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実質大吉。
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「あんなにネコに好かれる人、初めて見たよ」
「かえって興味ないのがええんちゃうかな……」
「あー、ネコってそういうとこあるよね」
そこが可愛いんだけれど。可愛いんだけれどさー、結局お膝に乗ってくれたの一匹だけだったよー。
(……ん?)
疑問を思い出す。
楢村くんはネコに興味ないのに、なぜネコカフェへ……?
「あの」
「何?」
「なんでネコカフェ?」
「……なんとなく」
「ふうん……?」
とはいえ最高のネコ時間を過ごした私は、また楢村くんの車に乗せられて、今度は伏見へ向かっていた。
伏見といえば、関西を代表する酒どころのひとつ。
「伏見の酒は女酒なんや」
「女?」
楢村くんの説明によると、伏見では使う水の特性から、口当たりがまろやかなお酒になるらしい。それで「女酒」と言われるのだとか。
「美味いで」
「へえ~」
取材の関係で、楢村くんのところのお酒については調べたけれど──
「同じ関西なのに、楢村くんのとことは全然違うんだね」
「関西いうか──蔵でちゃうで、全然」
運転をしながら、楢村くんは淡々と言う。
「水、米、蔵ごとに菌もちゃうし、杜氏の腕もそれぞれやし──」
「楢村くんのところは、杜氏さんは製造部長さんだよね」
「せやな」
取材に行く前は、お酒造りをしてる人はみんな杜氏さんだと思い込んでいたけれど、基本的には酒蔵に杜氏さんはひとりだけ、らしかった。
「製造部長──田中さんはまあ、すごい人やで」
「そうなんだ」
「エリがあのヒトに認められるんは、何年後やろな」
あいつその時にはハゲとるんちゃうかな、と楢村くんはちょっと楽しそうに言う。一人っ子な楢村くんにとって、エリさんは兄弟みたいなものなんだろう。
「でも──信頼してるんだね、エリさんのこと」
「……?」
「だって、認められるのは前提で話してたでしょ」
「……」
楢村くんはほんの少し眉毛を寄せて、むうという顔をした。なんかキュンとして──もっとちゃんと、色々、楢村くんの表情が見れたらいいのにな、って思う。
車はやがて、宇治川の支流近くの駐車場に停まる。川下りもできるらしい。
「どないする?」
「えっと、……酒蔵とかはいいの? お仕事の関係?」
楢村くん、それで京都まで来たのかな──と見上げると、彼は小さく首を振る。
「ほんなら、行きたい神社あるんやけどいい?」
「あ、うん。いいよ」
「おみくじがな、大吉と大凶しかないねん」
「なにそれー!」
私はぶんぶんと首を振る。
「やだ、こわい。二分の一で大凶なんてこわい!」
「大丈夫や、俺そこで大凶引いたけど生きとるから、まだ」
「……生きとる、ってなに?」
不穏な言葉に思わず聞き返す。楢村くんはなんでもないように言った。
「大学受験のときやったかな──『九分九厘、死』って書いてあったけど未だにピンピンしとるし」
「や、やだよ! そんなこと書いてあるおみくじ、やだよ!」
「……あれ思えばほんまに死ぬんやなくて、受験失敗するいう意味やったんかな。国立落ちとるし」
「ほらー! 当たってるじゃん! ばか! なんてとこに連れて行こうとしてんの!」
「でも」
するり、と楢村くんは私の手を繋ぐ。
「国立落ちて──私立行って。おかげで瀬奈と出会えたし」
「なっ……」
楢村くんはしばらく私(たぶん、顔真っ赤)を見つめたあと、ぽつりと呟く。
「つまり、結果的に大吉やったってことや」
「──もし、別の大学行ってたら……なんか素敵な彼女できてたかもよ」
可愛い、セフレとかにしておきたくない、魅力的な女の子。
「瀬奈以外いらんから、俺は」
「また、……そういうこと言う」
ん、と楢村くんは頷く。
「何回でも言う。伝わるまで──結局それしかないんやと気がついた」
「……」
歩きだす楢村くんに手を引かれて、私も足を踏み出す。
(……責任感じてるだけのくせに、罪滅ぼしのつもりのくせに)
なのに嬉しい。
甘い言葉が、普通に嬉しい。
ああ私は、ほんとうに──ばかだ。
