【R18】100日お試し婚〜堅物常務はバツイチアラサーを溺愛したい〜

にしのムラサキ

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柳謙一は告白する

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「嫌われたく、なくて」
「……え?」
「見て分かると思うが」

 常務は諦めたように小さく言う。

「鉄なんだ」
「鉄」
「鉄道オタクだ」
「……はぁ」

 まぁ、この部屋見た瞬間に、気がついてはいましたけれども。

「子供の頃から、好きで……」
「あの、別に……隠さなくても」
「そうか? 子供っぽいと呆れられるかと……昔、まだ若い頃──捨てられたこともあって」

 捨てられた──のは模型なのか、常務自身なのか。とにかく常務は悲しそうだった。

「市原が嫌なら、これ手放すから」
「あの、そんな必要ないですよ」

 安心させるように笑いながら、立ち上がる。

「別に、いいじゃないですか。好きなんでしょう」
「……いいのか」
「いいも悪いもないと思いますけれど……あ、タオル持ってきましょうか?」
「あ、ああ、頼む」

 洗面所で濡らしたタオルと乾いたタオルと両方用意して、電車部屋(?)に戻る。
 常務はまた横になって、ぼうっとしていた。

「あ、まだ──キツいですよね」
「体力も落ちたなぁ。若い頃は熱くらいで寝込んだりしなかったものだが」
「ダメですよ、若かろうがなんだろうが、風邪の時は寝ていないと。──どうぞ」

 起き上がり、タオルを受け取った常務はモゾモゾと首や顔を拭く。

(……きつそ)

 気がついたら、タオルを持つ常務の手に触れていた。

「……っ、市原」
「上半身だけなら拭きますよ」
「!?」

 思い切りビクリと反応された。え、ええと!?

「あの、キツいかなぁと」
「いいいいや、あのその」
「じゃあ背中だけでも」

 ベッドの隅に座り、ほとんど問答無用で常務のトレーナーをたくし上げた。広い背中。案外がっちりしているようで、少し驚く。
 濡れたタオルで軽く拭くと、少し気持ちよさそうに常務は力を抜いた。

「──はい、どうぞ」

 拭き終わり、タオルを返す。

「ありがとう」

 私を見つめる常務の目の端が赤いのは、熱のせいか羞恥なのか。

(あ、やば)

 弱ってる男性、やば。なんかツボです。ギャップ萌え!? これがギャップ萌えというやつなの? しかも常務、変な色気あるし……。なんかずるい!
 気がついたら、ヨシヨシと頭を撫でていた。
 子供にするみたいに。

「い、いいい市原?」
「あ、すみません……」

 慌てて手を引く。常務は眉を下げて「あ」と悲しそうな顔をした。……え、ずるい。そういう顔するの、ほんとずるい……。熱のせいなんだろうけれど。

「その……もう少、し、撫で……ましょうか?」
「お、お願いします……?」

 妙な会話だ。内心苦笑しつつ、またくしゃりと常務の髪を撫でる。少し固い髪質。

「……でも。意外、でした」
「なにが、だろうか」
「電車?」

 ぎくりと常務は肩を揺らす。

「あ、違うんです。常務ってなんか、オトナな男性っていうか、そういうイメージだったので……」
「……大人になりきれない、んだろうなぁ」

 常務はどこか、韜晦するような口調で言う。

「シロクニの模型が出ただの限定の列車が走るだのでいちいち子供のように騒いでしまう」

 シロクニがなんだか分からないけれど、と思いながら私は首を傾げた。ゆるゆると頭を撫でながら。

「いえ、いいと思いますよ。その、……可愛いと思いました?」
「……なぜ疑問形なんだ。というか、市原は、その」

 常務は口籠ったあと、続けた。

「いわゆる、オトナな男性……のほうが、好き、だったりするのか」
「いいえ」

 さらりさらり、と髪を梳く。
 あ、なんか、ほんと──この人可愛い人なんじゃないか。
 鬼常務のくせに。
 身体大きいくせに。
 普段、キリっとしてるくせに──可愛い。

「本当に?」
「本当ですよ」
「……そう、か」

 常務はほっと息を吐く。
 良かった、と小さく呟いた彼が本当に、なんていうか本当に可愛く思えてしまって──私はつい常務を抱きしめてしまう。
 きゅ、と。
 それは恋愛感情というよりは、親愛に近しいものだったと思うけれど。
 腕の中で、常務が息を止める。それから弱々しい力で、私を抱きしめ返した。
 こっそりと笑う。なにこれ、このひと、ほんと可愛い。

「……あ、じゃあもしかして。常務が未だに電車通勤なのって」
「毎日乗りたいんだ。電車に。インバーターの音を聴かないと落ち着かない」
「あらま」

 そんな可愛らしい理由だったとは。やっぱり笑ってしまう。

「インバーターってなんですか?」
「それはだな、電力を動力源にするときの……」
「あっやっぱいいです」
「……」

 しゅんとしてる。私は小さく笑った。

「また聞きます。常務が元気になられたら」
「……聞いてくれるのか」
「分かりやすく話してくださいね」

 きゅ、と常務の手に力がこもる。
 私はふと気がついて、少し身体を離し、常務の顔を覗き込む。

「思ったんですけど──常務が電車好きでなかったら、あの地下鉄にも乗られてなかったですよね? 私を痴漢から守ってくださった、あの地下鉄」
「いや、大したことはしてないが──まぁ、そうなるな」
「なら」

 なんだか面白くて、私はつい笑ってしまう。

「常務が電車好きで良かった」
「……市原」
「常務が電車をお好きでなかったら、こんな関係になってなかったと思うと──面白いですね?」
「……、面白くはない。君に出会えてない人生なんて、考えられないから」

 常務が本当に悲しそうな顔をするから、私はもう一度腕に力を込めて、彼を抱きしめる。
 ──と。

「……あの」
「……っ、その、すまない、ええと、なんだ。生理的反応であって、その」

 スウェット越しに伝わる、常務の下半身の、なんというか硬くなったそれ。足にばっちり当たっていた。

「本当に……」

 私からバッと離れて項垂れている常務を見ていると、なんだか胸が締め付けられるように痛い。お願いとか、なんでも叶えてあげたくなってしまうような──母性本能に近い? みたいな感じ。

(なにこれ……)

 軽く混乱するけれど、……多分常務がやけに可愛いのが悪い。
 私は小さく息を吐いて、それから「元気に、なったら」と言い添えた。

「元気になったら、しましょうか、セックス」
「──!? い、市原」
「だって、お試しなんですもんね? 身体の相性も試してみないと、じゃないですか?」

 そういうと、常務は何度か瞬きして──「もう元気です」と明らかな嘘をついたから、私は彼のほっぺたをムニムニと摘んだ。

「嘘はいけません」

 常務はとっても、バツの悪そうな顔をした。
 ついでにその顔ですら可愛く見えて、私はもしかしたら目がどうにかしてしまったのかもしれないなぁ、なんて思ったりもしてる。
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