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第五十八話 『帝国へ入国』
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脳内の立体地図を見ながら、森の中を風神に騎乗して移動する。 魔物を難なく倒し、深い森の中心に向かっていた。
「よっとっ!」
木製短刀を魔物の心臓に突き刺し、草むらへ投げ捨てる。 魔物は草むらを転がり、草木を倒して転がった。
「あっ! 監視スキルっ! 魔物を乱暴に扱わないでっ! 後で、ご飯にするんだからっ」
「えっ! これを食べるの?」
監視スキルの顔が強張って歪んだ。
フィルが魔物を齧る姿を思い浮かべてしまったのだ。 しかも、風神もフィルに同意しているのか、高速で頷いていた。
「マジでっ!」
木の枝に降り立ち、根元で嬉々として、フィルが魔物の解体をしている所を眺めていた。 監視スキルがあまりの状況に溜め息を吐いていると、懐が動き出す。
「おや?」
懐の合わせ目からひょっこりと顔を出したのは、記憶の底にいるポテポテだった。
「おぉ、ポテポテじゃないかっ! あ、そうか、隠れ家の魔法陣から出入りが出来るのか」
ポテポテは『あいっ!』と丸い手を挙げる。 ポテポテは大きな籠を持っていた。
中には回復薬と浄化薬、そして、飲み水とサンドイッチが沢山入っていた。
ポテポテは、薬を監視スキルへ渡す。
「ユウトさまっ、薬飲む、早く、ギギッ!」
「分かった、ありがとう」
薬を渡された監視スキルは、二本とも一気に飲み干した。 サンドイッチの匂いに釣られたフィルが監視スキルの側へやって来た。 風神も器用に登って来る。
「お二人、とも、どうぞ、フィンさまからです、ギギッ!」
「わぁ、ありがとう。 いただきます!」
フィルは銀色の美少年に姿を変えていて、大きな口を開けた。 監視スキルは風神にサンドイッチを投げ、全て落とさずに風神は投げられたサンドイッチを食べた。
とても美味しそうに咀嚼している。
ついでに自身も食べる。 気づかないうちに、お腹が空いていた様だ。
「ありがとう、ポテポテ、美味しいよ」
「いえ、喜ぶ、良かった。 ギギッ!」
(語尾に、ギギッって絶対に付けるんだねっ)
「で、ハナたちの様子はどうだ?」
「はい、薬飲んだ、今、眠ってる、ギギッ!」
「そう、間に合って良かったよ」
「はい、では、私、悪魔、見張る、番です。 ギギッ!」
「ん? ああ、あの悪魔ね。 分かった、しっかりと見張っていてくれ」
『あいっ!』と丸い手を挙げたポテポテは懐にある隠れ家の魔法陣の中へ消えた。
「薬も飲んで、ご飯も食べた。 今夜の寝床を探しながら、森を進もうか」
「うんっ! 風神、このお肉を背中に乗せてね」
こくこくと頷く風神。 背中には器用に葉っぱに包まれた肉の塊が乗せられていた。 監視スキルは仕方ないと、溜め息を吐いて風神の背に跨る。
「風神、また幻術を頼むよ」
監視スキルが風神の頭を撫でながら、お願いすると、皆の姿が消えた。
「さぁ、出発しよう」
風神は何の音も鳴らさずに、森の中を移動して行った。 森の切れ目に大きな岩があり、洞窟があった。 中へ入ると、棲家にしている動物もいない様だ。
風神が幻術を解くと、フィルは直ぐに姿を変える。
「今日の寝床はここにするか」
「うん、焚き火してお肉を焼こう」
フィルは早速、準備の為にあちこち走り回って行った。 風神に飲み水をやり、監視スキルも喉を潤す。
「ちょっと寒いかもっ」
身震いしていると、フィルが焚き木を沢山、持って帰って来た。 直ぐに焚き火を熾して暖を取る。 座っている風神に凭れ掛かっていれば、幾分かマシだ。
フィルは上手に魔物の肉を焼いている。
