我関せずな白蛇の亜人が恋に落ちる

伊織愁

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14話

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 釣ったばかりの川魚に塩を振りかけ、熾したばかりの焚火で焼き始める。 焚火の火が弾け、川魚の焼ける匂いが辺りに充満していく。 火の番をしているのはアンガスの補佐官だ。

 アンガスたちは森の中へ、キノコや野草、木の実など、何か食べられそうな食材を探しに入っていた。 護衛の騎士、何故かグレンダの侍女も付いて来ていた。

 森の奥へ入り込まなければ、魔物にも遭わずに済む。 少しだけ、四方へ散ってアンガスたちの食材探しは続けられた。 皆のかごが一杯になる頃には、補佐官が焼いている川魚もいい食べ頃になっているだろう。

 アンガスはキノコがないだろうかと、探している背後で、ローラとリーバイの二人が楽しそうに会話している様子を背中で感じていた。 少し、不満顔で視線を背中越しにやる。

 「ローラ、こっちにも木の実が生ってるよ」
 「あら、本当。 美味しそうね」

 リーバイが目の前の木の実を枝からもいで、ローラへ手渡している。 きっと、番やら恋人などが絡んでなくても、二人は仲が良いのだろう。 二人が一緒に居る姿は自然に見える。

 久しぶりにアンガスの心情を感じ取ったのか、番の刻印が疼く。 手の甲が焼ける様な痛みを感じ、刻印に視線をやると、銀色に輝く刻印が視界に入った。 まだ、痺れている刻印をそっと撫でた。

 (これが……嫉妬っていうやつですか……)

 ローラとリーバイの二人が仲良く木の実をもいでいる様子を見ていたのは、アンガスだけではなかった。 グレンダと侍女の二人だ。 グレンダは淑女教育の賜物で、感情を表に出していなかったが、扇子を強く握りしめる様子に感情が現れていた。 グレンダの侍女二人は己の感情を隠さず、鋭い瞳でローラを見つめていた。 誰も侍女たちの様子に気づいていなかった。

 キャンプも中盤に入り、ほぼ皆がやりたい事をやり終えていた。 ぼうっと天幕でゆったりするのもいいが、そろそろ皆は、飽きて来ていた。 なので、予定を早めて帰ろうかと、話し合っている時に、事件は起こった。

 ローラが夕食の準備をすると言って天幕を出て行ったきり、帰って来ず、バーベキューセットの周囲には姿もなかった。 日が沈んだ後になっても戻って来なかったのだ。

 心配したアンガスたちは、周囲を探したが姿見えず、もしかしたら森の中へ入って行ったのではないかと、考えた。 しかし、安全に入れる森の入り口近くには、ローラの姿はなかった。

 アンガスの脳内に補佐官の言葉が蘇える。 まだ、番の刻印が刻まれる前で、番など夢物語だと思っていた頃の事だ。

 『偽印でも、本物の刻印でも、お互いの想いが深まると、心が繋がるんですよ。 番が何処に居るのか、感じるんです。 魔力感知とかではなく。 心で感じるんですよ』
 『貴方も番と繋がっているのですか?』
 『ええ、少し、時間はかかりましたけどね。 想いを深めないと駄目ですから、直ぐには無理ですけど。 若様も成人したら婚約者が出来るでしょう。 覚えておいて下さい』
 『私には、少し理解しがたいですね。 それに成人しても、直ぐには婚約者は作りません』

 アンガスに刻印が刻まれたのは、補佐官と番について会話した数日後、成人の儀式を行った日だった。

 番の刻印はお互いの想いが強くなると、刻まれた相手と繋がるのだという。 繋がりは、偽印でも起こる。 刻印は心と密接に関係している。

 (どうすればっ、刻印が繋がるんですっ?! 今が一番、必要な時でしょうっ?!)

