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2章 クリスタル族の虹色研究
29話 黒はだれ【後編】
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「ブラックさん、少々お話、よろしいでしょうか?」
地上と繋がる始祖の間からひとつ階段を降り、結晶石を保管する小さな洞窟で、ブラックと2人きりになった。ブラックは魔法の光を放つ巨大な道具箱を前に、こちらへ背を向けている。
『それで、話しってナニ』
「ブラックさんは以前、こうおっしゃいました……『パープル博士の研究は成功するか分からない。だったら今のままが1番』と」
しかし研究が成功した今、これからは博士の新エネルギー研究に協力してくれるのか――そう問いかけると、ブラックはぼんやりと赤黒い光を灯した。
『……あの研究は、都合が悪イ』
相変わらず彼女はこちらを向こうとしないが、怒りを示す赤い光は強くなっている。
「新エネルギーを利用して、シオン領がすべての種にとって住みよい場所にしていきたい――領主代理として、私はそのように考えております」
パープル博士をはじめ、クリスタル族も根底にある思いは一緒。「暮らしを良くしたい」というものではないのか――そう訴えると、クリスタルボディの光の点滅が速くなった。
だいぶ苛立っているようだ。
「従来のやり方にこだわりがあり、新エネルギーを信じられない気持ちは分かります。ですが他の皆さんが協力的になってくださったのに、貴女だけが頑なに拒むというのは……何か隠したいことでも?」
『信じるとか信じないとか、そういう問題じゃなイ。隠してもいなイ!』
こちらを振り返ったボディの赤い点滅が、最速に達した瞬間――今度は発動した。じんわりと熱くなる右目に意識を集中させると。
「【擬態】……やっぱり!」
その他に1つ、かすれた文字が見えたが。鑑定られていることに気づいたブラックが点滅を止めると、何も見えなくなってしまった。
やはり相手が意識して閉じている時には見えないが、気を逸らせばかすかに見ることができた。
『……また、勝手にミたノ?』
「ええ。隠されると見たくなってしまう性分ですの」
能力を隠していたことやグリーンの証言から、ブラックが怪しいことには違いない。
「そんなに『隠したいこと』に塗れていたら、結晶石の盗難に貴女が関わっている……そう疑われても仕方ないと思いませんこと?」
すっかり沈黙したブラックの身体が、一瞬揺らいで見えた。
眼力を使い過ぎたせいか――いや、違う。左目でも、彼女のクリスタルボディから人型に近い女性の影が透けて見える。
『想いは同じ? ふふっ……笑っちゃうねぇ』
ブラックの少したどたどしい口調が一変。皮肉を込めた低い声が響くようになった。
力を弾かれた右目だけではない。この場の空気に触れる全身が、小さな棘に刺されているかのような痛みを感じる。
『エネルギーの新旧とか、クリスタル族の問題とか、シオンの未来とか……そんなのどうでも良いんだよ。ボクの仕事は、ただ集めるだけなんだから』
「貴女はいったい――」
背後の巨大な道具箱の鍵を、ブラックがひと撫ですると。中から飛び出した黒い塊が宙を舞い、階段へと繋がる道を塞ぐように降り立った。
「黒い巨大な結晶……?」
『う……うう……』
出入り口に詰まっている、黒い結晶から女性の声がする。よく見るとブラックと似ているが――まさか先ほどまで話していたブラックは偽物で、こちらが本物だったというのか。
『あ、あぶ、ない……!』
本物らしきブラックの声に続き、背後に轟音が鳴り渡った。振り返った先にブラックの姿はない。代わりに洪水のような水がこちら目がけて押し寄せていた。
「えっ……!?」
どこから流れてきているのか分からない水が、腰の高さにまで達している。本物のブラックが詰まっている場所以外に出口を探すも、どこにも見当たらない。
「まずい、このままだと……」
水かさがさらに増え、ついに身体が浮かびはじめた。天井はもうすぐそこ――傍らに立つ黒い死神の影を見るのは、この世界に来てもう何度目だろうか。
『あ、な、た……だい、じょうぶ?』
肩に触れているのは、黒い死神――ではなく黒いクリスタルだった。いつの間にか、彼女のそばまで流されていたらしい。
「ゴボッ……! 【くろまほう】……」
息が吸える空間も残りわずかというところで、本物のブラックを見下ろすと。【黒魔法・レベル56】の表示が浮かんでいる。
「くろ、まほ……なっ、何か、そうだ……! 爆発!」
『ばくはつ……? わ、かったわ……やって、みる』
言葉が切れると同時に波が立ち、水飛沫が弾けた――が、ここが水の中ということを失念していた。厚い岩壁を砕くほどの威力は出なかったのだ。
『ご、ごめんなさ……もう、集中が……途切れて』
クリスタルたちは常に小さな光をボディへ宿しているが、彼女からはそれすらも消えかけている。あの様子では、もう魔法を使う余裕もないだろう。
