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三十話
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「おわあああ――!! てめら、何ビビってやがる。このままだと、ボスにぶっ殺されっぞ」
「そうだ、あの野郎が爆発の中から涼しい顔して出てきたのもトリックか、何かだろよ!」
ギデオンの圧に一度は屈したゴロツキ共。
その中にも気骨がある奴らが数人いた。
彼らは瓦解しかけた集団を、奮起させ辛うじて態勢を整えた。
一陣の夜風舞う中、ギデオンとゴロツキたちの抗争は幕を開けた。
連中は認めたくなかった。
たった一人のシャバ増に身震いしてしまったことを。
中には、たまらず股間を湿らせてしまった者もいた。
この落とし前、どうつけさせようかと悪党の意地でも見せつけてやろうとしたのだろう。
我先にとギデオンのところへ駆けてゆく。
「やはり、万策尽きていたか」とギデオンはため息をつく。
数の暴力に訴え、突っ込んでくるゴロツキたちに何の策もない事は明白だった。
むしろ、勢いだけでどうにかしようとしている者すらいる。
必死になり、よだれを垂しながら走っている。
魔法陣のトラップで、カタがつくと決め込んでいたのだろう。
万が一への対処を怠ったツケを払うカタチとなった。
「意趣返しだ。罠には罠を、ハイドエンドシーク!」
ギデオンのそばに迫ってきた悪漢たちの足下から、突然黒炎が吹き荒れた。
直後、渦を巻きながら一同を焼き払おうとハリケーンがごとく強襲を開始した。
「駄目だぁあああ! こりゃぁああああ!」たちまち悲鳴をあげる悪漢たち。
ギデオンが黒炎の渦を魔力操作しゴロツキたちを追走する。
瞬く間に攻守逆転、彼らは満身創痍になるまで地獄のマラソンを続けさせられた――――
「ううっ……終わらない」
「誰が、手を休めて良いと言った!」
「ですが、旦那。一体、いくつ穴を掘ればいいんですかい?」
「お前たち数名をのぞいた、全員分だ」
翌朝になり、人攫いをしたゴロツキたちに罰が与えられた。
ギデオンによる、ステータスの開示で奴らの犯罪履歴を探る。
判断基準は至ってシンプルだ。
過去に女性を襲ったか? どうかで白黒を決める。
もし、一度でもその悪事に手を染めていたのなら地中に首から下を埋める事になる。
検査の結果、二十三人中、白だったのはたったの五人だった。
他、十八人は生き埋め決定、地中で養分を吸収し成長してもらう。
その為の穴を白だった男たちに掘らせている。
ギデオンが情状酌量の余地を彼らに与えたのは、いくつか理由がある。
人手が欲しかった事。
島内で大きな騒ぎを起こすのは時期尚早だった事。
そして、立場や身柄で全てを決めつけるのは都で暮らす、上流階級の連中と何ら変わらないからだ。
かつて組み込まれていた枠組みに、もう縛られたくなかったのだ。
ともあれ、白も罪人ではある。
事情聴衆を執り行わなければならない。
ギデオンは五人の中で一番、物怖じしていない男を呼んだ。
「で、俺に何を訊く気だ? 話すことはないと思うぜ」
「いや、アンタだ。適任なのはアンタしかいない」
「そりゃ、どーも……話したら見逃してくれるか?」
さすがに神経が図太いだけある。
この様な事態に発展しても自己保身だけを考えている。
ギデオンは首を横に振った。
「無駄口を叩くつもりはない。さっさと雇い主が誰か教えろ!」
「……フリードマンだ。俺たちにエルフを誘拐してこいと命じたのは、奴隷商人なんかじゃない! エンデリデ島の大王こと、エルケリッヒ・フリードマンだ」
「大王? 領主じゃないのか?」
