上 下
11 / 43

第10話 エミリオの隠された秘密

しおりを挟む
 ティアナの話を聞いて、俺は当初の予定通りエミリオを最初のターゲットにした。
 あいつだけ、ティアナの傍に居る理由が違うのが妙に気になった。
 残りの三人は、少なからずティアナに好意を持っているのが分かった。
 互いに牽制させておけば、滅多な真似はしなさそうだが、エミリオだけは何をしでかすか分からない危険さがあった。

 そしてティアナが気に病むサンドリア様の事もある。彼女と拗れた関係を修復するには、何らかの形でエミリオから働きかけてもらわねばどうしようもないのが現状だった。

 翌日の放課後、俺はティアナに中庭に居るようお願いして、あの四人をその場所に誘導してもらった。
 どこにいるのか探す所から始めるから見つからない。それならば最初に呼び寄せて、その時点でマークして尾行するのが何倍も効率的だ。
 俺はピースケにエミリオを覚えさせ、見失わないように彼の後をつけさせた。
 エミリオは園芸部に所属しているようで、そこに顔を出した後、温室のハーブの様子を観察していた。
 その時、鋭い眼光でエミリオがコチラを見た。正確に言うと、ピースケを見たのだ。

「こんな所に迷い込んでくるなんて珍しいね。出口まで案内してあげるよ。おいで」

 エミリオはピースケに向かって声をかけた。
 ピースケはフルフルと首を左右に振って拒絶を示す。

「困ったな。ここの植物を荒らされると困るんだ……」

 俺はピースケに指示を出す。エミリオに懐いているフリをしてくれと。
 すると賢いピースケはエミリオの肩にとまり、スリスリと頬に頭を寄せて構ってくれとアピールをし始めた。

「あはは、くすぐったいよ。君、可愛いね」

 これは好感触。いいぞ、ピースケもっとやれ。
 ピースケの頑張りの結果、見事にエミリオを陥落させたピースケはその場にいる事を許された。
 一通り水やりを終えたエミリオは、何種類かハーブを採取して研究室へ移動した。
 ピースケもすかさずエミリオの肩に乗ってもぐりこむ。

「君も興味があるの? 仕方ないな、特別だよ?」

 何の疑いを持つことなく、エミリオはピースケの入室を許可した。恐るべし、ピースケの愛らしさパワー。
 上から白衣を羽織ったエミリオは、フラスコに何かの液体を注ぎ、先ほど採取した数種類のハーブを入れて軽く振ってる。
 何を作っているのか探りたくて、ピースケにフラスコをのぞき込むよう指示を出す。

「あっ、だめだよ……」

 エミリオの腕を軽快なステップでピョンピョンと飛ぶピースケの動きがくすぐったかったようで、エミリオは持っていたフラスコを傾けてしまった。そのせいで、エミリオのシャツとズボンが濡れてしまった。

 ピースケ、反省だ。反省!

「ピー、ピー」

 ごめんなさいと、ピースケに悲しそうな声を出させる。

「大丈夫、怒ってないよ。でもくすぐったいから何か持ってる時はやめてね」

 エミリオ……以外にも動物には優しい奴だったようだ。
 着ていた白衣を椅子の背にかけると、ロッカーから着替えを取り出したエミリオは、その場で来ていたシャツとズボンを脱いだ。
 その光景を見た瞬間、俺は絶句した。
 なぜかと言えば、男として見てはいけないものをみてしまったからだ。

 女顔でそこまで身長は高くないし、華奢な体系をしていると思っていた。
 白い布がぐるぐると巻かれて押し潰されている胸元には、隠しきれない膨らみがあった。そこから下に伸びる引き締まったくびれのあるウエスト。露わになった体系は、明らかに男のものではなかった。
 エミリオが着替え終わるまで、慌てて俺は視界の共有を遮断した。

 あいつ、女だったのか?!

 いや、双子の妹が居るとゲルマンもティアナも言っていた。
 つまりあいつは、そもそもエミリオじゃなくて、病に伏せているという双子の妹エレインじゃないのか?!

 思わぬ所でエミリオの秘密を掴んだ俺は、ピースケに撤退命令を出した。

 その日の夜、俺は悩んでいた。
 やっと掴んだ秘密だが、それがあまりにも予想外すぎて扱いに困っていたのだ。
 そもそも女のアイツに何のメリットがあってティアナに付きまとっていたのか。
 そっち系の趣味なのかとも思ったが、普段見かけるエミリオはどう見ても男そのものだった。

 ティアナには付きまとう癖に、婚約者のサンドリアとは距離を置く。
 その理由は……自分の正体が女(エレイン)だとバレないための措置なんじゃないだろうか。
 サンドリアと親しくしていたのなら、近くで接すれば正体がバレる確率が高い。

 女だと悟られないようするのに一番の誤魔化しは、女を追いかけまわす事。
 そうすれば、誰もアイツが双子の妹エレインだと思わないだろう。
 そうして追い掛け回すには、余計な揉め事を避けるために、自分に興味を持たない相手が好ましい。
 ハイネルとシリウスに追い掛け回され、かつサンドリアと親しくしていたティアナが、最適だったのだろう。
 自分より身分の高い者が執拗に追い掛け回している故、好意を持たれにくい。
 その上、懇意にしている友人の婚約者という立場がある。
 絶対にティアナが自分に好意を抱く事はない。そう計算の上での行動だったのだと言えば説明がつく。

 何らかの理由で、エミリオとエレインが入れ替わらければならない理由があったんだろう。
 異なる姓で生活せざるを得ない大変さは、正直同情する。
 しかしだからといって、ティアナを巻き込むのは許せない。

 お貴族様の身勝手な事情に、俺の大切な幼馴染を巻き込むな!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...