間もなく全身が水に沈み、口からこぼれる泡が弾けた。
もう、どうすることもできないのか――暗い水の中。徐々に狭まる視界に最後映ったのは、こちらへ近づく金色の光だった。
地上と繋がる始祖の間からひとつ階段を降り、結晶石を保管する小さな洞窟で、ブラックと2人きりになった。ブラックは魔法の光を放つ巨大な道具箱を前に、こちらへ背を向けている。
『それで、話しってナニ』
「ブラックさんは以前、こうおっしゃいました……『パープル博士の研究は成功するか分からない。だったら今のままが1番』と」
しかし研究が成功した今、これからは博士の新エネルギー研究に協力してくれるのか――そう問いかけると、ブラックはぼんやりと赤黒い光を灯した。
『……あの研究は、都合が悪イ』
相変わらず彼女はこちらを向こうとしないが、怒りを示す赤い光は強くなっている。
「新エネルギーを利用して、シオン領がすべての種にとって住みよい場所にしていきたい――領主代理として、私はそのように考えております」
パープル博士をはじめ、クリスタル族も根底にある思いは一緒。「暮らしを良くしたい」というものではないのか――そう訴えると、クリスタルボディの光の点滅が速くなった。
だいぶ苛立っているようだ。
「従来のやり方にこだわりがあり、新エネルギーを信じられない気持ちは分かります。ですが他の皆さんが協力的になってくださったのに、貴女だけが頑なに拒むというのは……何か隠したいことでも?」
『信じるとか信じないとか、そういう問題じゃなイ。隠してもいなイ!』
こちらを振り返ったボディの赤い点滅が、最速に達した瞬間――今度は発動した。じんわりと熱くなる右目に意識を集中させると。
「【擬態】……やっぱり!」
その他に1つ、かすれた文字が見えたが。鑑定られていることに気づいたブラックが点滅を止めると、何も見えなくなってしまった。
やはり相手が意識して閉じている時には見えないが、気を逸らせばかすかに見ることができた。
『……また、勝手にミたノ?』
「ええ。隠されると見たくなってしまう性分ですの」
能力を隠していたことやグリーンの証言から、ブラックが怪しいことには違いない。
「そんなに『隠したいこと』に塗れていたら、結晶石の盗難に貴女が関わっている……そう疑われても仕方ないと思いませんこと?」
すっかり沈黙したブラックの身体が、一瞬揺らいで見えた。
眼力を使い過ぎたせいか――いや、違う。左目でも、彼女のクリスタルボディから人型に近い女性の影が透けて見える。
『想いは同じ? ふふっ……笑っちゃうねぇ』
ブラックの少したどたどしい口調が一変。皮肉を込めた低い声が響くようになった。
力を弾かれた右目だけではない。この場の空気に触れる全身が、小さな棘に刺されているかのような痛みを感じる。
『エネルギーの新旧とか、クリスタル族の問題とか、シオンの未来とか……そんなのどうでも良いんだよ。ボクの仕事は、ただ集めるだけなんだから』
「貴女はいったい――」
背後の巨大な道具箱の鍵を、ブラックがひと撫ですると。中から飛び出した黒い塊が宙を舞い、階段へと繋がる道を塞ぐように降り立った。
「黒い巨大な結晶……?」
『う……うう……』
出入り口に詰まっている、黒い結晶から女性の声がする。よく見るとブラックと似ているが――まさか先ほどまで話していたブラックは偽物で、こちらが本物だったというのか。
『あ、あぶ、ない……!』
本物らしきブラックの声に続き、背後に轟音が鳴り渡った。振り返った先にブラックの姿はない。代わりに洪水のような水がこちら目がけて押し寄せていた。
「えっ……!?」
どこから流れてきているのか分からない水が、腰の高さにまで達している。本物のブラックが詰まっている場所以外に出口を探すも、どこにも見当たらない。
「まずい、このままだと……」
水かさがさらに増え、ついに身体が浮かびはじめた。天井はもうすぐそこ――傍らに立つ黒い死神の影を見るのは、この世界に来てもう何度目だろうか。
『あ、な、た……だい、じょうぶ?』
肩に触れているのは、黒い死神――ではなく黒いクリスタルだった。いつの間にか、彼女のそばまで流されていたらしい。
「ゴボッ……! 【くろまほう】……」
息が吸える空間も残りわずかというところで、本物のブラックを見下ろすと。【黒魔法・レベル56】の表示が浮かんでいる。
「くろ、まほ……なっ、何か、そうだ……! 爆発!」
『ばくはつ……? わ、かったわ……やって、みる』
言葉が切れると同時に波が立ち、水飛沫が弾けた――が、ここが水の中ということを失念していた。厚い岩壁を砕くほどの威力は出なかったのだ。
『ご、ごめんなさ……もう、集中が……途切れて』
クリスタルたちは常に小さな光をボディへ宿しているが、彼女からはそれすらも消えかけている。あの様子では、もう魔法を使う余裕もないだろう。
間もなく全身が水に沈み、口からこぼれる泡が弾けた。
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