 「誰か、ローラが森へ入った所を見た者はいないかっ?!」

 アンガスは周囲で一緒に探している護衛騎士に詰め寄った。 ローラが理由もなしに、危険な森へ単独で行く事はないはずである。

 「……それがっ、私どもにはっ分からなくて……申し訳ありませんっ」
 「おいっ! お前っ、ローラが何処に居るのか分からないのかよっ! 番は居場所が分かるんだろう?」
 「……っ」

 リーバイがアンガスに詰め寄って来た。 一番、突っ込まれたくない事を突っ込まれたくない相手に責められ、アンガスは何も言葉が出て来なかった。

 ◇

 皆が必死に探しているローラが居なくなった理由。

 そろそろ夕食準備をしようと、天幕を出たローラは、バーベキューセットの周囲で何か探しているグレンダの侍女二人を見つけた。

 「あの、何か探しているんですか?」
 「ローラ様っ」

 声を揃えてローラを振り返った侍女は、アイコンタクトをすると、意地悪な笑みを浮かべた。

 「はい、グレンダ様の大事な扇子を失くしてしまいまして……。 グレンダ様の大事な物ですので、見つけ出したいのですけど……。 失くしてしまったなんて、グレンダ様には言えなくて」
 「方々探しましたが、見つかりませんので……。 もしかしたら、この間行った森の中でグレンダ様からお預かりした時に、落としてしまったのかもしれません」
 
 侍女が言っている扇子を脳裏に思い浮かべた。 いつも好んで持っているグレンダの扇子で、グレンダの母親から成人祝いに貰ったのだと、言っていた事を思い出した。

 「あっ、グレンダ様が大事にされている扇子ね。 お母様から頂いたと聞きました。 失くした事を知ったら、グレンダ様も悲しみますね。 森ならば、私が着いて行きます」
 「えっ……ローラ様が?」
 「ええ、扇子探しを手伝います」
 「でも、森の中は危険です。 魔物が居ると聞いてますし」
 「ブレイク家は武門の家ですから、私も剣が使えますから、魔物の相手は任せ下さい」
 「ありがとうございます、ローラ様っ」
 「本当に、これでグレンダ様の扇子が探せるわっ」

 ローラが天幕から剣を持ち出し、グレンダの侍女二人と森へ入ったのは、夕日が沈もうとしていた時間だった。 直ぐに暗くなりそうだったが、前に入った時は森の入り口だったので、扇子も直ぐに見つかるだろうと、簡単に考えていた。

 叢を掻き分け、葉擦れを鳴らして葉が揺れる。 地面に落ちているだろう扇子を探し、しゃがみ込んだ。 暫く侍女の二人と前に着た場所を探し回ったが、扇子は見つからなかった。

 「もしかして、もう少し奥かしら?」
 「確か、森へ入り過ぎて注意されたような記憶が……」
 
 曖昧な記憶の話を侍女二人がしている。 ローラはグレンダ達が前に来た時、森の少し奥まで行ってしまい、護衛騎士に注意されていた事を思い出した。

 「そういえば、そんな事があったわね。 じゃ、もう少しだけ奥へ行ってみましょうか」

 腰に差した剣を出し、ローラが先に進んだ。 安全地帯より、草木も高い位置まで育っており、叢を掻き分けるのも一苦労だった。 侍女の記憶を辿り、聞いたとおりに進んで行く。 ローラは侍女が言った場所まで行き、地面が見えるまで踏み潰してならす。

 「この辺かしら?」

 侍女二人の返事はなく、二人の話し声も聞こえなくなっている事に気づいた。 背後を振り返った時には、侍女二人の姿は何処にもなかった。

 「あら? もしかして、逸れた?」

 ローラの視界に、日が沈み、真っ暗になった森の中を見つめた。

 ◇

 「あの、私の侍女も居なくなっているのですけれど……。 もしかして、一緒に居るのでしょうか?」
 
 グレンダは持っていた扇子を強く握りしめ、扇子は悲鳴を上げている様な軋んだ音を鳴らした。

 ローラが居なくなったと聞いて、グレンダも心配してバーベキューセットの周囲に集まっていたアンガスたちの元へ駆けつけていた。 アンガスはグレンダの話を聞き、眉をひそめた。

