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第八話 公爵令嬢はただ穏やかに過ごしたい
しおりを挟む「クロエ、調子はどうだ?」
スティーブは、あれから度々、クロエの見舞いに訪れていた。
悪魔の呪いは、かけられた本人に気取られると、解けなくなる。だから、クロエは自身の身体を蝕むものが呪いだとは、知らない。
スティーブが呪いを解く方法を調べ、準備を始めてから、ひと月近くが経過していた。
「殿下……」
クロエは、前回会った時よりも痩せ細っていた。
それでも仮面を外さないクロエの微笑みに、スティーブの心は、ぎゅっと締め付けられる。
「今日は君の好きな花を持ってきたよ」
「……覚えていてくださったのですか」
「もちろんだ」
クロエとスティーブが婚約を結んだときのこと。
スティーブは、このエンゼルランプの花をクロエに渡し、こう言ったのだ。
――これから一生、命を賭して君を守ると約束する。
「……私は、君を守ると約束したのに。結局、自らの心の弱さにつけ込まれて、君をこんな目に。君を、ひどく傷つけて……全て私のせいだ」
「殿下。私の病気は、殿下のせいではありませんわ」
スティーブは、悲しげに首を横に振るだけ。
クロエは、浮かべていた微笑みを消すと、スティーブにひとつ、お願いをした。
「殿下。お願いがございます」
「何だ?」
クロエの真剣な表情に、スティーブの心臓は、どくどくと嫌な音を立てる。
「もう……ここには来ないでください」
隠すこともなくつらそうな表情をして、クロエは、静かにそう言った。
スティーブは、焦って彼女に問う。
「……っ、何故だ?」
「殿下には、アメリア様がいらっしゃいます。想い人が、別の女性の元に通うなど……彼女には耐えられませんでしょう」
「クロエ、アメリアとは何もないんだ。私は、あの悪女に騙されて――」
「殿下。一度でも好いた女性のことを、悪く言うものではございませんよ」
クロエは、どこまでも高潔で優しく、気丈だった。
スティーブは、そんな彼女を裏切ってしまったことを、ただただ悔やむ。
「……それに。わたくし自身、殿下のお顔を見ていると、つらいのです。幸せだった時のことを思い出してしまって」
クロエは目を瞑ると、愛おしいものを抱くように、しかし悲しそうに微笑んだ。
スティーブは、クロエの微笑みに、彼女が素直に露わにし続けている感情の波に、胸をぎゅっと掴まれる。
「わたくしは……残された時間を、できるだけ穏やかに過ごしたいのです」
「……そうか。わかった」
スティーブは、珍しく自分に感情を見せてくれたクロエの願いに、応えてあげたかった。
それに、どのみち、しばらくここには来られなくなる。
「だが……あと一回。もう一度だけ、君に会いに来ても、いいだろうか」
「ええ。もう一度、殿下にお会いできる日を、楽しみにしております」
スティーブは、公爵邸を後にした。
時間がない。急がなくては、全てが手遅れになってしまう。
◇◆◇
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