異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
46 / 366

四十六話

しおりを挟む
未だ、乱戦が続く集落の中でひと際きわ、けたたましい剣戟の応酬おうしゅうがなされていた。
ソードマンのクラスを持つ男、ヴォールゾック。
対するは元聖騎士候補生のギデオン・グラッセ。

久方ぶりに、握る剣の感触は前より重くなっていた。
それでも一閃の刃を交える度に、記憶の中の感覚がよみがえってくる。

ギデオンは幼少の頃から剣術に秀でている。
彼の腕前はどれほどものかと人に問うと、皆が口をそろえて人並みならざらぬモノと答えてくる。
聖王国内で彼の剣士としての名声を高めたのは、やはり王国主催の御前試合だろう。
司教の推薦で選ばれた若干、十二歳の少年が王国近衛兵を三人、まとめて相手にし難なく勝利をおさめた。
瞬きする暇もなく流れるような剣さばきで相手を打ち取る姿は、聖王国民の心を一挙に鷲掴みにした。
これがパラディンにもっとも近いと称された彼の始まりだった。

今となってはとんだお笑いぐさだが、あの頃の彼は本当に自分が選ばれた人間だと信じていた。
そこが箱庭だったとは知らず、狭い世界だけで生きてきた。

それでも悪くはなかったと思えるのは、こうして強敵と相まみえることができるからだ。

ヴォールゾックはギデオンが知る中で屈指の実力者だった。
前にも感じた違和感……これだけの力を持ちながら何故、賊に身を堕としているのか納得できなかった。
彼ほどの剣士ならば王国だって放ってはおけない。
普通なら生活には困らないはずだ。

普通なら――――

彼は異常性の塊だった。
彼自身そうだが、扱う剣技と獲物はさらに異質極まりなかった。

まず、ヴォールゾックの剣技は対面タイマンには向いていない。
集団戦に特化した、どちらかといえば戦場、実践向けのスタイルだった。
常に一ヶ所にはとどまらず移動している合間も敵味方問わずに、盾として活用する。
もし、相手が武器を向けてこようならば、即座に斬捨てる。
型に納まらない自由な攻撃の数々は、ギデオンを大いに翻弄ほんろうしていた。
何より、着実に修羅場を掻い潜っている……彼の動きには、いちぶの隙もない。
非常に無駄という肉を削ぎ落した洗練されたモノだった。

「ああ――いいねぇ。その若さで、俺とやり合える奴はそうそういない。少々、鍛え足りないが良い筋肉だ。しなやかでよく伸びる強靭な質、バランスも悪くない。あと何度か、戦場を渡り歩けば完璧に仕上がるな」

「あいにくと、僕はソルジャーじゃない。本来なら、剣ではなく銃を使う狩り職だ」

「なら、さっさと銃でも何でも使えよ。ここは戦場だ、知略、戦略の多様性が求められる、やったモン勝ちの世界だ」

「笑わせるな! この村を戦場にしたのは貴様らだ!! こんな乱戦状態で銃を撃てるわけがない、一歩間違えれば味方に当たりかねない」

「まあーだ、そんな事を気にしてんのか? 兄ちゃんみたいなのを沢山みてきたけど、どいつもこいつも戦場で、野垂死にしてたなぁ――」

「戦場、戦場とやけにこだわるな? そうか……アンタは死地でしか自分を見出せない人間なんだな」

「惜しいな、チョットだけ違うぞ。俺が求めているのは戦場自体だ、自身のことなど二の次だ。戦場には俺の好きなモノばかり落ちている。焼ける肉の臭いに、乱雑に置かれた死体、興奮してしまうほどの悲鳴と好きなだけ斬れる肉。ああ、どれも素敵だー。中でも一番のお気に入りは、絶望に打ちひしがれる敗者の表情だな、うふふ」

「もういい、反吐が出る。例えそれが貴様の望みでも、一時の快楽を得る為に争いの火種を自らバラこうとする行為は、害悪そのものだ。ヴォールゾック、貴様はここで始末する」

「面白いこと言うーねぇ。腐っても正義を貫こうとするわけだ。いいだろう、お前にも絶望というモノの本質を味合わせてやろう」

もう、一つの異物。
ヴォールゾックの長剣がギデオンを狙う。
そこから発せられている禍々まがまがしい気配は魔剣特有のもの。
間違いなく、その剣は呪われてる。
それがヴォールゾックの人格を破綻させている原因かもしれない。
もし、そうなら今、ギデオンが相手にしているのは宿主の肉体を奪った魔剣の人格ということになる。

「何をボサッとしているんだ?」

突き出した刃が、ギデオン目掛けて飛び出てきた。
伸びている……こともあろうに剣の刃が大蛇のように変幻自在に曲がりくねりながら接近してきた。
剣では防ぎきれない。
そう、判断した彼は銃撃に切り替え、刃の切っ先に撃ち込んだ。
炸裂する音とともに刃が大きく向きを変えた。
次の攻撃が来る前に、こちちから先に仕掛けてやろうと試みるが、伸びた刃が瞬時に元の状態に戻っている。
これでは、軌道をそらしても意味がない。
やはり、銃撃でしかあの魔剣には対抗する術がない。

より速く、より強力な一撃を見舞わないと。

敵の絶対防御は打ち破れない。

ギデオンは聖水の瓶を開けた。
彼自身は蜜酒で強化できなくても、相棒ならその恩恵を受けることが出来る。
魔銃の撃鉄に蜜酒を流し込む。
ゴクリと喉を鳴らしたスコルが神気の力により覚醒めざめる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...