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九十五話
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見送るリッシュたちに手を振り、最終ポイントを目指す。
ここから彼らとは別々のルートを歩む。
リッシュから聞いた話によると、スタート地点は二箇所存在するという。
スタートで出遅れた彼らは、眼下に望む光景が乱戦状態であると気づき、進路変更を余儀なくされた。
もう一つのスタート地点であるストーンサークル方面から出発し、断崖経由で古城まで来たそうだ。
そんな彼らが異口同音に忠告してきた。
「断崖こそが、今回の模擬戦における最難関」だと。
先頭に立つバージェニルの様子は、相変わらずだ。
平静を取り繕ってはいるものの、ずっとケツァルコアトルの襲撃に怯えている。
彼女とオウムの関係は、間近で目撃していたギデオンも知っている。
ラッキースターの称号。
生徒間で、まことしやかに囁かれる噂。
オウムのキュピちゃんに選ばれた生徒は、一週間のうちに大きな幸運を手にすることができる。
よくあるオカルト染みた話だと、大抵の者は冗談交じりに笑う。
内心では、期待に胸を膨らませながらもクレバーに振る舞う。
もし、自分が選ばれたら――――
生徒たちの目を見れば分かる。
表情筋をたるませていても、目だけは笑っていない。
欲望、願望、野心を分厚い無情の面皮に隠し、美徳だけをかもし出す。
美徳も過ぎれば冒涜となる……ギデオンが修道会にいた頃、教わった言葉だ。
特に特権階級の人間には、美徳の存在意義をはき違える者が多い。
如何に素晴らしく正しい行いであっても、価値を定めるのは人である。
人である以上は解釈の仕方もそれぞれだ。
善行であっても他者にとって、はた迷惑な行為として取って代わる場合もある。
だからだろうか?
バージェニルとリッシュがラッキースターについて頑なに話そうとしないのは?
いや、二人の性分を考えれば黙っている方が不自然だ。
話す事で何か不都合が生じるという考え方のほうが、しっくりとくる。
オウムの行動には必ず意味がある。
生徒たちの中からラッキースターを見出すのも一つの手立てなのだろう。
とにかく、相手の目的が明確にならない段階での、仮説は想像の域を出ない。
また一つ、確かめないといけない事が増えた。
ギデオンの眼光が鋭さを増す。
抱える問題は面倒事だけではない。
面前にそびえる岩壁の陰影も同様だ。
幽暗に慣れた目がとらえる限り、行く手を阻むようして切り立った崖が確認できる。
遥か上空の成層にまで到達しているのでないか?
見なくとも、そう疑いたくもなるスケールのデカさに一向は絶句した。
「あはははっ……終わった」バージェニルが半笑いしながら地に両膝をついた。
「諦めるなっ!」などと誰も言えない……。
今の疲弊具合では、確実に登頂できない者を出してしまう。
リッシュはこれを二時間程度で制覇できると言っていた。
一見すると何をどう見れば、その結論に到達するのか意味不明だ。
それでも、あのリッシュたちが根拠のない発現をするはずがない。
信じて、周辺を探った。
「ギデ君……あれ!」早速、クォリスが持ち前の洞察力を発揮した。
彼女が指で指し示す先に小道が見える。
岩肌と同化していて気づきにくいが、つづら折りに上へと繋がっている。
「行こう!」ギデオンの掛け声とともに一同、列をなす。
遠方から眺めると、四つの松明の炎も豆粒ほどにしか見えない。
炎というよりも人魂にたとえた方がイメージ的に捉えられやすい。
少しずつ昇ってゆく様は、天へと還る魂のようでもあり、厳かな巡礼の儀のようにも見える。
「のわわああっ!!」
「ちょっ!! ブロッサム、力みすぎよ! 力任せに斜面を進もうとしても足場が崩れるだけだわ」
「面目ありませぬ……バージェニル殿」
もっとも、頂上を目指す彼らは死に物狂いで登っているが……。
「皆、この先は開けている。一旦、休憩にしよう!」
ギデオンが小さな空洞を発見した。
断崖を登りはじめて、かれこれ一時間が経過した。
どれほど進めたのか? 誰にも分からない。
が、少なくとも地上に松明の明るさが届かないぐらいには上がってきた。
「ん? 空洞の中に人影が見えたぞ!」
「なんと! 他の生徒ですかな?」
「皆、そ、そこから動かないで!」
休憩ポイントの異常を察知し先を急ごうとする。
男二人の行動を慌ててクォリスが制した。
彼らを襲う異変は一つだけとは限らない。
それらはいつ何時、やって来るのかも分からない!
