51 / 362
五十一話
しおりを挟む
無色の錬金術師が放った魔法の刃。
砕けた破片は、鋭く触れただけでも皮膚が切れてしまいそうだ。
けれど、硬い石像には刃は通れなかった。
その様子を見て、ローゼリアは彼の魔法の特性に気づき始めた。
同時にそれは嘘だけを塗りたくったゼインの本性に直結する。
「これ……錬金術じゃない」
「ふっ、何が言いたいのかなぁ?」
「お前、錬金術を使っていない。それどころか……ろくに魔法も扱えていない。ただ、魔力を飛ばしているだけ」
「言いたいことは、それだけかい? 何が本当で、何が嘘かなんて、どうでもいいじゃん! どうせ、ぜぇーんぶ! 嘘偽りにしかならないんだかさぁ」
「認めるんだな……自身の虚言を」
「君がどんなに頑張っても。君という存在が消えてなくなれば、僕は、今後も錬金術師として名を馳せることができるんだ!!」
「本当は何者?」
「答える道理はないさ。さぁー、そろそろパーティー終了といこうか?」
ローゼリアの指摘どおり、ゼインの使う魔法は錬金術ではない。
放出した魔力を硝子状に変化させただけのものだ。
彼のBA、ミラーマジックは魔力をガラスに変える力がある。
魔力ならば、どんなものでも彼、もしくは彼の魔力を通して硝子にしてしまう。
多種類の物質を錬成することはできない。
でも、物を変化させるという意味では自分も錬金術師となんら変わりない。
中途半端な能力を身につけた彼にとって、それは劣等感以外の何物でもなかった。
「自分は錬金術師だ!」ゼインはある時を境に嘘をつくようになった。
誰にも語ろうとはしなし、誰からも気にされることもない。
自分は本物ではなく所詮は偽物、ありふれた何処にでもいる存在。
たった、それだけこと。
誰もが一度は考えること。
けど、ゼインにとっては深刻な悩みだった。
認めたくない真実は、やがて歪んだ理屈を作りあげ、彼を彼ではない別人に仕立てあげた。
きっと、これからもそうあり続けるしかないのだろう……。
迷える狼少年として生きる道。
それが彼の選んだ生き様だった。
硝子のナイフがローゼリアに向け放たれた。
今度は数本ていどではない。
群れをなして飛来してくる。
防ぐ術はないが当たらなければどうという事はない。
ローゼリアは魔法で磁力を操作し鉄製の扉へと手を伸ばす。
磁気により彼女の身体は引っ張られ、刃が到達するよりも先に扉のほうへと飛び移る。
さらに、そこから扉を固定していた金属片を引き寄せ、返しの刃をかざす。
金属性の破片を挟み込むようにして、二本の電磁気が真っすぐ前方へと走ってゆく。
バチバチと雷電を放出する二本の柱を見て、ゼインはローゼリアの方へと向かってくる。
なりふり構わず走ってくる、彼の形相は死に物狂いになっていた。
「止めろ―――!! そんな物をここで撃ったら、この空洞が崩落するぅぅぅ――」
「問題ない、お前の能力はハアクしている。準備完了……発射!」
ローゼリアの手元が一瞬だけ光った。
刹那、低く唸る金属の破片が一閃となりゼインの真横を通過した。
「ぎゃやややあああ―――――!!! 耳が、僕の耳がぁああああ――――!!」
血しぶきが顔に飛び散りゼインは我を失うほど叫び回った。
彼の耳をかすめた一撃は、ミラーマジックに効果により硝子化すると、神殿の内壁に直撃して見事なまでに粉砕した。
「降参しろ。でなければ、次は身体に穴が空くぞ」
「はぁはぁ……何だ? そのデタラメな力はぁ……。押されている、こんの僕がぁ!? ワイズメル・シオンのリーダーだった、この僕が! こんな小娘に良いようにされてたまるかぁ――――。発動しろ!! 眠り姫」
「そんなもの、きか……うっ!」
ゼインの身体から白い靄が噴き出した。
一度目は広範囲に散布され、ローゼリアが気づけなかった現象。
この靄のこそが、村を襲った眠気の原因だった。
咄嗟に口元をおおい隠す。
それを見ながら、後退してゆくゼイン。
「逃が……さない」
「いくら、息を止めても無駄さ。僕の眠り姫は女性なら誰でも眠らせることができる。この靄は皮膚に浸透していくから避けられないぞ」
逃走をはかる彼を追いかけようとするローゼリアに再度、眠気が襲ってくる。
魔力をほとんど使いきってしまったのか、無効化できない。
辛うじて動けはするも、このままゼインを後を追うのは厳しい。
ローゼリアは神殿の中で、へたり込んだまま動くことすらままならないでいた――――――
「ううっ、くそお! 出血が止まらねぇ!! 早く、ヴォールゾックたちと合流しなければ、そろそろ奴らも集落を落とした頃だろう」
手傷を負ったゼインは神殿を飛び出し、村の西口へと走っていた。
ここまで、目立たないように山頂ごえをしてきた彼は、徒歩か走る以外の移動手段を確保できていなかった。
村の西門手前に馬がつながれているのを見て、彼は全力疾走した。
「へっへ、コイツはツイてるぞ~」
「おい! 動くな」
ガチャッ! と音を鳴らし銃口がゼインの頭部にあたる。
彼は、ツイていなかった。
