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第9話 エリート集団に囲まれた理由②(ティアナ視点)
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最初は頼りになったレオンハルト様だけど、その日からどこかで頭を打たれたんじゃないかと逆に心配になるくらい変な行動をされるようになった。
私がマスコットを落とす確率より、他に危険な事は一杯あると思う。それなのに、何故やたらとそればかりを気になさるのか理解できなくなっていた。
その事を再度お伝えすると、レオンハルト様の真剣さにやはり私の方が間違っていたような気がして結局折れてしまうのだ。
だったら一層、このマスコットを預かってもらってたらいいんじゃないかという結論に思い至り、私はそれをレオンハルト様にお渡しした。
「そういう事なら仕方ない。俺が預かっておこう」
ものすごい破顔されてマスコットを受け取られた。
このマスコットが欲しかっただけなのだろうかと一瞬思ったが、あのレオンハルト様に限ってまさか。そんな事はないだろうと初めは思った。けれど私が新作を作る度に、鋭い視線が私の作ったマスコットに飛んできて、レオンハルト様の口元が時折にやけている。
ただ、可愛いものが好きなだけの人なのかもしれないと思いつつも、恐れ多くてその話題に触れることは出来なかった。
こうして気が付けば、私は四人のエリート集団に囲まれるようになっていた。
「ティアナ、今帰りか?」
第一王子のハイネル様が、優しい笑顔を浮かべて話しかけて下さる。
「殿下! 約束も取り付けずにティアナに会いに行ってはダメだと何度も言っているでしょう! 彼女の都合も考えてえあげて下さい!」
その横で、リヒテンシュタイン侯爵家のシリウス様がハイネル様によく注意なされている。
「ちょっと君達、うるさいよ。大きな声をあげるとティアナがびっくりするでしょう? ティアナ、君はこちらへおいで」
無邪気な笑みを浮かべて私を自身の方へ手招きなさるのは、テオドール公爵家のエミリオ様だ。
「騒ぐな! 騒々しい! 散れ! 貴重なティアナの時間を、お前達に割くのは勿体ない!」
そんな三人をローレンツ公爵家のレオンハルト様が追い払おうとされている。
「レオン、君こそうるさいよ」
そしてハイネル様にたしなめられ、レオンハルト様が反論なされている。
「ハイネル、表に出ろ。久しぶりに手合わせだ」
「いいだろう。どうせ私が勝つだろうし」
あの二人を見ていると、ダリウスとルーカスを思い出すななんて思える程には、私は彼らの事が分かるようになってしまっていた。
これ以上目立つのはごめんだし、今のうちに逃げよう。そう思っても――
「むさ苦しいのは勝手に競わせて、僕等はこっちでお茶でもしよう」
「そうですね。ティアナ、貴方は何になさいますか?」
シリウス様とエミリオ様が逃がしてくれない。
「いえ、私はこの後用事があるので……」
「それって僕たちの誘いを断ってまでやらなければいけない、大切な用事なの?」
天使のような笑みを浮かべて、悪魔のような事を聞いてくるエミリオ様。
最近気づいた事だけど、この方結構腹黒だ。サンドリア様にばらしたい。今すぐその本性をばらしたい。騙されないでと声を大にして教えたい。でもそれが出来ないもどかしさ……
「いえ、それは……」
「だったらいいよね。さぁ、こちらへおいで」
「……はい」
結局、従うしかなかった。
彼等と共にすることでこちらに向けられる、悲しみの込もった視線が私に突き刺さる。
婚約者がいらっしゃるのに、どうしてこのお方たちは私の周りに集まってくるのだろう。
そっとしておいてほしい。そう思って、やんわりとお伝えしても取り合ってもらえない。