「エンデリデ島は、今でこそ聖王国の一部だが元は先住民族が支配する独立国家だった。半世紀以上前のドニーク海戦で聖王国に敗れ、従属するかたちで吸収合併されたんだ。だから、今でも王族の子孫一族が島を管理し幅を利かせている」
「アンタは地元民なのか? どうして大王とやらはエルフを求めている?」
「ふん。俺にはアイツらが何を考えているのか分からんわ。確かに、エルフは高値で取引されるが大王がさらえと命じた事は今まで一度もなかったわ」
「もう一つだけ訊く。アンタたちのボスはどこにいる? ここに居ないのは知っているぞ」
「うっ……それは。それだけは口が裂けてもいえねえぇええ」
「見上げた忠誠心だな……まぁ、貴様らの仲間を生き埋めにするんだ。何れ、向こうの方から仕掛けてくるさ」
「悪魔か……てめえ。そもそも、てめえは人を裁けるほど清廉潔白な人間かよ! 聖人でもないくせに何の権限で、こんな真似をしているんだ?」
「違う。違うぞ、罪の重さを量るのは、罪を知る者にしかできない。それに人を裁く行為は神々の領域に手を出す事に等しい、それこそ神の僕たる聖人には不可能な事だ」
「じゃあ、お前は神に喧嘩をふっかけているんだな!」
「残念だがそれも違う。僕は神の代理としてこの地に派遣されたんだ」
彼の一言にゴロツキの男は俯きながら小さく笑っていた。
当然ながら、男は神を信じていない。
そんな自分がまるで信徒ような台詞を吐き、相手は神の御使いだと断言した。
これ以上、おかしな話があろうものか。
「旦那! 全員、埋め終わりました」
取り調べが終わる頃合いを見計らい、穴を掘らせていた糸目の男が報告にやってきた。
「分かった。お前たちは奴隷の娘たちをスリィツゥギルドに引き渡せ、できなかったらボスの命はないと思え!」
「そこまで、するんですか……アッシら捕まっちまいますよ」
「それは無いだろ? さてと、僕のメッセージは上に届くかな? 結果が楽しみだ」
「そうだ、あの野郎が爆発の中から涼しい顔して出てきたのもトリックか、何かだろよ!」
ギデオンの圧に一度は屈したゴロツキ共。
その中にも気骨がある奴らが数人いた。
彼らは瓦解しかけた集団を、奮起させ辛うじて態勢を整えた。
一陣の夜風舞う中、ギデオンとゴロツキたちの抗争は幕を開けた。
連中は認めたくなかった。
たった一人のシャバ増に身震いしてしまったことを。
中には、たまらず股間を湿らせてしまった者もいた。
この落とし前、どうつけさせようかと悪党の意地でも見せつけてやろうとしたのだろう。
我先にとギデオンのところへ駆けてゆく。
「やはり、万策尽きていたか」とギデオンはため息をつく。
数の暴力に訴え、突っ込んでくるゴロツキたちに何の策もない事は明白だった。
むしろ、勢いだけでどうにかしようとしている者すらいる。
必死になり、よだれを垂しながら走っている。
魔法陣のトラップで、カタがつくと決め込んでいたのだろう。
万が一への対処を怠ったツケを払うカタチとなった。
「意趣返しだ。罠には罠を、ハイドエンドシーク!」
ギデオンのそばに迫ってきた悪漢たちの足下から、突然黒炎が吹き荒れた。
直後、渦を巻きながら一同を焼き払おうとハリケーンがごとく強襲を開始した。
「駄目だぁあああ! こりゃぁああああ!」たちまち悲鳴をあげる悪漢たち。
ギデオンが黒炎の渦を魔力操作しゴロツキたちを追走する。
瞬く間に攻守逆転、彼らは満身創痍になるまで地獄のマラソンを続けさせられた――――
「ううっ……終わらない」
「誰が、手を休めて良いと言った!」
「ですが、旦那。一体、いくつ穴を掘ればいいんですかい?」
「お前たち数名をのぞいた、全員分だ」
