異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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五十一話

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無色の錬金術師アルケミストが放った魔法の刃。
砕けた破片は、鋭く触れただけでも皮膚が切れてしまいそうだ。
けれど、硬い石像には刃は通れなかった。

その様子を見て、ローゼリアは彼の魔法の特性に気づき始めた。
同時にそれは嘘だけを塗りたくったゼインの本性に直結する。

「これ……錬金術じゃない」

「ふっ、何が言いたいのかなぁ?」

「お前、錬金術を使っていない。それどころか……ろくに魔法も扱えていない。ただ、魔力を飛ばしているだけ」

「言いたいことは、それだけかい? 何が本当で、何が嘘かなんて、どうでもいいじゃん! どうせ、ぜぇーんぶ! 嘘偽りにしかならないんだかさぁ」

「認めるんだな……自身の虚言を」

「君がどんなに頑張っても。君という存在が消えてなくなれば、僕は、今後も錬金術師として名を馳せることができるんだ!!」

「本当は何者?」

「答える道理はないさ。さぁー、そろそろパーティー終了といこうか?」


ローゼリアの指摘どおり、ゼインの使う魔法は錬金術ではない。
放出した魔力を硝子状に変化させただけのものだ。
彼のBAベースアビリティは魔力をガラスに変える力がある。
魔力ならば、どんなものでも彼、もしくは彼の魔力を通して硝子にしてしまう。

多種類の物質を錬成することはできない。
でも、物を変化させるという意味では自分も錬金術師となんら変わりない。
中途半端な能力を身につけた彼にとって、それは劣等感以外の何物でもなかった。

「自分は錬金術師だ!」ゼインはある時を境に嘘をつくようになった。

誰にも語ろうとはしなし、誰からも気にされることもない。
自分は本物ではなく所詮は偽物、ありふれた何処にでもいる存在。
たった、それだけこと。
誰もが一度は考えること。
けど、ゼインにとっては深刻な悩みだった。
認めたくない真実は、やがて歪んだ理屈を作りあげ、彼を彼ではない別人モンスターに仕立てあげた。
きっと、これからもそうあり続けるしかないのだろう……。
迷える狼少年として生きる道。
それが彼の選んだ生き様だった。

硝子のナイフがローゼリアに向け放たれた。
今度は数本ていどではない。
群れをなして飛来してくる。
防ぐ術はないが当たらなければどうという事はない。

ローゼリアは魔法で磁力を操作し鉄製の扉へと手を伸ばす。
磁気により彼女の身体は引っ張られ、刃が到達するよりも先に扉のほうへと飛び移る。
さらに、そこから扉を固定していた金属片を引き寄せ、返しの刃をかざす。

金属性の破片を挟み込むようにして、二本の電磁気が真っすぐ前方へと走ってゆく。
バチバチと雷電を放出する二本の柱を見て、ゼインはローゼリアの方へと向かってくる。
なりふり構わず走ってくる、彼の形相は死に物狂いになっていた。

「止めろ―――!! そんな物をここで撃ったら、この空洞が崩落するぅぅぅ――」

「問題ない、お前の能力はハアクしている。準備完了……発射!」

ローゼリアの手元が一瞬だけ光った。
刹那、低く唸る金属の破片が一閃となりゼインの真横を通過した。

「ぎゃやややあああ―――――!!! 耳が、僕の耳がぁああああ――――!!」

血しぶきが顔に飛び散りゼインは我を失うほど叫び回った。

彼の耳をかすめた一撃は、ミラーマジックに効果により硝子化すると、神殿の内壁に直撃して見事なまでに粉砕した。

「降参しろ。でなければ、次は身体に穴が空くぞ」

「はぁはぁ……何だ? そのデタラメな力はぁ……。押されている、こんの僕がぁ!? ワイズメル・シオンのリーダーだった、この僕が! こんな小娘に良いようにされてたまるかぁ――――。発動しろ!! 眠り姫スリーピングビューティー

「そんなもの、きか……うっ!」

ゼインの身体から白いもやが噴き出した。
一度目は広範囲に散布され、ローゼリアが気づけなかった現象。
この靄のこそが、村を襲った眠気の原因だった。

咄嗟に口元をおおい隠す。
それを見ながら、後退してゆくゼイン。

「逃が……さない」

「いくら、息を止めても無駄さ。僕の眠り姫は女性なら誰でも眠らせることができる。この靄は皮膚に浸透していくから避けられないぞ」

逃走をはかる彼を追いかけようとするローゼリアに再度、眠気が襲ってくる。
魔力をほとんど使いきってしまったのか、無効化できない。
辛うじて動けはするも、このままゼインを後を追うのは厳しい。
ローゼリアは神殿の中で、へたり込んだまま動くことすらままならないでいた――――――


「ううっ、くそお! 出血が止まらねぇ!! 早く、ヴォールゾックたちと合流しなければ、そろそろ奴らも集落を落とした頃だろう」

手傷を負ったゼインは神殿を飛び出し、村の西口へと走っていた。
ここまで、目立たないように山頂ごえをしてきた彼は、徒歩か走る以外の移動手段を確保できていなかった。
村の西門手前に馬がつながれているのを見て、彼は全力疾走した。

「へっへ、コイツはツイてるぞ~」

「おい! 動くな」

ガチャッ! と音を鳴らし銃口がゼインの頭部にあたる。
彼は、ツイていなかった。
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