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五十話
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「返して……その宝珠は私たちエルフのもの」
「ふふっ、どーしようかなぁ?」
「何が目的? お前、人のものを勝手に盗むなと親におそわらなかったのか?」
「実は僕、親に身売りされたんだ」
「それは……悪いこと言った」
「なーんてね! 嘘ぽ――」
謎の侵入者、ゼイン。
略奪者の一味なのかは不透明だが、どこをどう見てもタダの火事場泥棒にしか見えない。
まず、彼は優男だった。
細い目つき以外は何ら特徴となるものを持たない、ごく普通のありふれた顔立ちの青年。
商人というだけあり、平民よりも身綺麗なパール色の紳士服を着ている。
もはや、商人というよりも貴族の出で立ちに近い。
本人が素性を明かさない限り、周囲は貴族とカン違いしてしまうだろう。
商人ゼインは武器らしい武器を所持していなかった。
護身用の武器もないのかと尋ねると彼はあっけらかんと
「いつもは、護衛がいるから所持していないね」そう解答した。
ならば安全……とはいかない。
魔術が使える可能性は大いにある。
事実、先ほどの尋常ではない眠気は魔法でないと色々と説明がつかない。
スキルだとしても同様だ。
仮に彼が何らかの能力を使用していれば、間違いなくエルフたちは実害をこうむっている。
いや、宝物殿の宝を持ち出している時点で、彼は悪党以外の何者でもない。
逃げ出される前に捕まえないといけない。
「どうしても返さないのか?」
「ゴメンねぇ~。とある方から、これを取ってくるように頼まれてさー。見逃してくれるなら、何もしないよ。僕もレディに対しては寛容だからね」
「お前が、どうであろうと私たちにはソレを守る義務がある。それにお前、何かムカつく」
「酷い言われようだなぁー。こっちは紳士的に振る舞おうとしているのに……あっ、そうだ! ちょうど、マシュマロンを持っているんだけど、食べるかい? 甘くて美味しいよー」
可愛らしいリボンでラッピングされている小袋。
ゼインはローゼリアの前でソレを軽く振ってみせる。
ギデの時は喜んでお菓子に飛びついた。
しかし、今回は何も興味を示さない。
てっきり、お菓子をチラつかせれば容易に手なずけられると決めつけていたのだろう。
想定外の彼女の反応に、ゼインの顔は困惑の色を浮かべる。
「あれれれ? おかしいなー。もしかして、マシュマロンが苦手なのかなぁー」
「やっぱり、ムカつく。お前、ずっと私たちのやり取りを盗み見していたろ? いくら、ギデの真似をしたって私の心は揺らがない。お前とギデじゃ全然違う! ギデはそんな上面だけの言葉は並べない」
「あちゃ~、失敗だったか。ホント―穏便に済ませたかったんだけどなぁ~。言っても聞かないだろうし、ひねっておくか……ギデギデギデ、うるさいからね」
ゼインが右手を前方に上げ外側に勢いよく振る。
何も持っていない右手の中から魔力の刃が飛び出てくる。
それは硝子のように無色透明。
絶えず光輝いていることで視認できる。
「魔術師……」
「そう! 僕は君と同じく実はとーてもスゴイ、魔術師なのさー。人は僕を称えて、こう呼ぶ! 無色の錬金術師と!!」
「無職の錬金術師? ……宝珠は渡さない!」
ローゼリアが両手を合わせ、雷属性となった魔力を練り上げる。
瞬時にして電気を帯びたエネルギーの塊を生み出し、ゼイン目掛け放出する。
「さんだーうぇいぶ……」
彼女の素気ない掛け声とは裏腹に、おびたたしい量の電撃が放出される。
波打つそれは鞭のように地を打ちつけ標的を刈り取る。
「無駄だよ! それじゃあ、蚊もおとせないよ」
透明な刃にローゼリアの電撃魔法が届いた瞬間、彼女の魔法がガラスのように砕けて消滅した。
あまりに衝撃的な光景を見せられてローゼリアも絶句するばかりだ。
「そら! お返しだよ」
空かさず、ゼインが幾つかナイフを錬成する。
これも刃と同じように生み出された魔力の塊だ。
ローゼリアが魔法障壁で防御しようとする。
ナイフは障壁を容易く突き破り、彼女の細い手足を掠める。
「ぐふっ……」砕けて苦痛で顔をしかめる。
傷は浅いが、完全に回避できていない。
もし、目の前の錬金術師が本気で狙ってきたらナイフは身体を突き刺さっていただろう。
それは彼女にとって最悪の展開だった。
せっかく、神酒の力により魔力が強化されたのに、敵の魔法はこちらの魔力を破壊する性質を持っている。
初めからゼインの独壇場だったのだ。
どう抵抗しようが、活路は見いだせない。
それでも――――彼女の瞳は光りを失っていない
「まだ……負けていない。ギデなら、諦めないで何か別の方法を思いつくはず……」
「そんな、暇は与えられるとでも?」
ゼインが床に手をつけると床下から刃が突き出した。
単体ではない。
ローゼリアを囲うように八本の刃が立ち並び、彼女の身を切り裂こうと迫ってくる。
まるで、水面から浮き出てくる鮫のヒレのように走る彼女を追い立てる。
ガシャァア――ン!!!
