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第五十七話 『船からの脱出』
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理性を司る優斗が気絶した為、奥底に隠していた優斗の闇の部分を司る監視スキルが入れ替わった。
ウルスを討伐する為、監視スキルは操縦室へ向かう。
「きっとあいつらは、アスクさんたちを人質に取る。 僕がウルスの気を引くから、フィルと風神はアスクさんたちを救出して欲しい」
「うわ、分かった」
「そうだ、隠れ家の魔法陣、フィルに渡しておく」
「でも、僕は隠れ家を自由に操れないよ?」
「大丈夫だよ、隠れ家には念話が届くから」
「あ、そうか。 フィンと連絡が取れるんだ」
「そう言う事だよ」
監視スキルの指示に風神も頷く。
操縦室の前まで来ると、風神が幻術を使って己の姿と、フィルの姿を消した。
操縦室のノブを回して中へ入る。
監視スキルの視界に飛び込んで来たのは、思った通り、アスクたちを人質に取ろうとしていたウルスの姿だった。
「お前っ! 何故、動けるんだっ! 限界まで体力と精神力を奪ったはずだっ!」
「そんなの、君に言う必要はないよ」
「何っ!!」
(面倒だな、やってしまおうかなっ)
監視スキルの瞳に怪しい光が宿り、ウルスは全身を震えさせた。 気を抜けば、殺されてしまうと思ったのか、何かの呪文を唱え出した。 目の前で殺気を放つ監視スキルに気を取られ、周囲に目がいかなかったウルスは、アスクたちが消えた事に気づいていなかった。
アスクたちを首尾よく助け出した事を確認した監視スキルは、ウルスが呪文を唱え終わらない内に近づき、ウルスの腹に思いっきり蹴りを喰らわせた。
ウルスは咳き込みながら身体をくの字に曲げる。 涙目になりながら監視スキルを見上げ、瞳を大きく見開いた。
ウルスの白銀の瞳には、凶悪な顔をした優斗の姿が映り込んでいた。
ローブの襟首を掴んで無理やり立たせた。 ウルスは小さく悲鳴を上げる。
監視スキルの白銀の瞳に魔力が宿る。
ウルスの黒い心臓を探し、心臓の位置で脈打っている様子が視えた。 監視スキルは素早く木製短刀を取り出して、黒い心臓に剣先をあてがう。
「逝く前に、おまえたちのボスの事を教えろ」
監視スキルは怒鳴った訳ではないが、ウルスの身体が恐怖で震えている。
「だ、誰が言うかっ……がはっ」
ウルスの返事を聞くと、普通に腹を刺した。 呻き声を上げるウルスに監視スキルはもう一度、問いかけた。
「お前らのボスはダークエルフの里長か?」
「さぁなっ」
監視スキルは舌打ちをすると、躊躇う事なく、黒い心臓を刺した。 木製短刀をゆっくりと引き抜く。
ズズッと悪魔がウルスの身体から引き抜かれる。
身体から悪魔が抜かれる時の痛みで、ウルスは叫び声を上げる。 悪魔が次の宿主を探して囁くが、監視スキルには悪魔の囁きは効かない。
「僕は元々、闇だからね。 君の声は鬱陶しいだけかな」
『凍れっ!!』
木製短刀に纏わりついていた悪魔は、音を立てて凍りついた。 悪魔の浄化をしたいが、華が居ない以上無理だ。
(このまま、凍らせた状態で隠れ家の何処かに閉じ込めておくか)
ウルスは浄化する方がいいだろうと、起きた時に暴れない様、操縦室にある用具入れにあった縄で縛った。
(お~い、フィル。 終わったよ)
『えっ!! もう、終わったの?!』
(ウルスを縄で縛ってるからこっちに来てくれない? 後、出来たら回復薬と浄化薬も持って来て)
『了解っ!! 待ってて』
フィルは直ぐに回復薬と浄化薬を持って来た。 直ぐに治療を始めるが、作り置きの浄化薬ではあまり期待できない。
「彼、記憶があると思う?」
「どうだろう? どれくらいの期間、悪魔を身体の中で飼ってたかによるな」
「でも、一人でよく倒せたね? 理性のユウトたちは大分苦戦したのに……」