「ってちょっと待って、なにナチュラルに連れて行こうとしてるの!? ひ、引かないからねそんなおみくじ!」
「大丈夫やって」
楢村くんはフラットに言う。
私はぶちぶち言いながらその小さな神社にお詣りをして──お願いだから大吉を引かせてください、ってお願いをした。
ふと周りを見ると、若い女性でいっぱい。
「何年か前から、ブームらしいねん。恋愛成就のご利益やなんやって」
受験で来た時はこんなんちゃうかったんやけどな……と楢村くんは辺りを見回す。
「……けど、ほんまに恋愛のご利益はあるんかもしれん」
「ええ~」
なにを根拠に……と、結局おみくじを引きながら私は唇を尖らせる。
「大凶だったら、責任とってよね!?」
「なんぼでも取ったる」
楢村くんがそう言うから、思い切って開いて──膝から崩れ落ちそうになる。
「ほ、ほらやっぱり大凶だぁっ!」
「ほな責任取るから結婚してくれ」
「なっ」
私は「大凶」と書かれたおみくじから楢村くんに目線を移す。
「せえへんの?」
「す、するよ! すればいいんでしょ、ていうかもう決まってるでしょ!? ちゃんと結婚するよ!」
熱い頬で、可愛くない言葉を吐きながら私はおみくじを読む──「目移りすれば、死」。
(……な、なにこれ)
呆然としている私の横で、楢村くんが「大吉やった」と呟いた。
「だ、大吉!?」
「ん」
楢村くんのおみくじ、第一番大吉──に書かれていたのは。
「思う通りにせよ……?」
「ラッキーやわ」
「ず、ずるい。私なんか怖いこと書いてあったのに」
「何?」
楢村くんは私のおみくじを読んで「別にええやん」と私の手を取る。
「俺だけ見てたらええってことやろ」
「──!」
「これ、結ばんと持って帰ろ」
「や、やだ、大凶持って帰るのやだーっ」
「ほんなら交換しよ。大吉やるから」
「そう言う問題じゃ……」
「俺は」
楢村くんが穏やかに言う。
「俺は、瀬奈とおれるんやったら大凶でも大吉やからええんや」
「……」
ぼうっとしてしまった私の手を取って、楢村くんは「それに」と言い添える。
「目移りなんかせんからな──実質、大吉や」
「っ、わた、私」
思わず口からこぼれそうになった言葉を飲み込んだ──私だって、目移りなんか、しないよ。
「かえって興味ないのがええんちゃうかな……」
「あー、ネコってそういうとこあるよね」
そこが可愛いんだけれど。可愛いんだけれどさー、結局お膝に乗ってくれたの一匹だけだったよー。
(……ん?)
疑問を思い出す。
楢村くんはネコに興味ないのに、なぜネコカフェへ……?
「あの」
「何?」
「なんでネコカフェ?」
「……なんとなく」
「ふうん……?」
とはいえ最高のネコ時間を過ごした私は、また楢村くんの車に乗せられて、今度は伏見へ向かっていた。
伏見といえば、関西を代表する酒どころのひとつ。
「伏見の酒は女酒なんや」
「女?」
楢村くんの説明によると、伏見では使う水の特性から、口当たりがまろやかなお酒になるらしい。それで「女酒」と言われるのだとか。
「美味いで」
「へえ~」
取材の関係で、楢村くんのところのお酒については調べたけれど──
「同じ関西なのに、楢村くんのとことは全然違うんだね」
「関西いうか──蔵でちゃうで、全然」
運転をしながら、楢村くんは淡々と言う。
「水、米、蔵ごとに菌もちゃうし、杜氏の腕もそれぞれやし──」
「楢村くんのところは、杜氏さんは製造部長さんだよね」
「せやな」
取材に行く前は、お酒造りをしてる人はみんな杜氏さんだと思い込んでいたけれど、基本的には酒蔵に杜氏さんはひとりだけ、らしかった。
「製造部長──田中さんはまあ、すごい人やで」
「そうなんだ」
「エリがあのヒトに認められるんは、何年後やろな」
あいつその時にはハゲとるんちゃうかな、と楢村くんはちょっと楽しそうに言う。一人っ子な楢村くんにとって、エリさんは兄弟みたいなものなんだろう。
「でも──信頼してるんだね、エリさんのこと」
「……?」
「だって、認められるのは前提で話してたでしょ」
「……」
楢村くんはほんの少し眉毛を寄せて、むうという顔をした。なんかキュンとして──もっとちゃんと、色々、楢村くんの表情が見れたらいいのにな、って思う。
車はやがて、宇治川の支流近くの駐車場に停まる。川下りもできるらしい。