「アリーシャは父上が決めた婚約者なだけだ。私は其方と共に在りたい」とハイネル様は主張される。
「ユリアは私に興味がないから大丈夫だよ。それより私は、君に大変興味がある。よかったら今度、私の部屋へ来ないか? 君にも私の事を知って欲しい」とシリウス様は主張される。
「サンドリアには慎みを持ってもらわないといけないから、今は距離をおいてるんだ。盛った馬鹿達がやらかさないように、僕は見張っているだけだよ。遊びながらね」とエミリオ様は主張される。
「ヘンリエッタは理解があるから大丈夫だ。それよりも、俺は少しでも長くお前の(作ったマスコットの)傍に居たい。今度、遊びに行っても良いか?」とレオンハルト様は主張される。
ハイネル様は、言葉が足りなさすぎて周囲に誤解を与えかねないから困るのよね。
シリウス様は、二人きりになると正直なんか身の危険を感じる。
別の意味で、エミリオ様と二人になるのも怖い。
レオンハルト様と二人になると、余計な失言をして怒らせてしまわないかとヒヤヒヤする。
結局、それならこうやって四人まとまっておられる方が安全な気がしていた。
身分相応の何気ない毎日がとても幸せなことだったのだと、最近身に染みてよく分かった。
スノーリーフ村で過ごした懐かしい日々を思い出しては、もう戻れない現実に苦しくなる。
たとえ妹扱いしかしてくれなかったとしても、あの時はすぐ近くにダリウスが居てくれた。いつも私を守ってくれた。
でも、今は違う。
ダリウスが守るのは、アリーシャ様。
後見を受けているから恩義があるのは分かってる。でもそれだけじゃないとすぐに分かった。
アリーシャ様が悲しそうにされているのを、ダリウスが遮るようにして気を遣いながらその場から連れ出していく。
守るように慈しむように、アリーシャ様に注がれるその熱のこもった眼差しが、羨ましくて仕方なかった。
真実を話してダリウスに助けを求めたら、助けてくれるだろうか。優しい彼はきっと手を差し伸べてくれるだろう。
でもそれは、ダリウスの将来をダメにしてしまう危険が伴っていた。ダリウスの夢は騎士になること。ここで王族と上位貴族であるあの四人に逆らえば、その夢が絶たれてしまうかもしれない。それだけは出来なかった。
あの四人に逆らえる者なんて、この学園には居ない。教師でさえ、注意する事が出来ない。
籠に入れられた鳥のように、飼い主が構いたい時だけ構われて、それ以外は放置される。それを見計らって、籠の外から嫌なものを投げつけられる。だけど、姿を隠しているから誰がしているのか分からない。
逃げ出したいと思っても、頑丈に施錠された扉を開けることが出来ない。そんな私に救いの手を差し伸べてくれる人は、誰も居なかった。
いつまでこんな生活が続くのだろう。はやく卒業して独り立ちしたい。
そんな私に転機が訪れたのは、一つ年下の幼馴染ルーカスが入学してからだった。
あの四人に囲まれた私に、臆することなく声をかけてくれた。連れ出そうと手を伸ばしてくれた事が、嬉しくして仕方なかった。
背伸びして、いつも私を守るんだと小さな体で大きく手を伸ばして守ってくれた可愛いナイト。
結局その前に立ったダリウスが、いつも私達を守ってくれたけど、いつもルーカスは率先して私を庇うように危険に立ち向かってくれた。
微笑ましい弟のような存在の幼馴染みだった。
私の事情に、大切な幼馴染みを巻き込むわけにはいかない。ルーカスに危険が及ぶのを危惧して、私はその手を取ることができなかった。
悔しそうに顔を歪めたルーカスに「ごめんなさい」と心の中で謝る事しかできなかった。
それでも彼は、私を見捨てなかった。
暗闇に閉じ込められて、恐怖で震えていた私を助けてくれた。
久しぶりに近くでよく見たルーカスは、私よりも頭一つ分、背が伸びていた。
あどけなさを残した少年から、大人の仲間入り間近の青年へと男らしく成長していた。