「ねぇ、理性のユウトは大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。 さっき薬も飲んだし、まだ暫くは起きないかな。 ユウトが一番、精神力を使ったからね」
「そうなんだ。 僕たちね、ユウトたちが絶対に助けてくれるって信じてたんだ」
「そうか、フィルたちが無事で良かった」
「うん、それで助かったら何が食べたいか、話してたんだ。 はい、監視スキル、お肉焼けたよ、食べて」
木の棒に刺した魔物肉を目の前に差し出される。 既に風神の前には、葉っぱの上に乗せられた肉が置かれていた。
風神は美味しそうに肉を食んでいる。
「あのさ、風神は草しか食べなかったよね?」
「エルフの里で、ユウトの弟にご飯を貰ってから、食べる様になったんだって」
「ああ、クオンかっ! あいつ風神の事を気に入ってよく世話してたもんね」
「うん。 はい、監視スキルも理性のユウトの身体の為に食べて!」
「分かった、分かったよ」
じっと肉を見つめ、フィルを見た。
「これ、普通の魔物の肉だったよね? 悪魔憑きじゃなかったよね?」
「うん、悪魔憑きは浄化しないと食べられないよ」
「うん、そうだった」
ジト目で見つめて来るフィルに監視スキルはたじろぐ。
「理性のユウトは意外と躊躇わずに口にしてたよ」
溜め息を吐いた監視スキルは、一気に肉を口に入れた。 監視スキルの瞳が見開く。 どうやら口に合ったらしいと、フィルは自分も肉を口に運んだ。
解体していた肉は全て平らげ、明日も調達しないと駄目だろう。
「フィル、おいで。 もう寝よう。 明日も早くから移動しないと」
「うん」
フィルが軽い音を鳴らし、スライムの姿に変わると、監視スキルの側へ跳ねて行った。
「おやすみ」とフィルが言うと、風神も嘶き、二人は直ぐに眠りについた。
本体である優斗が既に寝ている監視スキルは、優斗の身体を抜け出し、森を見渡せる高さまで飛んだ。 もう直ぐ森を抜けられる。 暫く歩かないと、街には辿り着けない様だ。
「まぁ、森を抜ければ、帝国の街だ。 見つからない様にしないとね。 薬屋を装うか」
◇
森を抜けたので、風神は隠れ家へ行ってもらい、監視スキルはフィルと街の門が見える所まで来ていた。 二人は草むらに隠れて、持っている荷物を確かめた。
昨晩にフィンが風神を隠れ家へ連れて行くのに、隠れ家の魔法陣から出て来て、必要な物を渡してくれた。
帝国はかなり厳しい入国審査があり、身元不明者は簡単には入国させてくれない。
エルフにペンダント型の個人を識別する為の魔道具がある様に。 同じ様な物が帝国にもある。 配られるプレートに、生まれた時に識別番号が振られるらしい。
しかし、帝国のプレートなど手に入らない。
優斗たちは外国人として、入国しないと行けなかった。
「この世界はやっぱり便利だよね」
「うん、だね。 帝国にもあるんだね。 冒険者ギルドって」
「だね。 まぁ、僕たちのはカラブリア王国のだけどね」
「いつ登録して来たの?」
「ああ、それはね。 僕たちの影武者が行って来てくれたんだよ」
「……影武者っ、ユウトも偉くなったんだね」
「まぁね」
監視スキルはフィルに言われても全く嬉しくないという顔をした。
「カラブリアの冒険者カードも年月が経てば変わるんだね。 帝国のプレートと変わらないね」
カード型からプレート型に変わっていた。
「うん」
「これ、フィルの分ね」
「うん、ありがとう」
フィルはとても嬉しそうに、プレートを受け取った。 裏表を見ながら、銀色の瞳を煌めかせている。 よほど嬉しいらしい。
「フィル、ちゃんと変化の魔道具を発動させて、この街は通り過ぎるだけだけど、フィルが魔物だと知られるのは不味いんだ」
「うん、分かってる。 従魔も駄目なんでしょう?」
「うん、そうなんだ。 ハナの魔道具は精巧に出来てるから大丈夫だ。 絶対にバレないよ」
「うん」
頷いたフィルは魔道具を発動させた。
フィルは銀色の美少年ではなく、普通の人族の美少年に変わった。
