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第5章:僕が見つけたフォルテ(7)
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「ありがとうございました」
僕は凌牙さんにスマホを返しながら軽く頭を下げた。
「姉ちゃんは、秀翔くんにすごく助けられたんだと思う。二人の間に何があったのか詳しくは聞いてないけど、あんまりあいつのこと悪く思わないでほしいな」
困ったやつだけどさ、と笑って付け加える凌牙さん。
「僕も」
凌牙さんのスマホを見つめながら、言葉を返す。
「遥奏さんのおかげで、道が拓けた気がします」
気づくのが遅すぎたのは否定できない。
それでも、遥奏との関わりが、胸の奥に閉じ込められていた強い想いを呼び覚ましてくれた。
「そっか、それならよかった」
凌牙さんが、ほとんど残っていないコーラを飲む。ずずずっと空気の通る音がした。
「あ、そうだ、もうひとつ」
そう言って、凌牙さんがカバンの中をがさごそと漁り始める。
「これもね、なんかわざとらしくオレの机に置かれててさ。秀翔くん宛で間違いないと思うから、渡しとくわ」
そう言って凌牙さんが、カバンから袋をひとつ取り出して、僕の手元に置いた。
青い不織布の袋。サイズは、新書を二冊横に並べた程度だ。細い金のカラータイで口が閉じられている。
カラータイに、七夕の短冊のような縦長の色紙がつるされていて、『チラシのお礼です!』と書いてあった。
そういえばそんな話もあったなと思いながら、差し出された袋を手に取ってみる。中には、薄くて硬い直方体状のものが入っているようだった。
「ありがとうございます」
包装を解かないまま、その「お礼」をカバンに入れた。カラカラっと細かい音を立てながら、それはスケッチブックの隣に収まった。
「ちなみに、姉ちゃんの連絡先渡すこともできるけど、要る?」
凌牙さんが、トレーをまとめながら尋ねてきた。
遥奏の連絡先。
「もちろん、あいつがオーケーって言ったらだけど」
LINEを交換すれば、いつでも遥奏にメッセージが送れる。電話だってかけられる。
会うことは叶わなくても、またあの声を聞いて以前のように笑い合えるかも。
想像すると、心臓が軽やかにスキップし始めた。
——けれども。
「いえ、大丈夫です」
今は、そうすべきではない。直感がそう告げていた。
「ただ、もしよかったら、凌牙さんのLINEをお借りして、遥奏さんに動画のお礼だけ言わせてもらえませんでしょうか。返信不要で、一回切りにしますので」
「いいよ。ただ、もし姉ちゃんから何か返ってきてLINEが続くようなら、もう二人でやってもらうからな」
どこか冗談っぽく、だけど有無を言わせない口調でそういう凌牙さん。
「もちろんです。ありがとうございます」
これ以上、凌牙さんに伝書鳩をさせるわけにはいかない。
それから僕は、凌牙さんのLINEを借りて、簡潔な文章を送った。傷つけてしまったことのお詫びと、動画を含め今までしてくれたことのお礼。最後に、「遥奏の気持ちは動画で伝わったので、返信は不要です」と添えて。
「ありがとうございました」
頭を下げながら、凌牙さんにスマホを返す。
「とりあえずオレの連絡先は渡しとくからさ、何かあったらメッセージちょうだい」
凌牙さんはそう言って、僕のLINEのアカウントを友達追加してくれた。
「それじゃ、オレはこれから予定あるから」
凌牙さんがスマホをポケットにしまい、帰る支度を始める。
「ごちそうさまでした」
そう言ってまた頭を下げた途端、大事なことを思い出した。
「あの、すみません、最後にひとつだけ」
僕は凌牙さんにスマホを返しながら軽く頭を下げた。
「姉ちゃんは、秀翔くんにすごく助けられたんだと思う。二人の間に何があったのか詳しくは聞いてないけど、あんまりあいつのこと悪く思わないでほしいな」
困ったやつだけどさ、と笑って付け加える凌牙さん。
「僕も」
凌牙さんのスマホを見つめながら、言葉を返す。
「遥奏さんのおかげで、道が拓けた気がします」
気づくのが遅すぎたのは否定できない。
それでも、遥奏との関わりが、胸の奥に閉じ込められていた強い想いを呼び覚ましてくれた。
「そっか、それならよかった」
凌牙さんが、ほとんど残っていないコーラを飲む。ずずずっと空気の通る音がした。
「あ、そうだ、もうひとつ」
そう言って、凌牙さんがカバンの中をがさごそと漁り始める。
「これもね、なんかわざとらしくオレの机に置かれててさ。秀翔くん宛で間違いないと思うから、渡しとくわ」
そう言って凌牙さんが、カバンから袋をひとつ取り出して、僕の手元に置いた。
青い不織布の袋。サイズは、新書を二冊横に並べた程度だ。細い金のカラータイで口が閉じられている。
カラータイに、七夕の短冊のような縦長の色紙がつるされていて、『チラシのお礼です!』と書いてあった。
そういえばそんな話もあったなと思いながら、差し出された袋を手に取ってみる。中には、薄くて硬い直方体状のものが入っているようだった。
「ありがとうございます」
包装を解かないまま、その「お礼」をカバンに入れた。カラカラっと細かい音を立てながら、それはスケッチブックの隣に収まった。
「ちなみに、姉ちゃんの連絡先渡すこともできるけど、要る?」
凌牙さんが、トレーをまとめながら尋ねてきた。
遥奏の連絡先。
「もちろん、あいつがオーケーって言ったらだけど」
LINEを交換すれば、いつでも遥奏にメッセージが送れる。電話だってかけられる。
会うことは叶わなくても、またあの声を聞いて以前のように笑い合えるかも。
想像すると、心臓が軽やかにスキップし始めた。
——けれども。
「いえ、大丈夫です」
今は、そうすべきではない。直感がそう告げていた。
「ただ、もしよかったら、凌牙さんのLINEをお借りして、遥奏さんに動画のお礼だけ言わせてもらえませんでしょうか。返信不要で、一回切りにしますので」
「いいよ。ただ、もし姉ちゃんから何か返ってきてLINEが続くようなら、もう二人でやってもらうからな」
どこか冗談っぽく、だけど有無を言わせない口調でそういう凌牙さん。
「もちろんです。ありがとうございます」
これ以上、凌牙さんに伝書鳩をさせるわけにはいかない。
それから僕は、凌牙さんのLINEを借りて、簡潔な文章を送った。傷つけてしまったことのお詫びと、動画を含め今までしてくれたことのお礼。最後に、「遥奏の気持ちは動画で伝わったので、返信は不要です」と添えて。
「ありがとうございました」
頭を下げながら、凌牙さんにスマホを返す。
「とりあえずオレの連絡先は渡しとくからさ、何かあったらメッセージちょうだい」
凌牙さんはそう言って、僕のLINEのアカウントを友達追加してくれた。
「それじゃ、オレはこれから予定あるから」
凌牙さんがスマホをポケットにしまい、帰る支度を始める。
「ごちそうさまでした」
そう言ってまた頭を下げた途端、大事なことを思い出した。
「あの、すみません、最後にひとつだけ」
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