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第3章:重ね塗りのシンフォニー(5)

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 ※ ※ ※

 そのあとのことは、全て遥奏が済ませてくれた。
 一階の迷子センターのスタッフさんに男の子をお任せして、僕らは二階に戻った。

 その後、少しの間僕らは無言で通路を歩いた。
 さっきの遥奏の様子が気になって、どう会話を再開していいものかわからない。
 先に沈黙を破ったのは、いつも通り遥奏だった。
「さっきは、ありがとう」
「いや、僕は泣き止んでもらうことができただけで、そのあとは全部遥奏が片付けてくれたから。僕、ほんと役立たずで」
「ううん。私、固まっちゃって」

 あれは、なんだったんだろう。
 あの固まり方には、ただならないものが感じられた。
 何か事情があるのか気になったけど、訳を聞いていいものなのかわからなくて、僕は黙ったままでいた。
「焦っちゃったんだよね」
 俯いたまま、遥奏が話し続けた。
「私、また出しゃばった・・・・・・・・のかなって」
 その意味は、よくわからなかった。
 わからないまま、僕はそれを放置した。

「あ、見て!」
 遥奏が、右斜め前の掲示板を指差した。イルカショーの時刻と、会場の道案内が矢印で表されている。

「十分後だね! ちょうどいいしさ、せっかくだから見にいこうよ!」
 僕は頷いて、遥奏と並んで屋外会場へ向かった。

 会場に着くと、すでに席は半分ほど埋まっていた。
 遥奏が前の方の席を希望したけど、二列目までは満席だったので、僕らは三列目に座った。
 座席に腰を下ろしてなんとなくあたりを見渡していると、入り口付近に見覚えのある姿が目に入った。
 さっきの男の子が、母親らしき女の人と手を繋いで歩いている。
 高揚した顔で会場のあちこちに目をやるその姿を見て、僕はひそかに胸をなでおろした。

「イルカショーなんて、見るの久しぶりだな! もうちょっと早く行けばよかった! 一番前で見られたら良かったのに!」
 遥奏は、すっかりいつもの元気な声を取り戻していた。

 やがて、スタッフのお兄さんの明るい挨拶とともに、ショーが始まった。
 手を叩いて感動の声をあげながらイルカの芸を見る遥奏。
 何事もなかったかのように、その横顔は輝いていた。

 その笑顔を、笑顔のまま僕は放置した。
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