「おお、似合ってるよ、フィル。 でも、ちゃんと10歳児でいてくれよ」
「普通の10歳児がどんなか分からないよ」
「うん、だよね。 僕も分からないっ、さて、行くか。 ここにいても仕方ないからね」
「うん、行こうっ!」
監視スキルはフィルを連れ、冒険者が出入りする門へと向かった。
身内に10歳児のクオンがいる事をすっかり忘れている二人だった。
◇
「そうか、ウルスから連絡が途絶えたか、という事は捕まったな」
「はい、間違いないでしょう。 どうされます?」
「そうだな、彼らは既にこちらへ向かっているのだろう?」
「はい」
「なら、もう何もせず出迎えてくれ」
「はい、承知致しました。 ウルスの事はどうしましょうか?」
「どうせ、いつものクセが出たんだろうが、悪魔は抜かれているだろう。 多分だが、もう覚えていないだろう」
「はい」
「なら、エルフに引き渡せ。 こちらに帰って来てもあいつの席はない」
「承知致しました」
里長には知られずに溜め息をつく。
「少し出て来る」
「また、いつもの所ですか?」
「ああ、夕方には戻る」
「いってらっしゃいませ、ルクス様」
執務室として使っている天幕を出た彼、ルぺルクスルミナ・ハリオス・アーバス、皆からはルクスと呼ばれている。
彼には、いつも訪れる場所がある。
ルクスにとって大切な人が眠る場所だ。
来る途中で摘んできた草花を墓標へ供え、眉尻を下げる。
「俺もやっとそっちへ行けそうだ。 もう少しだけ待っていてくれな」
遠くで16時を知らせる鐘の音が鳴らされた。
◇
冒険者専用の出入り口には、沢山の人が列を成していた。 最後尾に並んだ監視スキルは直ぐに飽きてしまっていた。
「もう、こっそりと入ってしまおうか?」
「そんな事したら怒られるんじゃない?」
「見つかったら捕まるだろうな。 その後はっ」
ごくりと喉を鳴らして監視スキルは口元を引き結び、不安を煽る様な表情を作る。
「その後はっ?!」
フィルの顔が恐怖で歪み、小さい声が更に震えた。 監視スキルが口を開こうとした時、脳内で優斗の声が響いた。
『監視スキル、それ以上フィルを揶揄うな』
「ユウトっ!」
「えっ、ユウト?! 何処にっ?!」
フィルは周囲にユウトが現れたと思ったのか、前後左右に視線を走らせた。
「あ、ごめん」
(ユウトが目覚めたんだ)
(そうなんだっ! 良かったぁ、もう大丈夫なの?)
『いや、どうかな。 分からないなっ』
(無理しない方がいいと思うよ、ユウト。 その証拠に僕と入れ替わらないだろう?)
『そうか、まだ本調子じゃないって事か』
(待っている間に、今の状況を説明するよ)
『悪いな』
(いいんだよ、退屈しのぎにいいしね)
監視スキルが優斗に説明している間に列は進み、もう少しで監視スキルたちの順番が回って来る。
『そうか、皆、助かったんだな。 良かったよ』
(ユウトの作戦大成功だったね)
『ああ、良かったよ。 前に俺の身体を勝手に動かした事があったろ? だから、俺が気を失えば、もしかしたら監視スキルが顔を出すと思ったんだ』
(そんな事だろうと思ったよ)
(そんな事があったんだ。 ユウトの思いつきだったんだね)
『フィルも無事で良かったよ』
優斗の声が響くと、優斗の手がフィルの頭を撫でた。 フィルは嬉しそうにしていたが、次の瞬間、三者三様の驚きの声が上がった。
(身体、動かせたね)
『ああ、でも今のところ、手だけだなっ』
(そう、でも、直ぐに全回復しそうだね。 あ、順番が来た)
『ちゃんと人間らしくしろよ』
(どういう意味かな? 僕、ちゃんとできるよ)
隣で手を繋いで進むフィルが念話を聞いて、呆れた様な視線を向けている事に、監視スキルと優斗は気づかない。
監視スキルの番が回って来て、門番から冒険者のプレートの提示を求められる。
二人は心の中で、バレません様にと念じた。
