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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスは救世主になりうるか 06
しおりを挟む彼の誠意だろう。
45度に腰を曲げる不良の図もなかなか迫力があるが、それでも架の想いはチビッコにも伝わったらしい。
「う、うん! わかったよ。ぼくたちも、こわがってごめんね? あそこのコップ、むこうにもってくの、てつだって!」
「おう、任せとけ。オサダさん、阿東の手伝い頼んだからな」
「私しか出来る者がおりませんから、致し方ありませんね。お任せ下さい」
言葉に一々棘があるのは、彼女の持ち味なのか。
架は気にした素振りもなくチビ達とコップを持ってホールに消えていった。
いつものことなのだろう。
僕も気にしないことにした。
「此処に、良く入れましたね。いつも有住君には驚かされます」
彼女に料理の指示、やって貰いたいことを告げ、聞きたかったことを聞いてみた。
オサダは面白いぐらいに表情が動かない。
まるで鉄仮面のようだ。
「旦那様の口利きで御座います。坊っちゃんには何の力も御座いませんから、勿論、旦那様が力添えをされております。此方のお偉い方でも、旦那様には頭が上がりませんでしょう。今頃は、ご夫婦揃って施設内を見学されていることでしょう」
やはり、架には随分と厳しいコメントだ。
楽しんでいるようにも見える。
同じ匂いを感じた。
「最近、仲直りされたようですね。良かったです」
「ええ、あなた様のお陰だと、聞いております。旦那様も奥様も、感謝されています」
鉄仮面のオサダの顔が、一瞬和らぐ。
その顔は、優しかった。
「僕は、何もしていませんよ。有住君が頑張っただけのことです」
照れ臭かった。
誉められるのは、いつ振りだろうか。
もうずっと無かったように思う。
両親が生きていた頃、頭を撫でてくれた感触が蘇ってきた。
オサダは無表情に戻っていたが、手際よく料理をしている傍ら、手の空いた僅かな時間で、僕の頭を撫でてくれた。
感情は読み取れない。
しかし、彼女なりに気を使ってくれたのだろう。
僕は目頭が熱くなって、俯いた。
胸がきゅぅっと締め付けられている。
「坊っちゃんを助けて頂いたこと、私も感謝しております。貴方の辛い経験が、有住家を修復して下さった。それは事実で御座いますから」
其処まで言われてしまえば、僕も素直に頷くしかなかった。
一通り料理も作り終え、諸々の支度も何とか時間内に済ませることが出来た。
ホッと一息吐く暇もなく、すぐに食事会が始まるのだった。
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