「あぁ、それは相手によるね。 ウルスは幻術使いで、術に頼りきってるからね。 全くと言っていいくらいに、体力も何の武術も持っていなかったよ」
「そうなんだ」
「うん、だから悪魔も物凄く弱かったよ」
「あ、見て」
ウルスの幻術が解けたのか、エルフの特長だった白銀の瞳も髪も、真っ白な肌も消えた。 幻術が解けたウルスは、褐色の肌とグレーの髪に変わり、白目を剥いていた瞳がグレーの瞳に変わって瞼が閉じる。
ウルスを覗き見ていたら、大きな雷鳴と、船が大きく揺れた。
全く気づかなかったが、目の前の窓には雷雨が直撃していた。 ウルスが気を失ったので、雷雨が迫って来たのだろう。
「それにしては突然過ぎないかっ! まさかと思うけど、最初から船を沈没させる気だったとか?」
「そうかも知れない、何も連絡なくユウトたちが居なくなったら心配するし、アスクさんたちが戻らなかったら余計だよね」
「海が荒れそうなのに出航するはずだよ。 隣国に僕たちを売り払ったら船ごと沈める気だったんだなっ」
「最低だね、コイツ」
船に雷が落ち、船が壊れていく音が操縦室に響き、船が大きく揺れた。
「彼が覚えているか分からないけど……理性のユウトと、ハナは絶対に死刑にはしないだろうなぁ」
「エルフの里って、死刑制度なかったよね……って、何? じっと見て」
「いや、どう見ても10歳くらいの子供に見える大人と話してるのって、変な感じって思って。 それにフィルとはいつも、念話だったしね」
「それを言われた僕は何て答えればいいのさ」
「ちょっと! 貴方たち、こんなに船が揺れてるのに、よく平気で話せるわねっ。 しかも船は今にも沈みそうなのに、会話だけ聞いてたら穏やかな航行だと思うじゃないっ!!」
「あ、違和感第二号が来た!」
「ちょっとっ、その、呼び方やめてっ! 貴方の事、何て呼べばいいか分からないけど、兎に角、彼を隠れ家へ連れて行くわ。 ちゃんと閉じ込めておくわよ」
「うん、よろしくね、あ、フィン、コイツも閉じ込めておいて」
監視スキルが投げつけたのは、凍りついた悪魔だった。 難なく受け止めたフィンは、悪魔を見て顔を歪めた。
「フィン、一人で大丈夫なの?」
フィルが心配そうにフィンを見ると、彼女は『ふふんっ』と得意気な表情を浮かべた。
「それは大丈夫よ。 ポテポテがいるからね」
フィンの言葉で監視スキルとフィルは、そう言えば居たな、とキモ怖なデザインのぬいぐるみ。 華が作った隠れ家の護衛隊を思い出した。
フィンは大きく揺れる船の中、隠れ家の魔法陣を置いた。 ウルスと凍りついた悪魔を魔法陣の中へ突っ込むと光を放った。
フィン自身も続いて魔法陣の中へ入る。
「フィルは隠れ家に入らなくてもいいのか?」
「うん、ユウトを一人にできない」
「分かったよ」
フィンが隠れ家へ入った事を確認した監視スキルは、隠れ家の魔法陣を懐にしまった。
「風神っ!」
監視スキルの声で姿を現した風神の背中に跨り、前にフィルが乗り込んでくる。
大きく揺れる船の中を、風神は難なく走り抜ける。 危うく沈んでいく船の中、風神は船の甲板を蹴り、海へ飛び込んだ。
監視スキルとフィルの瞳が見開く。
海の中へ落ちると思われたが、風神は雷で壊れて海に浮かんでいる木片に次々と着地して行った。 最後に、船が壊された時に飛ばされたのか、丁度、浮かんでいた主さまの木像へ着地した。
木像で出来た主さまの膝の上へ飛び乗った風神は、何処か満足気だ。
フィルが主さまの木像を見ると、歓喜の声を上げた。 そして、風神の妙技に監視スキルとフィルから感心した声が出た。
何とか、船からの脱出に成功し、フィルから安堵の息が漏れた。
「踏み付けてごめんね、主さま。 でも、僕たちは助かったよ」
「ふふっ、主さまありがとう。 でも、間に合ったけど、行き先は暗いね。 フィル、スライムになって僕の懐に入ってるんだ。 絶対に出て来るなよ」