門番はプレートが本物かどうか確かめる為、魔法陣にプレートを翳す。 何もなければ、反応しないのか無事にプレートは戻って来た。
「よし、次は荷物検査だ。 カバンを改める」
カバンは何と昔懐かしの華の学生鞄だ。
子孫たちは大事に使っていたらしく、大昔の物なのに、傷一つなかった。 華の学生鞄は何でも入る学生鞄だ。
フィンが色々な物を詰めて寄越してくれたのだ。 勿論、ポテポテも中に隠れている。
隠れ家の魔法陣は監視スキルの懐に大事にしまってある。
(これも見つかったらやばいけど、大丈夫だよね)
学生鞄は普通の鞄に擬装していて、無事に荷物検査も終了した。
一応、冒険者なので武器を持っていないと不思議に思われる。 短刀を二本、腰にさしていた。 武器の提示を求められ、監視スキルは素直に渡した。
短刀はエルフの武器ではなく、華が制作したちょっとだけ厳ついデザインの短刀だ。 厳つい訳は、持ち手に登り龍が精巧に掘られているからだろう。
(うわぁ、門番、めちゃくちゃ引いてるよ)
『ああ、冒険者ランクも低いからだろう? 俺たち、今世は冒険者として何もしてないからなっ』
(うんっ)
門番の視線がフィルへ移動し、門番の瞳が細まる。 門番の眼差しにフィルはサッと監視スキルの後ろへ隠れた。
「弟は素材採取専門だから、武器は持っていない」
監視スキルに鋭く睨みつけられた門番は、何故か頬を赤くして固まった。
監視スキルとフィルから訝しげに見つめられ、門番が我に返り、咳払いを溢す。
「行ってよしっ」
門番の関所を何とか潜り抜け、ホッと一安心し、監視スキルはフィルの手を握り直す。
「さて、少しくらい街を見て回るか」
「うん、僕、お腹空いた」
「朝ごはん食べたばっかりだけど、まぁ、ちょっと市場でも覗いてみるか」
「行こう、行こう!」
監視スキルとフィルは意気揚々と、市場へ向かって歩いて行った。
「よっとっ!」
木製短刀を魔物の心臓に突き刺し、草むらへ投げ捨てる。 魔物は草むらを転がり、草木を倒して転がった。
「あっ! 監視スキルっ! 魔物を乱暴に扱わないでっ! 後で、ご飯にするんだからっ」
「えっ! これを食べるの?」
監視スキルの顔が強張って歪んだ。
フィルが魔物を齧る姿を思い浮かべてしまったのだ。 しかも、風神もフィルに同意しているのか、高速で頷いていた。
「マジでっ!」
木の枝に降り立ち、根元で嬉々として、フィルが魔物の解体をしている所を眺めていた。 監視スキルがあまりの状況に溜め息を吐いていると、懐が動き出す。
「おや?」
懐の合わせ目からひょっこりと顔を出したのは、記憶の底にいるポテポテだった。
「おぉ、ポテポテじゃないかっ! あ、そうか、隠れ家の魔法陣から出入りが出来るのか」
ポテポテは『あいっ!』と丸い手を挙げる。 ポテポテは大きな籠を持っていた。
中には回復薬と浄化薬、そして、飲み水とサンドイッチが沢山入っていた。
ポテポテは、薬を監視スキルへ渡す。
「ユウトさまっ、薬飲む、早く、ギギッ!」
「分かった、ありがとう」
薬を渡された監視スキルは、二本とも一気に飲み干した。 サンドイッチの匂いに釣られたフィルが監視スキルの側へやって来た。 風神も器用に登って来る。
「お二人、とも、どうぞ、フィンさまからです、ギギッ!」
「わぁ、ありがとう。 いただきます!」
フィルは銀色の美少年に姿を変えていて、大きな口を開けた。 監視スキルは風神にサンドイッチを投げ、全て落とさずに風神は投げられたサンドイッチを食べた。
とても美味しそうに咀嚼している。
ついでに自身も食べる。 気づかないうちに、お腹が空いていた様だ。
「ありがとう、ポテポテ、美味しいよ」
「いえ、喜ぶ、良かった。 ギギッ!」
(語尾に、ギギッって絶対に付けるんだねっ)
「で、ハナたちの様子はどうだ?」
「はい、薬飲んだ、今、眠ってる、ギギッ!」
「そう、間に合って良かったよ」
