シャイな異形領主様に代わりまして、後家のわたくしが地代を徴収(とりたて)いたします。

見早

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2章 クリスタル族の虹色研究

27話 容疑者D【後編】

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 委縮するドラグの前へ進み出ると。こちらを睨む無数の金色の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、深く息を吸い込んだ。

「『シオンのみんなが幸せになれる領地作り』――それこそが私たち領主家の使命です」

 見ているだけで何もしないくせに文句を言うな――と、最後の言葉は何とか飲み込んだ。
 やっとすべての竜が口を噤んだところで踵を返し、振り返らずに立ち止まっているボロネロへ駆け寄った。

「……後妻、ゲルダに似てる」
「はぁ!?」

 ボロネロの聞き捨てならない言葉に、思わず素が飛び出てしまった。慌ててお嬢様口調を取り繕いつつ、「なぜですの?」と訊ねると。

「血気盛ん」

 その一言だけを返すと、ボロネロは灰色の坂を登っていく。隣でクスッと笑い声を上げたドラグの脇腹に小さく肘を入れ、先を進む青いツノの竜に続いた。

「ここ、ノクサリア家の屋敷……人の姿専用の家。雨の時、怪我した時にみんないる」

 崖の途中に切り取られた洞窟を見上げると。ぽっかり空いた洞窟の中に、どこからか運んできてそのままはめ込んだかのような屋敷が建っている。

「ロードン、ゲルダの手当受けてる……」

 ロードンをノーム族が撃退してから2日――傷はまだ塞がっていないらしい。おそらくロードンは殺気立っているだろう。そしてゲルダも。

「……エメルレッテさん、やっぱり行くのやめようよ」

 ドラグも同じことを懸念しているに違いない。それでも、結晶石の件については確かめなければ。
 ボロネロに通されたのは、紫とピンクを基調とした部屋だった。きっと、ソファで優雅に紅茶を嗜む彼女の趣味だろう――文字通り燃える赤髪の竜は、「あら」とティーカップを置いた。

「……昨晩は10時前に寝たの? お肌の調子絶好調みたいねぇ、後妻さん」

 相変わらずの肌質チェック――ギルド創設パーティーの時の殺気が嘘のように消えている。しかしここは敵地のど真ん中。いつもの調子で「あら前妻さん」と煽る気にならない。

「……お邪魔いたします」
 
 試しに【能力鑑定】を発動させ、ゲルダを鑑定てみたが。やはりこの力にはなんらかの制約があるのか、例の世界観を壊す表示は現れない。

「小人さんたちを連れてこなかったのは良い判断ね」

 もしロードンと彼女たちノームが顔を合わせれば、今度こそロードンが本気の姿になってしまう――ゲルダは感情を削ぎ落した声でそう語った。

「でも、まさか引きこもりが竜の巣ここまで来られるなんてね。後妻さんの影響力、ちょっと舐めていたわ」

 そうは言っても、ドラグは相変わらずだ。部屋に入れず、扉の隙間からこちらを覗いている。

「それで? ウチのおとぼけさんは、どうしてゾロゾロ引き連れて来ちゃったの?」
「ボロネロに監視をさせていたのは貴女でしょう。もしかすると、結晶石の行方を知っているのも貴女たちなのではなくて?」

「結晶石?」と訊き返すゲルダに、クリスタル族の結晶石が盗まれたことを話すと。

「盗難って……アハハハハ!」
「なっ、笑い事ではありません!」
「あなたたちが頼りないから、盗難事件なんて起きるのよ」

 ゲルダの強く燃え盛る瞳に睨まれ、何も言い返すことができなかった。事件現場のすぐそばにいながら、異変に気づかなかった私に反論する資格はない。

「本家の腰抜けが引きこもっていた5年間、誰がシオンを守っていたかご存知?」

 ロードンが睨みを利かせていたおかげで、他領から攻められることはなかった。またゲルダがカリスマ的スーパーモデルとなって多民族を統制していたおかげで、事件や反発も起きなかった――詳細はさておき、「何も起こらなかった」というのは認めざるを得ない。

「発展だなんだって騒いでいるけれど。『シオンを守る』っていう最低限のお仕事すらできないあなたには、やっぱり領主代理の資格なんか無いわ」

 チンピラロードンに対処するだけでなく、治安を保つためにもギルドは必要だった。それに「発展」がプラスの要素だけを生むとは考えていない。そう、分かっているはずなのに――返す言葉が見つからない。
 実際に、事件は起きてしまったのだから。

「とにかく、盗人なんてとんだ言いがかりよ。ロードンが気づく前にお帰りなさい」
「……お邪魔、いたしました」

 おそらくゲルダたちは犯人ではない――彼女たちはただ私たちの邪魔をする小物ではなく、やり方は違えど、シオンを守ろうとしていると分かってしまった。

「……最後にひとつだけ忠告してあげる」

 重い足を止め、振り返ると。ゲルダは紫の壁を見つめたまま、小さな赤い炎を吐き出した。

「その七色の瞳、とっても美しいわぁ。くり抜いて、そこの壁に飾りたいくらい」

 冗談とも言い切れない調子に、思わず右目を隠すと。ゲルダは「でも」、と強い語気で続ける。

を過信しすぎて、本質を見失っちゃダメよ。あなたの憎らしいほどキラキラしてた、元のお目々も忘れないことね」
「それは……」

 ゲルダの口ぶりは、まるでこの眼の力が分かっているかのようだ。
 ドクンと疼く右目を押さえ、その真意について訊ねようと、口を開いた瞬間。

「はい、サービスタイムはここまで」

「早く出て行ってよ」、と吠えるゲルダのティーカップにヒビが入ったところで、紫とピンクのギラついた部屋を後にした。
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