルと、自身の胴に食い込んだ大刀。
それを握っていたのはオッドの姿を借りていた白騎士だった。
「ホワイトナイトか……」
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