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四十九話
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ギデが略奪者と激闘を繰り広げていたその頃。
アマゾネスエルフの集落ではローゼリアを筆頭に、村人総出で村の巡回にあたっていた。
今はまだ安全でも、敵の人数を的確に把握していない以上は予断を許さない。
特に女衆が多いこの村は襲われる可能性が非常にたかい。
エルフたちは山笛を吹きながら、異常がないか確認を取り合う。
もし、不審者を発見したら高い音を鳴らし周囲へと知らせる。
女だからと侮ってはいけない。
彼女たちはしっかりと戦闘訓練と経験を積んだ、いっぱしの戦士である。
そこいらの悪漢など、たちまち取り押さえてしまうだろう。
「村の西門は異常なし――!!」
「うん……おつかれ」
仲間の報告をうけローゼリアは自作の地図を広げた。
メリッサのような精密な図面ではないが、彼女なりに要所は押えてある。
ギデには知らせていなかったが、ローゼリアの天職は軍師である。
他の村にベテランの軍師がいる為、普段は出番が回ってこない。
それこそ今回のような急を要する時しか采配をふれない。
村の防衛にあたり彼女が注目した点は三ヶ所。
南の正門と西の裏門、そしてククルカン山の裏山道にあたる神殿近くの脇道。
侵入者が来るとすれば、西と南が濃厚だ。
神殿脇の道は山頂を経由しなければならないので、可能性としては一番低い。
わざわざ武力行使までしているのに遠回りしてまで、侵入を試みる輩はそういない。
いたら、本物の馬鹿である。
ローゼリアは神殿の敷地内に待機していた。
警戒が一番薄れるという理由からだけではなく、単純にここが三つの要所の中間点だったからだ。
状況次第では、敵の襲撃を許した集落がある西側方面がかなり危うい。
が、ローゼリアたちがもっとも気をつけないといけないのは、退路になると予想される南側が敵に進軍されることだ。
この経路が閉ざされてしまえば下山ができなくなる。
山越えをするにしてもこの大人数では、人間たちに捕獲されてしまう。
いずれにせよ、今は戦況を見守るしかない。
ローゼリアは神殿前の階段に腰かけながら、手の中に転がる小瓶を眺めていた。
出発間際に、ギデが渡した物。
これには神酒が入っているという。
「万が一の時に使ってくれ」と言われたが、このまま何事もなければ御守りとして取って置こうと決めていた。
思えば、いつもギデには何かを貰っているなと小さく笑う。
太陽の陽射しを浴び輝く小瓶に、彼女は目を細めた――――
唐突にガクッと頭が下がり、彼女は慌てた。
まだ、日中なのにやけに頭がすっきりしない。
瞼も妙に重く感じる。
「このままでは……マズイ」
彼女は意識を混濁させながらも、周囲の者を呼ぼうとした。
しかし、大声が出せない。
一体、どうしたことなのかと辺りを見渡すと巡回をしていた仲間たちの姿が、いつの間にか消えている。
ローゼリアは察知した。
すでに略奪者の攻撃が始まっている。
相手が何処に潜んでいるのかは分からない。
しかし、事前まで目撃情報が皆無という点から相手は少数でこの村に忍び込んでいる。
一体、何の為に?
彼らの目的がエルフの捕獲なのだとしたら、現状での敵の出方は合点がいかない。
仮にそれ以外の狙いがあるとすれば、このヌデゥ=ガーポーの中にある宝物殿の宝だ。
とすれば、敵は此処に来る!
「スリーピングビューティー……」
ローゼリアの傍で若い男の声が聞こえた。
姿がハッキリと確認できないが確かに今、誰かが此処を通り過ぎた。
どうにも抗えない眠気に、ついに彼女は転倒してしまった。
カラン! カラン! とギデにもらった小瓶が転がってゆく。
「うぅぅぅぅっ……」
すでに声も出せないまま、彼女は小瓶に手を伸ばす。
いくら意識が飛びそうになっても、これだけは絶対に手放したくはない!!
