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四十七話
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蜜酒を使い、銃身の紅みが発光しつつ増してゆく。
どうやら、強化成功だ。
あとは、ヴォールゾックに一撃を見舞ってやるだけだ。
ところが、事はそう上手く進まない。
魔銃の変化に気づいたヴォールゾックが、いち早く二十人以上はいる集団の中に紛れこんでしまった。
混戦となり敵味方が入り乱れた状況の中で、ギデオンはクロッサとその兄の姿を発見した。
槍を構え、敵を薙ぎ払う妹と少し離れた後方から弓矢で支援攻撃をする兄。
絶妙なコンビネーションは息の合う兄妹だからこそ成せる業だろう。
とはいえ、今は敵のボスを見つけださないといけない。
切迫した空気の中、ギデオンの額から嫌な汗が流れ頬を伝う。
戦況はエルフの方が押しているような感じだ。
そもそも集落とはいえ外敵から民を守る為、村の周囲には堀や木の塀が設置されている。
敵が大人数で攻め込みにくいような山道にくわえて、バリケードだって作られている。
なのに、人攫いの集団は容易に侵入してきている。
普通では考えにくい。
陣地に立てこもる相手を制圧するには防衛側より何倍もの兵力を要する。
が、敵は少数精鋭で攻めてきている。
大自然の要塞を構築しているエルフの集落に対して、何のためらいもなく彼らはやってきたのだ。
この戦力差をひっくり返すほどの自信、余程の腕前を持っていなければ死地を求める戦にしかならない。
だが、それらを可能にする切り札は敵の手元にはある。
ヴォールゾックとあの魔剣だ。
特に魔剣の方は殲滅兵器に近い。
戦況を一変にくつがえすことなど、容易だろう。
ギデオンは半ば強引に争闘の渦へと身を乗り出した。
飛び交う矢を避け、武器を構える敵を軽やかに剣でいなすと周囲に一閃を放つ。
一撃で三人の敵兵が崩れ落ちる。
斬ったと思ったら、次の相手を切り伏せている。
剣聖顔負けの剣技は、泥沼状態となっていた戦闘に早くも変化をもたらした。
他の戦士たちを圧倒し、追随を許さない。
そんな彼の凄さに、見入ってしまう戦士たちは敵味方問わず棒立ちになってしまう。
全員、彼の一挙一動を余すところなく瞼に焼きつけようとしていた。
「ギデさん! 後ろです!」
真っ赤に染まった刃を振り上げ、勇往邁進する彼に、クロッサが叫ぶ。
身体をひねり、間近に迫った蛇の牙を薙ぎ払う。
「おほっ! マジか、一度ならず二度も、俺の蛇頭牙を防ぐとは……オジさん、カンゲキしちゃうよ」
「悠長に話している場合か!?」
ヴォールゾックの前に飛び掛かるギデオンの姿があった。
さしもの、ソードマンもこれには度肝を抜かれただろう。
眼を見開きながら、鼻を鳴らす。
「サジタリウスぅうう―――!!!」
短く伸縮を繰り返す魔剣の刃が、高速で解き放たれる。
あまりの速度により、周囲からはヴォールゾックの手元から刃の山が生えたように見える。
「それがどうしたぁぁああ!!」
ギデオンが銃を手に取り、素早く引き金をひく。
銃口から、放出されたのはいつもの魔弾ではない、黒炎だ。
ピストン運動を繰り返す刃が炎で焼かれる。
急いで消火しようとヴォールゾックは刃を振り回すが、消える気配は一向にない。
それも、そのはず。
ガルムの吐く炎は、闇属性魔法ダークフレイムそのものだ。
一度、引火したら聖法と呼ばれる魔法で清めない限り消える事のない呪いの炎である。
「チクショ――め。やってくれるな」
熱を帯びて、真っ赤に溶けていく刃先を地面に叩きつけへし折るヴォールゾック。
迫りくるギデオンの追撃にあわせ、男はニヤリと悪意の笑みをこぼした。
折れて半分ほどになった刃を遠くにむけて伸ばした。
眼の前の彼を無視して、非情なる一撃が放たれる。
「貴様ァアアア――!!」
ヴォールゾックを蹴り飛ばし、即座に後ろを振り返る。
ギデオンはその光景を見て血が流れ出るほど拳を握りしめていた。
彼が見たモノは、胴体を刃に貫かれ串刺しとなったエルフの戦士たちだった。
その中にはクロッサや彼女の兄もいた。
言葉にならない怒りが全身を駆け巡り、ギデオンは引き金を引いた。
その先にある物は、黒炎に焼かれ焼却される魔剣の残り半分だった。
「わ……私は…………何を? どうして……こんな場所に」
地面に横たわったまま、ヴォールゾックは首だけを起こした。
全身を震わせながら、力なく呟く彼のつぶらな瞳には一筋の光が射していた。
「アンタは魔剣に支配されていたんだろうな。魔剣が消えたおかげで正気を取り戻したようだな」
「そうか……私はもう……。すまない……名も知らぬ少年よ。そして、私を止めてくれた事に感謝する――――この償いは地獄で済ませることに……しよう。もっとも、赦さることなどないだろうが」
「お互いにな……祈りは無いが、今度こそ安らかに眠れ」
「その言葉だけで……充分だ。少年よ、まだだ! まだ、この戦は……おわ――――」
「何ぃ? この戦いがどう……くっ」
意味深な一言と共に、ヴォールゾックは永い眠りについた。
この救われない魂にしてあげられる事は、開ききったままの瞼を閉じてあげるぐらいだ。