 「グレンダ嬢の侍女も居なくなったのですか?」
 「ええ、バーベキューセットの火を熾してくると言って戻って来ないから、どうしたのかと思っていたら、ローラ様が居なくなったと聞いて……もしかしてと思って」

 しかし、アンガスは侍女二人の容姿を思い出そうとしたが、顔がぼやけていて思い出せない。 だが、はっきりした事がある。 アンガスは大きく息を吐き出した。

 「……っ行方不明者が三人に増えましたね……ローラとグレンダの侍女が一緒に居るのは不自然ですけど、今は言っている場合ではないですね」
 「森の奥へ行った可能性があるんじゃないか?」
 「ですね……何らかの理由があって森へ行って、迷子になったのでしょう。 もう、日も沈みました。 魔物が出る頻度も高くなりますっ」

 (……っ、ローラは武門の家で育っているから、大丈夫だと思いますが……。 あっ、)

 ハッとして、顔を上げたアンガスは、ローラの侍女に視線を向けた。

 「ローラは剣を持って出ましたか?」
 「天幕に置いてあった物が無くなっていたので、恐らくは。 私は荷物の整理などをしていたので、ローラ様が夕食の準備をすると言って出て行ったのは記憶しているのですが、戻って来て剣を持って出た事には気づきませんでした」
 「そうですか……日が沈んで、動けなくなっているんでしょうねっ」

 皆が森へ視線を向けると、森の奥から魔物の咆哮が轟き、大気は震えた。 アンガスの胸が大きく跳ね、血液が身体中に流れる音が大きく聞こえて感じる。

 (ローラっ!!)

 次の瞬間、アンガスの胸に初めての感覚を覚えた。 胸の中にローラを感じて、森の奥、魔物の咆哮が聞こえて来た場所にローラが居ると感じる。 魔力感知や熱感知でもない。

 ただ、分かるのだ。 魔物が居る場所に、愛しい番がいる事を。

 「私の剣を持って来て下さいっ」
 「はっ?!」
 「……アンガス様?」

 アンガスの補佐官は、自身の主の様子に気づき、急いで天幕からアンガスの剣を持って来た。

 「ご武運を、若様」

 無言で補佐官から剣を受け取ると、アンガスは森の中へ駆け出して行った。 背後でリーバイが騒いでいた様だが、補佐官が抑えてくれていた。 後は補佐官に任せ、アンガスは真っ直ぐに今、感じている場所へ向かって足を動かした。

 ◇

 侍女の姿が見えなくなったローラは侍女二人を探した。 元の場所へ戻ろうと思ったのだが、侍女が誘導するまま森の中を進んだので、元の場所に続いているだろうと思っていた道は間違っていた。

 「あれ? こっちの道へ進めば、元の道に戻るんじゃなかったかしら?」

 完全に迷子になり、ローラは気づかないうちに、森の奥へと進んでいた。 森の奥には魔物が多く住みつき、夜には夜行性の強い魔物が活発に活動している。

 (これは……不味いかもしれないっ! アンガス様には、森へ行くと言っておけば良かったっ)

 背後で大きな葉擦れと物音がし、振り返ると、暗闇の奥に怪しく光る二つの瞳と視線があった。

 ローラの喉が鳴らされ、背中には悪寒が走った。 本能がローラへ訴える。
 
 (不味いっ……絶対に強い魔物だわっ)

 姿を現した魔物を視界に捉えた瞬間、ローラの脳裏にアンガスの顔が浮かぶ。

 (アンガス様っ)

 刻印が発熱し、痛いほど心臓が鼓動する。 そして、胸の中でアンガスを感じて、アンガスが居るであろう場所を感じる。

 (アンガス様……こっちへ向かってる?)

 しかし、ローラに考え事をしている余裕はなかった。 目の前の魔物は今にも襲い掛かってきそうな雰囲気でローラを威嚇している。 ローラは持って来た剣を構えた。

 因みにローラを森の奥へ誘い込んだ侍女二人は、因果応報、森をなめていたので、同じように迷子になっていた。
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