砕けた破片は、鋭く触れただけでも皮膚が切れてしまいそうだ。
けれど、硬い石像には刃は通れなかった。
その様子を見て、ローゼリアは彼の魔法の特性に気づき始めた。
同時にそれは嘘だけを塗りたくったゼインの本性に直結する。
「これ……錬金術じゃない」
「ふっ、何が言いたいのかなぁ?」
「お前、錬金術を使っていない。それどころか……ろくに魔法も扱えていない。ただ、魔力を飛ばしているだけ」
「言いたいことは、それだけかい? 何が本当で、何が嘘かなんて、どうでもいいじゃん! どうせ、ぜぇーんぶ! 嘘偽りにしかならないんだかさぁ」
「認めるんだな……自身の虚言を」
「君がどんなに頑張っても。君という存在が消えてなくなれば、僕は、今後も錬金術師として名を馳せることができるんだ!!」
「本当は何者?」
「答える道理はないさ。さぁー、そろそろパーティー終了といこうか?」
ローゼリアの指摘どおり、ゼインの使う魔法は錬金術ではない。
放出した魔力を硝子状に変化させただけのものだ。
彼のBA、ミラーマジックは魔力をガラスに変える力がある。
魔力ならば、どんなものでも彼、もしくは彼の魔力を通して硝子にしてしまう。
多種類の物質を錬成することはできない。
でも、物を変化させるという意味では自分も錬金術師となんら変わりない。
中途半端な能力を身につけた彼にとって、それは劣等感以外の何物でもなかった。
「自分は錬金術師だ!」ゼインはある時を境に嘘をつくようになった。
誰にも語ろうとはしなし、誰からも気にされることもない。
自分は本物ではなく所詮は偽物、ありふれた何処にでもいる存在。
たった、それだけこと。
誰もが一度は考えること。
けど、ゼインにとっては深刻な悩みだった。
認めたくない真実は、やがて歪んだ理屈を作りあげ、彼を彼ではない別人に仕立てあげた。
きっと、これからもそうあり続けるしかないのだろう……。
迷える狼少年として生きる道。
それが彼の選んだ生き様だった。
硝子のナイフがローゼリアに向け放たれた。
今度は数本ていどではない。
群れをなして飛来してくる。
防ぐ術はないが当たらなければどうという事はない。
ローゼリアは魔法で磁力を操作し鉄製の扉へと手を伸ばす。
磁気により彼女の身体は引っ張られ、刃が到達するよりも先に扉のほうへと飛び移る。
さらに、そこから扉を固定していた金属片を引き寄せ、返しの刃をかざす。
金属性の破片を挟み込むようにして、二本の電磁気が真っすぐ前方へと走ってゆく。
バチバチと雷電を放出する二本の柱を見て、ゼインはローゼリアの方へと向かってくる。
なりふり構わず走ってくる、彼の形相は死に物狂いになっていた。
「止めろ―――!! そんな物をここで撃ったら、この空洞が崩落するぅぅぅ――」
「問題ない、お前の能力はハアクしている。準備完了……発射!」
ローゼリアの手元が一瞬だけ光った。
刹那、低く唸る金属の破片が一閃となりゼインの真横を通過した。
「ぎゃやややあああ―――――!!! 耳が、僕の耳がぁああああ――――!!」
血しぶきが顔に飛び散りゼインは我を失うほど叫び回った。
彼の耳をかすめた一撃は、ミラーマジックに効果により硝子化すると、神殿の内壁に直撃して見事なまでに粉砕した。
「降参しろ。でなければ、次は身体に穴が空くぞ」
「はぁはぁ……何だ? そのデタラメな力はぁ……。押されている、こんの僕がぁ!? ワイズメル・シオンのリーダーだった、この僕が! こんな小娘に良いようにされてたまるかぁ――――。発動しろ!! 眠り姫」
「そんなもの、きか……うっ!」
ゼインの身体から白い靄が噴き出した。
一度目は広範囲に散布され、ローゼリアが気づけなかった現象。
この靄のこそが、村を襲った眠気の原因だった。
咄嗟に口元をおおい隠す。
それを見ながら、後退してゆくゼイン。
「逃が……さない」
「いくら、息を止めても無駄さ。僕の眠り姫は女性なら誰でも眠らせることができる。この靄は皮膚に浸透していくから避けられないぞ」
逃走をはかる彼を追いかけようとするローゼリアに再度、眠気が襲ってくる。
魔力をほとんど使いきってしまったのか、無効化できない。
辛うじて動けはするも、このままゼインを後を追うのは厳しい。
ローゼリアは神殿の中で、へたり込んだまま動くことすらままならないでいた――――――
「ううっ、くそお! 出血が止まらねぇ!! 早く、ヴォールゾックたちと合流しなければ、そろそろ奴らも集落を落とした頃だろう」
手傷を負ったゼインは神殿を飛び出し、村の西口へと走っていた。
ここまで、目立たないように山頂ごえをしてきた彼は、徒歩か走る以外の移動手段を確保できていなかった。
村の西門手前に馬がつながれているのを見て、彼は全力疾走した。
「へっへ、コイツはツイてるぞ~」
「おい! 動くな」
ガチャッ! と音を鳴らし銃口がゼインの頭部にあたる。
彼は、ツイていなかった。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる