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四十五話
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「……何、見てんだ! オラ!」
ギデが走り去った後、抜け殻のようになっていたダーヅが我を取り戻した。
さきほどまでの子犬ような大人しさはどこへやら、今更になって脅し文句を言ったところで怖がるはずもない。
威勢だけの男にフォルティエラは肩をすくめた。
「こんな奴に、我らの村が穢されるとはな。お前のような輩は断じて許せん」
「ふぁっ!? たかが、耳長ごときに何ができるんだ? あの男は規格外だったが、オメーならどうとでもなるわ」
「ほう、ならば試してやろう」
フォルティエラが背中の筒から、三本の矢を取り出した。
つかんだソレラを弓と合わせ、即座に射る。
三本の矢が、ダーヅめがけて飛んでいく。
狙いは正確なのに、矢は空をきって彼方に消えてゆく。
「無理無理無理。そんなんじゃ、俺に当てるなんざ百万年、早いわ。今度はこちらの番だ」
ダーヅが手にしていたモーニングスターを頭上にかかげて振り回す。
鎖つながれている棘つきの鉄球が激しく回転する。
メイスの一種であるモーニングスターの射程距離は短い。
それこそ遠距離の弓とは相性が最悪だ。
単純に比較すれば、ダーヅの方が分が悪い。
しかも、彼は肩幅が広く身体もしっかりとしているときた。
フォルティエラと距離を詰めるまで恰好の的になる。
しかし、それもスキル俊足持ちの彼からすれば造作もない事だ。
いくら、弓が達者なエルフであっても彼の速度を追い切れるほどの動体視力は持ち合わせていない。
「俊足! で一気にヒートアップだェぇぇ――!」
飛び交う矢と矢の合間をジグザクにすり抜けてゆく。
一寸の見切りも発動している。
「無駄のない動作に最短コースで鈍器をお届けに参りまーす!」
完全におちょくっているが、フォルティエラはだんまりを決め込みながら、矢を放ち続ける。
「ちっ……」彼女は軽く舌打ちした。
頼みの矢が尽きてしまった。
「捕まえたァ――」
目の前までダーヅが急接近してきた。
急ぎ、後方へ下がろうとするフォルティエラだが、左手首をつかまれ逃げる事が叶わない。
「放せ! その薄汚い手で私に触れるなぁ――!!」
「おほっ、よく見たらオメーなかなかの上玉じゃねぇーか!? 身体つきもエロイな~。どうだ? 俺の専属の奴隷にならないか? オメーも女なら、こんなシケた山の中じゃなくてよー。もっと華やかな、生活に憧れるだろう?」
「うるさい! お前ら、邪な人間はいつも、それだ!! エルフを奴隷や愛玩具のように扱いやがって……私たちにも意思があるんだ。心があるんだ! どうしてエルフの暮らしを破壊する? 何の権利で私たちをもてあそぶ――もう、たくさんだ。もう、飽き飽きだ。私たちは自由を得る! 人間が人間であるようにエルフもエルフであるべきなんだ。それは誰にも奪えないし奪わさせやしない!!」
パン! とフォルティエラの頬に平手打ちが飛ぶ。
無表情をしたダーヅの手。
それは左右交互に飛び交い、彼女の頬を赤く腫らす
「人間にこびなきゃ存在も危うい、オメーらが何を言ってんだ? 自由を与えても、森の中から出てこないだろうがよー。そんな引きこもりが意見なんて大そうなもん持つんじゃねぇー。俺たちはオメーらに意義を与えてやっているんだ。自分たちでは己の価値すら引き出せない、糞虫が! 人様に立てつくんじゃね――!」
「うわああああああ!!」
「があっ!」
フォルティエラがダーヅの顔面に頭突きをかました。
たまらず、彼が手を放し顔を押えていると足下に空になった瓶が転がってきた。
「力を借りるぞ、ギデ。私にはどうしてお前がエルフじゃないのか? 分からない。けれど、お前のことなら信じてやってもいい。だから……私にこの外道を打ち砕く力をくれ!」
溢れんばかりの魔力がフォルティエラの全身から噴き出してきた。
蜜酒の力により、肉体が吸収するマナの量が大幅に上昇してくる。
はち切れんばかりの魔力を魔法に変えて彼女は弓弦をひく。
途端、逆巻く風が弓の元に集まってきた。
周囲の空気と混ざり合う事で瞬く間に拡がってゆく。
それは暴風の塊となった魔法の矢だった。
「くっそ……って何なんだ……それは!!」
見たこともない風の塊に、ダーヅは絶叫した。
それがヤバイモノだとは考えなくとも理解できる彼は、一目散に踵を返し全速力で走り去ろうとする。
とめどなく肥大していく暴風が爆風へと変わる。
彼女の手元から射出された瞬間、地を削りながら村の外へと駆け抜ける。
爆風の渦が泣き叫ぶ。
オウウウウウウ――――っと生き物の悲鳴がごとく音を立て、逃げるダーヅを無情に追いかける。
「やめろ、やめろよ。来るな来るな来るな来るな来るな来るんじゃねぇえええええ!!!」
そのまま彼を飲み込むと空の彼方まで上がり自壊し消滅した。
魔力を出し尽くしたフォルティエラが顔を歪めて、その場で片膝をつく。
「これが、神酒の力なのか……何て、力なんだ……ギデ、お前は一体何者なんだ? 精霊王の生まれ変わりだとでもいうのか……?」
ギデのあずかり知らぬところで、新たなる信仰が生まれようとしていた。
ギデが走り去った後、抜け殻のようになっていたダーヅが我を取り戻した。
さきほどまでの子犬ような大人しさはどこへやら、今更になって脅し文句を言ったところで怖がるはずもない。
威勢だけの男にフォルティエラは肩をすくめた。
「こんな奴に、我らの村が穢されるとはな。お前のような輩は断じて許せん」
「ふぁっ!? たかが、耳長ごときに何ができるんだ? あの男は規格外だったが、オメーならどうとでもなるわ」
「ほう、ならば試してやろう」
フォルティエラが背中の筒から、三本の矢を取り出した。
つかんだソレラを弓と合わせ、即座に射る。
三本の矢が、ダーヅめがけて飛んでいく。
狙いは正確なのに、矢は空をきって彼方に消えてゆく。
「無理無理無理。そんなんじゃ、俺に当てるなんざ百万年、早いわ。今度はこちらの番だ」
ダーヅが手にしていたモーニングスターを頭上にかかげて振り回す。
鎖つながれている棘つきの鉄球が激しく回転する。
メイスの一種であるモーニングスターの射程距離は短い。
それこそ遠距離の弓とは相性が最悪だ。
単純に比較すれば、ダーヅの方が分が悪い。
しかも、彼は肩幅が広く身体もしっかりとしているときた。
フォルティエラと距離を詰めるまで恰好の的になる。
しかし、それもスキル俊足持ちの彼からすれば造作もない事だ。
いくら、弓が達者なエルフであっても彼の速度を追い切れるほどの動体視力は持ち合わせていない。
「俊足! で一気にヒートアップだェぇぇ――!」
飛び交う矢と矢の合間をジグザクにすり抜けてゆく。
一寸の見切りも発動している。
「無駄のない動作に最短コースで鈍器をお届けに参りまーす!」
完全におちょくっているが、フォルティエラはだんまりを決め込みながら、矢を放ち続ける。
「ちっ……」彼女は軽く舌打ちした。
頼みの矢が尽きてしまった。
「捕まえたァ――」
目の前までダーヅが急接近してきた。
急ぎ、後方へ下がろうとするフォルティエラだが、左手首をつかまれ逃げる事が叶わない。
「放せ! その薄汚い手で私に触れるなぁ――!!」
「おほっ、よく見たらオメーなかなかの上玉じゃねぇーか!? 身体つきもエロイな~。どうだ? 俺の専属の奴隷にならないか? オメーも女なら、こんなシケた山の中じゃなくてよー。もっと華やかな、生活に憧れるだろう?」
「うるさい! お前ら、邪な人間はいつも、それだ!! エルフを奴隷や愛玩具のように扱いやがって……私たちにも意思があるんだ。心があるんだ! どうしてエルフの暮らしを破壊する? 何の権利で私たちをもてあそぶ――もう、たくさんだ。もう、飽き飽きだ。私たちは自由を得る! 人間が人間であるようにエルフもエルフであるべきなんだ。それは誰にも奪えないし奪わさせやしない!!」
パン! とフォルティエラの頬に平手打ちが飛ぶ。
無表情をしたダーヅの手。
それは左右交互に飛び交い、彼女の頬を赤く腫らす
「人間にこびなきゃ存在も危うい、オメーらが何を言ってんだ? 自由を与えても、森の中から出てこないだろうがよー。そんな引きこもりが意見なんて大そうなもん持つんじゃねぇー。俺たちはオメーらに意義を与えてやっているんだ。自分たちでは己の価値すら引き出せない、糞虫が! 人様に立てつくんじゃね――!」
「うわああああああ!!」
「があっ!」
フォルティエラがダーヅの顔面に頭突きをかました。
たまらず、彼が手を放し顔を押えていると足下に空になった瓶が転がってきた。
「力を借りるぞ、ギデ。私にはどうしてお前がエルフじゃないのか? 分からない。けれど、お前のことなら信じてやってもいい。だから……私にこの外道を打ち砕く力をくれ!」
溢れんばかりの魔力がフォルティエラの全身から噴き出してきた。
蜜酒の力により、肉体が吸収するマナの量が大幅に上昇してくる。
はち切れんばかりの魔力を魔法に変えて彼女は弓弦をひく。
途端、逆巻く風が弓の元に集まってきた。
周囲の空気と混ざり合う事で瞬く間に拡がってゆく。
それは暴風の塊となった魔法の矢だった。
「くっそ……って何なんだ……それは!!」
見たこともない風の塊に、ダーヅは絶叫した。
それがヤバイモノだとは考えなくとも理解できる彼は、一目散に踵を返し全速力で走り去ろうとする。
とめどなく肥大していく暴風が爆風へと変わる。
彼女の手元から射出された瞬間、地を削りながら村の外へと駆け抜ける。
爆風の渦が泣き叫ぶ。
オウウウウウウ――――っと生き物の悲鳴がごとく音を立て、逃げるダーヅを無情に追いかける。
「やめろ、やめろよ。来るな来るな来るな来るな来るな来るんじゃねぇえええええ!!!」
そのまま彼を飲み込むと空の彼方まで上がり自壊し消滅した。
魔力を出し尽くしたフォルティエラが顔を歪めて、その場で片膝をつく。
「これが、神酒の力なのか……何て、力なんだ……ギデ、お前は一体何者なんだ? 精霊王の生まれ変わりだとでもいうのか……?」
ギデのあずかり知らぬところで、新たなる信仰が生まれようとしていた。
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