「はい、では、私、悪魔、見張る、番です。 ギギッ!」
「ん? ああ、あの悪魔ね。 分かった、しっかりと見張っていてくれ」
『あいっ!』と丸い手を挙げたポテポテは懐にある隠れ家の魔法陣の中へ消えた。
「薬も飲んで、ご飯も食べた。 今夜の寝床を探しながら、森を進もうか」
「うんっ! 風神、このお肉を背中に乗せてね」
こくこくと頷く風神。 背中には器用に葉っぱに包まれた肉の塊が乗せられていた。 監視スキルは仕方ないと、溜め息を吐いて風神の背に跨る。
「風神、また幻術を頼むよ」
監視スキルが風神の頭を撫でながら、お願いすると、皆の姿が消えた。
「さぁ、出発しよう」
風神は何の音も鳴らさずに、森の中を移動して行った。 森の切れ目に大きな岩があり、洞窟があった。 中へ入ると、棲家にしている動物もいない様だ。
風神が幻術を解くと、フィルは直ぐに姿を変える。
「今日の寝床はここにするか」
「うん、焚き火してお肉を焼こう」
フィルは早速、準備の為にあちこち走り回って行った。 風神に飲み水をやり、監視スキルも喉を潤す。
「ちょっと寒いかもっ」
身震いしていると、フィルが焚き木を沢山、持って帰って来た。 直ぐに焚き火を熾して暖を取る。 座っている風神に凭れ掛かっていれば、幾分かマシだ。
フィルは上手に魔物の肉を焼いている。
「ねぇ、理性のユウトは大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。 さっき薬も飲んだし、まだ暫くは起きないかな。 ユウトが一番、精神力を使ったからね」
「そうなんだ。 僕たちね、ユウトたちが絶対に助けてくれるって信じてたんだ」
「そうか、フィルたちが無事で良かった」
「うん、それで助かったら何が食べたいか、話してたんだ。 はい、監視スキル、お肉焼けたよ、食べて」
木の棒に刺した魔物肉を目の前に差し出される。 既に風神の前には、葉っぱの上に乗せられた肉が置かれていた。
風神は美味しそうに肉を食んでいる。
「あのさ、風神は草しか食べなかったよね?」
「エルフの里で、ユウトの弟にご飯を貰ってから、食べる様になったんだって」
「ああ、クオンかっ! あいつ風神の事を気に入ってよく世話してたもんね」
「うん。 はい、監視スキルも理性のユウトの身体の為に食べて!」
「分かった、分かったよ」
じっと肉を見つめ、フィルを見た。
「これ、普通の魔物の肉だったよね? 悪魔憑きじゃなかったよね?」
「うん、悪魔憑きは浄化しないと食べられないよ」
「うん、そうだった」
ジト目で見つめて来るフィルに監視スキルはたじろぐ。
「理性のユウトは意外と躊躇わずに口にしてたよ」
溜め息を吐いた監視スキルは、一気に肉を口に入れた。 監視スキルの瞳が見開く。 どうやら口に合ったらしいと、フィルは自分も肉を口に運んだ。
解体していた肉は全て平らげ、明日も調達しないと駄目だろう。
「フィル、おいで。 もう寝よう。 明日も早くから移動しないと」
「うん」
フィルが軽い音を鳴らし、スライムの姿に変わると、監視スキルの側へ跳ねて行った。
「おやすみ」とフィルが言うと、風神も嘶き、二人は直ぐに眠りについた。
本体である優斗が既に寝ている監視スキルは、優斗の身体を抜け出し、森を見渡せる高さまで飛んだ。 もう直ぐ森を抜けられる。 暫く歩かないと、街には辿り着けない様だ。
「まぁ、森を抜ければ、帝国の街だ。 見つからない様にしないとね。 薬屋を装うか」
◇
森を抜けたので、風神は隠れ家へ行ってもらい、監視スキルはフィルと街の門が見える所まで来ていた。 二人は草むらに隠れて、持っている荷物を確かめた。
昨晩にフィンが風神を隠れ家へ連れて行くのに、隠れ家の魔法陣から出て来て、必要な物を渡してくれた。
帝国はかなり厳しい入国審査があり、身元不明者は簡単には入国させてくれない。