「分かった」
軽い音を鳴らして、フィルはスライムの姿に戻り、監視スキルの懐へ潜り込んだ。
「僕はこの魔道具で姿を変える、と、どう風神。 エルフには見えないだろ?」
風神は一瞬だけ、瞳を見開いたが無言で頷いた。 監視スキルが得意気に語る。
「流石、ハナだ。 素晴らしい魔道具だよ」
ちょこんと顔を出したフィルも監視スキルの姿を見て驚きの声を上げる。
「あぁ、ぜんせいのユウトみたいだっ!」
「でしょう? これで立派な人族だ」
話している間に風神が魔力で木像の主さまを漕いでくれていた様で、木像の主さまは海岸に流れ着いた。
「さて、風神は姿を消して離れずに着いて来て。 序でに、助けてくれた木像の主さまには悪いけど、海に沈めてくれたら嬉しい。 本当は風神も隠れ家に居て欲しいけど、君の幻術は役に立つからね」
風神の頭を撫でると、『任せろ』と、尻尾を大きく振った後、風神は幻術で己の姿を消した。
慎重になっている監視スキルに、フィルから疑問の声が投げ掛けられる。
「ねぇ、なんで、ふうじんとぼくは、みられたらダメなの? ふうじんも、しりたいって」
風神が木像の主さまを海に沈めて戻って来た。 砂浜に、姿が見えない風神の足跡がつけられ、蹄の跡が近づいて来る。
「お疲れ様、ありがとう、風神。 何故、君やフィルが見られない様にするかは、エルフの理由と同じだよ。 流れ着いたこの国は、不思議現象とか、神秘とか、神獣やエルフが大好きなんだよ。 一角獣もそう。 『大好き』な理由が好意的ならいいんだけどね」
フィルからゲンナリした声が、監視スキルの懐から飛び出した。
「フィンは当分、出て来られないだろうけど、出て来ない様にって伝えておいてね、フィル」
「うん、分かった」
「後、寝る時も僕から離れない事、森の奥へ行ってはダメだからね」
「……分かった」
フィルの残念そうな声が聞こえた。
「で、このあとは、どうするの?」
「そうだね……」
監視スキルの脳内に立体型の地図が現れる。 現在地の旗の横に優斗の人形型の表示があり吹き出しが指している。
そしてもう一つ吹き出しが指し、『華in隠れ家』と書いてあった。 ちょっとだけ面白い。
「なるほど、そんな表示になるんだ」
目の前の森を抜けると、小さくない街がある様だ。 しかし、街へは行かず森を真っ直ぐに進んで隣国の帝国へ向かいたい。
「フィル、森を抜けて隣国の帝国に行くよ」
「うん、ここにいて、みつかったらこわいもんね」
「ああ、風神、砂浜に残る僕たちの足跡を消しながら着いて来て」
「ふうじんが『わかった』って」
フィルの言う通り、風神は足跡を消しながら着いて来た。 砂浜に着いた足跡が、付いたそばから消えていく。
監視スキルは素早く森の中へ入って行った。
◇
一方、隠れ家ではフィンが忙しく働いていた。 久しぶりの隠れ家は懐かしい匂いがし、フィンの胸に暖かい何かが溢れる。
しかし、フィンには余韻に浸っている余裕はない。 隠れ家を再び手に入れた後、華とフィンは少しづつだが、旅の準備をして来た。 隠れ家には華が作った回復薬と浄化薬が常備してある。
昔からあったログハウスに加え、もう一つログハウスが追加されていて、華たちの子孫の誰かが増やしたと思われる。
増えていたログハウスの間取りは、四つの部屋、シャワー室とトイレが備え付けられている。 部屋数と広さを考えると、客室用に作られた様だ。
「さてと、では呼び出しますか。 ポテポテたち出て来なさい」
フィンが呼ぶとあちこちから、ポテポテが姿を現した。 ポテポテはフィンの傍らで倒れている自身の主を見て飛び上がって駆け寄って来た。
「フィン、様、何があったのですか? ギキッ」
ポテポテは首を傾げ、フィンに問いかけて来た。
「説明は後よ。 とりあえず、こっちのログハウスに戦士隊の三人を寝かせて、ハナが作り置きしている回復薬と浄化薬を飲ませて」
フィンの指示に数人のポテポテが動き出した。