すぐさま、ギデオンが法衣の袖で鼻を塞ぐ。
辺りから流れるようにして、嫌な臭いが立ち込めている。
「何だ……この途轍もない獣臭さは!? 囲まれている……上か!!」
一向が気配に気づくと同時にシュッ! と何かが空を切った。
「あぐぅ!!」後方のバージェニルが微かな、うめき声をもらした。
見ると左肩を庇うようにして屈んでいる。
「バージェニル!!」たまらず、ギデオンが肩を差し出す。
「問題ないわ!! それより注意して、私たち狙い撃ちにされているわよ!」
足下に転がる石ころを見ながら、バージェニルは唇を噛みしめた。
ここから彼らとは別々のルートを歩む。
リッシュから聞いた話によると、スタート地点は二箇所存在するという。
スタートで出遅れた彼らは、眼下に望む光景が乱戦状態であると気づき、進路変更を余儀なくされた。
もう一つのスタート地点であるストーンサークル方面から出発し、断崖経由で古城まで来たそうだ。
そんな彼らが異口同音に忠告してきた。
「断崖こそが、今回の模擬戦における最難関」だと。
先頭に立つバージェニルの様子は、相変わらずだ。
平静を取り繕ってはいるものの、ずっとケツァルコアトルの襲撃に怯えている。
彼女とオウムの関係は、間近で目撃していたギデオンも知っている。
ラッキースターの称号。
生徒間で、まことしやかに囁かれる噂。
オウムのキュピちゃんに選ばれた生徒は、一週間のうちに大きな幸運を手にすることができる。
よくあるオカルト染みた話だと、大抵の者は冗談交じりに笑う。
内心では、期待に胸を膨らませながらもクレバーに振る舞う。
もし、自分が選ばれたら――――
生徒たちの目を見れば分かる。
表情筋をたるませていても、目だけは笑っていない。
欲望、願望、野心を分厚い無情の面皮に隠し、美徳だけをかもし出す。
美徳も過ぎれば冒涜となる……ギデオンが修道会にいた頃、教わった言葉だ。
特に特権階級の人間には、美徳の存在意義をはき違える者が多い。
如何に素晴らしく正しい行いであっても、価値を定めるのは人である。
人である以上は解釈の仕方もそれぞれだ。
善行であっても他者にとって、はた迷惑な行為として取って代わる場合もある。
だからだろうか?
バージェニルとリッシュがラッキースターについて頑なに話そうとしないのは?
いや、二人の性分を考えれば黙っている方が不自然だ。
話す事で何か不都合が生じるという考え方のほうが、しっくりとくる。
オウムの行動には必ず意味がある。
生徒たちの中からラッキースターを見出すのも一つの手立てなのだろう。
とにかく、相手の目的が明確にならない段階での、仮説は想像の域を出ない。
また一つ、確かめないといけない事が増えた。
ギデオンの眼光が鋭さを増す。
抱える問題は面倒事だけではない。
面前にそびえる岩壁の陰影も同様だ。
幽暗に慣れた目がとらえる限り、行く手を阻むようして切り立った崖が確認できる。
遥か上空の成層にまで到達しているのでないか?
見なくとも、そう疑いたくもなるスケールのデカさに一向は絶句した。
「あはははっ……終わった」バージェニルが半笑いしながら地に両膝をついた。
「諦めるなっ!」などと誰も言えない……。
今の疲弊具合では、確実に登頂できない者を出してしまう。
リッシュはこれを二時間程度で制覇できると言っていた。
一見すると何をどう見れば、その結論に到達するのか意味不明だ。
それでも、あのリッシュたちが根拠のない発現をするはずがない。
信じて、周辺を探った。
「ギデ君……あれ!」早速、クォリスが持ち前の洞察力を発揮した。
彼女が指で指し示す先に小道が見える。
岩肌と同化していて気づきにくいが、つづら折りに上へと繋がっている。
「行こう!」ギデオンの掛け声とともに一同、列をなす。
遠方から眺めると、四つの松明の炎も豆粒ほどにしか見えない。
炎というよりも人魂にたとえた方がイメージ的に捉えられやすい。
少しずつ昇ってゆく様は、天へと還る魂のようでもあり、厳かな巡礼の儀のようにも見える。
「のわわああっ!!」
「ちょっ!! ブロッサム、力みすぎよ! 力任せに斜面を進もうとしても足場が崩れるだけだわ」
「面目ありませぬ……バージェニル殿」
もっとも、頂上を目指す彼らは死に物狂いで登っているが……。
「皆、この先は開けている。一旦、休憩にしよう!」
ギデオンが小さな空洞を発見した。
断崖を登りはじめて、かれこれ一時間が経過した。
どれほど進めたのか? 誰にも分からない。
が、少なくとも地上に松明の明るさが届かないぐらいには上がってきた。
「ん? 空洞の中に人影が見えたぞ!」
「なんと! 他の生徒ですかな?」
「皆、そ、そこから動かないで!」
休憩ポイントの異常を察知し先を急ごうとする。
男二人の行動を慌ててクォリスが制した。
彼らを襲う異変は一つだけとは限らない。
それらはいつ何時、やって来るのかも分からない!
すぐさま、ギデオンが法衣の袖で鼻を塞ぐ。
辺りから流れるようにして、嫌な臭いが立ち込めている。
「何だ……この途轍もない獣臭さは!? 囲まれている……上か!!」
一向が気配に気づくと同時にシュッ! と何かが空を切った。
「あぐぅ!!」後方のバージェニルが微かな、うめき声をもらした。
見ると左肩を庇うようにして屈んでいる。
「バージェニル!!」たまらず、ギデオンが肩を差し出す。
「問題ないわ!! それより注意して、私たち狙い撃ちにされているわよ!」
足下に転がる石ころを見ながら、バージェニルは唇を噛みしめた。
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