彼の言葉が気になるも、ギデオンは負傷したエルフたちの元へと駆けよる。
わずかな希望を信じて。
どうやら、強化成功だ。
あとは、ヴォールゾックに一撃を見舞ってやるだけだ。
ところが、事はそう上手く進まない。
魔銃の変化に気づいたヴォールゾックが、いち早く二十人以上はいる集団の中に紛れこんでしまった。
混戦となり敵味方が入り乱れた状況の中で、ギデオンはクロッサとその兄の姿を発見した。
槍を構え、敵を薙ぎ払う妹と少し離れた後方から弓矢で支援攻撃をする兄。
絶妙なコンビネーションは息の合う兄妹だからこそ成せる業だろう。
とはいえ、今は敵のボスを見つけださないといけない。
切迫した空気の中、ギデオンの額から嫌な汗が流れ頬を伝う。
戦況はエルフの方が押しているような感じだ。
そもそも集落とはいえ外敵から民を守る為、村の周囲には堀や木の塀が設置されている。
敵が大人数で攻め込みにくいような山道にくわえて、バリケードだって作られている。
なのに、人攫いの集団は容易に侵入してきている。
普通では考えにくい。
陣地に立てこもる相手を制圧するには防衛側より何倍もの兵力を要する。
が、敵は少数精鋭で攻めてきている。
大自然の要塞を構築しているエルフの集落に対して、何のためらいもなく彼らはやってきたのだ。
この戦力差をひっくり返すほどの自信、余程の腕前を持っていなければ死地を求める戦にしかならない。
だが、それらを可能にする切り札は敵の手元にはある。
ヴォールゾックとあの魔剣だ。
特に魔剣の方は殲滅兵器に近い。
戦況を一変にくつがえすことなど、容易だろう。
ギデオンは半ば強引に争闘の渦へと身を乗り出した。
飛び交う矢を避け、武器を構える敵を軽やかに剣でいなすと周囲に一閃を放つ。
一撃で三人の敵兵が崩れ落ちる。
斬ったと思ったら、次の相手を切り伏せている。
剣聖顔負けの剣技は、泥沼状態となっていた戦闘に早くも変化をもたらした。
他の戦士たちを圧倒し、追随を許さない。
そんな彼の凄さに、見入ってしまう戦士たちは敵味方問わず棒立ちになってしまう。
全員、彼の一挙一動を余すところなく瞼に焼きつけようとしていた。
「ギデさん! 後ろです!」
真っ赤に染まった刃を振り上げ、勇往邁進する彼に、クロッサが叫ぶ。
身体をひねり、間近に迫った蛇の牙を薙ぎ払う。
「おほっ! マジか、一度ならず二度も、俺の蛇頭牙を防ぐとは……オジさん、カンゲキしちゃうよ」
「悠長に話している場合か!?」
ヴォールゾックの前に飛び掛かるギデオンの姿があった。
さしもの、ソードマンもこれには度肝を抜かれただろう。
眼を見開きながら、鼻を鳴らす。
「サジタリウスぅうう―――!!!」
短く伸縮を繰り返す魔剣の刃が、高速で解き放たれる。
あまりの速度により、周囲からはヴォールゾックの手元から刃の山が生えたように見える。
「それがどうしたぁぁああ!!」
ギデオンが銃を手に取り、素早く引き金をひく。
銃口から、放出されたのはいつもの魔弾ではない、黒炎だ。
ピストン運動を繰り返す刃が炎で焼かれる。
急いで消火しようとヴォールゾックは刃を振り回すが、消える気配は一向にない。
それも、そのはず。
ガルムの吐く炎は、闇属性魔法ダークフレイムそのものだ。
一度、引火したら聖法と呼ばれる魔法で清めない限り消える事のない呪いの炎である。
「チクショ――め。やってくれるな」
熱を帯びて、真っ赤に溶けていく刃先を地面に叩きつけへし折るヴォールゾック。
迫りくるギデオンの追撃にあわせ、男はニヤリと悪意の笑みをこぼした。
折れて半分ほどになった刃を遠くにむけて伸ばした。
眼の前の彼を無視して、非情なる一撃が放たれる。
「貴様ァアアア――!!」
ヴォールゾックを蹴り飛ばし、即座に後ろを振り返る。
ギデオンはその光景を見て血が流れ出るほど拳を握りしめていた。
彼が見たモノは、胴体を刃に貫かれ串刺しとなったエルフの戦士たちだった。
その中にはクロッサや彼女の兄もいた。
言葉にならない怒りが全身を駆け巡り、ギデオンは引き金を引いた。
その先にある物は、黒炎に焼かれ焼却される魔剣の残り半分だった。
「わ……私は…………何を? どうして……こんな場所に」
地面に横たわったまま、ヴォールゾックは首だけを起こした。
全身を震わせながら、力なく呟く彼のつぶらな瞳には一筋の光が射していた。
「アンタは魔剣に支配されていたんだろうな。魔剣が消えたおかげで正気を取り戻したようだな」
「そうか……私はもう……。すまない……名も知らぬ少年よ。そして、私を止めてくれた事に感謝する――――この償いは地獄で済ませることに……しよう。もっとも、赦さることなどないだろうが」
「お互いにな……祈りは無いが、今度こそ安らかに眠れ」
「その言葉だけで……充分だ。少年よ、まだだ! まだ、この戦は……おわ――――」
「何ぃ? この戦いがどう……くっ」
意味深な一言と共に、ヴォールゾックは永い眠りについた。
この救われない魂にしてあげられる事は、開ききったままの瞼を閉じてあげるぐらいだ。
彼の言葉が気になるも、ギデオンは負傷したエルフたちの元へと駆けよる。
わずかな希望を信じて。
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