「ハナたちは隠れ家のそれぞれの部屋へ運んで同じように薬を飲ませて」
数人のポテポテが華と仁奈、瑠衣を部屋へと運んで行った。 そして最後の一人、ダークエルフのウルスだ。 幻術使いである彼は、エルフの里へ犯罪人として引き渡したい。
「彼は薬を飲ませてたわね、じゃ、大丈夫ね。 後はこれよね……ハナは今は無理だし、主さまは……来れないよねっ」
フィンの視線の先には、凍りついた悪魔が草地に置かれている。 ウルスは客室の一室に閉じ込め、魔法を掛けてポテポテに見張らせる事にした。
「凍りづけの悪魔はどうしよう」
一人悩んでいると、残った数人のポテポテの一人が提案して来た。
「浄化が、出来るまで、ここに、結界を張って、閉じ込め、ましょう。 ギキッ」
「そうね、池の側なら何処からも見えるし、ふふっ、ユウトの氷は解けないし、私の結界も簡単には解けないわよ」
銀色の美少女は優雅に微笑み、銀色の指先を凍りついた悪魔に向けた。
透明な銀色で羽根の生えたスライムの形をした結界が形成された。 結界の中で凍りついた悪魔が何か抗議の声を上げた様に聞こえた。
「三人体制で見張って、私は皆の様子を見に行ってくるわ」
ポテポテはフィンの指示に『あいっ!』と、丸い手を上げた。
隠れ家は、掃き出し窓を開けると、リビングがあり、左側に食堂とキッチン、右側に二つの部屋がある。
部屋はメゾネットタイプになっていて、一階が居間、二階にベッドが置いてある。
フィンは先に瑠衣と仁奈の様子を見に行った。 二人は同じベッドで寝かされ、薬が効いているのか、健やかな呼吸をして、気持ち良さそうに寝ていた。
最後に華と優斗の部屋へ、華の様子を見に行った。 華も薬が効いているのか、気持ち良さそうに寝ている。
華の様子にフィンはホッと安堵した。
「後は目覚めるのを待つだけね。 あっ! ユウトにも薬を飲ませないとダメだわ。 それと、ご飯ね。 ポテポテ、ご飯を作るの手伝って、ユウトに薬と一緒に持って行って欲しい」
ポテポテが元気一杯に返事をし、フィンたちはキッチンへ向かった。
ウルスを討伐する為、監視スキルは操縦室へ向かう。
「きっとあいつらは、アスクさんたちを人質に取る。 僕がウルスの気を引くから、フィルと風神はアスクさんたちを救出して欲しい」
「うわ、分かった」
「そうだ、隠れ家の魔法陣、フィルに渡しておく」
「でも、僕は隠れ家を自由に操れないよ?」
「大丈夫だよ、隠れ家には念話が届くから」
「あ、そうか。 フィンと連絡が取れるんだ」
「そう言う事だよ」
監視スキルの指示に風神も頷く。
操縦室の前まで来ると、風神が幻術を使って己の姿と、フィルの姿を消した。
操縦室のノブを回して中へ入る。
監視スキルの視界に飛び込んで来たのは、思った通り、アスクたちを人質に取ろうとしていたウルスの姿だった。
「お前っ! 何故、動けるんだっ! 限界まで体力と精神力を奪ったはずだっ!」
「そんなの、君に言う必要はないよ」
「何っ!!」
(面倒だな、やってしまおうかなっ)
監視スキルの瞳に怪しい光が宿り、ウルスは全身を震えさせた。 気を抜けば、殺されてしまうと思ったのか、何かの呪文を唱え出した。 目の前で殺気を放つ監視スキルに気を取られ、周囲に目がいかなかったウルスは、アスクたちが消えた事に気づいていなかった。
アスクたちを首尾よく助け出した事を確認した監視スキルは、ウルスが呪文を唱え終わらない内に近づき、ウルスの腹に思いっきり蹴りを喰らわせた。
ウルスは咳き込みながら身体をくの字に曲げる。 涙目になりながら監視スキルを見上げ、瞳を大きく見開いた。
ウルスの白銀の瞳には、凶悪な顔をした優斗の姿が映り込んでいた。
ローブの襟首を掴んで無理やり立たせた。 ウルスは小さく悲鳴を上げる。
監視スキルの白銀の瞳に魔力が宿る。
ウルスの黒い心臓を探し、心臓の位置で脈打っている様子が視えた。 監視スキルは素早く木製短刀を取り出して、黒い心臓に剣先をあてがう。