エルフにペンダント型の個人を識別する為の魔道具がある様に。 同じ様な物が帝国にもある。 配られるプレートに、生まれた時に識別番号が振られるらしい。
しかし、帝国のプレートなど手に入らない。
優斗たちは外国人として、入国しないと行けなかった。
「この世界はやっぱり便利だよね」
「うん、だね。 帝国にもあるんだね。 冒険者ギルドって」
「だね。 まぁ、僕たちのはカラブリア王国のだけどね」
「いつ登録して来たの?」
「ああ、それはね。 僕たちの影武者が行って来てくれたんだよ」
「……影武者っ、ユウトも偉くなったんだね」
「まぁね」
監視スキルはフィルに言われても全く嬉しくないという顔をした。
「カラブリアの冒険者カードも年月が経てば変わるんだね。 帝国のプレートと変わらないね」
カード型からプレート型に変わっていた。
「うん」
「これ、フィルの分ね」
「うん、ありがとう」
フィルはとても嬉しそうに、プレートを受け取った。 裏表を見ながら、銀色の瞳を煌めかせている。 よほど嬉しいらしい。
「フィル、ちゃんと変化の魔道具を発動させて、この街は通り過ぎるだけだけど、フィルが魔物だと知られるのは不味いんだ」
「うん、分かってる。 従魔も駄目なんでしょう?」
「うん、そうなんだ。 ハナの魔道具は精巧に出来てるから大丈夫だ。 絶対にバレないよ」
「うん」
頷いたフィルは魔道具を発動させた。
フィルは銀色の美少年ではなく、普通の人族の美少年に変わった。
「おお、似合ってるよ、フィル。 でも、ちゃんと10歳児でいてくれよ」
「普通の10歳児がどんなか分からないよ」
「うん、だよね。 僕も分からないっ、さて、行くか。 ここにいても仕方ないからね」
「うん、行こうっ!」
監視スキルはフィルを連れ、冒険者が出入りする門へと向かった。
身内に10歳児のクオンがいる事をすっかり忘れている二人だった。
◇
「そうか、ウルスから連絡が途絶えたか、という事は捕まったな」
「はい、間違いないでしょう。 どうされます?」
「そうだな、彼らは既にこちらへ向かっているのだろう?」
「はい」
「なら、もう何もせず出迎えてくれ」
「はい、承知致しました。 ウルスの事はどうしましょうか?」
「どうせ、いつものクセが出たんだろうが、悪魔は抜かれているだろう。 多分だが、もう覚えていないだろう」
「はい」
「なら、エルフに引き渡せ。 こちらに帰って来てもあいつの席はない」
「承知致しました」
里長には知られずに溜め息をつく。
「少し出て来る」
「また、いつもの所ですか?」
「ああ、夕方には戻る」
「いってらっしゃいませ、ルクス様」
執務室として使っている天幕を出た彼、ルぺルクスルミナ・ハリオス・アーバス、皆からはルクスと呼ばれている。
彼には、いつも訪れる場所がある。
ルクスにとって大切な人が眠る場所だ。
来る途中で摘んできた草花を墓標へ供え、眉尻を下げる。
「俺もやっとそっちへ行けそうだ。 もう少しだけ待っていてくれな」
遠くで16時を知らせる鐘の音が鳴らされた。
◇
冒険者専用の出入り口には、沢山の人が列を成していた。 最後尾に並んだ監視スキルは直ぐに飽きてしまっていた。
「もう、こっそりと入ってしまおうか?」
「そんな事したら怒られるんじゃない?」
「見つかったら捕まるだろうな。 その後はっ」
ごくりと喉を鳴らして監視スキルは口元を引き結び、不安を煽る様な表情を作る。
「その後はっ?!」
フィルの顔が恐怖で歪み、小さい声が更に震えた。 監視スキルが口を開こうとした時、脳内で優斗の声が響いた。
『監視スキル、それ以上フィルを揶揄うな』
「ユウトっ!」
「えっ、ユウト?! 何処にっ?!」
フィルは周囲にユウトが現れたと思ったのか、前後左右に視線を走らせた。
「あ、ごめん」
(ユウトが目覚めたんだ)
(そうなんだっ! 良かったぁ、もう大丈夫なの?)
