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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスは救世主になりうるか 01
しおりを挟む【不良アリスは救世主になりうるか】
様子が可笑しいと、感じたのは昨日のことだった。
クラスメイトで前の席の有住 架(アリス カケル)の様子が、少しばかり変に感じられた。
いきなり架の家に誘われたからなのか、やけに自分、阿東 翔(アトウ ショウ)のことを見ていたからなのか、理由は何とも言えないのだが、兎に角、彼は何かについて悩んでいるようだった。
一日経った今日も、それは変わらない。
昨日と違うのは、機嫌が良さそうという点か。
悩ましい顔をして僕を見てはいるが、表情は柔らかい。
「有住君。良いことでもあったの? ご機嫌だね」
「あ? 普通だ、普通。お前、日曜日、予定空けておけよ」
昼食の時間、購買で買ったジャムパンを片手に尋ねるも、はぐらかされてしまった。
架は、珍しく弁当を持参している。
いつもは、家族と距離を置いているからか、購買でパン等を買っているのだが、今日は三段に積まれた重厚感漂うお重のような弁当箱を机の上に広げている。
昨日、何かあったのだろう。
仲直りでもしたのか、と考えていると、弁当箱の蓋に、おかずを幾つか取り分けて、僕の方に寄越してきた。
「家の、家政婦が作ったやつだけど、食えよ。ちゃんと食わねえと、大きくなんねえぞ」
用意周到と言うのか、割り箸まで用意してあるようだった。
「でも、コレ。有住君のために作ってくれたんでしょ? 僕が食べたら悪いよ」
「良いんだよ。ダチと食うからって、用意させたんだ。残さず食えよ」
首を傾げながら、蓋を押し返そうとするも、その手を押さえられてしまう。
僕は、何も言えずに頷いた。
手作りの弁当など、いつ振りだろうか。
心がほんわかと温かくなる。
頼んでくれた架にも、作ってくれた家政婦にも、感謝の念が浮かんだ。
「本当は、お袋が作れたら良かったんだけどな。悪いな、あのオバサン、料理下手なんだよ」
唐揚げを箸でつまみ上げて、架はそんなことを言った。
「そんなの、悪いから良いよ。それより、お家の人と仲直りしたんだね。おめでとう」
首を横に振る。
他人の子に喜んで弁当を作る人間などいない。
自分の子供が一番可愛いのだ。
にこり、と笑みを貼り付けた。
祝福する気持ちと、羨望が渦巻く。
僕には、もう二度とやってこない温もりだ。
羨ましくて堪らなかった。
架を見るのが辛い。
目線を弁当の蓋に移す。
割り箸を割って、卵焼きを一つ口に放り込んだ。
「仲直り、つぅか。まあ、お互いに誤解が解けたと言うか、さ。阿東のお陰だ。感謝、してる。ありがと、な」
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