「逝く前に、おまえたちのボスの事を教えろ」
監視スキルは怒鳴った訳ではないが、ウルスの身体が恐怖で震えている。
「だ、誰が言うかっ……がはっ」
ウルスの返事を聞くと、普通に腹を刺した。 呻き声を上げるウルスに監視スキルはもう一度、問いかけた。
「お前らのボスはダークエルフの里長か?」
「さぁなっ」
監視スキルは舌打ちをすると、躊躇う事なく、黒い心臓を刺した。 木製短刀をゆっくりと引き抜く。
ズズッと悪魔がウルスの身体から引き抜かれる。
身体から悪魔が抜かれる時の痛みで、ウルスは叫び声を上げる。 悪魔が次の宿主を探して囁くが、監視スキルには悪魔の囁きは効かない。
「僕は元々、闇だからね。 君の声は鬱陶しいだけかな」
『凍れっ!!』
木製短刀に纏わりついていた悪魔は、音を立てて凍りついた。 悪魔の浄化をしたいが、華が居ない以上無理だ。
(このまま、凍らせた状態で隠れ家の何処かに閉じ込めておくか)
ウルスは浄化する方がいいだろうと、起きた時に暴れない様、操縦室にある用具入れにあった縄で縛った。
(お~い、フィル。 終わったよ)
『えっ!! もう、終わったの?!』
(ウルスを縄で縛ってるからこっちに来てくれない? 後、出来たら回復薬と浄化薬も持って来て)
『了解っ!! 待ってて』
フィルは直ぐに回復薬と浄化薬を持って来た。 直ぐに治療を始めるが、作り置きの浄化薬ではあまり期待できない。
「彼、記憶があると思う?」
「どうだろう? どれくらいの期間、悪魔を身体の中で飼ってたかによるな」
「でも、一人でよく倒せたね? 理性のユウトたちは大分苦戦したのに……」
「あぁ、それは相手によるね。 ウルスは幻術使いで、術に頼りきってるからね。 全くと言っていいくらいに、体力も何の武術も持っていなかったよ」
「そうなんだ」
「うん、だから悪魔も物凄く弱かったよ」
「あ、見て」
ウルスの幻術が解けたのか、エルフの特長だった白銀の瞳も髪も、真っ白な肌も消えた。 幻術が解けたウルスは、褐色の肌とグレーの髪に変わり、白目を剥いていた瞳がグレーの瞳に変わって瞼が閉じる。
ウルスを覗き見ていたら、大きな雷鳴と、船が大きく揺れた。
全く気づかなかったが、目の前の窓には雷雨が直撃していた。 ウルスが気を失ったので、雷雨が迫って来たのだろう。
「それにしては突然過ぎないかっ! まさかと思うけど、最初から船を沈没させる気だったとか?」
「そうかも知れない、何も連絡なくユウトたちが居なくなったら心配するし、アスクさんたちが戻らなかったら余計だよね」
「海が荒れそうなのに出航するはずだよ。 隣国に僕たちを売り払ったら船ごと沈める気だったんだなっ」
「最低だね、コイツ」
船に雷が落ち、船が壊れていく音が操縦室に響き、船が大きく揺れた。
「彼が覚えているか分からないけど……理性のユウトと、ハナは絶対に死刑にはしないだろうなぁ」
「エルフの里って、死刑制度なかったよね……って、何? じっと見て」
「いや、どう見ても10歳くらいの子供に見える大人と話してるのって、変な感じって思って。 それにフィルとはいつも、念話だったしね」
「それを言われた僕は何て答えればいいのさ」
「ちょっと! 貴方たち、こんなに船が揺れてるのに、よく平気で話せるわねっ。 しかも船は今にも沈みそうなのに、会話だけ聞いてたら穏やかな航行だと思うじゃないっ!!」
「あ、違和感第二号が来た!」
「ちょっとっ、その、呼び方やめてっ! 貴方の事、何て呼べばいいか分からないけど、兎に角、彼を隠れ家へ連れて行くわ。 ちゃんと閉じ込めておくわよ」
「うん、よろしくね、あ、フィン、コイツも閉じ込めておいて」
監視スキルが投げつけたのは、凍りついた悪魔だった。 難なく受け止めたフィンは、悪魔を見て顔を歪めた。
「フィン、一人で大丈夫なの?」