昔のように飛びついてしまった事が急に恥ずかしくなって、声をかけられて慌てて離れた。
それからしばらく、ドキドキとうるさくなる胸の鼓動を、中々抑えられなかった。
私がマスコットを落とす確率より、他に危険な事は一杯あると思う。それなのに、何故やたらとそればかりを気になさるのか理解できなくなっていた。
その事を再度お伝えすると、レオンハルト様の真剣さにやはり私の方が間違っていたような気がして結局折れてしまうのだ。
だったら一層、このマスコットを預かってもらってたらいいんじゃないかという結論に思い至り、私はそれをレオンハルト様にお渡しした。
「そういう事なら仕方ない。俺が預かっておこう」
ものすごい破顔されてマスコットを受け取られた。
このマスコットが欲しかっただけなのだろうかと一瞬思ったが、あのレオンハルト様に限ってまさか。そんな事はないだろうと初めは思った。けれど私が新作を作る度に、鋭い視線が私の作ったマスコットに飛んできて、レオンハルト様の口元が時折にやけている。
ただ、可愛いものが好きなだけの人なのかもしれないと思いつつも、恐れ多くてその話題に触れることは出来なかった。
こうして気が付けば、私は四人のエリート集団に囲まれるようになっていた。
「ティアナ、今帰りか?」
第一王子のハイネル様が、優しい笑顔を浮かべて話しかけて下さる。
「殿下! 約束も取り付けずにティアナに会いに行ってはダメだと何度も言っているでしょう! 彼女の都合も考えてえあげて下さい!」
その横で、リヒテンシュタイン侯爵家のシリウス様がハイネル様によく注意なされている。
「ちょっと君達、うるさいよ。大きな声をあげるとティアナがびっくりするでしょう? ティアナ、君はこちらへおいで」
無邪気な笑みを浮かべて私を自身の方へ手招きなさるのは、テオドール公爵家のエミリオ様だ。
「騒ぐな! 騒々しい! 散れ! 貴重なティアナの時間を、お前達に割くのは勿体ない!」
そんな三人をローレンツ公爵家のレオンハルト様が追い払おうとされている。
「レオン、君こそうるさいよ」
そしてハイネル様にたしなめられ、レオンハルト様が反論なされている。
「ハイネル、表に出ろ。久しぶりに手合わせだ」
「いいだろう。どうせ私が勝つだろうし」
あの二人を見ていると、ダリウスとルーカスを思い出すななんて思える程には、私は彼らの事が分かるようになってしまっていた。
これ以上目立つのはごめんだし、今のうちに逃げよう。そう思っても――
「むさ苦しいのは勝手に競わせて、僕等はこっちでお茶でもしよう」
「そうですね。ティアナ、貴方は何になさいますか?」
シリウス様とエミリオ様が逃がしてくれない。
「いえ、私はこの後用事があるので……」
「それって僕たちの誘いを断ってまでやらなければいけない、大切な用事なの?」
天使のような笑みを浮かべて、悪魔のような事を聞いてくるエミリオ様。
最近気づいた事だけど、この方結構腹黒だ。サンドリア様にばらしたい。今すぐその本性をばらしたい。騙されないでと声を大にして教えたい。でもそれが出来ないもどかしさ……
「いえ、それは……」
「だったらいいよね。さぁ、こちらへおいで」
「……はい」
結局、従うしかなかった。
彼等と共にすることでこちらに向けられる、悲しみの込もった視線が私に突き刺さる。
婚約者がいらっしゃるのに、どうしてこのお方たちは私の周りに集まってくるのだろう。
そっとしておいてほしい。そう思って、やんわりとお伝えしても取り合ってもらえない。
「アリーシャは父上が決めた婚約者なだけだ。私は其方と共に在りたい」とハイネル様は主張される。
「ユリアは私に興味がないから大丈夫だよ。それより私は、君に大変興味がある。よかったら今度、私の部屋へ来ないか? 君にも私の事を知って欲しい」とシリウス様は主張される。
