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四十六話
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未だ、乱戦が続く集落の中でひと際きわ、けたたましい剣戟の応酬がなされていた。
ソードマンの職を持つ男、ヴォールゾック。
対するは元聖騎士候補生のギデオン・グラッセ。
久方ぶりに、握る剣の感触は前より重くなっていた。
それでも一閃の刃を交える度に、記憶の中の感覚がよみがえってくる。
ギデオンは幼少の頃から剣術に秀でている。
彼の腕前はどれほどものかと人に問うと、皆が口をそろえて人並みならざらぬモノと答えてくる。
聖王国内で彼の剣士としての名声を高めたのは、やはり王国主催の御前試合だろう。
司教の推薦で選ばれた若干、十二歳の少年が王国近衛兵を三人、まとめて相手にし難なく勝利をおさめた。
瞬きする暇もなく流れるような剣さばきで相手を打ち取る姿は、聖王国民の心を一挙に鷲掴みにした。
これがパラディンにもっとも近いと称された彼の始まりだった。
今となってはとんだお笑いぐさだが、あの頃の彼は本当に自分が選ばれた人間だと信じていた。
そこが箱庭だったとは知らず、狭い世界だけで生きてきた。
それでも悪くはなかったと思えるのは、こうして強敵と相まみえることができるからだ。
ヴォールゾックはギデオンが知る中で屈指の実力者だった。
前にも感じた違和感……これだけの力を持ちながら何故、賊に身を堕としているのか納得できなかった。
彼ほどの剣士ならば王国だって放ってはおけない。
普通なら生活には困らないはずだ。
普通なら――――
彼は異常性の塊だった。
彼自身そうだが、扱う剣技と獲物はさらに異質極まりなかった。
まず、ヴォールゾックの剣技は対面には向いていない。
集団戦に特化した、どちらかといえば戦場、実践向けのスタイルだった。
常に一ヶ所にはとどまらず移動している合間も敵味方問わずに、盾として活用する。
もし、相手が武器を向けてこようならば、即座に斬捨てる。
型に納まらない自由な攻撃の数々は、ギデオンを大いに翻弄していた。
何より、着実に修羅場を掻い潜っている……彼の動きには、いちぶの隙もない。
非常に無駄という肉を削ぎ落した洗練されたモノだった。
「ああ――いいねぇ。その若さで、俺とやり合える奴はそうそういない。少々、鍛え足りないが良い筋肉だ。しなやかでよく伸びる強靭な質、バランスも悪くない。あと何度か、戦場を渡り歩けば完璧に仕上がるな」
「あいにくと、僕はソルジャーじゃない。本来なら、剣ではなく銃を使う狩り職だ」
「なら、さっさと銃でも何でも使えよ。ここは戦場だ、知略、戦略の多様性が求められる、やったモン勝ちの世界だ」
「笑わせるな! この村を戦場にしたのは貴様らだ!! こんな乱戦状態で銃を撃てるわけがない、一歩間違えれば味方に当たりかねない」
「まあーだ、そんな事を気にしてんのか? 兄ちゃんみたいなのを沢山みてきたけど、どいつもこいつも戦場で、野垂死にしてたなぁ――」
「戦場、戦場とやけにこだわるな? そうか……アンタは死地でしか自分を見出せない人間なんだな」
「惜しいな、チョットだけ違うぞ。俺が求めているのは戦場自体だ、自身のことなど二の次だ。戦場には俺の好きなモノばかり落ちている。焼ける肉の臭いに、乱雑に置かれた死体、興奮してしまうほどの悲鳴と好きなだけ斬れる肉。ああ、どれも素敵だー。中でも一番のお気に入りは、絶望に打ちひしがれる敗者の表情だな、うふふ」
「もういい、反吐が出る。例えそれが貴様の望みでも、一時の快楽を得る為に争いの火種を自らバラ蒔こうとする行為は、害悪そのものだ。ヴォールゾック、貴様はここで始末する」
「面白いこと言うーねぇ。腐っても正義を貫こうとするわけだ。いいだろう、お前にも絶望というモノの本質を味合わせてやろう」
もう、一つの異物。
ヴォールゾックの長剣がギデオンを狙う。
そこから発せられている禍々しい気配は魔剣特有のもの。
間違いなく、その剣は呪われてる。
それがヴォールゾックの人格を破綻させている原因かもしれない。
もし、そうなら今、ギデオンが相手にしているのは宿主の肉体を奪った魔剣の人格ということになる。
「何をボサッとしているんだ?」
突き出した刃が、ギデオン目掛けて飛び出てきた。
伸びている……こともあろうに剣の刃が大蛇のように変幻自在に曲がりくねりながら接近してきた。
剣では防ぎきれない。
そう、判断した彼は銃撃に切り替え、刃の切っ先に撃ち込んだ。
炸裂する音とともに刃が大きく向きを変えた。
次の攻撃が来る前に、こちちから先に仕掛けてやろうと試みるが、伸びた刃が瞬時に元の状態に戻っている。
これでは、軌道をそらしても意味がない。
やはり、銃撃でしかあの魔剣には対抗する術がない。
より速く、より強力な一撃を見舞わないと。
敵の絶対防御は打ち破れない。
ギデオンは聖水の瓶を開けた。