フィルが心配そうにフィンを見ると、彼女は『ふふんっ』と得意気な表情を浮かべた。
「それは大丈夫よ。 ポテポテがいるからね」
フィンの言葉で監視スキルとフィルは、そう言えば居たな、とキモ怖なデザインのぬいぐるみ。 華が作った隠れ家の護衛隊を思い出した。
フィンは大きく揺れる船の中、隠れ家の魔法陣を置いた。 ウルスと凍りついた悪魔を魔法陣の中へ突っ込むと光を放った。
フィン自身も続いて魔法陣の中へ入る。
「フィルは隠れ家に入らなくてもいいのか?」
「うん、ユウトを一人にできない」
「分かったよ」
フィンが隠れ家へ入った事を確認した監視スキルは、隠れ家の魔法陣を懐にしまった。
「風神っ!」
監視スキルの声で姿を現した風神の背中に跨り、前にフィルが乗り込んでくる。
大きく揺れる船の中を、風神は難なく走り抜ける。 危うく沈んでいく船の中、風神は船の甲板を蹴り、海へ飛び込んだ。
監視スキルとフィルの瞳が見開く。
海の中へ落ちると思われたが、風神は雷で壊れて海に浮かんでいる木片に次々と着地して行った。 最後に、船が壊された時に飛ばされたのか、丁度、浮かんでいた主さまの木像へ着地した。
木像で出来た主さまの膝の上へ飛び乗った風神は、何処か満足気だ。
フィルが主さまの木像を見ると、歓喜の声を上げた。 そして、風神の妙技に監視スキルとフィルから感心した声が出た。
何とか、船からの脱出に成功し、フィルから安堵の息が漏れた。
「踏み付けてごめんね、主さま。 でも、僕たちは助かったよ」
「ふふっ、主さまありがとう。 でも、間に合ったけど、行き先は暗いね。 フィル、スライムになって僕の懐に入ってるんだ。 絶対に出て来るなよ」
「分かった」
軽い音を鳴らして、フィルはスライムの姿に戻り、監視スキルの懐へ潜り込んだ。
「僕はこの魔道具で姿を変える、と、どう風神。 エルフには見えないだろ?」
風神は一瞬だけ、瞳を見開いたが無言で頷いた。 監視スキルが得意気に語る。
「流石、ハナだ。 素晴らしい魔道具だよ」
ちょこんと顔を出したフィルも監視スキルの姿を見て驚きの声を上げる。
「あぁ、ぜんせいのユウトみたいだっ!」
「でしょう? これで立派な人族だ」
話している間に風神が魔力で木像の主さまを漕いでくれていた様で、木像の主さまは海岸に流れ着いた。
「さて、風神は姿を消して離れずに着いて来て。 序でに、助けてくれた木像の主さまには悪いけど、海に沈めてくれたら嬉しい。 本当は風神も隠れ家に居て欲しいけど、君の幻術は役に立つからね」
風神の頭を撫でると、『任せろ』と、尻尾を大きく振った後、風神は幻術で己の姿を消した。
慎重になっている監視スキルに、フィルから疑問の声が投げ掛けられる。
「ねぇ、なんで、ふうじんとぼくは、みられたらダメなの? ふうじんも、しりたいって」
風神が木像の主さまを海に沈めて戻って来た。 砂浜に、姿が見えない風神の足跡がつけられ、蹄の跡が近づいて来る。
「お疲れ様、ありがとう、風神。 何故、君やフィルが見られない様にするかは、エルフの理由と同じだよ。 流れ着いたこの国は、不思議現象とか、神秘とか、神獣やエルフが大好きなんだよ。 一角獣もそう。 『大好き』な理由が好意的ならいいんだけどね」
フィルからゲンナリした声が、監視スキルの懐から飛び出した。
「フィンは当分、出て来られないだろうけど、出て来ない様にって伝えておいてね、フィル」
「うん、分かった」
「後、寝る時も僕から離れない事、森の奥へ行ってはダメだからね」
「……分かった」
フィルの残念そうな声が聞こえた。
「で、このあとは、どうするの?」
「そうだね……」
監視スキルの脳内に立体型の地図が現れる。 現在地の旗の横に優斗の人形型の表示があり吹き出しが指している。
そしてもう一つ吹き出しが指し、『華in隠れ家』と書いてあった。 ちょっとだけ面白い。
「なるほど、そんな表示になるんだ」
