アリスと兎

Neu(ノイ)

文字の大きさ
上 下
20 / 68
一章:不良アリスとみなしご兎

不良アリスは救世主になりうるか 05

しおりを挟む


 日曜日、朝。
僕達施設の子供達は、キッチンやホールで食事会の支度をしていた。
大忙しだ。
職員達はいい気なもので、彼等が主宰している癖に、準備の全てが施設の児童で行っている。
僕は施設の中でも年上の方なので、小さな子達の面倒をみながら、全体を指揮していた。

「しょうちゃーん! このおさらでいいの?」
「おにいちゃん、すぶーん、たんないよ?」

出てくる問題を対処しているだけで、もう食事会の一時間前になっていた。

「よお、阿東。大変みたいだな。手伝おうか? 救世主を連れて来てやった」

そんな時に、何食わぬ顔で架がキッチンに入ってきた。
彼の後ろには50代ぐらいの女性が立っていた。
身形から家政婦だろうと思う。
施設の子達がキョトンとした顔で乱入者を見詰めていた。

「坊っちゃん。貴方が言い出したのですから、手伝って下さいよ? まあ、期待はしておりませんが。あの子達に習って食器の支度ぐらいならば出来るでしょう?」
「わーってるよ。うっさいオバチャンだな。阿東、こいつ、うちで働いてるオサダさん。何でも出来るから使ってやって」

オサダと紹介されたオバサンは、何だかんだと言いながら、架に温かい眼差しを向けている。
架は気付いていないのだろうが、僕には解った。


 架はぶつくさと文句を漏らしながらも、施設のチビッコに近付いていく。
架の見た目は、白に近い金髪をワックスで整え、耳にはピアスなんかも空いている、言わばチンピラで不良である。
当然、チビ達は怯えて後退り、タッと一目散に僕の後ろに隠れてしまった。


 架は呆然とその有り様を見ている。
片腕が待ってくれと言いた気に中途半端な位置で宙に浮いていた。
ついつい、くっと堪え切れない笑いが口を出る。

「見た目は怖いけど、大丈夫。ショウのお友達だから、優しいよ。お皿の場所、教えてあげて。頼めるかな?」

何故架がキッチンにまで入って来ているのか、疑問はあるが、支度を優先させることにした。
しゃがみ込んでチビッコと目線を合わせる。
瞳をうるうると潤ませている彼等を安心させるように笑い掛けた。

「うん、出来るよ! でも、ほんとおにコワクない?」

こくん、と頷くも、ちらりと架に視線をやり、僕の服を掴み、上目使いで尋ねられる。

「大丈夫だよ。ほら、有住君もなんか言ってよ」
「あ? ああ、おう。怖くないぞ。兄ちゃんに色々教えてくれ。いや、教えて下さい」

呆気に取られた顔で僕とチビ達を見ていた架だったが、がしがしと頭を掻いて、言葉を探すように紡いでいくも、最後には頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

処理中です...