彼自身は蜜酒で強化できなくても、相棒ならその恩恵を受けることが出来る。
魔銃の撃鉄に蜜酒を流し込む。
ゴクリと喉を鳴らしたスコルが神気の力により覚醒める。
ソードマンの職を持つ男、ヴォールゾック。
対するは元聖騎士候補生のギデオン・グラッセ。
久方ぶりに、握る剣の感触は前より重くなっていた。
それでも一閃の刃を交える度に、記憶の中の感覚がよみがえってくる。
ギデオンは幼少の頃から剣術に秀でている。
彼の腕前はどれほどものかと人に問うと、皆が口をそろえて人並みならざらぬモノと答えてくる。
聖王国内で彼の剣士としての名声を高めたのは、やはり王国主催の御前試合だろう。
司教の推薦で選ばれた若干、十二歳の少年が王国近衛兵を三人、まとめて相手にし難なく勝利をおさめた。
瞬きする暇もなく流れるような剣さばきで相手を打ち取る姿は、聖王国民の心を一挙に鷲掴みにした。
これがパラディンにもっとも近いと称された彼の始まりだった。
今となってはとんだお笑いぐさだが、あの頃の彼は本当に自分が選ばれた人間だと信じていた。
そこが箱庭だったとは知らず、狭い世界だけで生きてきた。
それでも悪くはなかったと思えるのは、こうして強敵と相まみえることができるからだ。
ヴォールゾックはギデオンが知る中で屈指の実力者だった。
前にも感じた違和感……これだけの力を持ちながら何故、賊に身を堕としているのか納得できなかった。
彼ほどの剣士ならば王国だって放ってはおけない。
普通なら生活には困らないはずだ。
普通なら――――
彼は異常性の塊だった。
彼自身そうだが、扱う剣技と獲物はさらに異質極まりなかった。
まず、ヴォールゾックの剣技は対面には向いていない。
集団戦に特化した、どちらかといえば戦場、実践向けのスタイルだった。
常に一ヶ所にはとどまらず移動している合間も敵味方問わずに、盾として活用する。
もし、相手が武器を向けてこようならば、即座に斬捨てる。
型に納まらない自由な攻撃の数々は、ギデオンを大いに翻弄していた。
何より、着実に修羅場を掻い潜っている……彼の動きには、いちぶの隙もない。
非常に無駄という肉を削ぎ落した洗練されたモノだった。
「ああ――いいねぇ。その若さで、俺とやり合える奴はそうそういない。少々、鍛え足りないが良い筋肉だ。しなやかでよく伸びる強靭な質、バランスも悪くない。あと何度か、戦場を渡り歩けば完璧に仕上がるな」
「あいにくと、僕はソルジャーじゃない。本来なら、剣ではなく銃を使う狩り職だ」
「なら、さっさと銃でも何でも使えよ。ここは戦場だ、知略、戦略の多様性が求められる、やったモン勝ちの世界だ」
「笑わせるな! この村を戦場にしたのは貴様らだ!! こんな乱戦状態で銃を撃てるわけがない、一歩間違えれば味方に当たりかねない」
「まあーだ、そんな事を気にしてんのか? 兄ちゃんみたいなのを沢山みてきたけど、どいつもこいつも戦場で、野垂死にしてたなぁ――」
「戦場、戦場とやけにこだわるな? そうか……アンタは死地でしか自分を見出せない人間なんだな」
「惜しいな、チョットだけ違うぞ。俺が求めているのは戦場自体だ、自身のことなど二の次だ。戦場には俺の好きなモノばかり落ちている。焼ける肉の臭いに、乱雑に置かれた死体、興奮してしまうほどの悲鳴と好きなだけ斬れる肉。ああ、どれも素敵だー。中でも一番のお気に入りは、絶望に打ちひしがれる敗者の表情だな、うふふ」
「もういい、反吐が出る。例えそれが貴様の望みでも、一時の快楽を得る為に争いの火種を自らバラ蒔こうとする行為は、害悪そのものだ。ヴォールゾック、貴様はここで始末する」
「面白いこと言うーねぇ。腐っても正義を貫こうとするわけだ。いいだろう、お前にも絶望というモノの本質を味合わせてやろう」
もう、一つの異物。
ヴォールゾックの長剣がギデオンを狙う。
そこから発せられている禍々しい気配は魔剣特有のもの。
間違いなく、その剣は呪われてる。
それがヴォールゾックの人格を破綻させている原因かもしれない。
もし、そうなら今、ギデオンが相手にしているのは宿主の肉体を奪った魔剣の人格ということになる。
「何をボサッとしているんだ?」
突き出した刃が、ギデオン目掛けて飛び出てきた。
伸びている……こともあろうに剣の刃が大蛇のように変幻自在に曲がりくねりながら接近してきた。
剣では防ぎきれない。
そう、判断した彼は銃撃に切り替え、刃の切っ先に撃ち込んだ。
炸裂する音とともに刃が大きく向きを変えた。
次の攻撃が来る前に、こちちから先に仕掛けてやろうと試みるが、伸びた刃が瞬時に元の状態に戻っている。
これでは、軌道をそらしても意味がない。
やはり、銃撃でしかあの魔剣には対抗する術がない。
より速く、より強力な一撃を見舞わないと。
敵の絶対防御は打ち破れない。
ギデオンは聖水の瓶を開けた。
彼自身は蜜酒で強化できなくても、相棒ならその恩恵を受けることが出来る。
魔銃の撃鉄に蜜酒を流し込む。
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