『いや、どうかな。 分からないなっ』
(無理しない方がいいと思うよ、ユウト。 その証拠に僕と入れ替わらないだろう?)
『そうか、まだ本調子じゃないって事か』
(待っている間に、今の状況を説明するよ)
『悪いな』
(いいんだよ、退屈しのぎにいいしね)
監視スキルが優斗に説明している間に列は進み、もう少しで監視スキルたちの順番が回って来る。
『そうか、皆、助かったんだな。 良かったよ』
(ユウトの作戦大成功だったね)
『ああ、良かったよ。 前に俺の身体を勝手に動かした事があったろ? だから、俺が気を失えば、もしかしたら監視スキルが顔を出すと思ったんだ』
(そんな事だろうと思ったよ)
(そんな事があったんだ。 ユウトの思いつきだったんだね)
『フィルも無事で良かったよ』
優斗の声が響くと、優斗の手がフィルの頭を撫でた。 フィルは嬉しそうにしていたが、次の瞬間、三者三様の驚きの声が上がった。
(身体、動かせたね)
『ああ、でも今のところ、手だけだなっ』
(そう、でも、直ぐに全回復しそうだね。 あ、順番が来た)
『ちゃんと人間らしくしろよ』
(どういう意味かな? 僕、ちゃんとできるよ)
隣で手を繋いで進むフィルが念話を聞いて、呆れた様な視線を向けている事に、監視スキルと優斗は気づかない。
監視スキルの番が回って来て、門番から冒険者のプレートの提示を求められる。
二人は心の中で、バレません様にと念じた。
門番はプレートが本物かどうか確かめる為、魔法陣にプレートを翳す。 何もなければ、反応しないのか無事にプレートは戻って来た。
「よし、次は荷物検査だ。 カバンを改める」
カバンは何と昔懐かしの華の学生鞄だ。
子孫たちは大事に使っていたらしく、大昔の物なのに、傷一つなかった。 華の学生鞄は何でも入る学生鞄だ。
フィンが色々な物を詰めて寄越してくれたのだ。 勿論、ポテポテも中に隠れている。
隠れ家の魔法陣は監視スキルの懐に大事にしまってある。
(これも見つかったらやばいけど、大丈夫だよね)
学生鞄は普通の鞄に擬装していて、無事に荷物検査も終了した。
一応、冒険者なので武器を持っていないと不思議に思われる。 短刀を二本、腰にさしていた。 武器の提示を求められ、監視スキルは素直に渡した。
短刀はエルフの武器ではなく、華が制作したちょっとだけ厳ついデザインの短刀だ。 厳つい訳は、持ち手に登り龍が精巧に掘られているからだろう。
(うわぁ、門番、めちゃくちゃ引いてるよ)
『ああ、冒険者ランクも低いからだろう? 俺たち、今世は冒険者として何もしてないからなっ』
(うんっ)
門番の視線がフィルへ移動し、門番の瞳が細まる。 門番の眼差しにフィルはサッと監視スキルの後ろへ隠れた。
「弟は素材採取専門だから、武器は持っていない」
監視スキルに鋭く睨みつけられた門番は、何故か頬を赤くして固まった。
監視スキルとフィルから訝しげに見つめられ、門番が我に返り、咳払いを溢す。
「行ってよしっ」
門番の関所を何とか潜り抜け、ホッと一安心し、監視スキルはフィルの手を握り直す。
「さて、少しくらい街を見て回るか」
「うん、僕、お腹空いた」
「朝ごはん食べたばっかりだけど、まぁ、ちょっと市場でも覗いてみるか」
「行こう、行こう!」
監視スキルとフィルは意気揚々と、市場へ向かって歩いて行った。
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