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九十六話
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闇夜に浮かび上がる、無数の目。
光りを帯びた、それらは上方からギデオンたちを監視していた。
ソレは知っていた。
何事も数に勝るモノはないと。
本能、直感、あるいは人間から得た知恵。
十、二十などの少数ではない。
数百単位の徒党を組み、人間を襲う。
その行為は山賊と何ら変わりない。
「食らいなさい!」バージェニルが引き金を引く。
ピストルから放たれた弾丸が、爆音とともに閃光を弾き飛ばす。
光りが一帯を包み込む。
閃光を浴びた襲撃者の容姿があらわなる。
思っていたとおり、猿に類似した姿をしている。
ロックマンキー……猿のようでありながら猿とは事なる魔物。
どの個体も、基本自発的に行動を起こさない。
群れで定めたことだけを忠実にこなす。
ただし、自分の身に危険が及べば周囲の目すら気にせず自分本位に動き出す。
容姿が違うだけで、行動は人そのものと言っても過言ではない。
そう、上澄みだけ見れば……。
視界を奪われ、後方に下がる個体。
激怒し手当たり次第に投石してくる個体。
連中の中で指揮を取るモノはいない。
これこそが人と魔物の決定的な違いだ。
規則や規律を作っても、魔物にはそれらの価値感を見出せない。
所詮、猿真似……いくら人を真似ても本物にはなれない。
「空洞まで走りますぞ!!」
ブロッサムが慌ただしく叫んだ。
さきほどの人影が気になるが、贅沢は言ってられない。
投石を避けるには空洞に避難するのが一番てっとり早い。
全員、滑り込むように中に入る。
外観以上に窮屈な場所だ。
それもそのはず、空洞の中には歩道を造った時に使用したであろう道具が置き去りにされていた。
「ツルハシやトロッコ、ダイナマイトもある」
「人影に見えたのは、壁にかかった作業用のコートですな!」
中に入るなり、ギデオンとブロッサムは道具を物色し始めた。
状況が状況だ、この危機を脱するのに使えるものがあれば、遠慮なく使う。
「にしても……最初から最後まで、我々は敵に囲まれてばかりですなー」
「まったくだ。しかも今度は、こちらが動くのを待ち伏せするタイプだ。時間が長引けば、どんどん僕らの方が不利になる」
「大群をもってして、こちらの自由を封殺するところなぞ、城攻めと一緒ですな」
「まったく……外が大変なことになっているのに、この落ち着きよう……貴方たちのせいで、毒気を一気に抜き取られてしまいそうだわ」
話の途中、外の様子を見張っていたバージェニルがきた。
その左腕には包帯がきつく巻かれている。
「傷の具合はどうだ?」
「クォリスの治癒魔法のおかげで、ずいぶんと楽になったわ。けど……当面は安静ね。ところで、何をしているの?」
ギデオンの手のひらの上には、細長い紐が何本かぶら下げてあった。
アルラウネのロープで工作をしていた彼に、バージェニルが尋ねる。
「武器さ。ストリング……奴らが石を投げてきたの見て思いついた」
「ふぅーん。そんなショボいので、どうこうできるとは思えないけど?」
「見かけで判断しない方がいい。コイツはゆうに200メートルは石を飛ばす、鎧だって容易く貫通するぞ」
「なかなか……エグイわね。でも、それだけでは―――」
「分かっている。だから、もう道は使わない。コイツで一気に頂上に行くぞ!」
傍にあったトロッコの縁に手を置き、ギデオンはこれからしようとしている事を皆に伝えた。
「皆、準備はいいか!?」
「い、行けます……」
「問題ないわ」
「いつでも、行けますぞ!」
「スコル、もうひと踏ん張りだ! 頼むぞ!!」
ギデオンの合図でスコルが駆け出した。
トロッコと繋がっているロープ。
それはスコル身体に巻き付けてあった。
空洞から出てきたのは魔獣に牽引されるトロッコだった。
犬ゾリならぬ、犬車。
最後尾にはスコルと同様にロープと繋ぎ合わせっているブロッサムがいた。
彼の役目はトロッコを押し上げることにある。
何せ、彼らはこれから垂直に断崖を登ってゆく。
断崖と言っても絶壁ではない。
場所によっては、それなりの傾斜がある。
トロッコは岩肌に貼りつくように風を切り加速してゆく。
ロックマンキーたちが仕掛けるようも先にバージェニルの閃光弾で視界を奪う。
同時に空気抵抗を抑える闇魔法もかける。
続く、ギデオンがストリングをブンブン振り回し氷粒を飛ばす。
網状になっているストリングには多くの弾を詰められる。
一回の投石で、何十もの猿たちを屠ることができる。
クォリスにより、生成された氷玉はまだまだ尽きない。
振っては投げ……。
振っては投げ……。
振っては投げを繰り返す。
気づけば、敵の姿が視界から消えていた。
閃光が照らす景色。
眼下には岩山の頂上が広がっていた。
クォリスが氷の滑り台を造り、その上を着地したトロッコが滑走する。
後方のブロッサムが歯を食いしばりながらブレーキをかける。
正面のスコルが身体を反転させ、ようやく四人を乗せたトロッコは停止した。
第五チエックポイント断崖――ついに頂上まで辿り着いた。
早速、更新を済ませる。
手のひらの模様が一つの魔法陣となり浮き上がる。
手から離れたソレは淡く輝き、エンブレムに変化した。
