異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百十七話

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 キンバリーを師事してから、リッシュモンドは別人のように変わった。
 それまで避けていた授業も、苦痛とは感じず積極的に参加するようになった。

 すべては恩師に報いるため。すべては彼女に褒めてもらうため。
 あるがままの自分をしっかりと受け止めてくれる恩師。
 その期待に応えようとすれば、するほどリッシュの知性は活性化してゆく。

 彼はキプロスの王だった。
 淡い想いを抱く、あの人は彼に何も求めず、何かを欲することはない。
 けれど、教え子である自分が成長すればするほど嬉しそうに微笑んでくれる。

 リッシュは近づきたかった……恩師がたどり着いた知の境地に。
 いつか、キンバリーの隣に立っても恥ずかしくない男になろうとしていた。
 別に見返りなどは必要はない。
 彼女に振り向いてもらえなくても、そばにいられれば充分だった。

 絶対なるキンバリーの崇拝者。
 それが彼の見つけた心の在処であり、役目だと悟るようになった。

「私は、いずれ世界から敵視され最悪の魔女と呼ばれるようになるだろう。……リッシュ君、学校を卒業したら私から巣立ちなさい。君は、まだ若い。愚かな大人の業につきあう必要はないんだ」

「先生……お言葉ですが、僕は貴女のもとを離れる気は微塵もありません。僕のような若輩者でも分かります! 先生が常に世界の先、未来を見据えているということを……」

「リッシュ君、それは……日の当たらない場所を歩くのと同じだ。人であることを捨てた私だが、教え子まで外道にする趣味はないよ」

「いいえ、お手伝いさせて下さい! この先、貴女には多くの人手で必要です! すべては世界のため、先生の理想が世界を救う鍵となるのなら、この身おしくはありません!!」

 その身に拳をあてがい、誓いをたてた。
 決意をかためた教え子の姿を見詰めるキンバリーは、小さくため息をこぼしながら言ってみせる。

「自分のは崩さないか……君の悪い癖だね」

 今でも目蓋まぶたの裏に焼きついている。
 頬杖をつく彼女の姿。

 これから、共に新たな時代を築いてゆくと信じて疑わなかった。
 だけど、その未来は完全に潰えた。
 彼女は、もう戻ってこない…………いくら待ち続けても。
 目の前にいる、この男が自分から恩師を奪ったのだ。

 許さない、必ず報復してやる。
 その一念だけが生きる目的となった。
 いつまでも、何処までも、相手の命がつきるまで終わることはない。
 心の内に秘めた殺意は、常に煮えたぎったままだった。
 涼しい笑顔をむけたまま、ギデオンをどう苦しませてやろうかと探っていた。

 *

「先生……すみません。今の僕では……僕では、この男に」

 目の前にバケモノがいる、リッシュの心はすでに折られていた。
 弱体化を解除し自己強化してもなお、実力差は縮まらない。
 くわえて、ゴールデンパラシュートたちがじき応援に駆けつけてくる。
 万事休す、袋のネズミとはまさにこの事だ。

「逃げるという手立てもあるが……無事に逃げ切れる保証はない」

 ここに来て、リッシュの悪い癖が出ていた。
 賢すぎるがゆえに見切りが早い。
 実際に試していないのに、無理だと手を引いてしまう。

「そろそろ良いだろう、リッシュ。幕引きだ」

「いやだ……嫌だ、イヤだぁああ――――!! 僕は先生の仇を討ち取るんだ!」

 ギデオンの言葉に触発され、リッシュの精神はついに限界に達した。
 逃げたいのに、逃げるわけにはいかない。
 板挟みになった感情が、彼の思考を鈍らせた。

「ステータス強化を、自分以外にも可能ならすべては変わる。甦れぇ――!! バリュエーション!!」

 呼び声とともに、頭部を破壊されたはずのスパイクタートルが出現した。
 それは、今までの数倍はある巨大な影を生み落としていた。
 強化されたバリュエーション。
 ランドタートルがギデオンを見下ろし狙っていた。

「この建屋ごと踏み潰してやる!! グランドバルキュリア――――」

 怪物の足が屋上ごとギデオンを踏みぬいた。
 衝撃で外壁に亀裂がはしり、大地が激しく震動する。

「ぐっおおおおおお――、おぉぉおっ――――!!!」

 ゾウガメに踏みつけられる寸前のところで、グリンガムズィーべンを乱打する。
 巨体の重さに耐えきれず、次第に屋上が陥没してゆく。
 これならイケる―――悪戦苦闘するギデオンを見て、風向きが変わったと彼は確信した。

「リペアヒール!!」

 一瞬の喜びが怒りに変わった。
 それまで崩壊しかけていた建屋の揺れがおさまった。
 バリュエーションで屋上を押さえつけているのに、魔力の流れが衝撃を遮断している。

「あと一歩。あと一歩なんだ!! 僕の邪魔をするなぁぁぁ!!」

 リッシュが鬼気迫る表情で、睨みつけた。
 その瞳には魔法を発動しながら、駆け寄るシルクエッタが映っていた。
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