「どないする?」
「えっと、……酒蔵とかはいいの? お仕事の関係?」
楢村くん、それで京都まで来たのかな──と見上げると、彼は小さく首を振る。
「ほんなら、行きたい神社あるんやけどいい?」
「あ、うん。いいよ」
「おみくじがな、大吉と大凶しかないねん」
「なにそれー!」
私はぶんぶんと首を振る。
「やだ、こわい。二分の一で大凶なんてこわい!」
「大丈夫や、俺そこで大凶引いたけど生きとるから、まだ」
「……生きとる、ってなに?」
不穏な言葉に思わず聞き返す。楢村くんはなんでもないように言った。
「大学受験のときやったかな──『九分九厘、死』って書いてあったけど未だにピンピンしとるし」
「や、やだよ! そんなこと書いてあるおみくじ、やだよ!」
「……あれ思えばほんまに死ぬんやなくて、受験失敗するいう意味やったんかな。国立落ちとるし」
「ほらー! 当たってるじゃん! ばか! なんてとこに連れて行こうとしてんの!」
「でも」
するり、と楢村くんは私の手を繋ぐ。
「国立落ちて──私立行って。おかげで瀬奈と出会えたし」
「なっ……」
楢村くんはしばらく私(たぶん、顔真っ赤)を見つめたあと、ぽつりと呟く。
「つまり、結果的に大吉やったってことや」
「──もし、別の大学行ってたら……なんか素敵な彼女できてたかもよ」
可愛い、セフレとかにしておきたくない、魅力的な女の子。
「瀬奈以外いらんから、俺は」
「また、……そういうこと言う」
ん、と楢村くんは頷く。
「何回でも言う。伝わるまで──結局それしかないんやと気がついた」
「……」
歩きだす楢村くんに手を引かれて、私も足を踏み出す。
(……責任感じてるだけのくせに、罪滅ぼしのつもりのくせに)
なのに嬉しい。
甘い言葉が、普通に嬉しい。
ああ私は、ほんとうに──ばかだ。
「ってちょっと待って、なにナチュラルに連れて行こうとしてるの!? ひ、引かないからねそんなおみくじ!」
「大丈夫やって」
楢村くんはフラットに言う。
私はぶちぶち言いながらその小さな神社にお詣りをして──お願いだから大吉を引かせてください、ってお願いをした。
ふと周りを見ると、若い女性でいっぱい。
「何年か前から、ブームらしいねん。恋愛成就のご利益やなんやって」
受験で来た時はこんなんちゃうかったんやけどな……と楢村くんは辺りを見回す。
「……けど、ほんまに恋愛のご利益はあるんかもしれん」
「ええ~」
なにを根拠に……と、結局おみくじを引きながら私は唇を尖らせる。
「大凶だったら、責任とってよね!?」
「なんぼでも取ったる」
楢村くんがそう言うから、思い切って開いて──膝から崩れ落ちそうになる。
「ほ、ほらやっぱり大凶だぁっ!」
「ほな責任取るから結婚してくれ」
「なっ」
私は「大凶」と書かれたおみくじから楢村くんに目線を移す。
「せえへんの?」
「す、するよ! すればいいんでしょ、ていうかもう決まってるでしょ!? ちゃんと結婚するよ!」
熱い頬で、可愛くない言葉を吐きながら私はおみくじを読む──「目移りすれば、死」。
(……な、なにこれ)
呆然としている私の横で、楢村くんが「大吉やった」と呟いた。
「だ、大吉!?」
「ん」
楢村くんのおみくじ、第一番大吉──に書かれていたのは。
「思う通りにせよ……?」
「ラッキーやわ」
「ず、ずるい。私なんか怖いこと書いてあったのに」
「何?」
楢村くんは私のおみくじを読んで「別にええやん」と私の手を取る。
「俺だけ見てたらええってことやろ」
「──!」
「これ、結ばんと持って帰ろ」
「や、やだ、大凶持って帰るのやだーっ」
「ほんなら交換しよ。大吉やるから」
「そう言う問題じゃ……」
「俺は」
楢村くんが穏やかに言う。
「俺は、瀬奈とおれるんやったら大凶でも大吉やからええんや」
「……」
ぼうっとしてしまった私の手を取って、楢村くんは「それに」と言い添える。
「目移りなんかせんからな──実質、大吉や」
「っ、わた、私」
思わず口からこぼれそうになった言葉を飲み込んだ──私だって、目移りなんか、しないよ。
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