ミッションコンプリート――
激闘続きだった模擬戦が、ようやく幕を下ろした。
光りを帯びた、それらは上方からギデオンたちを監視していた。
ソレは知っていた。
何事も数に勝るモノはないと。
本能、直感、あるいは人間から得た知恵。
十、二十などの少数ではない。
数百単位の徒党を組み、人間を襲う。
その行為は山賊と何ら変わりない。
「食らいなさい!」バージェニルが引き金を引く。
ピストルから放たれた弾丸が、爆音とともに閃光を弾き飛ばす。
光りが一帯を包み込む。
閃光を浴びた襲撃者の容姿があらわなる。
思っていたとおり、猿に類似した姿をしている。
ロックマンキー……猿のようでありながら猿とは事なる魔物。
どの個体も、基本自発的に行動を起こさない。
群れで定めたことだけを忠実にこなす。
ただし、自分の身に危険が及べば周囲の目すら気にせず自分本位に動き出す。
容姿が違うだけで、行動は人そのものと言っても過言ではない。
そう、上澄みだけ見れば……。
視界を奪われ、後方に下がる個体。
激怒し手当たり次第に投石してくる個体。
連中の中で指揮を取るモノはいない。
これこそが人と魔物の決定的な違いだ。
規則や規律を作っても、魔物にはそれらの価値感を見出せない。
所詮、猿真似……いくら人を真似ても本物にはなれない。
「空洞まで走りますぞ!!」
ブロッサムが慌ただしく叫んだ。
さきほどの人影が気になるが、贅沢は言ってられない。
投石を避けるには空洞に避難するのが一番てっとり早い。
全員、滑り込むように中に入る。
外観以上に窮屈な場所だ。
それもそのはず、空洞の中には歩道を造った時に使用したであろう道具が置き去りにされていた。
「ツルハシやトロッコ、ダイナマイトもある」
「人影に見えたのは、壁にかかった作業用のコートですな!」
中に入るなり、ギデオンとブロッサムは道具を物色し始めた。
状況が状況だ、この危機を脱するのに使えるものがあれば、遠慮なく使う。
「にしても……最初から最後まで、我々は敵に囲まれてばかりですなー」
「まったくだ。しかも今度は、こちらが動くのを待ち伏せするタイプだ。時間が長引けば、どんどん僕らの方が不利になる」
「大群をもってして、こちらの自由を封殺するところなぞ、城攻めと一緒ですな」
「まったく……外が大変なことになっているのに、この落ち着きよう……貴方たちのせいで、毒気を一気に抜き取られてしまいそうだわ」
話の途中、外の様子を見張っていたバージェニルがきた。
その左腕には包帯がきつく巻かれている。
「傷の具合はどうだ?」
「クォリスの治癒魔法のおかげで、ずいぶんと楽になったわ。けど……当面は安静ね。ところで、何をしているの?」
ギデオンの手のひらの上には、細長い紐が何本かぶら下げてあった。
アルラウネのロープで工作をしていた彼に、バージェニルが尋ねる。
「武器さ。ストリング……奴らが石を投げてきたの見て思いついた」
「ふぅーん。そんなショボいので、どうこうできるとは思えないけど?」
「見かけで判断しない方がいい。コイツはゆうに200メートルは石を飛ばす、鎧だって容易く貫通するぞ」
「なかなか……エグイわね。でも、それだけでは―――」
「分かっている。だから、もう道は使わない。コイツで一気に頂上に行くぞ!」
傍にあったトロッコの縁に手を置き、ギデオンはこれからしようとしている事を皆に伝えた。
「皆、準備はいいか!?」
「い、行けます……」
「問題ないわ」
「いつでも、行けますぞ!」
「スコル、もうひと踏ん張りだ! 頼むぞ!!」
ギデオンの合図でスコルが駆け出した。
トロッコと繋がっているロープ。
それはスコル身体に巻き付けてあった。
空洞から出てきたのは魔獣に牽引されるトロッコだった。
犬ゾリならぬ、犬車。
最後尾にはスコルと同様にロープと繋ぎ合わせっているブロッサムがいた。
彼の役目はトロッコを押し上げることにある。
何せ、彼らはこれから垂直に断崖を登ってゆく。
断崖と言っても絶壁ではない。
場所によっては、それなりの傾斜がある。
トロッコは岩肌に貼りつくように風を切り加速してゆく。
ロックマンキーたちが仕掛けるようも先にバージェニルの閃光弾で視界を奪う。
同時に空気抵抗を抑える闇魔法もかける。
続く、ギデオンがストリングをブンブン振り回し氷粒を飛ばす。
網状になっているストリングには多くの弾を詰められる。
一回の投石で、何十もの猿たちを屠ることができる。
クォリスにより、生成された氷玉はまだまだ尽きない。
振っては投げ……。
振っては投げ……。
振っては投げを繰り返す。
気づけば、敵の姿が視界から消えていた。
閃光が照らす景色。
眼下には岩山の頂上が広がっていた。
クォリスが氷の滑り台を造り、その上を着地したトロッコが滑走する。
後方のブロッサムが歯を食いしばりながらブレーキをかける。
正面のスコルが身体を反転させ、ようやく四人を乗せたトロッコは停止した。
第五チエックポイント断崖――ついに頂上まで辿り着いた。
早速、更新を済ませる。
手のひらの模様が一つの魔法陣となり浮き上がる。
手から離れたソレは淡く輝き、エンブレムに変化した。
ミッションコンプリート――
激闘続きだった模擬戦が、ようやく幕を下ろした。
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