「サンドリアには慎みを持ってもらわないといけないから、今は距離をおいてるんだ。盛った馬鹿達がやらかさないように、僕は見張っているだけだよ。遊びながらね」とエミリオ様は主張される。
「ヘンリエッタは理解があるから大丈夫だ。それよりも、俺は少しでも長くお前の(作ったマスコットの)傍に居たい。今度、遊びに行っても良いか?」とレオンハルト様は主張される。
ハイネル様は、言葉が足りなさすぎて周囲に誤解を与えかねないから困るのよね。
シリウス様は、二人きりになると正直なんか身の危険を感じる。
別の意味で、エミリオ様と二人になるのも怖い。
レオンハルト様と二人になると、余計な失言をして怒らせてしまわないかとヒヤヒヤする。
結局、それならこうやって四人まとまっておられる方が安全な気がしていた。
身分相応の何気ない毎日がとても幸せなことだったのだと、最近身に染みてよく分かった。
スノーリーフ村で過ごした懐かしい日々を思い出しては、もう戻れない現実に苦しくなる。
たとえ妹扱いしかしてくれなかったとしても、あの時はすぐ近くにダリウスが居てくれた。いつも私を守ってくれた。
でも、今は違う。
ダリウスが守るのは、アリーシャ様。
後見を受けているから恩義があるのは分かってる。でもそれだけじゃないとすぐに分かった。
アリーシャ様が悲しそうにされているのを、ダリウスが遮るようにして気を遣いながらその場から連れ出していく。
守るように慈しむように、アリーシャ様に注がれるその熱のこもった眼差しが、羨ましくて仕方なかった。
真実を話してダリウスに助けを求めたら、助けてくれるだろうか。優しい彼はきっと手を差し伸べてくれるだろう。
でもそれは、ダリウスの将来をダメにしてしまう危険が伴っていた。ダリウスの夢は騎士になること。ここで王族と上位貴族であるあの四人に逆らえば、その夢が絶たれてしまうかもしれない。それだけは出来なかった。
あの四人に逆らえる者なんて、この学園には居ない。教師でさえ、注意する事が出来ない。
籠に入れられた鳥のように、飼い主が構いたい時だけ構われて、それ以外は放置される。それを見計らって、籠の外から嫌なものを投げつけられる。だけど、姿を隠しているから誰がしているのか分からない。
逃げ出したいと思っても、頑丈に施錠された扉を開けることが出来ない。そんな私に救いの手を差し伸べてくれる人は、誰も居なかった。
いつまでこんな生活が続くのだろう。はやく卒業して独り立ちしたい。
そんな私に転機が訪れたのは、一つ年下の幼馴染ルーカスが入学してからだった。
あの四人に囲まれた私に、臆することなく声をかけてくれた。連れ出そうと手を伸ばしてくれた事が、嬉しくして仕方なかった。
背伸びして、いつも私を守るんだと小さな体で大きく手を伸ばして守ってくれた可愛いナイト。
結局その前に立ったダリウスが、いつも私達を守ってくれたけど、いつもルーカスは率先して私を庇うように危険に立ち向かってくれた。
微笑ましい弟のような存在の幼馴染みだった。
私の事情に、大切な幼馴染みを巻き込むわけにはいかない。ルーカスに危険が及ぶのを危惧して、私はその手を取ることができなかった。
悔しそうに顔を歪めたルーカスに「ごめんなさい」と心の中で謝る事しかできなかった。
それでも彼は、私を見捨てなかった。
暗闇に閉じ込められて、恐怖で震えていた私を助けてくれた。
久しぶりに近くでよく見たルーカスは、私よりも頭一つ分、背が伸びていた。
あどけなさを残した少年から、大人の仲間入り間近の青年へと男らしく成長していた。
昔のように飛びついてしまった事が急に恥ずかしくなって、声をかけられて慌てて離れた。
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