目の前の森を抜けると、小さくない街がある様だ。 しかし、街へは行かず森を真っ直ぐに進んで隣国の帝国へ向かいたい。
「フィル、森を抜けて隣国の帝国に行くよ」
「うん、ここにいて、みつかったらこわいもんね」
「ああ、風神、砂浜に残る僕たちの足跡を消しながら着いて来て」
「ふうじんが『わかった』って」
フィルの言う通り、風神は足跡を消しながら着いて来た。 砂浜に着いた足跡が、付いたそばから消えていく。
監視スキルは素早く森の中へ入って行った。
◇
一方、隠れ家ではフィンが忙しく働いていた。 久しぶりの隠れ家は懐かしい匂いがし、フィンの胸に暖かい何かが溢れる。
しかし、フィンには余韻に浸っている余裕はない。 隠れ家を再び手に入れた後、華とフィンは少しづつだが、旅の準備をして来た。 隠れ家には華が作った回復薬と浄化薬が常備してある。
昔からあったログハウスに加え、もう一つログハウスが追加されていて、華たちの子孫の誰かが増やしたと思われる。
増えていたログハウスの間取りは、四つの部屋、シャワー室とトイレが備え付けられている。 部屋数と広さを考えると、客室用に作られた様だ。
「さてと、では呼び出しますか。 ポテポテたち出て来なさい」
フィンが呼ぶとあちこちから、ポテポテが姿を現した。 ポテポテはフィンの傍らで倒れている自身の主を見て飛び上がって駆け寄って来た。
「フィン、様、何があったのですか? ギキッ」
ポテポテは首を傾げ、フィンに問いかけて来た。
「説明は後よ。 とりあえず、こっちのログハウスに戦士隊の三人を寝かせて、ハナが作り置きしている回復薬と浄化薬を飲ませて」
フィンの指示に数人のポテポテが動き出した。
「ハナたちは隠れ家のそれぞれの部屋へ運んで同じように薬を飲ませて」
数人のポテポテが華と仁奈、瑠衣を部屋へと運んで行った。 そして最後の一人、ダークエルフのウルスだ。 幻術使いである彼は、エルフの里へ犯罪人として引き渡したい。
「彼は薬を飲ませてたわね、じゃ、大丈夫ね。 後はこれよね……ハナは今は無理だし、主さまは……来れないよねっ」
フィンの視線の先には、凍りついた悪魔が草地に置かれている。 ウルスは客室の一室に閉じ込め、魔法を掛けてポテポテに見張らせる事にした。
「凍りづけの悪魔はどうしよう」
一人悩んでいると、残った数人のポテポテの一人が提案して来た。
「浄化が、出来るまで、ここに、結界を張って、閉じ込め、ましょう。 ギキッ」
「そうね、池の側なら何処からも見えるし、ふふっ、ユウトの氷は解けないし、私の結界も簡単には解けないわよ」
銀色の美少女は優雅に微笑み、銀色の指先を凍りついた悪魔に向けた。
透明な銀色で羽根の生えたスライムの形をした結界が形成された。 結界の中で凍りついた悪魔が何か抗議の声を上げた様に聞こえた。
「三人体制で見張って、私は皆の様子を見に行ってくるわ」
ポテポテはフィンの指示に『あいっ!』と、丸い手を上げた。
隠れ家は、掃き出し窓を開けると、リビングがあり、左側に食堂とキッチン、右側に二つの部屋がある。
部屋はメゾネットタイプになっていて、一階が居間、二階にベッドが置いてある。
フィンは先に瑠衣と仁奈の様子を見に行った。 二人は同じベッドで寝かされ、薬が効いているのか、健やかな呼吸をして、気持ち良さそうに寝ていた。
最後に華と優斗の部屋へ、華の様子を見に行った。 華も薬が効いているのか、気持ち良さそうに寝ている。
華の様子にフィンはホッと安堵した。
「後は目覚めるのを待つだけね。 あっ! ユウトにも薬を飲ませないとダメだわ。 それと、ご飯ね。 ポテポテ、ご飯を作るの手伝って、ユウトに薬と一緒に持って行って欲しい」
ポテポテが元気一杯に返事をし、フィンたちはキッチンへ向かった。
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