その一心で伸ばし続け、何とか指先で引き寄せた。
口で栓を開き、中の液体を一気に飲み干す。
「うっ!! う……グググググ……痛い! あわわわあわああああっ――けほっ」
直後、身体中に電気ようなモノが駆け巡り、そのショックで彼女の眠気は吹き飛んだ。
不思議と、身体が軽い。
心なしか、髪の毛が蒼白く発光している。
両手の平を近づけてみるとバチバチバチっと小さな電撃がほとばしる。
「おおっ! おおおぉ!! ……なんか出た」
未知なる力の発現に、ローゼリアは眉一つ動かさずに驚いていた。
何より気持ちの切り替えが早い。
「侵入者を追わないと……」
急いで神殿に駆け込む。
案の定、祭壇脇の床下扉が開かれている。
それを確認すると彼女は扉を閉めて近くに置かれていた石像を押し倒した。
石像は見事、出入口をその身で塞ぎ、侵入者を地下に閉じこめた。
「むふぅー……一時はどうなることかと思った」
「何が?」
「侵入者が入ってきた……お前、誰?」
ローゼリアの背後に、糸目の青年が立っていた。
笑っているのか? 嗤っているのか? 区別がつかない不敵な笑み。
「おや? 自己紹介ですか! 僕はゼイン。帝国からやって来た、しがない行商人……かな?」
「お前……それ!」
「これか? 綺麗でしょ? さっき、見つけたんだぁ」
ゼインと名乗った男の手には、聖域の転移情報が入った宝珠が握られていた。
アマゾネスエルフの集落ではローゼリアを筆頭に、村人総出で村の巡回にあたっていた。
今はまだ安全でも、敵の人数を的確に把握していない以上は予断を許さない。
特に女衆が多いこの村は襲われる可能性が非常にたかい。
エルフたちは山笛を吹きながら、異常がないか確認を取り合う。
もし、不審者を発見したら高い音を鳴らし周囲へと知らせる。
女だからと侮ってはいけない。
彼女たちはしっかりと戦闘訓練と経験を積んだ、いっぱしの戦士である。
そこいらの悪漢など、たちまち取り押さえてしまうだろう。
「村の西門は異常なし――!!」
「うん……おつかれ」
仲間の報告をうけローゼリアは自作の地図を広げた。
メリッサのような精密な図面ではないが、彼女なりに要所は押えてある。
ギデには知らせていなかったが、ローゼリアの天職は軍師である。
他の村にベテランの軍師がいる為、普段は出番が回ってこない。
それこそ今回のような急を要する時しか采配をふれない。
村の防衛にあたり彼女が注目した点は三ヶ所。
南の正門と西の裏門、そしてククルカン山の裏山道にあたる神殿近くの脇道。
侵入者が来るとすれば、西と南が濃厚だ。
神殿脇の道は山頂を経由しなければならないので、可能性としては一番低い。
わざわざ武力行使までしているのに遠回りしてまで、侵入を試みる輩はそういない。
いたら、本物の馬鹿である。
ローゼリアは神殿の敷地内に待機していた。
警戒が一番薄れるという理由からだけではなく、単純にここが三つの要所の中間点だったからだ。
状況次第では、敵の襲撃を許した集落がある西側方面がかなり危うい。
が、ローゼリアたちがもっとも気をつけないといけないのは、退路になると予想される南側が敵に進軍されることだ。
この経路が閉ざされてしまえば下山ができなくなる。
山越えをするにしてもこの大人数では、人間たちに捕獲されてしまう。
いずれにせよ、今は戦況を見守るしかない。
ローゼリアは神殿前の階段に腰かけながら、手の中に転がる小瓶を眺めていた。
出発間際に、ギデが渡した物。
これには神酒が入っているという。
「万が一の時に使ってくれ」と言われたが、このまま何事もなければ御守りとして取って置こうと決めていた。
思えば、いつもギデには何かを貰っているなと小さく笑う。
太陽の陽射しを浴び輝く小瓶に、彼女は目を細めた――――
唐突にガクッと頭が下がり、彼女は慌てた。
まだ、日中なのにやけに頭がすっきりしない。
瞼も妙に重く感じる。
「このままでは……マズイ」
彼女は意識を混濁させながらも、周囲の者を呼ぼうとした。
しかし、大声が出せない。
一体、どうしたことなのかと辺りを見渡すと巡回をしていた仲間たちの姿が、いつの間にか消えている。
ローゼリアは察知した。
すでに略奪者の攻撃が始まっている。
相手が何処に潜んでいるのかは分からない。
しかし、事前まで目撃情報が皆無という点から相手は少数でこの村に忍び込んでいる。
一体、何の為に?
彼らの目的がエルフの捕獲なのだとしたら、現状での敵の出方は合点がいかない。
仮にそれ以外の狙いがあるとすれば、このヌデゥ=ガーポーの中にある宝物殿の宝だ。
とすれば、敵は此処に来る!
「スリーピングビューティー……」
ローゼリアの傍で若い男の声が聞こえた。
姿がハッキリと確認できないが確かに今、誰かが此処を通り過ぎた。
どうにも抗えない眠気に、ついに彼女は転倒してしまった。
カラン! カラン! とギデにもらった小瓶が転がってゆく。
「うぅぅぅぅっ……」
すでに声も出せないまま、彼女は小瓶に手を伸ばす。
いくら意識が飛びそうになっても、これだけは絶対に手放したくはない!!
その一心で伸ばし続け、何とか指先で引き寄せた。
口で栓を開き、中の液体を一気に飲み干す。
「うっ!! う……グググググ……痛い! あわわわあわああああっ――けほっ」
直後、身体中に電気ようなモノが駆け巡り、そのショックで彼女の眠気は吹き飛んだ。
不思議と、身体が軽い。
心なしか、髪の毛が蒼白く発光している。
両手の平を近づけてみるとバチバチバチっと小さな電撃がほとばしる。
「おおっ! おおおぉ!! ……なんか出た」
未知なる力の発現に、ローゼリアは眉一つ動かさずに驚いていた。
何より気持ちの切り替えが早い。
「侵入者を追わないと……」
急いで神殿に駆け込む。
案の定、祭壇脇の床下扉が開かれている。
それを確認すると彼女は扉を閉めて近くに置かれていた石像を押し倒した。
石像は見事、出入口をその身で塞ぎ、侵入者を地下に閉じこめた。
「むふぅー……一時はどうなることかと思った」
「何が?」
「侵入者が入ってきた……お前、誰?」
ローゼリアの背後に、糸目の青年が立っていた。
笑っているのか? 嗤っているのか? 区別がつかない不敵な笑み。
「おや? 自己紹介ですか! 僕はゼイン。帝国からやって来た、しがない行商人……かな?」
「お前……それ!」
「これか? 綺麗でしょ? さっき、見つけたんだぁ」
ゼインと名乗った男の手には、聖域の転移情報が入った宝珠が握られていた。
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