翌朝になり、人攫いをしたゴロツキたちに罰が与えられた。
ギデオンによる、ステータスの開示で奴らの犯罪履歴を探る。
判断基準は至ってシンプルだ。
過去に女性を襲ったか? どうかで白黒を決める。
もし、一度でもその悪事に手を染めていたのなら地中に首から下を埋める事になる。
検査の結果、二十三人中、白だったのはたったの五人だった。
他、十八人は生き埋め決定、地中で養分を吸収し成長してもらう。
その為の穴を白だった男たちに掘らせている。
ギデオンが情状酌量の余地を彼らに与えたのは、いくつか理由がある。
人手が欲しかった事。
島内で大きな騒ぎを起こすのは時期尚早だった事。
そして、立場や身柄で全てを決めつけるのは都で暮らす、上流階級の連中と何ら変わらないからだ。
かつて組み込まれていた枠組みに、もう縛られたくなかったのだ。
ともあれ、白も罪人ではある。
事情聴衆を執り行わなければならない。
ギデオンは五人の中で一番、物怖じしていない男を呼んだ。
「で、俺に何を訊く気だ? 話すことはないと思うぜ」
「いや、アンタだ。適任なのはアンタしかいない」
「そりゃ、どーも……話したら見逃してくれるか?」
さすがに神経が図太いだけある。
この様な事態に発展しても自己保身だけを考えている。
ギデオンは首を横に振った。
「無駄口を叩くつもりはない。さっさと雇い主が誰か教えろ!」
「……フリードマンだ。俺たちにエルフを誘拐してこいと命じたのは、奴隷商人なんかじゃない! エンデリデ島の大王こと、エルケリッヒ・フリードマンだ」
「大王? 領主じゃないのか?」
「エンデリデ島は、今でこそ聖王国の一部だが元は先住民族が支配する独立国家だった。半世紀以上前のドニーク海戦で聖王国に敗れ、従属するかたちで吸収合併されたんだ。だから、今でも王族の子孫一族が島を管理し幅を利かせている」
「アンタは地元民なのか? どうして大王とやらはエルフを求めている?」
「ふん。俺にはアイツらが何を考えているのか分からんわ。確かに、エルフは高値で取引されるが大王がさらえと命じた事は今まで一度もなかったわ」
「もう一つだけ訊く。アンタたちのボスはどこにいる? ここに居ないのは知っているぞ」
「うっ……それは。それだけは口が裂けてもいえねえぇええ」
「見上げた忠誠心だな……まぁ、貴様らの仲間を生き埋めにするんだ。何れ、向こうの方から仕掛けてくるさ」
「悪魔か……てめえ。そもそも、てめえは人を裁けるほど清廉潔白な人間かよ! 聖人でもないくせに何の権限で、こんな真似をしているんだ?」
「違う。違うぞ、罪の重さを量るのは、罪を知る者にしかできない。それに人を裁く行為は神々の領域に手を出す事に等しい、それこそ神の僕たる聖人には不可能な事だ」
「じゃあ、お前は神に喧嘩をふっかけているんだな!」
「残念だがそれも違う。僕は神の代理としてこの地に派遣されたんだ」
彼の一言にゴロツキの男は俯きながら小さく笑っていた。
当然ながら、男は神を信じていない。
そんな自分がまるで信徒ような台詞を吐き、相手は神の御使いだと断言した。
これ以上、おかしな話があろうものか。
「旦那! 全員、埋め終わりました」
取り調べが終わる頃合いを見計らい、穴を掘らせていた糸目の男が報告にやってきた。
「分かった。お前たちは奴隷の娘たちをスリィツゥギルドに引き渡せ、できなかったらボスの命はないと思え!」
「そこまで、するんですか……アッシら捕まっちまいますよ」
「それは無いだろ? さてと、僕のメッセージは上に届くかな? 結果が楽しみだ」
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