硝子が砕ける音と共に錬成された刃がすべて粉々になった。
危機一髪のところでローゼリアは、自身が倒した石像の上に飛び乗っていた。
そして、この行動が彼女の運命を大きく左右することとなる。
「ふふっ、どーしようかなぁ?」
「何が目的? お前、人のものを勝手に盗むなと親におそわらなかったのか?」
「実は僕、親に身売りされたんだ」
「それは……悪いこと言った」
「なーんてね! 嘘ぽ――」
謎の侵入者、ゼイン。
略奪者の一味なのかは不透明だが、どこをどう見てもタダの火事場泥棒にしか見えない。
まず、彼は優男だった。
細い目つき以外は何ら特徴となるものを持たない、ごく普通のありふれた顔立ちの青年。
商人というだけあり、平民よりも身綺麗なパール色の紳士服を着ている。
もはや、商人というよりも貴族の出で立ちに近い。
本人が素性を明かさない限り、周囲は貴族とカン違いしてしまうだろう。
商人ゼインは武器らしい武器を所持していなかった。
護身用の武器もないのかと尋ねると彼はあっけらかんと
「いつもは、護衛がいるから所持していないね」そう解答した。
ならば安全……とはいかない。
魔術が使える可能性は大いにある。
事実、先ほどの尋常ではない眠気は魔法でないと色々と説明がつかない。
スキルだとしても同様だ。
仮に彼が何らかの能力を使用していれば、間違いなくエルフたちは実害をこうむっている。
いや、宝物殿の宝を持ち出している時点で、彼は悪党以外の何者でもない。
逃げ出される前に捕まえないといけない。
「どうしても返さないのか?」
「ゴメンねぇ~。とある方から、これを取ってくるように頼まれてさー。見逃してくれるなら、何もしないよ。僕もレディに対しては寛容だからね」
「お前が、どうであろうと私たちにはソレを守る義務がある。それにお前、何かムカつく」
「酷い言われようだなぁー。こっちは紳士的に振る舞おうとしているのに……あっ、そうだ! ちょうど、マシュマロンを持っているんだけど、食べるかい? 甘くて美味しいよー」
可愛らしいリボンでラッピングされている小袋。
ゼインはローゼリアの前でソレを軽く振ってみせる。
ギデの時は喜んでお菓子に飛びついた。
しかし、今回は何も興味を示さない。
てっきり、お菓子をチラつかせれば容易に手なずけられると決めつけていたのだろう。
想定外の彼女の反応に、ゼインの顔は困惑の色を浮かべる。
「あれれれ? おかしいなー。もしかして、マシュマロンが苦手なのかなぁー」
「やっぱり、ムカつく。お前、ずっと私たちのやり取りを盗み見していたろ? いくら、ギデの真似をしたって私の心は揺らがない。お前とギデじゃ全然違う! ギデはそんな上面だけの言葉は並べない」
「あちゃ~、失敗だったか。ホント―穏便に済ませたかったんだけどなぁ~。言っても聞かないだろうし、ひねっておくか……ギデギデギデ、うるさいからね」
ゼインが右手を前方に上げ外側に勢いよく振る。
何も持っていない右手の中から魔力の刃が飛び出てくる。
それは硝子のように無色透明。
絶えず光輝いていることで視認できる。
「魔術師……」
「そう! 僕は君と同じく実はとーてもスゴイ、魔術師なのさー。人は僕を称えて、こう呼ぶ! 無色の錬金術師と!!」
「無職の錬金術師? ……宝珠は渡さない!」
ローゼリアが両手を合わせ、雷属性となった魔力を練り上げる。
瞬時にして電気を帯びたエネルギーの塊を生み出し、ゼイン目掛け放出する。
「さんだーうぇいぶ……」
彼女の素気ない掛け声とは裏腹に、おびたたしい量の電撃が放出される。
波打つそれは鞭のように地を打ちつけ標的を刈り取る。
「無駄だよ! それじゃあ、蚊もおとせないよ」
透明な刃にローゼリアの電撃魔法が届いた瞬間、彼女の魔法がガラスのように砕けて消滅した。
あまりに衝撃的な光景を見せられてローゼリアも絶句するばかりだ。
「そら! お返しだよ」
空かさず、ゼインが幾つかナイフを錬成する。
これも刃と同じように生み出された魔力の塊だ。
ローゼリアが魔法障壁で防御しようとする。
ナイフは障壁を容易く突き破り、彼女の細い手足を掠める。
「ぐふっ……」砕けて苦痛で顔をしかめる。
傷は浅いが、完全に回避できていない。
もし、目の前の錬金術師が本気で狙ってきたらナイフは身体を突き刺さっていただろう。
それは彼女にとって最悪の展開だった。
せっかく、神酒の力により魔力が強化されたのに、敵の魔法はこちらの魔力を破壊する性質を持っている。
初めからゼインの独壇場だったのだ。
どう抵抗しようが、活路は見いだせない。
それでも――――彼女の瞳は光りを失っていない
「まだ……負けていない。ギデなら、諦めないで何か別の方法を思いつくはず……」
「そんな、暇は与えられるとでも?」
ゼインが床に手をつけると床下から刃が突き出した。
単体ではない。
ローゼリアを囲うように八本の刃が立ち並び、彼女の身を切り裂こうと迫ってくる。
まるで、水面から浮き出てくる鮫のヒレのように走る彼女を追い立てる。
ガシャァア――ン!!!
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危機一髪のところでローゼリアは、自身が倒した石像の上に飛び乗っていた。
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